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はっぴーあわあわたいむ!

Publish to anyone2017-04-01 00:17:538views

原作あらすじ:空島かのん【はっぴーあわあわたいむ!】泡風呂が大好きな女の子はいつものようにお湯に浸かっていると、泡の中からぶくぶくとマーメイドが現れた!泡になって何年も過ごしたマーメイドが出現したのはなんでもわたしは王子さまの生まれ変わりらしくって……!?問題作なこの作品!いったいこれは百合なのか…


 我が家には人魚がいる。
 もちろん、そんなこと言っても誰も信じないだろう。なので、見せるのが手っ取り早い。
 浴室に続く戸を、ガラリと開け放つ。
「あ、よっちゃん! おかーえり」
 透き通る肌に、晴れた日の浅瀬色の髪。瑞々しい鱗は絹の手触り。豊かに育った胸を惜しげもなく見せつけながら(いや、本人の生態系にその手の羞恥心が備わっていないだけだと思うけど)家主を差し置いて、堂々と浴室を占拠しているこの人物。いや、魚?
「……はぁーーーー。ただいま……」
 二度見三度見しても間違うこと無く存在する彼女を相手に、わたしは。
――先生。真冬だと言うのに水を張った浴槽には、数日前から先客がいます。
どうしたらいいですか?


 『女の子なんだから、もっとお淑やかにしなさいね』
 それが母さんの口癖だった。
 事あるごとに小言を並べ立てるが、最後には決まってその台詞だ。耳だこも良いところで、その言葉を聞くたびわたしの捻くれた性格は無駄な反抗心を燃やしてしまうのである。
 鏡に映る自分の四肢を眺めながら、ため息を漏らす。別に自らの美しさに酔っているわけではない。むしろまったくの逆で、ものの見事に作ってしまった青あざをどう隠すべきか苦悩しているのだ。
「母さんはわたしに幻想を見すぎなんだよぅ」
 ――どうもわたしは、物心つく前からやんちゃすぎる子供だったらしい。
 ふわふわのぬいぐるみより、変形する格好いい飛行機が好きで。
 女の子友達と人形遊びをするより、鼻水を垂らしながら駆けずり回る野郎(同い年)と山をかけっこしたり。
 また別の日には、ピアノのお稽古をすっぽかして野球チームの助っ人に行く始末だった。
 体の汚れを綺麗に洗い流し、沸かしておいた湯に肩まで浸かる。一日の疲れが一気に落ちるこの瞬間がたまらなく気持ちいい。
 ――母さんはどうしようもなく女っ気の無いわたしを、どうにかして淑女に育て上げようと奮闘したらしいけど、残念ながらその思いは実を結ばなかった。高校卒業を期に、田舎から一人上京して大学へ進学した今でも、どうにも今ドキとかいう女子になりきれないでいる。それどころかバレンタインでは毎年ラブレターとチョコをもらうような立場であったし、周りからも格好いい系サバサバ女子を求められていたせいもあってわたしの青春時代は大体男みたいな生活だった。
 それでも最近、心境の変化というべきか、ついにわたしにも好きな男子なる存在ができた。相手は同じサークルの二つ年上の先輩で、優しくて頼りにできる人。入学間もない時、緊張して話せないでいたわたしにも、毎日欠かさず声をかけてくれたことはずっと覚えている。
 そんな先輩に釣り合う自分になるために、今は女子力向上にむけて奮闘中なのだ!
 お気に入りの柑橘の香りがする泡風呂の素を入れてバシャバシャとバタ足。あっという間に真っ白になった視界に、心も体も極楽だと、リラックスして目を閉じる。
「――……、……!」
「ん?」
 今、何か聞こえたような。
「そんなわけないか」
 なにせわたしは、一人暮らしを絶賛満喫中なのだ。
「……じ、……きよ!」
「えっ、え、何? 誰?」
「王子様! 好きよ! 愛してるわっ!」
「わぁぁぁぁっ!?」
 だからこの時、現れた不審者に鉄槌を下すのも仕方がないことだし、まさか泡の中から人魚が出てくるなんて、予想もできないのはわたしのせいでは断じて、断じて無いはずである。


「ねえよっちゃん、何でそんなに不機嫌なのよぅ」
「…………」
 ぴちょんぴちょんと、浴槽から冷たい水が飛んでくるが、わたしは知らない。
「ねえねえよっちゃん。依羽さん」
 ぴしゃぴしゃと、かなり冷たい水で攻撃されようとも、わたしは動じない。
「……ヨハン様―!」
「ちがーう! わたしは! アンタの! 王子じゃないっつーの」
「むう。何で怒ってるのよぅ」
 ザバっとお湯を引っ被ると、暖かい泡風呂に片足をつっこ――めずに、沸かしていないことを思い出して浴槽の住人とジトっと睨め返した。
「何が悲しくて真冬の夜にシャワーだけしか浴びられないのよ! アンタがお湯にすると逆上せるって訴えるせいでしょうが!」
「だってだって。よっちゃんの設定温度が熱すぎるんだもん。私火傷しちゃうもん」
 水滴の滴る長い髪をきゅっと絞りながら、図太い神経の人魚は訴えた。正直今からでも追い焚きを押してやりたい。
 なぜだか知らないが数日前から居候の身となった彼女は、自らを幾年も前泡となって消えた人魚族の姫だと言う。なんでも人間の王子に恋をしたので、魔女に頼んで人間になる薬を分けてもらったが、代わりに三日のうちに結ばれなければ海の藻屑となってしまう諸刃の薬だった。王子と彼女は恋に落ち、海上で式を上げることにしたが、突然の嵐で船は沈没。王子は愛を誓う前に命を落とし、自分は泡となって消えた。……と、そんな経緯らしい。
「そしてよっちゃんが私の愛するヨハン様の生まれ変わりなの! これって運命よね!」
「よっちゃん言うな。前世がどうだか知らないけどわたし達女同士だし。っていうかその前に、好きな人いるんだから! 無理! お付き合いダメ、絶対!」
 ケチー、と頬を膨らませてぶくぶくと水に沈んでいく姿は確かに愛らしいとも言える。だが考えてみよう。こんななりでも一応わたしも女だし、初めての恋が実るかどうかっていう時にいきなり相手が同性ってどうなのよ。いや、場数を踏んでてもどうなのよ。
 ちなみに、『なんで生き返ったの?』と聞いてみたところ、彼女曰く『お願い聞いてくれた魔女さんは恋心にとっても敏感な人だったから、叶わなかった自分の代わりに私に頑張ってほしかったのよ』と何ともまあ適当なことを得意げに話していた。
 何とかこのはた迷惑な人魚を追い出せないか色々と策を練ってみたものの、まず世間的に存在がバレればとんでもないことになるし、かといって人目につかず海に放流する手段もない。もっと言うと車の免許もないので運搬もできない。
 このままではわたしの泡風呂生活がどんどん遠のいてしまう……と夜も眠れずうなされて、仕方がなく先輩に相談に乗ってもらうことにした。
「栗原さん、それ本当? だとしたらこれってすごいことだよ! まさかこの世に人魚が実在するなんて! あぁぁ感激だなぁぁ!」
 ちなみに先輩はこの手の幻想生物(と言っても良いのかどうか)が大好きで、よくお話を聞かせてもらっていた。案の定の反応である。
「一人暮らししている女性にこんなこと頼みづらいんだけど……でもどうか頼むよ! その人魚に会いたいんだ! 家にお邪魔してもいいかな!」
「ど、どうぞ」
 予想していた展開ではあるけども、なんというかどうせ部屋に招くならもっと雰囲気をこう、いい感じに……なんて自分の中の乙女心が少し涙ぐんでいるのを感じて切なくなってしまった。ええい、この際細かいことを気にしても仕方がない。ひと目がないことを良いことに(二人きりではないものの)この機に乗じて先輩との仲を進めるのだ!


 結論から言えば、目論見は大外れだった。
 そもそもこのはた迷惑人魚がいる前で計画が成功するはずなかったし、先輩もこんな貴重な機会を逃して私とお近づきになろうなんて考えるわけがないことを失念していた。
 よって、こうなるのも必然といえばそうなるのだが。
「よっちゃん、合わせたい人がいるなんて言うから誰かと思えば。男じゃないですか!」
「わぁぁ本物の人魚……ちゃんと尾ひれがある……人間と魚の接合部分は一体どうなっているの? うぐぅ、すごく見たい。見たいけど女性に服を脱いでくれなんて僕頼めないよ!」
「頭痛くなってきた」
 もちろん服は着せてある。健全な男性にアレをそのまま見せるのは目に毒だからね。そして水から引っ張り出して居間にほっぽり投げてある。歩けないだけで地上でも生息できるなんて聞いてなかったぞ。わたしは何のために泡風呂に入ることを我慢していたんだ? いや、それはひとまず置いとくとしても、先輩の人格が変わっていることに脳と乙女心が追いついていないんですけど。
「とりあえず先輩は落ち着いて下さい。幻想生物は逃げませんから。それからアンタ、紹介するのが女だなんて一言も言ってないからね」
「むぅぅ。私と言うものがありながら! こんなヘンチクリンが良いんですか! あんなに愛し合っていたのに!」
「余計なことを言うんじゃない! 誤解されたらどうする!?」
 慌てて先輩に目をやると、鞄からカメラを取り出して今にもシャッターを切ろうというところである。そもそも誤解という疑念以前の問題だったことに愕然と肩を落とすしか無い。
「せせせ先輩とりあえずそれはしまおう! 人魚がアパートの泡風呂浴槽から出てきたなんて誰も信じませんよ!」
「そんなことはない、僕は信じるよ。感激だよ、歴史的発見に立ち会えるなんて。これは全世界に公表すべきだし、なんならこれから人類と人魚との交易も視野に――」
「ううぅ、この人目がマジです怖いです……何を企んでいるのか知らないけど、たとえ私に何をしようとも、ヨハン様は絶対に渡さないんだから! 私だけの王子様なんだからーっ!」
 激しく食い違う言葉の応酬に目眩さえ感じてきた。
 私の恋路一体どうなるの……教えて先生……
 でもこれだけは言わせてほしい。


「自分勝手言いやがって二人共――いい加減にしろッ――――!?」


End

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ぽわっと雪山に向かっていたはずがいつの間にかキャラシ片手にTRPG中。 ■身内にてプロジェクト参加中。しかし作業速度は亀とする。■PS3・4ゲーム風ノ旅ビトで旅したり実況見たり絵描いたり…最近はクトゥルフ中心。■読書メーターと連携中。■殿下の料理を見守る会略してDRM所属。
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