大阪市立大学大学院 創造都市研科

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2012年度(2012.4~2012.7) ワークショップ講演

■第11回ワークショップ(2012年6月28日開催)

●ゲストスピーカー:有限会社イノセント 代表取締役 楠目 典子氏


タイトル:オーガニックコットンが市民権を得るために―イノセントの挑戦―

講師略歴等
 京都生まれ。幼少期から高校まで父の転勤のため日本各地、海外に暮らす。大学卒業後、外資系銀行に勤務。結婚のため退職し、長女を出産。夫の転勤に伴い、中東各地に駐在。イラクでの湾岸戦争や子供の病気などを経験した後、翻訳の仕事を通じ、オーガニックコットンと出会う。その良さを広めようと得意な洋服作りを生かして1995年に起業。自ら百貨店に売り込みに行き、翌年春、催事場の一坪ショップから始まった1号店の着実な販売実績が評価され、その後さまざまな百貨店を中心に展開。2005年よりテレビショッピングチャンネルでの販売開始。
 婦人服・ベビー服・肌着などのデザイン・販売を通して、「オーガニックだから選ぶ、という日本人を一人でも多く増やしたい」という。

1.講演内容
(1)自己紹介&専業主婦が起業するまで
オーガニックコットンへの思い
 これまでオーガニックコットン一筋に、製造、企画、販売をしてきた。その良さを広めたいとの強い思いがあったからこそ、他社、特に大手の参入があっても、やってこられたのではないかと思う。
オーガニックコットンとは
 オーガニックコットンとは、オーガニック農産物等の生産方法に関する基準に従って一定年数以上、生産が実践された畑で、農薬・化学肥料を使用せずに育てられた綿花のこと。日本における認証機関には、日本オーガニックコットン流通機構と日本オーガニック・コットン協会がある。
 オーガニックコットンは、紡績、織布、ニット、染色加工、縫製などの製造工程を経て最終製品となるが、この全製造工程を通じて、オーガニック原料のトレーサビリティと含有率がしっかりと確保されるだけでなく、化学薬品の使用による健康や環境的負荷を最小限に抑え、労働者の安全や児童労働など社会的規範を守って製造される。
 オーガニックコットンの生産量は約15万トン(2010/11)で、全コットン生産量に占める割合は0.7%である。綿は世界の耕作面積の約2.5%で栽培されているが、農薬使用がピークに達した1990年代には、世界の使用量の二十数%が綿の栽培に使われていた。その後、使用量は減らされてきたが、それでも2008年の段階で、殺虫剤は15.7%も使われており、殺虫剤をはじめ、落葉剤・除草剤などの農薬使用量は全体の6.8%を占めている。
創業まで
 幼少のころより両親の仕事の関係で転勤が多かったため、色々な方と上手くコミュニケーションしていくことを自然と覚えた。
 結婚してからは、配偶者の仕事の関係で主に中東で過ごす。湾岸戦争時にはイラクに駐在しており、配偶者は人質となり、自分と子供もヨルダン経由で解放された。
 その時漠然と「やりたいことをしておかないとダメだ」と感じた。
 帰国後、子供が病気となり暫く子供中心の生活をしていたが、子供の担任の先生から「自分の人生を生きなさい。子供のためではなく」と言われた。その頃に阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件が発生。何も罪もない人であっても、あっという間に亡くなることを感じ、起業の準備を始める。

(2)生産背景と百貨店展開
創業
 学生時代から手作りが好きで自分の洋服を縫ったりしていたが、自己流ではなく正式な縫い方を学ぶためにパターン製作と縫製の学校へ行ったり、起業セミナーへ行ったりしていた。
 翻訳の仕事を通じて、オーガニックコットンの存在を知った。FAXで、アメリカの生地会社に直接注文し、オーガニックコットンの反物を取り寄せ、子供や自分の洋服を縫うようになった。親戚の出産ラッシュの際、その生地でベビー服を縫ってプレゼントしたところ、好評を得た。「これだ!こんないいものを世の中に普及させたい!」と直感し、1995年有限会社イノセントを設立。
 当初は縫製の得意な主婦のグループに縫製してもらっていたが、きちんとしたものを提供したいと思い、ハローページで縫製業のあ行から1社ずつ電話をして、外注で製品を製造してもらうよう工場へ依頼し、50枚単位で生産をしてもらうことになった。1999年頃はアメリカから生地を直輸入して和歌山や福井などで生産をおこなっていたが、原価の兼ね合いで2005年に一度中国工場でパジャマの生産をおこなった。日本工場においても中国人労働者が増加していることから、2008年からは一部中国生産を始めた。中国の工場ではアメリカやトルコで採れたオーガニックコットンを、糸にして生地にして洗って縫製までを同じ工場でおこなうため、認証に必要な作業が進めやすい。
 販売は近所のブテックや自然食レストランでおこなっていたが、需要を考慮せず生地を発注し、家が段ボールだらけになったことをきっかけに直販を考える。
直販
 新宿の百貨店へ営業に行くも断られて、他店に行く。その時偶然に「美と健康」をテーマにした催事の企画があり、そこで一坪ショップとして出店させていただく。以降は催事毎に出店ができるようになる。また、その内容が雑誌の目にとまり、掲載された。これらの実績が評価され、後日百貨店へ正式に出店ができることになる。
多店舗展開
 アメリカからオーガニックコットンを反物で仕入れる以上は、その分を販売しなくはならないので、必然的に百貨店への出店を増やし、他の百貨店へも順調に販路を拡大。一方で、百貨店は、担当者がかわるだけでテナントの場所や条件変更が多々あり、非常に難しいビジネスと感じる。

(3)更なる販路の開拓 ~テレビショッピングへの挑戦~
QVCへ
 2002年頃より客層の変化に気がつく。
 従来であれば出店後すぐに売上が上がったが、この頃から閉店する程でもないが売上も大きく増えなくなる。
 自分の中では2003年頃が百貨店ビジネスのピークと感じるようになる。
 この状況を打破するため、商社と情報交換する中でテレビショッピングチャンネル「QVC」を知る。商社経由でやってみようと計画していた時に、QVCのホーム・キッチンカテゴリーのバイヤーが会社を辞めたことから、一旦この話は流れてしまうが、他のファッションカテゴリーから再度お話があり、2005年よりQVCでの販売を始める。
 つくり手の情報を直接発信できるのは、テレビショッピングチャンネルの強みである。直営店舗で無理な販売やセールをやりたくなかったこともQVCでの販売を始めた要因の一つ。QVCでの販売が順調に利益を上げる中で、百貨店の不採算店舗は削減していった。
QVCでの販売について
 QVCは対面販売より品質検査が厳しく、かつ販売した後の返品も3ヶ月受け付けるので売れてからも気を抜けない。QVCではどの顧客(年齢、性別、地域など)が購入層かわからない点があるが、2007年~2008年にかけて、オーガニックブームとなり過去最高の売上を計上する。2010年頃より、芸能人ブランドが多く立ち上がり、QVCの放送時間も芸能人ブランドとの競争状態にある。

(4)今後の見通し
 リーマンショックと東日本大震災の影響で大きく売上げが落ち込んだが、今年は回復する見込みである。芸能人ブランドから顧客が回帰しているのかもしれない。

2.質疑応答
 Q オーガニックコットンの品質の統一性については?
 A 自然に影響を受けるので完全なものはできない。実績のある米国もしくはトルコからの輸入が多い。

 Q 通常のコットンとオーガニックコットンの原価の違いはどれくらい?
 A 通常のコットンが350円とすると、オーガニックコットンは1200円程。オーガニックコットンはトレーサビリティが大変厳しい。遺伝子組み換えのコットンが増えており、昨年初めてオーガニックコットンの作付け量が減った。

 Q 販売価格はどのように決めているのか?
 A 原価に一定割合を上乗せするのではなく、自分だったらいくらで購入するのかという点から価格を設定している。

 その他、質疑応答における講師のコメントは以下のとおり。

顧客の変化について
 2年前ぐらいから顧客の志向が変化しており、イノセントの服とユニクロを合わせたりする。

百貨店の変化
 以前は「いい顧客を百貨店が連れてくるので、その方に見合う商品を売ってください」という共存共栄の雰囲気であったが、今は「イノセントさんが顧客を引っ張ってきてください」という感じに変化してきている。

事業継承について
 現実的な課題である。子供が継いでくれるならそれはそれでいいとは思うが、無理にさせようとは思わない。

3.ディスカッション
 次のテーマで2班に分かれて実施。
(1)講演を聞いて現時点でのイノセントの顧客は、性別、年齢、ライフサイクル等の観点からどのような層だと考えますか。
(2)あなたがイノセントの代表とした場合、今後、会社を成長させていくために、顧客や製品をどのように展開をしていけばよいか考えてみてください。

 各班のディスカッション内容は次のとおり。
(1)現在の顧客は40代から60代の女性、環境意識が高く、ロハス、オーガニック志向の人、素材の良さや商品の価値がわかる人 など。
(2)今後の事業展開については、
  • 40代から60代の女性の子供に対し、若い人用のデザインで訴求、顧客データを活用して顧客層を拡大する
  • 40代から60代の女性に対し、産地や品質など、ストーリー性重視のブランド化を促進し、自身の直営店を展開して大切に一つずつ販売する
  • 代表者の強みを活かして世界市場に進出、インターネットを利用し、海外に住む40代から60代の女性に向け通信販売する
  • ファッションブランドメーカーにOEMするなどして、女性だけでなく男性にも販路を拡大する
  • 学校の制服を製品化し、環境教育などにつなげて、社会に浸透させる
  • 病院で利用できるような商品を企画し、肌の弱い人や高齢者に使用してもらう
  • 環境をテーマにしたロックフェスティバルなどのイベントに参加する環境意識の高い人にお揃いのTシャツを販売する など
の活発な意見が展開された。

以上

(担当:田井、山崎)