抄録
副腎性クッシング症候群はACTH非依存性であり腺腫・癌腫・過形成・異形成が原因となる。本症候群による高コルチゾール血症は生命予後を著しく低下させるため,存在診断は確実に行う必要がある。コルチゾールの自律的分泌能が低い症例や周期性を示す症例では,存在診断が困難となる場合がある。副腎偶発腫瘍の指摘が増加する中,クッシング徴候を示さないサブクリニカルクッシング症候群の診断には注意が必要である。本症候群においては治療の第一選択は手術である。安全で適切な手術を施行するには局在診断が重要となる。典型的な片側性の腫瘍であれば局在診断は容易であるが,両側性の腫瘍では診断は困難となる場合がある。中でも,クッシング症候群と原発性アルドステロン症を合併する場合,局在診断には副腎静脈サンプリングが有用となる。術後管理においては腫瘍摘出直後より生じる副腎皮質機能低下症に対する対策を徹底させることに尽きる。
はじめに
クッシング症候群による高コルチゾール血症は心血管系疾患,糖脂質代謝疾患,骨代謝疾患,感染症などを生じ生命予後を著しく低下させるため,決して見逃すことはできず存在診断は確実に行う必要がある。一方,本症候群においては有効な薬物療法がないため治療の第一選択は手術である。安全で適切な手術が施行されるためには局在診断が重要となる。術後管理においては腫瘍摘出直後より生じる副腎皮質機能低下症に対する対策を徹底させることに尽きる。以下,副腎性クッシング症候群の術前診断と術後管理に関して自験症例を交えながら解説する。
1.副腎性クッシング症候群の術前診断
1)存在診断
副腎性クッシング症候群はACTH非依存性であり副腎皮質腺腫,副腎皮質癌,ACTH非依存性大結節性副腎皮質過形成(AIMAH),原発性色素沈着性小結節性副腎皮質異形成(PPNAD)が原因となる[1]。これら副腎皮質腫瘍よりのコルチゾール過剰分泌は,骨代謝疾患,感染症などを生じ生命予後を著しく低下させるため[1],存在診断は確実に行う必要がある。通常,特徴的身体所見(クッシング徴候)と高コルチゾール血症による合併症(高血圧症,糖尿病,脂質異常症,低K血症,骨粗鬆症など)を認めた場合,クッシング症候群の存在を疑い血中コルチゾールとACTHの測定を行う。コルチゾールが正常~高値でACTHが抑制されている場合,副腎性クッシング症候群が疑われる。その後,診断を確定するためコルチゾールの自律的過剰分泌の証明を行う。コルチゾールの自律的過剰分泌の証明は,内分泌ホルモン分泌機構の基本であるネガティブフィードバック機構と日内変動の破綻を証明すれば十分である。具体的には,デキサメタゾン抑制試験(1mgでコルチゾール>5μg/dL,8mgでコルチゾール>5μg/dL),夜間のコルチゾール>5μg/dLで判定される[2]。
2)存在診断のピットフォール
クッシング症候群の中にはコルチゾールの自律的分泌能が低いものや周期性を示すものなども存在し,存在診断が困難となる場合もある。具体的には,周期性クッシング症候群とサブクリニカルクッシング症候群の存在である。周期性クッシング症候群とは周期的にコルチゾールの分泌過剰状態と正常状態を繰り返す病態であり,数時間から数カ月と様々な周期を持つ[3]。周期が長い場合,診断には困難を要する。副腎偶発腫瘍の指摘が増加する中,一見非機能性腫瘍に思えても長期間にわたる観察により周期性が顕在化する可能性があり注意を要する。サブクリニカルクッシング症候群ではコルチゾールの自律的分泌能は認められるが特徴的な身体的所見を欠く[4]。クッシング症候を呈さない理由として,腫瘍サイズが小さい,コルチゾールの不活化酵素である11β-HSDの腫瘍内での発現亢進などによりコルチゾール産生量が少ないことが指摘されている[5]。検査上では特にACTH基礎値,デキサメタゾン抑制後のコルチゾール値に異常(1mgでコルチゾール>3μg/dL,8mgでコルチゾール>1μg/dL)を示すが[6],クッシング症候が明らかではなく,副腎偶発腫瘍の中から上記の検査異常をもとに診断されることが多い。高血圧,糖尿病,肥満の合併が多く,メタボリックシンドロームの原因として注目され,原発性アルドステロン症との合併も報告されている[7]。顕性クッシング症候群への移行は12.5%との報告[8],副腎癌の発生の報告[9]もあり注意を要する。
3)存在診断
副腎性クッシング症候群においては有効な薬物療法がないため治療の第一選択は手術である。安全で適切な手術が施行されるためには局在診断が重要となる。副腎性クッシング症候群の原因となる副腎皮質腫瘍の局在は表1に示すように約90%が片側性であり[10],原発性アルドステロン症と比較して腫瘍も比較的大きいことから局在診断には副腎CT/MRIを利用する。さらに副腎シンチグラフィーにてRIの集積が確認されれば局在診断は確定する。典型的な片側性の腫瘍であれば局在診断は容易であるが,両側性の腫瘍では診断は困難となる場合がある。
4)局在診断のピットフォール
両側性の腫瘍ではDominoらの報告にあるように1. Bilateral cortisol hyper-functioning tumors 2. Bilateral macronodular adrenal hyperplasia 3. A unilateral cortisol-secreting tumor and a contralateral nonfunctioning tumor or functioning tumor(aldosteronoma,pheochromocytoma,or virilizing tumor)を鑑別する必要がある[11]。この点に関して自験症例を交えながら以下解説する。存在診断においては症例1,症例2はクッシング症候群,症例3,症例4はサブクリニカルクッシング症候群と診断された。図1に示すように副腎CTではすべての症例において両側副腎腫瘍と萎縮した副腎を認めた。さらに,図2に示すように副腎シンチグラフィーではすべての症例において両側副腎にRIの集積を認めた。しかしながら,表2に示すように副腎静脈サンプリングの結果では,症例1は両側コルチゾール過剰分泌,症例2は片側コルチゾール過剰分泌および両側アルドステロン過剰分泌,症例3は両側コルチゾール過剰分泌および両側アルドステロン過剰分泌,症例4は片側アルドステロン過剰分泌と各々異なった局在診断の結果を得た。アルドステロン産生腫瘍とコルチゾール産生腫瘍の局在が確定できれば,各々の症例に応じた治療法を選択することが可能であることから,両側副腎皮質腫瘍が原因となるクッシング症候群の局在診断には副腎静脈サンプリングが有用となる。副腎静脈サンプリングにおいては,アルドステロン過剰の判定基準は確立されているが[12],コルチゾール過剰の判定基準は未だ確立されていない。今後,大村らの判定基準[13]を中心に診断基準が標準化されることが期待される。
| 図1. 腹部CT すべての症例において両側副腎腫瘍(矢印)と萎縮した副腎を認める。それぞれの腫瘍は境界明瞭で辺縁や内部に明らかな不整像を認めなかった(A:症例1,B1・B2:症例2,C1・C2:症例3,D:症例4)。 |
| 図2. 副腎シンチグラフィー すべての症例において両側副腎にRIの集積を認めていた(A:症例1,B:症例2,C:症例3,D:症例4)。 |
2.副腎性クッシング症候群の術後管理
1)術後副腎機能低下症
副腎性クッシング症候群では副腎皮質腫瘍よりのコルチゾール自律的過剰分泌が生じるため,ネガティブフィードバック機構により下垂体からのACTHの分泌は抑制される[14]。この状態は高コルチゾール血症が是正されてからも約3~6カ月は持続する[14]。そのため,図1に示すようにACTHの刺激を受けない正常副腎は萎縮しコルチゾールの産生は休止状態となる。通常コルチゾールの産生開始には約半年を要する[14]。当然のことながら術後は副腎機能低下症となるため,その治療を行う必要がある。当院における腹腔鏡手術後には,1.術直前より術後数日は高用量のステロイドを経静脈投与する。2.その後,経口投与に変更し術後1週間程度でヒドロコルチゾン30mg/dayまで減量する。以降,外来にて約半年から1年かけて減量中止する。急速な減量は副腎不全を生じる可能性があるため注意を要する。減量の指標としては,臨床症状の改善,合併症の改善,ACTH値の基礎値,RapidACTH負荷試験を参考としている。
2)温存副腎機能回復に対する新たな工夫
副腎性クッシング症候群の原因となる副腎皮質腫瘍の局在は表1に示すように約90%が片側性であるため[10],非腫瘍側の副腎は原則手術の侵襲は受けずに温存される。そのため上述したように温存副腎の機能回復を注意深く見極めながらステロイドの減量を行えば副腎不全などの問題は生じない。しかしながら両側副腎皮質腫瘍が原因の場合は温存副腎の機能回復の見極めには注意を要する。現在,両側副腎皮質腫瘍が原因のクッシング症候群に対し,副腎部分摘出術が施行されるケースが増加している[15]。図3に両側コルチゾール産生副腎皮質腫瘍に対し左副腎全摘出術・右副腎部分切除術を選択した自験症例の術後経過を示す。本症例では温存副腎の機能回復は認められなかったが,機能回復が認められた症例報告が散見されるのも事実である[16,17]。今後,温存副腎の機能回復を確実にするために,新たな工夫をする必要があると考えられる。近年,glucocorticoid receptor antagonist(mifepristone)がクッシング症候群の薬物療法として利用されている[18]。当院においては,mifepristoneの術前投与によりあらかじめ下垂体レベルでのACTHの抑制を解除しておき,萎縮副腎の機能をある程度改善してから部分摘出を施行するなどを検討している。
| 図3. 臨床経過 術後は正常血圧となり降圧薬を減量でき,糖尿病も改善を認め経口血糖降下薬も減量が可能であった。ヒドロコルチゾンも減量を試みたが,術後6カ月が経過したところで無痛性甲状腺炎を発症し副腎不全が引き起こされた。一時的にヒドロコルチゾンを増量し副腎不全は改善したが,その後も残存副腎の機能回復は認められなかったためヒドロコルチゾンの継続投与が必要であった。 |
おわりに
副腎性クッシング症候群の術前診断は存在診断と局在診断に分けて進めることが重要である。副腎偶発腫瘍の指摘が増加する中,存在診断においては周期性クッシング症候群とサブクリニカルクッシング症候群の存在を念頭に置くことが重要である。一方,局在診断においては両側副腎皮質腫瘍におけるコルチゾール過剰分泌の局在は慎重に行う必要があり,副腎静脈サンプリングが有用となる。術後管理においては腫瘍摘出直後より生じる副腎皮質機能低下症に対する対策を徹底させることに尽きる。これには術中・術直後ともに外科医と内科医との連携が特に重要である。