ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 「いいか、オレだってなぁ、男なんだよ! 最初にお前の方が突っ込む側やったからって、そのまま役割固定とかありえねーから! オレだってお前に突っ込みてーのよ、分かる? オレが一人でオナニーする時、お前に抱かれてる時のこと思い出してやってるとでも思った? お前のその澄ました顔がとろっとろになるとこ想像してオカズにしてんだよ。なぁ、緑間」 オレの言葉に思考が追い付いてないらしい緑間は、絶句していた。その瞳を覗き込んで、超真剣に一発かましてやる。「抱かせろよ」 翡翠の瞳が揺れた。 飼い犬に手を噛まれた気分なんだろうか。オレがこんなこと思ってたなんて、露程も考えてなかったのか? だとしたらオレも、随分軽く見られたもんだな。 オレは努力する天才・緑間真太郎の恋人である前に、それと肩並べる相棒のつもりなんだけど。やられっ放しで、満足してるわけねーだろ。「大体そもそも、オレ一回目の時に言ったよな。オレが真ちゃん抱くつもりだって」「だからそれは却下したはずなのだよ。事実、一度目の時はオレがお前を抱いた」 何とか衝撃から立ち直ったらしい緑間は、いつもの偉そうなペースを取り戻して、尊大に言い放った。オレはひくりと頬を引き攣らせて、言い返す。「あー、そういうこと言っちゃう? お前さも当たり前のように却下したとか言ってるけど、あれただの拒否だかんな。オレ今でも忘れてねーかんな。記念すべき恋人との初めての日に、ベルトで縛られて無理やり乗っかられたの!」「確かに少々手荒な真似はしたし、それに関しては申し訳ないと思っている。だが、二度目以降もお前は抱かれる側に収まっていただろう。二度目以降、特に役割についてお前が意見したことはなかったのだよ。つまり、納得済みということだろう」「お前、マジ、合意とはいえ、縛られて自分よりでかい男に突っ込まれたオレの身にもなれよ……! 結構怖かったんだからな、あれ! 二回目以降もあんな乱暴されるかと思ったら、言いたいことも言えるわけねーだろ!」 本当に傍若無人なエース様だな! 基本的には優しいけど、自分視点でもの見すぎなんだよ! オレがかなりイラッとしながら反論したら、緑間はしれっとした顔で言い返してきた。「お前はさも行為に不満を持っていたかのように言うが、その割には感じ入って乱れていたのだよ」「緑間てめえええぇぇ!!!」 オレは思わずドヤ顔する彼氏様につかみかかってがくがく前後に揺さぶった。恥ずいんだよ、やめろ! あー、もう、こいつマジでムカつくんだけど!!「やめろ、離せ」「お前、オレが、どんだけ我慢してると思ってやがんだ! よくもそんな、オレのプライド踏みにじるような事言いやがったな!」 羞恥の後に、ふつふつと怒りが込み上げてくる。嫌そうにオレの手を外そうとする緑間をにらみつけて、オレはぐつぐつと腹の奥から煮えたぎって沸き上がってきた感情を吐き出す。「オレだってお前に会うまではふっつーに女子が好きだったんだよ! いまだにおっぱい好きだわ! 中学ん時だってクラスの女子でエロい妄想とかしてたっつーの!!」「……何故それを今オレに言うのだよ」 緑間の細められた目が余計にオレの怒りを煽る。「そういう普通の健全男子なオレが、同級生の男に女みたいに扱われて、何も感じないと思ってんのかよ……!」 情けなさからか、怒りからか、声が震えた。冷静な翡翠の目を見ていられなくて、その肩口に額を押し付ける。「ベッドに押し倒されて、男に見下ろされて、体中撫でられて、みっともなく足開かされて、突っ込まれて揺さぶられて、あられもない声上げて、挙句、それで、気持ちいいと思ってる自分がいるとか……ほんと、」 言葉にすればするほど、自分で自分を傷つけてるみたいだった。どんどん声に覇気が無くなっていくのが自分でも分かる。緑間の胸倉をつかんでいた手は、いつの間にかすがるようになっている。「それを、お前が、オレがそんな酷いことされるのを許してるお前が、馬鹿にすんな……!」 腹立つ、腹立つ! これ以上腹立つこと言いやがったら、問答無用でぶん殴ってやる! しかしエース様はオレのぶん殴ってやろうという決意を打ち砕くように、オレの後頭部に手を回して抱きしめてきた。オレは緑間の胸元に顔を埋めることになった。「別に馬鹿にはしていない。だが、そう聞こえたなら謝るのだよ」「馬鹿にしてる以外の何だっつーんだよ!」「これでもお前のことは大事にしているつもりなのだよ」「どこがだよ!」 俗っぽく言うと、嫌だ嫌だと言う割には体は素直だな? に値するような言葉を吐かれた気がしたんだけど?! オレがにらみあげれば、緑間は超真面目な顔できっぱりと言った。「オレはお前に欲情するのだよ」「は」「お前を見ると、興奮する」 一瞬思考が停止した。 よくじょう。こうふん。 意味を理解して、一気に耳が熱くなったのが分かった。多分今オレは酷い顔を晒している。「緑間」「何だ」「お前それ……、本人に向かってマジな顔で言うことじゃねーから」「お前も散々オレをオカズにだの何だの言っていただろう」 うるせーよ、ちょっと黙れ! オレは顔の熱さに負けて、緑間の胸元に顔を埋め直した。 隙を突くように緑間が滔々と続ける。「オレだってお前の言うところの普通の健全男子なのだよ。オレの手でお前が乱れるところも想像したし、頭の中で何度も抱いた。そういう妄想だけで我慢していたのだから、初回に余裕なく乱暴なことをしたのは許せ。そして、だからこそ、お前がオレと肌を合わせて、感じて乱れる様を見るのは、この上なく幸せなのだよ。別に馬鹿にしているわけではない。オレが嬉しいことが、お前は嬉しいだけでは無かったのかと認識を改めただけだ」「ぎええええ」 オレはか細いうめき声を上げて緑間の言葉を遮る。額をぐりぐり押し付けながら緑間の言葉を胸中で反芻する。「付き合う前の真ちゃんの頭の中で犯されてたとか……」「お前はオレを何だと思っているのだよ。オレは聖人君子ではなく、普通の男子高校生なのだよ」「や、そーなんだけど」 いつまでもこうしているわけにもいくまいと、何とか頭を起こすと、緑間は何か考え込む風にしていた。考えがまとまるのを待っていてやれば、緑間はゆるりと口を開く。「しかしまあ、オレがお前に対してそう思うということは、お前もオレに対してそう思うのは道理か。好きな相手を自分のものにしたいと思うのは、男の本能なのだよ」「だろ?!」 おお、わがままエース様に話が通じた! まあ多少マイペースなところが強すぎるとはいえ、基本的に真面目で誠実で理詰めな奴だ。緑間は少々ぶっ飛んだ持論を貫くのと同じくらいに、きちんと話せばオレの主張を受け入れてくれる。 オレは目を輝かせて緑間に詰め寄る。「だから今日はオレが」「だが、却下だ」「おい!!」 一瞬でも感動したオレが馬鹿だったわ! 俺様何様エース様はとんでもなく偉そうにふんぞり返って、さも当然と言わんばかりの顔で続ける。「お前の我慢を慮っていなかったことは素直に謝る。だが、オレはお前に抱かれるより抱きたいのだよ」「そりゃオレもだっつってんだろ!!」「ダメだ」 にべもなく叩き伏せられた。こんの野郎!「お前っ、同じ男としてオレが一生童貞とか可哀想に思えよ!!」 噛みつくように言い放ったら、緑間は一瞬呆気に取られたような顔をしてから、唇を引き結んだ。 オレの心を探るように、翡翠の柔らかい視線が注がれる。どことなく緩んだ空気に、オレは心の中でだけ、あれ、とつぶやく。 ちょっと、考えてくれてんのか? 暖かさを含んだ目にじっと見つめられて、オレは譲るつもりは無いと訴えるために視線を逸らさずに見つめ返していたら、緑間は薄く唇を開いた。「高尾」 心なしか声が優しい。「んだよ」「今のは狙って言ったのか?」「……は? 何が?」 このまま折れてくんねーかなとちょっと強い語調で返事をしたのに、返ってきたのは意味の分からない質問だった。オレは呆けて首をかしげる。 緑間はまたじっと黙り込んで、今度はちょっと眉根を寄せた。オレはしかめっ面を作って、緑間に尋ねる。「え、何だよ。何が?」 狙ったって何? 狙うようなこと言ってねーと思うけど? オレが困惑していると、緑間は小さく一つため息を吐いて言った。「いいだろう、今日は役割を交代するのだよ」「は?! え、マジで?! どったの、いきなし。何か裏ある?」 突然の緑間の意見変えに驚いて目を丸くしたら、緑間は若干嫌そうな顔をした。いや、だってさっきまであんな嫌がってたじゃねーか、お前。オレが疑うのも無理ないと思わね? 緑間はまっすぐオレを見つめて、真摯な声で聞いてきた。「一生、と言ったな」「は? ああ、一生童貞?」 何の話かと記憶を探って、自分の発言を思い出す。 そーだよ、オレ緑間抱かせてもらえなきゃ、一生童貞だぜ。自嘲気味に小さく笑ったら、緑間は超がつくほど真面目な顔をしてのたまった。「つまりお前は、一生オレと添い遂げるつもりで、他の人間、もとい女性との経験なぞ持つつもりもないから、一度くらいオレを抱きたいと言っているわけだろう」 オレは思わず黙った。 いや、え? うん、ああ、そう、だな? 確かに、そういう意味になるわな。「ふん、無自覚か」「うっせーよ」 メガネのブリッジを押し上げる緑間を見て、半眼で呻く。 何だよ、分かってたけど、オレってば相当緑間のこと好きだよな。くそ、無意識にそんなん表に出すとか、最悪だわ。憤死しそう。「オレは自分の言動には責任を持つ。お前がオレを選び、オレがお前を選んだからには、お前との関係にも人事を尽くすのだよ」 おもむろに緑間が立ち上がる。ベッドの端に腰かけたのを眺めていたら、緑間は学ランのボタンを外しながら、ちらりとこちらに視線を放って、うっすらと笑みを浮かべた。「来い、高尾。抱かれてやるのだよ」 普段オレの体を好き勝手に暴くエース様が、その日オレの腕の中でどんだけ可愛い顔を晒していたか、オレは多分一生忘れない。