抗がん剤療法の有効性
乳がんに対する抗がん剤療法の有効性は確立されています。しかし、乳がんの置かれた状況によって期待できる抗がん剤療法の効果も異ります。
大きく分けて3つの状況があります。
- 転移・再発乳がんでは症状の緩和と延命が期待できます。
- 手術の前に抗がん剤療法先行する場合(術前化学療法といいます)にはがんの縮小に伴い、温存手術、縮小手術が期待できます。
- 手術後の補助療法では予防的抗がん剤療法により治癒する確率が高くなります。
抗がん剤以外に乳がんの治療には副作用が軽微なホルモン療法という選択があります。抗がん療法の治療効果には限界があり、少なからず副作用を有することから、抗がん剤をいつどのような目的で行うのか、適切な判断をするのが重要です。
転移・再発乳がんの抗がん剤療法
アンソラサイクリンの代表薬剤はアドリアマイシン(アドリアシン)とエピルビシン(ファルモルビシン)です。アドリアマイシンを含むCAF療法(またはFAC療法) またはエピルビシンを含むFEC療法(またはCEF療法)が現在の標準的治療であり、その奏効率は50~60%です。
チューブリン阻害剤であるタキサンの有効性も確立されています。タキサンにはドセタキセル (タキソテール)とパクリタキセル(タキソール)があります。タキサンの奏効率は30~50%を期待できます。アンソラサイクリンが効かない場合にもタキサンの効果は期待できます。反対にタキサンが効かない場合にはアンソラサイクリンの効果が期待できます。アンソラサイクリンとタキサンは乳がんの治療の中心となる薬剤と考えられています。
HER2陽性の乳がんに対してはトラスツズマブ(ハーセプチン)の有用性が証明されています(ハーセプチンの項を参照してください)。トラスツズマブに抵抗性になった場合はラパチニブ(タイケルブ)が有効です。主な抗がん剤による治療方法を以下に示します。
抗がん剤の使用による不快感
抗がん剤で気持ち悪くなったり、食欲が落ちてしまうのはつらいものです。現在は、抗がん剤による吐き気、おう吐を予防する薬が発達してかなりおさえられるようになりました。をいろいろと使用できます。
アドリアマシン(アドリアシン)やエピルビシン(ファルモルビシン)を含む治療はもっとも吐き気を起こす可能性があります。
アドリアマシンを投与して数時間はなんともないことが多いのですが、投与日の夜や翌日になってから吐き気がでることがしばしばあります。吐き気は普通、 2~4日間ほど続きますが、その後、徐々に回復し1週間もたてばなんともなくなります。吐き気が1週間以上も長びくのは非常に敏感な方の場合ですがまれなことです。アドリアマイシンは通常3週間に1回の頻度で行う治療ですので、最初の1週間は調子が悪くなりますがそのあとは普通に食欲も戻ります。
従って、延々と気持ち悪い、食べられないわけではありませんので、やせ衰えて体力がなくなってしまうことはまずありません。反対に、がんばって食べ過ぎて太ってしまう方もいらっしゃいます。アドリアマイシン以外の抗がん剤では吐き気はずっと軽い軽く、楽な場合が多いと予想されます
吐き気はひとによってかなり個人差があります。全くなんともないひともたくさんいます。吐き気があっても軽い人も多いですし、ひどい吐き気を起こす方はむしろ少ないのです。このような個人差をあらかじめ科学的に予測することはまだできません。はじめから、吐き気が強いと思いこんで治療を受けないで病気を良くするチャンスを逃すのはもったいないことです。
抗がん剤の使用による脱毛
ある種の良く効く抗がん剤、例えばアドリアマイシン、エピルビシン、ドセタキセル、パクリタキセルでは頭の髪の毛はほとんど抜けます。抗がん剤を注射してすぐに抜けるわけではありません。通常は投与後、約2週間経ってから抜け始め、3週間目になるとバサバサとぬけます。4~5週間たつとほとんど抜けてしまいます。
治療をどのくらいの期間、続けるかは病状と副作用の様子によって違ってきますが、通常は数ヶ月続けることが多くなります。従って、治療を続けている間は髪の毛は抜けた状態が続きます。
しかし、治療が終了すれば抗がん剤の影響はとれて、必ず髪の毛は生えてきます。抗がん剤が終了してから3ヶ月たつと短い毛は生えそろい、6ヶ月もするともとの髪の毛に戻ります。残念ながら、脱毛を予防する薬や方法はありません。髪の毛が抜けている間はかつらを利用して頂くのが良いでしょう。
髪の毛が抜けることはショックですが、治療効果を最大限にあげるときは、このような抗がん剤をどうしても使わなければならないことがあります。もしどうしても脱毛が嫌なかたは、髪の毛が抜けにくい他の治療があなたにとって適切な治療かどうか主治医とよく相談してください。
抵抗力の低下
抗がん剤を注射したあと1~2週後には血液の白血球が低下することが一般的です。
抗がん剤の種類や量にもよりますが、白血球の減少がひどいときに発熱した場合は注意する必要があります。
白血球が少ないとばい菌に対する抵抗力が弱くなり、風邪をひくとすぐに発熱することがあります。高い熱がでたときになにもしないでいると、こじらせて肺炎になってしまうことがあります。肺炎を予防するために、もし熱が38℃以上になったときは抗生物質の薬をすぐに飲み始めてください。いったん、飲み始めたら最低3日間は内服を続けて下さい。
そのときのためにあらかじめ抗生物質のお薬を処方しますので、お手元に置いていつでも飲めるようにしておいてください。もし、抗生物質の内服を開始して翌日になっても熱が下がる傾向がないときや、そのほかに心配な症状があるときは、主治医の先生に電話でご連絡ください。ご様子を伺ったうえで、早急に抗生物質の点滴や白血球を上げる注射などを行う必要があるかを判断します。場合によっては入院が必要な場合もあります。
実際に肺炎になってしまうのは珍しいですが、このように、あらかじめ入念な対策をとることで肺炎はほとんど未然に防ぐことができます。風邪をひかないように気をつけていただくことは大事ですが、あまり神経質になる必要もありません。人混みで風邪を拾わないように気をつけることは望ましいことですが、どうしても人混みのなかに出なくてはならないこともあると思います。たとえば、通院のとき混んだ電車に乗ってこなくてはならないとか、自分で買い物をしなくてはならないとか、生活のうえで必要なことは仕方がありません。しかしその際、他人のつばきや、せき払いが直接かかることに注意して下さい。
マスクをつけていただくと、つばきや、せき払いのような濃厚な感染を防げます。マスクで風邪をすべて防げるわけではありませんが、治療直後から白血球が低下している間の時期(治療のあと1~2週間まで)に人混みに出るときはマスクをすることをお勧めします。可能ならば、予定を治療の影響のない時期に延期していただいたほうが無難でしょう。
パクリタキセルの副作用について
パクリタキセルではくすりのためのアレルギーを起こすことがあります。
もし、いままでに他の薬で強いアレルギーを起こしたことのあるかたはパクリタキセルは使用できません。
アレルギーを予防するために、抗がん剤投与の30分前に抗ヒスタミン剤を内服した後、ステロイド(デカドロン)と抗セロトニン剤を点滴注射します。実際に強いアレルギー症状をおこすことは極めてまれですが、軽いアレルギー症状はときにあります。パクリタキセルの治療では頭の髪の毛はほとんど抜けてしまいます。
しかし、注射してすぐに抜けるわけではありません。通常は投与後、約2週間経ってから抜け始め4~5週間たつとほとんど抜けてしまいます。
治療を続けている間は髪の毛は抜けた状態が続きます。しかし、治療が終了すれば抗がん剤の影響はとれて、必ず髪の毛は生えてきます。抗がん剤が終了してから3ヶ月たつと短い毛は生えそろい、6ヶ月もするともとの髪の毛に戻ります。
残念ながら、脱毛を予防する薬や方法はありません。髪の毛が抜けている間はかつらを利用して頂くのも良いでしょう。パクリタキセルの治療で気持ち悪くなることはほとんどありません。軽い吐き気や、食欲低下がみられることがありますが、強いものはないだろうと予測しています。
むしろ、食欲が増えて食べ過ぎてしまうこともあります。念のため、吐き気予防の薬は点滴で使用します。点滴回数が増えるにつれて、手の指先、足の指先にピリピリとしびれを感じることがあります。そのような症状がでてきた場合にはビタミンB12などのお薬をのむことを考えます。症状が強いときは治療を休む場合もあります。
ときには、体が疲れやすい、関節痛、筋肉痛、口内炎、味覚の変化、爪の変化、便秘、むくみ、めまい、肝機能異常などがありますが、程度は軽いことがほとんどです。まれな副作用としては血圧低下、不整脈、間質性肺炎が報告されています。
分子標的薬剤としてのハーセプチンの意義
HER2(ハーツー) (Human Epidermal Growth Factor Receptor Type 2)はヒトがん遺伝子のひとつです。その産物であるタンパク質は膜蛋白質受容体です。
ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)はHER2受容体に対するモノクローナル抗体です。
HER2過剰発現をした転移乳がんの治療薬、再発予防薬と有用です。
一般的にはHER2存在の有無は簡便な免疫組織法(ハーセプ・テスト)で判定します。3+の陽性の場合またはFISH陽性の場合にハーセプチンは適応となります。全乳がんの約20%がHER2陽性です。治療の効果をあらかじめ正確に予測し、治療計画をたてることは重要です。例えば、ホルモン・レセプター陽性の場合にはホルモン療法の有効性は高いことが予測されますのでホルモン療法が適応となります。
しかし、抗がん剤ではその有効性を確実に予測する方法は未だに確立されていません。抗がん剤は様々な作用機序を有し、単一の標的ではありません。モノクローナル抗体であるハーセプチンはHER2のみを標的とする薬剤あり、鍵(key)と錠(lock)の関係となります。ER2が存在して始めてハーセプチンが効く可能性があります。
このようにHER2を検査することにより、治療方針を明確に決定できるようになりました。個人、がんの個性にあった治療が可能となりました。分子標的薬剤は抗がん剤ほど広域ではなく、対象は限られますが標的の有無により治療の選択ができるのが最大の利点です。
ハーセプチンの副作用について
最も現れやすい副作用は発熱です。10人中4-5人の割合で38度以上の発熱が見られます。
この発熱は2-3日以内に落ち着くことがほとんどです。発熱があったときは解熱剤が有効ですので適切に対処します。その他、悪寒(さむけ)全身倦怠感(だるさ)熱感、戦慄(ふるえ)、吐き気、嘔吐、食欲低下、頻脈(どきどき感)、肝障害、などが10人に1-2人の割合で見られます。
その他、骨痛、ほてり、頭痛、筋肉痛、胸部痛、上腕痛、しびれ、咳、目やに、耳鳴りなど報告がありますが頻度は低いものです。いずれの副作用も一時的な症状でおさまると予想されます。まれな副作用として注意しなくてはならないのは心臓への副作用です。通常の状態では現れないと予測されますが、以前に心臓の病気をしたことのある方、アドリアマイシンのような抗がん剤をたくさん受けた方、胸部に放射線治療をたくさん受けた方では注意をして行う必要があります。
もし、心臓の機能が落ちている場合はハーセプチンが使用できません。安全に治療を行うために、前もって心臓の機能の検査を受けて頂きます。具体的には内科 (循環器)の心臓の専門の先生の診察を受けた後、心臓の超音波検査(エコー)で心臓の機能を調べます。最近、胸部レントゲン撮影、心電図の検査をしていない場合は、内科受診の前にそれらの検査を受けてください。その結果を心臓の先生が見て、超音波検査(エコー)を行います。
また、必要な場合には心プールシンチ(アイソトープ)検査を行うことがあります。その他、ショック、呼吸不全、肝不全、白血球減少、腎障害、昏睡、敗血症などの副作用の報告がありますが、その頻度は稀です。これらは全身状態が極めて悪いときには起こるかもしれませんので、全身の体力、臓器の機能が保たれているときにハーセプチンの治療を受けるようにお勧めします。体力が十分あるときはまずおこらないと予想しています。狂牛病(伝染性海綿状脳症)がハーセプチンにより伝播したという報告はありません。ハーセプチンの製造過程で牛のひ臓由来成分を含む培地を使用していますので、可能性が絶対ないとはいいきれません。
しかし、この危険よりも治療を受けて得られる利益のほうがずっと大きいと考えられます。
ホルモン療法の種類
乳がんに対するホルモン療法は、がん細胞への女性ホルモンの影響を何らかの仕組みで抑えるものです。
一般に使用されているホルモン剤は以下のように分類されます。
- LHRH アゴニスト:ゾラデックス、リュープリン
- 中枢神経を介して卵巣からの女性ホルモン分泌を減少させ、閉経を人工的に起こします。
- 抗エストロゲン剤:タモキシフェン(ノルバデックス、タスオミン)、フェアスト
- 女性ホルモン(エストロゲン)が乳がん細胞に作用して刺激するのを抑えます。
- アロマターゼ阻害剤:アリミデックス、フェマーラ、アロマシン
- 閉経後の方で脂肪、がん組織等でエストロゲンが作られるのを抑えます。
- プロゲステロン剤:ヒスロンH
- 女性ホルモンの一種ですが、エストロゲン産生を抑えるなど種々の作用があります。
ホルモン療法の副作用について
ホルモン療法は抗がん剤療法に比較すると副作用は軽度で安全ですが、次のような副作用が考えられます。乳がんに対するホルモン療法はほとんどが女性ホルモン(特にエストロゲン)の作用を抑えるものですので、自然に女性ホルモンが減少する更年期と同じような症状が出る可能性があります。とくにのぼせ、顔の紅潮、そして膣(ちつ)分泌物の異常、月経異常が多くなります。
特にLHRH アゴニストは卵巣からの女性ホルモン分泌を減少させ、更年期と全く同じような症状を起こす可能性があります。また抗エストロゲン剤、アロマターゼ阻害剤、プロゲステロン剤も同じような症状をおこします。例えばタモキシフェンの臨床試験では強いのぼせ・顔の紅潮が約17%、膣分泌物の異常が約8%、偽薬より多かったと報告されています。
なお、うつ状態、うつ病についてはホルモン療法による明かな増加は報告されていません。強い吐き気を伴うことはまずありませんが、アロマターゼ阻害剤では時に吐き気のために薬を飲み続けられない方がいらっしゃいます。プロゲステロン剤は食欲亢進、肥満をしばしば来たし、抗がん剤による食欲低下やがん悪液質 (進行がんによる痩せ、体力低下)の治療薬として使われるほどです。
タモキシフェンも食欲亢進、肥満を来すと考えられていますが、偽薬との比較では差がなかったとされています。プロゲステロン剤は血糖上昇、血圧上昇を来すことがあり、糖尿病、高血圧症の方は注意が必要です。タモキシフェンは血中コレステロールを10%程度低下させる良い作用がありますが、凝固機能(血液を固まらせる働き)を亢進させるさようもあります。心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓症の病気の方は注意が必要ですので主治医と良くご相談ください。
タモキシフェンは子宮内膜にたいしては刺激的に働きますので、子宮体がんの発生を約2.5倍に増やすことが知られています。しかし日本女性の子宮体がんの発生率は一万人に2人程度なので、それほど大きい危険ではないと考えています。
念のためにタモキシフェン服用時は定期的に婦人科検診を受けられることをお薦めします。
当院では婦人科での半年毎の検診をお願いしています。また、月経の異常、異常な膣からの出血があれば婦人科を受診してください。
他のホルモン剤では今のところ二次性のがんの発生は報告されていません。女性ホルモン(エストロゲン)は骨を保護する働きがあるので、LHRHアゴニスト、アロマターゼ阻害剤は骨粗鬆(そしょう)症(骨が薄くなる病気)を発症・進行させる可能性があり、現在どのような薬によってこれを予防できるかが検討されています。タモキシフェンは骨に対しては保護的に働き、骨粗鬆症の進行を抑えるのではないかと考えられています。
その他の副作用としてタモキシフェンによる網膜症、白内障が報告されています。
術前抗がん剤療法
乳がん手術の前に抗がん剤療法を先行する場合を術前化学療法(術前抗がん剤療法)といいます。
術前抗がん剤療法の意義は次の3点です。
- 術前抗がん剤療法により乳房温存の可能性が高くなります。
- 術前抗がん剤療法の効果をみることにより、予後の予測を行うことができ、術後の治療方針を最適なものに選択できます。
- 抗がん剤療法を術前に行っても、術後に使用する場合に比較して治癒率や生存期間が劣ることはありません。
一般にはがんの大きさが大きい局所進行乳がんにおいては術前抗がん剤療法が標準治療となっています。
手術後のがんの状態について
手術によって明らかな「がん」は取り除かれます。
ただし、手術では取りきれない、肉眼では見えないがん細胞がまだ残っている可能性があります。それらのがん細胞は通常の検査をしても見つけることはできません。顕微鏡でも分かるか分からないかぐらいのわずかなものです。
また、わずかのがん細胞でも時間が経つと再発となって現れます。再発を抑えて乳がんが治る確率をできるかぎり上げるためには予防治療が必要です。手術だけで高率に治ってしまう場合には強い抗がん剤治療は必要ありませんが、ある程度以上の再発の危険がある場合にはしっかりとした再発予防治療が必要です。
治療が必要となるもっとも重要な指標(目安)は乳がん周囲のリンパ節へのがん転移の個数です。手術のとき周囲のリンパ節は取り除かれますが、それらのリンパ節の1個にでも乳がん細胞が存在した場合には抗がん剤治療が必要です。
一般にがん細胞が見つかったリンパ節の数が多いほど再発の危険が増します。また、リンパ節に転移がなかった場合でもその他に、がん細胞の顔つきが悪いとき、がんがリンパ管のなかに入っているときなど、再発の危険が予想される場合は抗がん剤治療を行うこともあります。
ごくわずかな微小ながん細胞を根絶するには全身的な薬による治療が適しています。抗がん剤またはホルモン剤は血流に乗って全身にいきわたり、その効果を発揮するからです。
再発予防のための抗がん剤の必要性
乳がんに対する抗がん剤療法の有効性は確立されています。しかし、乳がんの置かれた状況によって期待できる抗がん剤療法の効果も異ります。
大きく分けて3つの状況があります。
- 転移・再発乳がんでは症状の緩和と延命が期待できます。
- 手術の前に抗がん剤療法先行する場合(術前化学療法といいます)にはがんの縮小に伴い、温存手術、縮小手術が期待できます。
- 手術後の補助療法では予防的抗がん剤療法により治癒する確率が高くなります。
抗がん剤以外に乳がんの治療には副作用が軽微なホルモン療法という選択があります。抗がん療法の治療効果には限界があり、少なからず副作用を有することから、抗がん剤をいつどのような目的で行うのか、適切な判断をするのが重要です。
再発予防に使用される抗がん剤
治療の中心となる抗がん剤はアドリアマイシン(A)またはエピルビシン(E)です。アドリアマイシン(またはエピルビシン)に加えて、他の抗がん剤、シクロホスファミド(C)(エンドキサン)・フルオロウラシル(F)(5FU)を同時に行う併用抗がん剤療法が標準的方法のひとつ英語の頭文字をとってCAF療法またはFAC療法またはFEC療法またはCEF療法と言います。フルオロウラシルを含まないAC療法, EC療法もあります。また、腋窩リンパ節転移が陽性の場合はタキサンを追加することによりさらに再発を減らすことができます。AC療法4サイクルの治療後にパクリタキセル(タキソール)週1回を毎週12回またはドセタキセル(タキソテール)3週毎4回を行います
脱毛をおこす原因の抗がん剤はアドリアマイシン(またはエピルビシン)です。しかし、この薬は治療効果を挙げるうえでもっとも重要です。アドリアマイシン (またはエピルビシン)を含まない治療方法も従来から行われていますが、それらの治療方法に比べてアドリアマイシン(またはエピルビシン)を含む治療法の効果は10年生存率で5%優れることが分かっています。
2人に1人の方には閉経前の方では卵巣機能を低下させ生理を止める作用があり、長く続く場合もあります。これらの副作用は確かに無視できるものではありませんが、それ以上に抗がん剤療法による治癒率が改善することが証明されています。抗がん剤を行うことにより10年後の生存率を10~20%向上させることが研究で証明されています。10%というと「なんだ、そんなに少しなの?」と感じられるかもしれませんが、1,000人の方が抗がん剤治療を受ければ 100人の命が助かるということです。
長期的な重大な副作用としては1,000人に1-2人の割合で抗がん剤によって白血病などの別のがんができることがあります。しかし、抗がん剤で命が助かる100人と白血病で命を落とすかもしれない1-2人を比べてみれば、治療を受けたいと考える方が多いと思います。
もし乳がんが再発した場合、その後に抗がん剤療法を受けてもかなり効果はありますが、最終的にがんを治しきるのは大変難しくなります。抗がん剤を後にとっておこうと思わないで、より早い段階で抗がん剤を十分に使い、治しきると言う目的に力を注いだほうが良いと考えます。
従って、手術直後に十分に抗がん剤治療受けられることをお勧めします。
5%の改善とは少ないようにも思えますが、1,000人のうち50人の命が助かるという数字です。従って、一般にはアドリアマイシン(またはエピルビシン)を含む治療を選択することをお勧めします。なお、アドリアマイシン(またはエピルビシン)には心臓への影響がありますが、予定している薬の量は安全な範囲内のものです。心臓の検査をして安全を確認してから開始します。
再発予防のためのホルモン治療
ホルモン療法を行う必要のある場合は、ホルモン・レセプター(エストロゲン・レセプターまたはプロゲステロン・レセプター)が陽性の場合です。ホルモン剤はがん細胞のホルモン・レセプターと結合してがんの増殖を抑えます。
ホルモン・リセプターは手術で取り除いたがん細胞で検査します。ホルモン療法は副作用が少なく、安全な方法です。ホルモン療法による再発予防効果は抗がん剤療法と同様に10年生存率で10~20%改善することが証明されています。標準的な方法はタモキシフェン(ノルバデックス、タスオミン)を5年間毎日内服します。
閉経前で生理がある場合はゾラデックスまたはリュープリンを4週間に1回皮下注射し、2年間続けます。閉経後の方はアロマターゼ阻害剤であるアリミデックス、フェマーラ、アロマシンが有効です。アリミデックス、フェマーラを5年間内服します。タモキシフェンを2-3年または5年内服後アロマターゼ阻害剤に変更して継続する治療方法も有用です。
これらのホルモン療法では脱毛もなく、吐き気もありませんが、更年期症状と似た、ほてり、紅潮、のぼせ、めまい、発汗などの症状が一時的にでることがあります。
長期的な副作用としてはタモキシフェンによって子宮内膜がんが発生の危険が増えますがその頻度は1,000人のうち1-2人と稀な現象ですので、タモキシフェンの利益のほうが遙かに大きいのです。しかし、用心のために半年に1回の婦人科の定期検診をお勧めします。子宮内膜がんは早期に見つかれば治癒可能です。アロマターゼ阻害剤は骨密度が低下し骨そしょう症の傾向になることがあります。1年に1回骨密度の検査をすることをお勧めします。