「え…………?」
その感覚は龍之介にも馴染み深いものであった。
紛れも無く――射精の予兆であった。
「う、う、うそ……そんな、そんな……」
玲奈の指先がもたらす愛撫によってすでに射精寸前であったために、金的が絶頂への引き金となってしまったらしい。龍之介のペニスは氾濫する大量の精液を排出せんと、小刻みな痙攣を繰り返していた。
その感覚は龍之介にも馴染み深いものであった。
紛れも無く――射精の予兆であった。
「う、う、うそ……そんな、そんな……」
玲奈の指先がもたらす愛撫によってすでに射精寸前であったために、金的が絶頂への引き金となってしまったらしい。龍之介のペニスは氾濫する大量の精液を排出せんと、小刻みな痙攣を繰り返していた。
龍之介は顔を青ざめさせながら、射精欲求を堪えるべくひたすら無心に努める。立ち上がることを一旦中止し、股間を押さえるように前屈みになって足を小刻みに震わせる。ゆっくりと深呼吸してリラックス。とにかくこんな状況で射精するわけにはいかないので、寸止めオナニーの際に培った自分なりの射精管理技術をフル活用してなんとか射精を我慢しようと試みる。
しかし、股間の疼きはますます耐え難いものとなる。彼の意志に反して、熱い精液が亀頭へと奔走している。ペニスがビクンと大きく痙攣するのがよく分かった。
い、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ――
龍之介は歯を食いしばって、精液を留めようと己の生理欲求に懸命に抗う。まるで小便を我慢する時のように股をしきりに揺すらせる。チャンピオンとしてあまりに不甲斐なく情けない姿だったが、仕方なかった。リング上で惨めに射精するくらいならば、このまま金的に悶える振りをしながら我慢に徹する方が賢明だと彼は考えていた。金的で無様に射精してしまったら、自分の中の大切なものが本当に壊れてしまうような気がした。今まで培ってきた全てを失くしてしまうような気がした。この状態から這い上がるためにも、それだけは避けねばならなかった。
龍之介の卓抜した強靭な意志によってか、奇跡的にも射精欲求が治まりつつあった。亀頭付近まで接近したマグマが急速に冷え、元来た道を戻っていくような感覚。次第に収束するペニスの疼き。彼の願いが肉体に届いたのか、彼はなんとかリング上での射精を回避することができそうだった。
龍之介はホッと息を吐く。
その時であった。
「ねぇ、いつまでもぞもぞしてんの?」
「っ!!」
体を大きく震わせて龍之介は顔を上げる。
そこには天使のように微笑む玲奈がいた。
龍之介は射精欲求の排除に夢中で、玲奈にまじまじと観察されていることに全く気づかなかったのだ。玲奈は蹲った彼の真ん前にしゃがみ込み、彼の悶える様子を眺めて楽しんでいたのだ。
楽しそうに笑っている玲奈を見て、龍之介は見えない手によって胸の奥を優しく搾られるような感覚に陥った。
それから股間も同様に――搾られる。
「あ、あぁぁぁ…………」
再び再燃する射精欲求。龍之介は甘い吐息を漏らして体を震わせた。壊れかけのダムの中で濃密なスープが氾濫しかけているようなイメージ。
彼は確信した。
もう射精を我慢することはできないと――
「そんなにガクガクしちゃってどうしたの? 私の金的、そんなに痛かった? あはは♪」
無邪気に笑う玲奈は目眩がするほど美しかった。
龍之介はほとんど無意識に口を開く。
「い、イク……」
「は?」玲奈は怪訝そうな表情で首を傾げる。
「だ、ダメ、イク、イク、イッちゃう……精子、精子出ちゃいますぅ……!」
龍之介は自ら玲奈に暴露した。自分が金的によって射精しかけているという最低の事実を彼女に話してしまった。射精の際にさらなる背徳感を得るというただそれだけのために。
龍之介の言葉を聞いて玲奈は目を丸くする。そして、間もなくしてくすくすと笑い始めた。
「え? なに? 私の金的で、白いおしっこ出ちゃいそうなの? やっば。あなた、マジ変態じゃん。いいの? 大切な試合中にぃ、ぴゅっぴゅ~~って無様に射精して、アへ顔みんなに晒しちゃうんだよ? それでもいいの?」
「で、でも、でもぉ……もう、が、我慢できな……あ、あ、あ」
龍之介は体を強張らせる。絶頂がすぐそこまで迫っているのだ。
「ホントに? ホントに出すの? きゃはははっ、チョ~うけるんだけど。ぷぷっ」玲奈はリングを叩きながら楽しそうに笑う。「ふ、ふへへっ。それじゃさ、それじゃさ、私の目ぇ見ながらイッてよ。絶対に逸しちゃダメだよ? お精子ぴゅるぴゅるしてる時も、目閉じないで私のことずっと見てるの。いい? 分かった?」
「は、はぃぃ……分かりましたぁ…………」
風船のように膨れ上がる射精欲求をそのままに、龍之介は玲奈の瞳をじっと見つめる。吸い込まれそうになる大きな瞳に、彼の心臓は大きく高鳴って股間の疼きも加速する。彼女の無邪気でありながらも嗜虐的な目つきに身も心も奪われてしまう。
ああ、なんて美しい――
このまま軽く拳を振り上げてアッパーカットでも決めれば、龍之介の勝利は確実なはずだった。一時の快楽に身を任せずに、貪欲に勝利を求めれば、彼は己の名誉を回復させる権利を得たはずなのだ。
しかし、それは不可能だった。龍之介の射精欲求が彼の闘争本能を叩き潰してしまった。今の彼は性欲の奴隷だ。玲奈の瞳を見つめながら屈服の証をハーフパンツの中に撒き散らす――彼は背徳的な快楽を貪ることしか考えていなかった。
「ふふ…………イッて?」玲奈は満面の笑みを浮かべて呟いた。
玲奈のその一言によって痺れるような電流が全身を巡り、筋肉が
一気に張り詰める。濃密なスープが頭から溢れだす。彼のペニスが大きく大きく怒張した。
「あ、あ、で、出る、出ちゃう……」龍之介は縋るような目つきで呟く。「あ……あ……い、イク、イク、精子出る、出る、出ちゃう……!」
膨れ上がった射精欲求は限度を超えてとうとう破裂する。
瞬間、視界が白に爆ぜた。
「~~~~~~~~~っ!!」
びゅるっ びゅるるるる~~~ドピュッドピュ! びゅぅうぅ~~~~~っ!
鍛え上げられた肉体を震わせながら、龍之介は射精した。我慢に我慢を重ねた精液が堰を切ったように鈴口から溢れ出し、彼のハーフパンツに染み込んでいった。彼のペニスの形状に膨らんだ股間部分の先端に、黒い染みが姿を現す。彼が精液を漏らしてしまったというなによりの証拠だった。
「あっ……あっ……あ、あぁ…………」
しかし、それにも構わず、龍之介は絶頂による快感を堪能していた。顔中の筋肉を弛緩させて情けない絶頂面を晒しながら、それでも玲奈の瞳を見つめて精液を放出した。ハーフパンツの中に濃厚な精液をぶち撒けた。手で扱いてさえいないのに、普段のオナニーの数十倍は気持ち良い射精であった。渦巻く背徳感が射精による快楽をさらに相乗させていたのだ。
「あ、ぷぷっ、ぷぷぷぷっ、出てる出てる。あなたのザーメンがぴゅっぴゅ~~って。おパンツから滲みでて溢れちゃってるよ? とうとうやっちゃったねぇ、チャンピオンさん。リング上でお精子漏らすなんて、あなた本当に変態さんなのね。うふふ♪」
玲奈は悪い子を優しく叱るお姉さんのような口調で、龍之介を軽く詰った。男の性欲をくすぐるような挑発的な笑みを浮かべていた。
恍惚とその表情を眺めながら、龍之介は最後の一滴まで精液を搾り出してしまった。全てが幻想なのではないかと錯覚してしまうような夢現の状態だった。観客のざわめきも玲奈の声もどこか遠く離れているように聞こえた。
あ、ああ、心地いい――
龍之介は穏やかな表情で射精の余韻を味わった。
だが、それも長くは続かない。
ぬるぬるとした生温い感触によって、龍之介は現実に引き戻された。
フッと彼は我に帰る。ここが闘いの場だということを思い出す。地下プロレスの真っ最中だということを思い出す。
龍之介は息を荒らげながら自分の股間を見つめた。
そこには黒い大きな染みがあった。
お漏らし。
精液のお漏らし。
紛れも無い恥辱の証。
体を少し動かしただけでも、漏らした精液の感触が龍之介の亀頭にへばりつく。夢精した時によく感じる感触だった。それはとてつもなく不快だった。
俺は、こんなところで、精液を――
お、お漏らしして――
ああ――
ああ――
龍之介は愕然とした。そして、絶望した。
それは彼の心が折れた瞬間であった。
「…………」
龍之介は放心状態のまま動かなくなってしまった。四肢を脱力させて顔を俯むかせたまま電池の切れたロボットのように停止してしまった。今まで快楽として機能していた背徳感や屈辱が今度は彼の心を破壊する兵器として牙を剥いた。いわゆる賢者タイムに突入した彼は、とてつもない背徳感と圧倒的な屈辱に押し潰されそうになっていた。ほとんど抜け殻のようであった。
すでに戦闘意欲は皆無だった。
このまま家に帰って酒でも飲んでからさっさと寝てしまいたい気分だった。
そんな様子の龍之介を玲奈は見下す。
先刻の優しげな微笑みとは打って変わった冷酷な微笑を浮かべて――
「あははっ、どうしたの? 全然動かなくなっちゃったけど。白いおしっこお漏らししちゃって恥ずかしいのかな? それとも、お精子と一緒に闘う気力もどっかいっちゃった感じかな? ねぇねぇ、まだ闘いの最中だよ? ほら、お客さん大盛り上がりなんだからさ、もっとあなたが私にボコボコにされるとこ見せてあげないと。お客さん、満足して帰ってくれないよ? 分かるでしょ? 元、地下闘技場のチャンピオンさん♪」
皮肉げな口調で玲奈は言った。
しかし、それを聞いても、龍之介の中で怒りの感情が湧き立つことはなかった。ただ悲しみだけが募った。彼はすでに牙を全て抜かれた小動物と化していた。玲奈に歯向かう気力などまるでなかった。
龍之介は俯いたまま、力なく笑って言った。
「は、はは……もういいんだ。許してくれ。俺は負けを認める。降参だ。地下プロレスも今日で引退する。はは、は……まさかこんなことになるなんて、な……はは、ははは…………」
闘う気力を全て失った龍之介は降参宣言をする。そして、涙を堪えているようなその顔を上げた。最後に玲奈の笑顔を拝もうとでも思ったのだろうか。
しかし、玲奈は真顔だった。
喜怒哀楽の感情を全て失くした表情で、龍之介を見つめていた。
龍之介はそんな彼女に恐怖した。暴力に怯える子供のように、縮こまって震え上がった。
「は? なに言ってんの?」玲奈は威圧的な口調で言う。「降参? え、意味分かんないんだけど。ダメに決まってんじゃん、そんなの。まだ私、ぜんっぜん楽しんでないんだけど。先に言っとくけど、パンツん中射精してチンポぬちゃぬちゃにさせたくらいで解放されると思ったら大間違いだよ? あなたにはもっともっと、もう二度と人前で大手を振って歩けないくらいに恥ずかしい目に遭ってもらうんだから……そう簡単に逃げられると思うなよ?」
「そ、そんな……そんな…………」
龍之介は顔を引き攣らせて脅えた。無理矢理逃げ出そうにも逃げられなかった。すでに、玲奈に対する恐怖が体の中に染み付いてしまっていたのだ。
「ほら、こっち来なよ。こんなリング上の端じゃあお客さんによく見えないでしょ?」
そう言うと、玲奈は龍之介の手をとって無理矢理引っ張った。
「い、いや、いやだ……助けてくれ…………」
おもちゃ屋で駄々をこねる子供のように龍之介は藻掻くが、しかし、玲奈にそのまま引きずられていく。本気を出せば、玲奈の手を振り切ることなど赤子の手を撚るより簡単なはずなのだが、彼はどうすることもできなかった。玲奈に対する根源的な恐怖のために、体が竦んで力がどうしても抜けてしまうのだ。
結局、龍之介はリングの中央にまで引きずられてしまった。彼はうつ伏せになって寝かされる。
観客は玲奈の行動に興味津々だった。果たして、これから如何にしてチャンピオンを責めるのか。誰もが生唾を飲んで見守った。
「よっと」
玲奈は再び楽しげな笑みを浮かべると、うつ伏せになった龍之介の背中に飛び乗った。そして、その豊満な臀部でぐりぐりと彼の肉体を圧迫した。
「ぐえぇ……ええぇぇ…………」
死にかけの山羊のような悲鳴を漏らす龍之介。彼は降参を示すようにバンバンとマットを叩くが、まだまだ試合は終わらない。レフェリーはリング外から試合の様子を楽しそうに観戦している。どうやら審判としての役目を果たすつもりは毛頭ないらしい。
龍之介の悲劇はまだ始まったばかりだったのだ。
「いっくよ~~!」
一体、なにをされるんだ――龍之介は恐々と目を細めて玲奈の行動を待つ。ありとあらゆる最悪のシチュエーションを浮かべてそのための覚悟を決める。
しかし、玲奈の行動は龍之介の予想のどれにも該当しないものだった。
「それっ!」
可愛らしい掛け声と共に、
龍之介の鼻をなにかが覆った。
「ふ、ふぐぅっ!?」
瞬間、龍之介の鼻腔を突いた濃い匂い。
仄かな汗の匂いと女性独特の甘い香りが混ざった濃厚な匂いが彼の鼻を通って脳髄を痺れさせた。末端の細胞にまで香りが染み渡っていくような感覚。思わず体が大きく痙攣する。鼻を鳴らすと頭がクラクラする。しかし、嗅ぐことを止められない濃密な香り。
こ、これは――まさか――
「あはは、私の靴の匂いはどうかな? ど~お? くさい? 結構履きこんじゃってるから、ちょっぴりキツい匂いがするかもね~~♪」
玲奈は恥ずかしげもなくそう言い放った。
そう、彼女は自分のスニーカーを脱いで、その内部の匂いを龍之介に嗅がせていたのである。
こ、これが、彼女の靴の匂い――
そう思うだけで、龍之介の気持ちは大いに昂った。彼は犬のように鼻を鳴らして玲奈の靴の匂いを嗅いだ。溢れ出す彼女の匂いにただ酔いしれた。鼻に届く匂いは強烈だったが、しかし、臭くはなかった。汗の酸っぱい匂いも仄かに感じられたが、臭いとは思えなかった。玲奈の蒸れた足の匂いは、彼にとっては芳醇な香りであり、極上のフェロモンであったのだ。
瞬く間に、龍之介の股間に血液が集中した。彼のペニスは勃起を始めた。玲奈の尻によって背中から圧迫されながらも、固い剛直へと姿を変える。まだ射精して間もないというのに、玲奈の足の匂いによって彼の性欲が再びかき立てられてしまったのだ。彼女のフェロモンはそれほどの淫靡な魔力を孕んでいたのだ。
目に見えずとも、龍之介が勃起したということを腰の動きから感知した玲奈は、わざと尻の圧迫を強める。それから彼に言う。
「ほら、もっと嗅いで嗅いで~~。鼻をたくさん鳴らして、私の匂いで体の中いっぱいにするんだよ~~? ほら吸って~~、吐いて~~、吸って~~、吐いて~~」
玲奈の合図に合わせて龍之介は呼吸を繰り返す。くぐもった鼻息が靴の中から外部に漏れていたが、そんな些細なことは気にせず、夢中になって彼女の靴の湿った匂いを嗅ぎ惚れる。そして、さらなる濃厚な匂いを求めるかのように、彼は靴の中に顔を埋める。また匂いを嗅いで、強烈な色香に脳みそを浸す。
もはや屈辱や恥辱といった感情は、龍之介には残されていなかった。ただ玲奈の靴の匂いを嗅ぐことしか頭に残っていなかった。
靴の匂いの虜となっている龍之介を、玲奈は楽しげに眺める。
「ふふふ、私の言った通りに靴の匂いくんくんするなんて、とってもいい子ねぇチャンピオンさん。そんなあなたにご褒美あげちゃう」
そう言って、玲奈は両足をさらに前に出して膝を立て、太ももで龍之介の両腕をロックした。
そして――
「それぇ~~~~っ!」
龍之介の鼻に当てている靴を両手で掴んでそのまま上に引き上げた。
サント式キャメルクラッチ――
相手を海老反り状にさせ、背中、腰、喉にダメージを与えるプロレス技である。
「ふご、ご、ごごごごご~~~~~~っ!!」
突然のプロレス技に驚く暇もなく、龍之介はその苦痛に悶え苦しんだ。反らされた背筋に体重がかかり、背骨が思いきりしなる。そして、靴ごと顎を後ろに引かれ、首を強く圧迫される。
脊髄のミシミシミシミシという悲鳴。
首を襲う鈍い痛み。
完璧に決まったキャメルクラッチに、龍之介は為す術がなかった。
そしてなにより、鼻に入り込む噎せ返るような匂いに彼は逆に苦しんだ。
キャメルクラッチにより著しく呼吸の自由を奪われている上、靴の圧迫によって口も上手く開けない状態であったため、龍之介は鼻でわずかな酸素を供給するしかなかった。
すると必然的に、呼吸を制限された状態で玲奈の足の匂いを思いきり吸い込むことになる。
それは、乾きを訴える人間にコーヒーを大量に摂取させるようなものだ。
呼吸が自由な状態ならば、途中で口呼吸による休憩を挟んで、足の匂いを楽しむこともできるだろう。
しかし、今はそれどころではなく、龍之介は失神しないように懸命に鼻呼吸を繰り返すしかない。この苦しみを緩和させるために彼が欲するのは添加物のないただの真水、すなわち新鮮な空気に他ならないのだ。
しかし、鼻に届くのは玲奈の強烈な足の匂い。
キツい足の匂いが牙を剥き、さらなる苦しさを招く。
「ふがっががが~~っ! むがぁぁぁあぁぁ~~~~っ!!」
鼻に入り込む足の濃厚な匂いに目眩がする。しかし、呼吸を止めることはできない。龍之介は靴の中に充満した玲奈の足の匂いを嗅ぎ続けるしかない。
次第に意識が朦朧とし、視界が淀み始める。観客は完璧に決まったキャメルクラッチに大盛り上がりのようだったが、その声は龍之介には届いていなかった。とにかくこの状況から解放されたい彼はマットを思いきり叩いて降参の意を示す。
しかし、試合は終わらない。地下プロレスでは『面白さ』こそが最優先される。突如現れた新人JKに地下プロレス界のチャンピオンが蹂躙されているという試合展開が面白くないわけがない。観客の熱狂ぶりを見ればそれは明らかだ。
だから、この試合は終わらない。龍之介が動かなくなるまで、玲奈の蹂躙はまだまだ続くだろう。
「はい、ちょっと休憩~~」
玲奈はそう言って顎にかける手の力を弛め、龍之介を苦しみから解放する。キャメルクラッチを一旦解いたのだ。
「ぐ、がはっ、ゲホゲホッ、ぐ、うぅぅ~~…………」
玲奈から逃げる絶好のチャンスであるにもかかわらず、龍之介の体は動かなかった。靴の中に顔を突っ込んだまま、身動きがとれなかった。頭に充満した足の匂いに、肉体が麻痺しているようだった。
「ほらほら、どうしたの~? しばらく待っててあげるから、頑張って藻掻けば脱出できるかもよ~~?」
玲奈はそう言ってお尻を揺らし、龍之介を挑発した。彼女は余裕の笑みを浮かべている。彼に脱出する力が残されていないことなど、すでにお見通しであった。
「ぐ、うぅ……うぅぅ…………」
せめて、靴から顔を離して新鮮な空気を吸い込もうと考える龍之介であったが、それすらも叶わなかった。彼はすでに足の匂いの中毒になっていた。濃厚な足の匂いを発する玲奈の靴から顔を上げることができない。むしろ、さらに前のめりになって匂いを嗅いでいる。なんで? なんで? と自ら疑問を抱きながら、足の匂いを嗅いでしまう。彼は切なげな表情を浮かべながら濃密な香りで頭を満たす。
「え~? うそ~、そんなに私の足の匂い好きなの~?」と半笑いの玲奈。「だってムレムレの足の匂いだよ~? 汗かいてるから結構くさいでしょ? なに? くさいのがいいの? 女の子のくさい香りで興奮しちゃの? んでチンポおったてちゃうの? やっば。あなたって超変態じゃん。だから童貞なのかな? あはは♪」
「ふ、ふぐぅ~……」
玲奈の嘲笑に対して、龍之介は情けない呻き声を返す。そして、現役JKの彼女に馬鹿にされながらも、それでも靴の匂いを嗅いでいた。先ほど刃を突き立てた背徳感が再び彼を優しく迎えた。背徳と屈辱の中で嗅ぐ足の匂いは格別だった。
そしてまた、地獄が始まる。
「はい、きゅ~け~しゅ~りょ~~。ぐいいぃぃぃ~~~!」
「ん、んむぅぅぅ~~~~~っ!!」
玲奈は白魚のような手で靴を掴むと、先ほどのように引き上げる。龍之介の悲痛な叫びを楽しみながら、キャメルクラッチを見事に決める。地下プロレス界のチャンピオンと言われた男を好き勝手に蹂躙し、それを観客に見せつけるという快感に彼女はどっぷりと浸っていた。日常生活では得られない刺激をここぞとばかりに享受するのだ。自然と手にもさらなる力が入る。
「むぎゃっぎゃっがぁ……あ、が…………」
二度目のキャメルクラッチは一度目のそれよりもさらに強力で、龍之介は苦悶の叫びを上げることさえもできなかった。喉から漏れる掠れ声が、彼の苦しみを物語っていた。
そして、鼻腔を刺激する足の匂い。
一斉に牙を剥いた濃厚な足の匂いに、龍之介はひたすら耐え続ける。枯渇した酸素を埋めるために、必死になって靴の中で呼吸を繰り返す。充満した足の匂いが彼の苦しみを倍増させる。どれだけ嗅いでも、玲奈の靴の中の臭気濃度は依然として変わらなかった。
玲奈の靴の匂いは、長年の彼女の足汗がたっぷりと染み付いて蓄積して発酵した結果醸し出されるようになったものだ。故に一朝一夕の呼吸で薄まるはずはない。
やはり、龍之介は蒸れた足の匂いをそのまま嗅ぎ続けるしかないのだ。
苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい――
そう思いながらも、龍之介のペニスは玲奈の足の匂いに反応して勃起してしまう。その先端からカウパー液を漏らしてしまう。足裏のフェロモンに魅せられて、キャメルクラッチを決められながらも、彼は発情していたのだ。
「ふふ……ほら~苦しいでしょ~? 止めてほしいなら止めてって言えば~~? そしたら私も考えてあげなくもないけど?」
玲奈は無邪気な笑顔で無茶なことを言う。靴の圧迫によって口を塞がれている上、肺に息がほとんど残されていない状態で、言葉を発するのは不可能だ。彼女もそれを分かって言っているのだから、実に質が悪い。
「んがが…………がが…………」
段々と体の力が抜け、視界が薄まっていく。意識を失う前の感覚。龍之介はまたしても失神しかけていた。先ほどよりも締め付けの強いキャメルクラッチに、彼の限界が近づいていた。
そして、そのことを見越したように――
「はい、また休憩っ」
と玲奈は龍之介をキャメルクラッチから解放した。
「ぷはっ、がはっ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
遠ざかった意識が瞬時に回復し、龍之介は咳き込みながらも、玲奈の靴の中で荒い呼吸を繰り返した。目には涙が浮かんでいた。足の匂いとキャメルクラッチのコンボがあまりに苦し過ぎたためだ。
「ふふ~、ほら、今の内に休憩しておくんだよ? じゃないと後が大変だよ? まだまだ続くんだからね~~あははは♪」
その言葉に、龍之介は顔を青ざめさせた。
事実、キャメルクラッチ玲奈ヴァージョンは、何度も何度も繰り返された。
靴を龍之介の顔面に押し付けたまま、見事なキャメルクラッチを決めて彼を苦しめ、失神寸前になったら解放して休憩させる。そして、またある程度彼の呼吸が整ったらキャメルクラッチを決め、彼を足の匂い地獄に叩き落とす。それからまた休憩させる。
龍之介はどうすることもできず、玲奈の苛烈な責めを受け続ける。
鍛え上げられた肉体を活かすこともできず、ただのおもちゃか人形のように玲奈に弄ばれる。失神の瀬戸際で今までにない苦痛に身を窶す。そして、ムレムレの足の匂いを鼻で吸い続ける。
やがて、十何回目のキャメルクラッチの末、龍之介は玲奈の靴から解放された。
しかし、股間の疼きはますます耐え難いものとなる。彼の意志に反して、熱い精液が亀頭へと奔走している。ペニスがビクンと大きく痙攣するのがよく分かった。
い、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ――
龍之介は歯を食いしばって、精液を留めようと己の生理欲求に懸命に抗う。まるで小便を我慢する時のように股をしきりに揺すらせる。チャンピオンとしてあまりに不甲斐なく情けない姿だったが、仕方なかった。リング上で惨めに射精するくらいならば、このまま金的に悶える振りをしながら我慢に徹する方が賢明だと彼は考えていた。金的で無様に射精してしまったら、自分の中の大切なものが本当に壊れてしまうような気がした。今まで培ってきた全てを失くしてしまうような気がした。この状態から這い上がるためにも、それだけは避けねばならなかった。
龍之介の卓抜した強靭な意志によってか、奇跡的にも射精欲求が治まりつつあった。亀頭付近まで接近したマグマが急速に冷え、元来た道を戻っていくような感覚。次第に収束するペニスの疼き。彼の願いが肉体に届いたのか、彼はなんとかリング上での射精を回避することができそうだった。
龍之介はホッと息を吐く。
その時であった。
「ねぇ、いつまでもぞもぞしてんの?」
「っ!!」
体を大きく震わせて龍之介は顔を上げる。
そこには天使のように微笑む玲奈がいた。
龍之介は射精欲求の排除に夢中で、玲奈にまじまじと観察されていることに全く気づかなかったのだ。玲奈は蹲った彼の真ん前にしゃがみ込み、彼の悶える様子を眺めて楽しんでいたのだ。
楽しそうに笑っている玲奈を見て、龍之介は見えない手によって胸の奥を優しく搾られるような感覚に陥った。
それから股間も同様に――搾られる。
「あ、あぁぁぁ…………」
再び再燃する射精欲求。龍之介は甘い吐息を漏らして体を震わせた。壊れかけのダムの中で濃密なスープが氾濫しかけているようなイメージ。
彼は確信した。
もう射精を我慢することはできないと――
「そんなにガクガクしちゃってどうしたの? 私の金的、そんなに痛かった? あはは♪」
無邪気に笑う玲奈は目眩がするほど美しかった。
龍之介はほとんど無意識に口を開く。
「い、イク……」
「は?」玲奈は怪訝そうな表情で首を傾げる。
「だ、ダメ、イク、イク、イッちゃう……精子、精子出ちゃいますぅ……!」
龍之介は自ら玲奈に暴露した。自分が金的によって射精しかけているという最低の事実を彼女に話してしまった。射精の際にさらなる背徳感を得るというただそれだけのために。
龍之介の言葉を聞いて玲奈は目を丸くする。そして、間もなくしてくすくすと笑い始めた。
「え? なに? 私の金的で、白いおしっこ出ちゃいそうなの? やっば。あなた、マジ変態じゃん。いいの? 大切な試合中にぃ、ぴゅっぴゅ~~って無様に射精して、アへ顔みんなに晒しちゃうんだよ? それでもいいの?」
「で、でも、でもぉ……もう、が、我慢できな……あ、あ、あ」
龍之介は体を強張らせる。絶頂がすぐそこまで迫っているのだ。
「ホントに? ホントに出すの? きゃはははっ、チョ~うけるんだけど。ぷぷっ」玲奈はリングを叩きながら楽しそうに笑う。「ふ、ふへへっ。それじゃさ、それじゃさ、私の目ぇ見ながらイッてよ。絶対に逸しちゃダメだよ? お精子ぴゅるぴゅるしてる時も、目閉じないで私のことずっと見てるの。いい? 分かった?」
「は、はぃぃ……分かりましたぁ…………」
風船のように膨れ上がる射精欲求をそのままに、龍之介は玲奈の瞳をじっと見つめる。吸い込まれそうになる大きな瞳に、彼の心臓は大きく高鳴って股間の疼きも加速する。彼女の無邪気でありながらも嗜虐的な目つきに身も心も奪われてしまう。
ああ、なんて美しい――
このまま軽く拳を振り上げてアッパーカットでも決めれば、龍之介の勝利は確実なはずだった。一時の快楽に身を任せずに、貪欲に勝利を求めれば、彼は己の名誉を回復させる権利を得たはずなのだ。
しかし、それは不可能だった。龍之介の射精欲求が彼の闘争本能を叩き潰してしまった。今の彼は性欲の奴隷だ。玲奈の瞳を見つめながら屈服の証をハーフパンツの中に撒き散らす――彼は背徳的な快楽を貪ることしか考えていなかった。
「ふふ…………イッて?」玲奈は満面の笑みを浮かべて呟いた。
玲奈のその一言によって痺れるような電流が全身を巡り、筋肉が
一気に張り詰める。濃密なスープが頭から溢れだす。彼のペニスが大きく大きく怒張した。
「あ、あ、で、出る、出ちゃう……」龍之介は縋るような目つきで呟く。「あ……あ……い、イク、イク、精子出る、出る、出ちゃう……!」
膨れ上がった射精欲求は限度を超えてとうとう破裂する。
瞬間、視界が白に爆ぜた。
「~~~~~~~~~っ!!」
びゅるっ びゅるるるる~~~ドピュッドピュ! びゅぅうぅ~~~~~っ!
鍛え上げられた肉体を震わせながら、龍之介は射精した。我慢に我慢を重ねた精液が堰を切ったように鈴口から溢れ出し、彼のハーフパンツに染み込んでいった。彼のペニスの形状に膨らんだ股間部分の先端に、黒い染みが姿を現す。彼が精液を漏らしてしまったというなによりの証拠だった。
「あっ……あっ……あ、あぁ…………」
しかし、それにも構わず、龍之介は絶頂による快感を堪能していた。顔中の筋肉を弛緩させて情けない絶頂面を晒しながら、それでも玲奈の瞳を見つめて精液を放出した。ハーフパンツの中に濃厚な精液をぶち撒けた。手で扱いてさえいないのに、普段のオナニーの数十倍は気持ち良い射精であった。渦巻く背徳感が射精による快楽をさらに相乗させていたのだ。
「あ、ぷぷっ、ぷぷぷぷっ、出てる出てる。あなたのザーメンがぴゅっぴゅ~~って。おパンツから滲みでて溢れちゃってるよ? とうとうやっちゃったねぇ、チャンピオンさん。リング上でお精子漏らすなんて、あなた本当に変態さんなのね。うふふ♪」
玲奈は悪い子を優しく叱るお姉さんのような口調で、龍之介を軽く詰った。男の性欲をくすぐるような挑発的な笑みを浮かべていた。
恍惚とその表情を眺めながら、龍之介は最後の一滴まで精液を搾り出してしまった。全てが幻想なのではないかと錯覚してしまうような夢現の状態だった。観客のざわめきも玲奈の声もどこか遠く離れているように聞こえた。
あ、ああ、心地いい――
龍之介は穏やかな表情で射精の余韻を味わった。
だが、それも長くは続かない。
ぬるぬるとした生温い感触によって、龍之介は現実に引き戻された。
フッと彼は我に帰る。ここが闘いの場だということを思い出す。地下プロレスの真っ最中だということを思い出す。
龍之介は息を荒らげながら自分の股間を見つめた。
そこには黒い大きな染みがあった。
お漏らし。
精液のお漏らし。
紛れも無い恥辱の証。
体を少し動かしただけでも、漏らした精液の感触が龍之介の亀頭にへばりつく。夢精した時によく感じる感触だった。それはとてつもなく不快だった。
俺は、こんなところで、精液を――
お、お漏らしして――
ああ――
ああ――
龍之介は愕然とした。そして、絶望した。
それは彼の心が折れた瞬間であった。
「…………」
龍之介は放心状態のまま動かなくなってしまった。四肢を脱力させて顔を俯むかせたまま電池の切れたロボットのように停止してしまった。今まで快楽として機能していた背徳感や屈辱が今度は彼の心を破壊する兵器として牙を剥いた。いわゆる賢者タイムに突入した彼は、とてつもない背徳感と圧倒的な屈辱に押し潰されそうになっていた。ほとんど抜け殻のようであった。
すでに戦闘意欲は皆無だった。
このまま家に帰って酒でも飲んでからさっさと寝てしまいたい気分だった。
そんな様子の龍之介を玲奈は見下す。
先刻の優しげな微笑みとは打って変わった冷酷な微笑を浮かべて――
「あははっ、どうしたの? 全然動かなくなっちゃったけど。白いおしっこお漏らししちゃって恥ずかしいのかな? それとも、お精子と一緒に闘う気力もどっかいっちゃった感じかな? ねぇねぇ、まだ闘いの最中だよ? ほら、お客さん大盛り上がりなんだからさ、もっとあなたが私にボコボコにされるとこ見せてあげないと。お客さん、満足して帰ってくれないよ? 分かるでしょ? 元、地下闘技場のチャンピオンさん♪」
皮肉げな口調で玲奈は言った。
しかし、それを聞いても、龍之介の中で怒りの感情が湧き立つことはなかった。ただ悲しみだけが募った。彼はすでに牙を全て抜かれた小動物と化していた。玲奈に歯向かう気力などまるでなかった。
龍之介は俯いたまま、力なく笑って言った。
「は、はは……もういいんだ。許してくれ。俺は負けを認める。降参だ。地下プロレスも今日で引退する。はは、は……まさかこんなことになるなんて、な……はは、ははは…………」
闘う気力を全て失った龍之介は降参宣言をする。そして、涙を堪えているようなその顔を上げた。最後に玲奈の笑顔を拝もうとでも思ったのだろうか。
しかし、玲奈は真顔だった。
喜怒哀楽の感情を全て失くした表情で、龍之介を見つめていた。
龍之介はそんな彼女に恐怖した。暴力に怯える子供のように、縮こまって震え上がった。
「は? なに言ってんの?」玲奈は威圧的な口調で言う。「降参? え、意味分かんないんだけど。ダメに決まってんじゃん、そんなの。まだ私、ぜんっぜん楽しんでないんだけど。先に言っとくけど、パンツん中射精してチンポぬちゃぬちゃにさせたくらいで解放されると思ったら大間違いだよ? あなたにはもっともっと、もう二度と人前で大手を振って歩けないくらいに恥ずかしい目に遭ってもらうんだから……そう簡単に逃げられると思うなよ?」
「そ、そんな……そんな…………」
龍之介は顔を引き攣らせて脅えた。無理矢理逃げ出そうにも逃げられなかった。すでに、玲奈に対する恐怖が体の中に染み付いてしまっていたのだ。
「ほら、こっち来なよ。こんなリング上の端じゃあお客さんによく見えないでしょ?」
そう言うと、玲奈は龍之介の手をとって無理矢理引っ張った。
「い、いや、いやだ……助けてくれ…………」
おもちゃ屋で駄々をこねる子供のように龍之介は藻掻くが、しかし、玲奈にそのまま引きずられていく。本気を出せば、玲奈の手を振り切ることなど赤子の手を撚るより簡単なはずなのだが、彼はどうすることもできなかった。玲奈に対する根源的な恐怖のために、体が竦んで力がどうしても抜けてしまうのだ。
結局、龍之介はリングの中央にまで引きずられてしまった。彼はうつ伏せになって寝かされる。
観客は玲奈の行動に興味津々だった。果たして、これから如何にしてチャンピオンを責めるのか。誰もが生唾を飲んで見守った。
「よっと」
玲奈は再び楽しげな笑みを浮かべると、うつ伏せになった龍之介の背中に飛び乗った。そして、その豊満な臀部でぐりぐりと彼の肉体を圧迫した。
「ぐえぇ……ええぇぇ…………」
死にかけの山羊のような悲鳴を漏らす龍之介。彼は降参を示すようにバンバンとマットを叩くが、まだまだ試合は終わらない。レフェリーはリング外から試合の様子を楽しそうに観戦している。どうやら審判としての役目を果たすつもりは毛頭ないらしい。
龍之介の悲劇はまだ始まったばかりだったのだ。
「いっくよ~~!」
一体、なにをされるんだ――龍之介は恐々と目を細めて玲奈の行動を待つ。ありとあらゆる最悪のシチュエーションを浮かべてそのための覚悟を決める。
しかし、玲奈の行動は龍之介の予想のどれにも該当しないものだった。
「それっ!」
可愛らしい掛け声と共に、
龍之介の鼻をなにかが覆った。
「ふ、ふぐぅっ!?」
瞬間、龍之介の鼻腔を突いた濃い匂い。
仄かな汗の匂いと女性独特の甘い香りが混ざった濃厚な匂いが彼の鼻を通って脳髄を痺れさせた。末端の細胞にまで香りが染み渡っていくような感覚。思わず体が大きく痙攣する。鼻を鳴らすと頭がクラクラする。しかし、嗅ぐことを止められない濃密な香り。
こ、これは――まさか――
「あはは、私の靴の匂いはどうかな? ど~お? くさい? 結構履きこんじゃってるから、ちょっぴりキツい匂いがするかもね~~♪」
玲奈は恥ずかしげもなくそう言い放った。
そう、彼女は自分のスニーカーを脱いで、その内部の匂いを龍之介に嗅がせていたのである。
こ、これが、彼女の靴の匂い――
そう思うだけで、龍之介の気持ちは大いに昂った。彼は犬のように鼻を鳴らして玲奈の靴の匂いを嗅いだ。溢れ出す彼女の匂いにただ酔いしれた。鼻に届く匂いは強烈だったが、しかし、臭くはなかった。汗の酸っぱい匂いも仄かに感じられたが、臭いとは思えなかった。玲奈の蒸れた足の匂いは、彼にとっては芳醇な香りであり、極上のフェロモンであったのだ。
瞬く間に、龍之介の股間に血液が集中した。彼のペニスは勃起を始めた。玲奈の尻によって背中から圧迫されながらも、固い剛直へと姿を変える。まだ射精して間もないというのに、玲奈の足の匂いによって彼の性欲が再びかき立てられてしまったのだ。彼女のフェロモンはそれほどの淫靡な魔力を孕んでいたのだ。
目に見えずとも、龍之介が勃起したということを腰の動きから感知した玲奈は、わざと尻の圧迫を強める。それから彼に言う。
「ほら、もっと嗅いで嗅いで~~。鼻をたくさん鳴らして、私の匂いで体の中いっぱいにするんだよ~~? ほら吸って~~、吐いて~~、吸って~~、吐いて~~」
玲奈の合図に合わせて龍之介は呼吸を繰り返す。くぐもった鼻息が靴の中から外部に漏れていたが、そんな些細なことは気にせず、夢中になって彼女の靴の湿った匂いを嗅ぎ惚れる。そして、さらなる濃厚な匂いを求めるかのように、彼は靴の中に顔を埋める。また匂いを嗅いで、強烈な色香に脳みそを浸す。
もはや屈辱や恥辱といった感情は、龍之介には残されていなかった。ただ玲奈の靴の匂いを嗅ぐことしか頭に残っていなかった。
靴の匂いの虜となっている龍之介を、玲奈は楽しげに眺める。
「ふふふ、私の言った通りに靴の匂いくんくんするなんて、とってもいい子ねぇチャンピオンさん。そんなあなたにご褒美あげちゃう」
そう言って、玲奈は両足をさらに前に出して膝を立て、太ももで龍之介の両腕をロックした。
そして――
「それぇ~~~~っ!」
龍之介の鼻に当てている靴を両手で掴んでそのまま上に引き上げた。
サント式キャメルクラッチ――
相手を海老反り状にさせ、背中、腰、喉にダメージを与えるプロレス技である。
「ふご、ご、ごごごごご~~~~~~っ!!」
突然のプロレス技に驚く暇もなく、龍之介はその苦痛に悶え苦しんだ。反らされた背筋に体重がかかり、背骨が思いきりしなる。そして、靴ごと顎を後ろに引かれ、首を強く圧迫される。
脊髄のミシミシミシミシという悲鳴。
首を襲う鈍い痛み。
完璧に決まったキャメルクラッチに、龍之介は為す術がなかった。
そしてなにより、鼻に入り込む噎せ返るような匂いに彼は逆に苦しんだ。
キャメルクラッチにより著しく呼吸の自由を奪われている上、靴の圧迫によって口も上手く開けない状態であったため、龍之介は鼻でわずかな酸素を供給するしかなかった。
すると必然的に、呼吸を制限された状態で玲奈の足の匂いを思いきり吸い込むことになる。
それは、乾きを訴える人間にコーヒーを大量に摂取させるようなものだ。
呼吸が自由な状態ならば、途中で口呼吸による休憩を挟んで、足の匂いを楽しむこともできるだろう。
しかし、今はそれどころではなく、龍之介は失神しないように懸命に鼻呼吸を繰り返すしかない。この苦しみを緩和させるために彼が欲するのは添加物のないただの真水、すなわち新鮮な空気に他ならないのだ。
しかし、鼻に届くのは玲奈の強烈な足の匂い。
キツい足の匂いが牙を剥き、さらなる苦しさを招く。
「ふがっががが~~っ! むがぁぁぁあぁぁ~~~~っ!!」
鼻に入り込む足の濃厚な匂いに目眩がする。しかし、呼吸を止めることはできない。龍之介は靴の中に充満した玲奈の足の匂いを嗅ぎ続けるしかない。
次第に意識が朦朧とし、視界が淀み始める。観客は完璧に決まったキャメルクラッチに大盛り上がりのようだったが、その声は龍之介には届いていなかった。とにかくこの状況から解放されたい彼はマットを思いきり叩いて降参の意を示す。
しかし、試合は終わらない。地下プロレスでは『面白さ』こそが最優先される。突如現れた新人JKに地下プロレス界のチャンピオンが蹂躙されているという試合展開が面白くないわけがない。観客の熱狂ぶりを見ればそれは明らかだ。
だから、この試合は終わらない。龍之介が動かなくなるまで、玲奈の蹂躙はまだまだ続くだろう。
「はい、ちょっと休憩~~」
玲奈はそう言って顎にかける手の力を弛め、龍之介を苦しみから解放する。キャメルクラッチを一旦解いたのだ。
「ぐ、がはっ、ゲホゲホッ、ぐ、うぅぅ~~…………」
玲奈から逃げる絶好のチャンスであるにもかかわらず、龍之介の体は動かなかった。靴の中に顔を突っ込んだまま、身動きがとれなかった。頭に充満した足の匂いに、肉体が麻痺しているようだった。
「ほらほら、どうしたの~? しばらく待っててあげるから、頑張って藻掻けば脱出できるかもよ~~?」
玲奈はそう言ってお尻を揺らし、龍之介を挑発した。彼女は余裕の笑みを浮かべている。彼に脱出する力が残されていないことなど、すでにお見通しであった。
「ぐ、うぅ……うぅぅ…………」
せめて、靴から顔を離して新鮮な空気を吸い込もうと考える龍之介であったが、それすらも叶わなかった。彼はすでに足の匂いの中毒になっていた。濃厚な足の匂いを発する玲奈の靴から顔を上げることができない。むしろ、さらに前のめりになって匂いを嗅いでいる。なんで? なんで? と自ら疑問を抱きながら、足の匂いを嗅いでしまう。彼は切なげな表情を浮かべながら濃密な香りで頭を満たす。
「え~? うそ~、そんなに私の足の匂い好きなの~?」と半笑いの玲奈。「だってムレムレの足の匂いだよ~? 汗かいてるから結構くさいでしょ? なに? くさいのがいいの? 女の子のくさい香りで興奮しちゃの? んでチンポおったてちゃうの? やっば。あなたって超変態じゃん。だから童貞なのかな? あはは♪」
「ふ、ふぐぅ~……」
玲奈の嘲笑に対して、龍之介は情けない呻き声を返す。そして、現役JKの彼女に馬鹿にされながらも、それでも靴の匂いを嗅いでいた。先ほど刃を突き立てた背徳感が再び彼を優しく迎えた。背徳と屈辱の中で嗅ぐ足の匂いは格別だった。
そしてまた、地獄が始まる。
「はい、きゅ~け~しゅ~りょ~~。ぐいいぃぃぃ~~~!」
「ん、んむぅぅぅ~~~~~っ!!」
玲奈は白魚のような手で靴を掴むと、先ほどのように引き上げる。龍之介の悲痛な叫びを楽しみながら、キャメルクラッチを見事に決める。地下プロレス界のチャンピオンと言われた男を好き勝手に蹂躙し、それを観客に見せつけるという快感に彼女はどっぷりと浸っていた。日常生活では得られない刺激をここぞとばかりに享受するのだ。自然と手にもさらなる力が入る。
「むぎゃっぎゃっがぁ……あ、が…………」
二度目のキャメルクラッチは一度目のそれよりもさらに強力で、龍之介は苦悶の叫びを上げることさえもできなかった。喉から漏れる掠れ声が、彼の苦しみを物語っていた。
そして、鼻腔を刺激する足の匂い。
一斉に牙を剥いた濃厚な足の匂いに、龍之介はひたすら耐え続ける。枯渇した酸素を埋めるために、必死になって靴の中で呼吸を繰り返す。充満した足の匂いが彼の苦しみを倍増させる。どれだけ嗅いでも、玲奈の靴の中の臭気濃度は依然として変わらなかった。
玲奈の靴の匂いは、長年の彼女の足汗がたっぷりと染み付いて蓄積して発酵した結果醸し出されるようになったものだ。故に一朝一夕の呼吸で薄まるはずはない。
やはり、龍之介は蒸れた足の匂いをそのまま嗅ぎ続けるしかないのだ。
苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい――
そう思いながらも、龍之介のペニスは玲奈の足の匂いに反応して勃起してしまう。その先端からカウパー液を漏らしてしまう。足裏のフェロモンに魅せられて、キャメルクラッチを決められながらも、彼は発情していたのだ。
「ふふ……ほら~苦しいでしょ~? 止めてほしいなら止めてって言えば~~? そしたら私も考えてあげなくもないけど?」
玲奈は無邪気な笑顔で無茶なことを言う。靴の圧迫によって口を塞がれている上、肺に息がほとんど残されていない状態で、言葉を発するのは不可能だ。彼女もそれを分かって言っているのだから、実に質が悪い。
「んがが…………がが…………」
段々と体の力が抜け、視界が薄まっていく。意識を失う前の感覚。龍之介はまたしても失神しかけていた。先ほどよりも締め付けの強いキャメルクラッチに、彼の限界が近づいていた。
そして、そのことを見越したように――
「はい、また休憩っ」
と玲奈は龍之介をキャメルクラッチから解放した。
「ぷはっ、がはっ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
遠ざかった意識が瞬時に回復し、龍之介は咳き込みながらも、玲奈の靴の中で荒い呼吸を繰り返した。目には涙が浮かんでいた。足の匂いとキャメルクラッチのコンボがあまりに苦し過ぎたためだ。
「ふふ~、ほら、今の内に休憩しておくんだよ? じゃないと後が大変だよ? まだまだ続くんだからね~~あははは♪」
その言葉に、龍之介は顔を青ざめさせた。
事実、キャメルクラッチ玲奈ヴァージョンは、何度も何度も繰り返された。
靴を龍之介の顔面に押し付けたまま、見事なキャメルクラッチを決めて彼を苦しめ、失神寸前になったら解放して休憩させる。そして、またある程度彼の呼吸が整ったらキャメルクラッチを決め、彼を足の匂い地獄に叩き落とす。それからまた休憩させる。
龍之介はどうすることもできず、玲奈の苛烈な責めを受け続ける。
鍛え上げられた肉体を活かすこともできず、ただのおもちゃか人形のように玲奈に弄ばれる。失神の瀬戸際で今までにない苦痛に身を窶す。そして、ムレムレの足の匂いを鼻で吸い続ける。
やがて、十何回目のキャメルクラッチの末、龍之介は玲奈の靴から解放された。