個人的体験から
私は温泉が好きです。
一般の人が温泉を好きになる理由とはまったく異なる理由であると思います。
私は、これまでの長いアトピー歴なかで、皮膚炎の症状がひどく悪化し、日常生活がままならなくなったことが何度かありました。そのたびに、ある温泉で湯治をして、大幅に改善し、再び日常生活へと帰っていくことができました。
ですから私は温泉が好きです。
ちょうど、皮膚症状がひどく悪化して一時的にステロイドを使う人がいるように、私はどうにもならなくなったときに温泉で回復してきたのでした。
私が脱ステ後にステロイドフリーでいられたのは、発汗運動を除けば、温泉のおかげといっても言い過ぎではないと思います。
私がタクロリムス外用薬およびステロイド外用薬によるリバウンドを起こしたのは、今から10年ほど前のことです。
あまりに辛いリバウンドをどうやって抑えようかと考えたとき、これは薬の副作用なのだから、薬を出すことしかできない皮膚科に行くことは無意味だと思いました。
また、当時の私は、いわゆる脱ステロイド療法を知りませんでした。ステロイドを使わずに治そうとする医師の存在を知らなかったのです。
一方で、私は、温泉でアトピー性皮膚炎を治そうとする人たちがいることを知っていました。ステロイド治療に限界を感じ、温泉地に長期滞在して湯治をする人たちです。
湯治客を受け入れている旅館に長期滞在したり、一時的に温泉近くのアパートを借りて共同浴場へ通ったりする人たちがいて、ある程度改善していることを知っていました。
そこで私は、腫れ上がった顔で都内の大型書店へ行き、旅行本のコーナーで、片っ端から湯治に適した温泉を紹介している本を探しました。
真っ先に候補に挙がったのは草津温泉でした。しかし、かつて入浴した時の強い刺激感を覚えており、リバウンド直後の体には合わないかもしれないと直感的に感じ、他の候補を探しました。
さらにページを繰ると、乳白色の温泉の写真が目に入りました。見た目に皮膚にやさしそうで、アトピー性皮膚炎にも効果があると書いてありました。湯治客も受け入れているといいます。早速電話をして予約を取り、荷物をまとめて、遠く離れた温泉地へ一人旅立ったのでした。
温泉に入った初日から効果は表れました。それまで明け方まで眠れなかったのが、一晩ぐっすりと眠ることができたのです。5日目、真っ赤だった体が、褐色に落ち着きました。鏡を見て笑みがこぼれました。温泉のもつ力は素晴らしいと、心の底から思いました。
その温泉宿には、全国からアトピー患者が集まっているようでした。夜になると、若いアトピー患者たちが車座になって話し合っていました。住み込みで働かせてもらいながら療養している人もいるようでした。
1週間後に東京へ帰ったとき、大幅に改善した私を見て家族が驚き(リバウンドにも驚いていましたが)、またその温泉に1か月くらい行ってきたらどうかと勧めたほどでした。
この時の経験を通して、私は、薬物でアトピー性皮膚炎を治すことはできないし、むしろ薬物長期使用による副作用の危険があることを思い知らされました。
皮膚科医に対する憎しみも募りました。薬を出して治療している気になっているけれども、副作用でむしろ患者を苦しめていることに気づかない愚かさを自覚すべきだと思いました。
それに比べて、温泉はまさに自然治癒を目指すものといえます。病を治すために、大地の力、いわば地球のエネルギーを借りるのです。
(上記においては個人的な感想を述べています。私は温泉療法を推奨しているわけではありません。安易に真似をしないで下さい。)
温泉療法の施設は減少しつつある
アトピー性皮膚炎の温泉治療に関して、現在は北海道の豊富温泉の存在が大きいですが、10年ほど前まではより多様であり、選択肢も多かったように思います。
草津温泉には群馬大学医学部附属病院草津分院がありました。久保田一雄先生や倉林均先生がいらっしゃいました。草津の湯が黄色ブドウ球菌を減らしてアトピー性皮膚炎を改善させるとする研究が知られていました。
上田病院、河南病院、孝仁病院で温泉治療をされていた野口順一先生や、有馬温泉病院の足立憲昭先生らは、ステロイドばかりに頼らないアトピー性皮膚炎の温泉治療を実践していました。
しかし、草津分院は閉院、孝仁病院の皮膚科は休診、有馬温泉病院のアトピー治療は現在行われていません。
標準治療からは "不適切治療" との誹り
個人的には、温泉の効果はすばらしいと思います。
けれども、標準治療の医師からも、脱ステロイド医からも、温泉は "民間療法" のひとつに分類されることが通例で、決して推奨されていません。
日本皮膚科学会からは、温泉療法は "不適切治療" の汚名を着せられたこともあります。
表1 不適切治療の具体的分類(1)
- 特殊療法(医療機関)
- 脱ステロイド療法(医療機関)
- 健康食品
- 脱ステロイド療法(医療機関以外)
- 化粧品
- 水治療
- 温泉・入浴関連
- 特殊療法(医療機関以外)
- エステ
- その他
表2 不適切治療の具体的分類(2)
(竹原和彦ら, アトピー性皮膚炎における不適切治療による健康被害の意実態調査〔最終報告〕, 日本皮膚科学会雑誌, 110(12), 2060-2062, 2000.)
- 漢方薬
- 水治療(主として酸性水)
- SOD関連
- 厳格食事制限
- 温泉療法
- イソジン消毒
脱ステロイド医も非推奨
脱ステ医のなかでは、藤澤皮膚科の藤澤重樹医師は豊富温泉の効果を認めているようですが、阪南中央病院の佐藤健二医師は、温泉一般について良い評価を下していません。
佐藤医師は、著書「患者に学んだ成人型アトピー治療」のなかで、「アトピー性皮膚炎悪化あるいは改善遅延要因のチェックリスト」のひとつとして、「刺激のある温泉に入る」という項目を挙げています。
さらに、同著書より温泉について言及された箇所を抜粋引用します。
温泉水が直接皮膚をよくするわけでないことに注意が必要である。硫黄泉では皮膚に刺激を与える可能性もある。(p.114)
温泉療法として長時間の入浴や頻回の入浴をすることは、皮疹安定化を起こさない、あるいは安定化までに時間がかかるために勧められない。まして、同じ温泉の水を滅菌もせずに何度も使用することは細菌感染予防のために避けなければならない。(p.117)
日本人は温泉に入るのが好きである。温泉に長時間浸かるのは明らかに保湿である。この保湿に耐えられなければ悪化しうる。しかし、皮膚が改善すれば保湿に対しても抵抗力がつく。温泉に浸かる場合、皮膚がふやけず、痒みが起こらず、掻破によって悪化しない時間を経験的に知る必要がある。その限界内であるなら温泉を楽しむことができる。(p.157)
(佐藤健二. 患者に学んだ成人型アトピー治療. 新版 .つげ書房新社, 2015.)
引用箇所のポイントをまとめると、
- 悪化の可能性があり、皮疹の安定化が遅れること
- 細菌感染の可能性があること
- 保湿になること
などから、温泉は勧められない、ということになるかと思います。
温泉を考えるうえでのポイント
多くの医師が効果を認めないとしても、個人的には、やはり温泉の魅力は捨てがたいものがあります。
上記の医師の指摘を踏まえつつ、温泉療法について改めて考えてみると、私は次の点がポイントになるように思います。
- 温泉で完治するわけではない
- どんな温泉でも良いわけではない
- 湯治には時間もお金もかかる
まず、温泉でアトピー性皮膚炎が治ることはないと思います。あくまでも、悪化した皮膚症状が改善する可能性があるということです。温泉から自宅へ帰れば、しばらくして再び皮膚症状が悪化する人も多いと思われます。温泉で最悪期をやり過ごすというイメージでしょうか。
次に、どんな温泉でも良いわけではありません。患者それぞれに、合う泉質、合わない泉質があると思います。特に、酸性泉や硫黄泉は皮膚への刺激が強いことで知られています。硫黄泉で悪化する人もいれば、むしろ硫黄泉が良いという人もいるでしょう。自分に合う温泉を見つけることが肝要かと思います。そして、細菌感染のことを考えると、循環式ではなく源泉掛け流し式の方が良いのかもしれません。
また、温泉に2~3日浸かっただけでは、湯治の効果は得られないでしょう。最低でも1週間、本来なら2~4週間程度は滞在して湯治を行わなくてはならないと思われます。
健康保険・公費負担の適用拡大を望む
私は、これまでの経験上、漢方薬やサプリメントを服用したり、食事制限などを行って、効果があったと実感したことは一度もありません。
一方で、温泉の効果は何度も実感したことがあります。
ですから、温泉を、これらの民間療法と一緒にしてほしくはありません。
先に紹介した野口順一先生は、次のように述べています。
昭和三〇年以来、私は、皮膚病治療にステロイド軟膏を一切、使用したことはない。
しかし、他の多くの皮膚科医が診療している患者と同様の患者や、さらに前例の如く、ステロイド軟膏の副作用でどうにもならなくなった患者まで診療し、治療に成功している。
それは、私には温泉・水治療法という特殊治療法の後ろ盾があったからである。*1
温泉療法を活用すれば、ステロイド軟膏を使わずに治療ができる可能性があります。最初に述べた通り、私自身、温泉のおかげでステロイドを使用していないともいえるのです。
ステロイド治療にも、脱ステロイド治療にも、限界はあると思います。いずれかの治療において、どうにもならなくなった患者に対し温泉を勧めることは、有効な一つの選択肢ではないでしょうか。
温泉療法を "不適切治療" や "民間療法" と切り捨てるよりも、むしろ健康保険の適用対象となる温泉施設を増やし、滞在宿泊費の一部負担を含めた公費負担制度を設けることが、免疫抑制剤や抗アレルギー剤の使用機会を減らすことになり、ひいてはアトピー性皮膚炎に係る社会保障費の削減にもつながると考えます。
温泉の効果はもっと見直されるべきだと思います。
(参考リンク)
倉林均先生のウェブサイト
足立憲昭先生のウェブサイト
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*1:野口順一, アトピー性皮膚炎の温泉・水治療法, 1995, 光雲社.