健康的に減量したいときは、食事を控えめにしつつ、運動で消費カロリーを増やすことが一般的に推奨されています。これはまったくその通りで、原則1のところで説明したように、体重の減少は結局、摂取カロリーと消費カロリーのバランスだけで決まるといわれていますから、ひたすら摂取カロリーを抑え、消費カロリーを増やせば、減量は達成できるはずです。でも実際には、食べたいものを我慢するのも、きつい運動を続けるのも、どちらも継続するのは容易なことではありません。
原則3で説明したように、一生懸命やればやるだけ効果も上がり、そのときの方法はあまり関係がない(ただし全く違いがないわけではありません)ということもわかっています。でも誰でも、ダイエットするなら可能な限り効率よく、かつ辛い思いをせずに目標を達成したいと思うのが普通でしょう。
ダイエットにおける運動の効果
結論から言えば、単に体重を減らす効果ということなら、食事をメインに運動はサブで考えるのが最も効果的なようです。実際多くの疫学研究ではっきりとそれを支持する結果がでています(詳細は後で述べます)が、これにはいくつかの理由が考えられます。順番に説明していきましょう。
1.運動による消費カロリーは意外に少ない
人間の身体は極めて効率的にできているので、運動しても消費されるカロリーは意外なほど少ないものです*1。普通の速度で1時間歩いても消費カロリーは100-150kcalほどで、これだけで痩せようというのは明らかに無理があります。ジョギングや水泳ならもっと何倍ものカロリーを消費することができますが、それを1時間ペースを落とさずに続けられる人が何人いるでしょうか。単純に消費カロリーを増やすことだけを目的に運動するのは非効率的といわざるを得ません。
2.運動で筋肉をつけても基礎代謝は意外に増えない
運動することによって体を作り、基礎代謝量を上げることも運動によるダイエットの効果のひとつといわれています。しかし実際のところ、トレーニングによって体重から脂肪量を引いた筋肉や内臓などの重量(除脂肪体重)1kgあたりで、1日の消費カロリーは30kcalから最大50kcal程度しか増えないことがわかっています*2。3か月から半年の筋トレで増える筋肉は2㎏程度*3ということなので、毎日つらいトレーニングをしても基礎代謝は100kcal程度しか増えないということになります。
3.食事に比べて運動は始めるのも続けるのも難しい
運動に比べて食事が有利な最大の理由としては、人は誰でも毎日2,000kcal前後の食事を摂る必要のあることが挙げられます。運動の場合は、極端な話ゼロからの出発になりますから、その差は一目瞭然です。食事であれば、単純に食べなければ摂取カロリーを減らせるのに対して、運動で消費カロリーを増やすためには、通常の生活以外に余分な活動をする必要があるわけです。しかも、原則2で説明したようにダイエットで体重が減ると人間は余分な活動を極力抑える方向に身体が働くので、相当意識しないと消費カロリーは増えません。
まとめ
強制的に食事を減らし、身体活動量を増加させれば、カロリーバランスに見合った体重変化を起こすことができると思われますが、原則3でも説明したように、医学研究においてはそんな非人道的なことはできても数週間程度ですから、基本的に研究として報告されるのは、行動変容を期待して食事指導や運動指導をこまめに行った結果が大半です。したがって、実施の容易さは大きな要因になります。決して理想的に摂取カロリーを制限し、強制的に体を動かした結果ではないので、少し注意が必要ですが、より現実的に有効な方法かどうかという意味では、明らかにこちらのほうが参考になるといえるでしょう。
ちなみに、ただ太っているというだけでなく代謝異常がみられる病気としての肥満症の場合にも、治療の基本は食事と運動ですが、日本肥満学会が作った肥満症治療ガイドライン2006によれば、食事療法を基本として運動療法を併用するのが原則であり、運動療法のみの治療は推奨されていません。これは今見たように運動のみで減量するためにはかなり過激な運動が必要であることだけでなく、運動だけではインスリン抵抗性(糖尿病の指標のひとつ)の改善が難しいことなどが理由として挙げられます。食事療法と併用することで効果的に減量できインスリン抵抗性も改善することができるのです。
減量における食事+運動の併用効果を食事単独、運動単独と比較した研究の紹介
2014年に、食事と運動の併用効果を食事か運動のどちらだけの場合と比較したメタ分析が2件発表されました。どちらも1年以上の減量効果を検証しています。メタ分析というのは、それまでに発表された文献からデータを抽出して、再度解析を行い、具体的な効果を数値的に示すときに用いられる疫学の方法です。ここでは、体重の変化や代謝パラメータの変化が比較検討されています。
報告1
『系統的レビュー』誌に発表されたシュビングシャックルらの報告*4は、21件の臨床試験から3,521人(主として女性)のデータを抽出して解析を行ったものです。対象者は全員BMIが25以上で、介入と追跡期間は12か月以上のものが選ばれています。
食事介入の方法としては、体重の5-10%を減らすような食事指導をするものが多く、具体的には、1日1,200-1,500kcal、極端な場合には800-1,000kcalに摂取カロリーを制限し、食事の内容としては低脂肪食か国の食事ガイドラインで推奨されるようなものが多くみられました。
運動介入の方法としては、週3-5日1回30分以上のきびきび歩き(5km)や最大心拍数の60-80%の強度の有酸素運動、筋力トレーニング、レジスタンス運動などが多く、中には週1回16kmのジョギングや週3-4日1回30分のインドアスキーなどもあり、日ごろまったく運動しない中高年の肥満者には少しきつめの運動が多いようでした。
解析の結果は、
食事単独に対して食事+運動の併用効果で、+1.38㎏多く減量
運動単独に対して食事+運動の併用効果で、+4.13㎏多く減量
という数値が報告されています。つまり食事単独と食事+運動にはあまり差がなく(わずか1.38㎏)、運動単独と食事+運動には大きな差があった(4.13㎏の違い)ということであり、食事+運動に最も効果が見られ、それに次いで食事単独、そして運動単独の順になったということです。さらに、食事と運動を直接比較したところ、食事単独のほうが運動単独よりも2.93㎏多い減量効果が見られたということです。
報告2
米国栄養士会の公式ジャーナルである『栄養食事療法アカデミー雑誌』に発表されたジョンズらの報告*5は、同様にBMIが25以上の対象者(1,022名、主として女性)に12か月以上の介入と追跡を行った研究を対象にしています。解析の結果、介入12か月後の時点では、
食事単独に対して食事+運動の併用効果で、+1.72㎏多く減量
運動単独に対して食事+運動の併用効果で、+6.29㎏多く減量
という結果が報告されています。介入6か月の時点では、食事+運動と食事単独の体重差は0.62㎏しかなかった(つまりほとんどおなじだけ減量した)ので、短期的には運動の効果は現れにくくて主として食事による減少効果が現れたことがわかります。そして長期におよぶと運動の併用効果(1.72㎏多く減量)が現れますが、あくまで食事+運動の場合であって、運動単独ではほとんど効果がない(6.29㎏の違い)ようだと著者らは結論づけています。
性別による取り組み易さの違いも
なお、通常のダイエット研究の参加者は女性が多いのですが、男性の減量だけを対象にした系統的レビューがやはり2014年に発表*6されています。食事に運動を併用するのがもっとも効果が高く、食事単独でも比較的良好な効果がみられることは上記の報告と同じですが、特に男性だけを対象にした場合の特徴として、実際の運動プログラムが含まれている方が興味を呼び起こし易く、運動を併用することで食事単独に比べて女性よりも大きな効果がみられるようだということです。
(付録)具体的に研究報告の中で実施された介入の一覧
食事介入の事例
●魚、果物、野菜、食物繊維の摂取を増やし、砂糖、飽和脂肪酸の摂取を減らす。重い夕食は摂らない。
●英国食事ガイドラインに則って体重の5-10%を減らすような食事
●低脂肪食
●北欧の食事摂取基準プラス低グリセミックインデックス食
●体重の最低10%を減らすような食事
●6か月で体重の10%を減らすような1日1200-2,000kcalの食事
●体重の5%を減らすような食事。
●1日最大2食をシェイクで置き換え、残り1食は500-750kcalで低脂肪高野菜の週間食事計画に基づいて。全体で、それまでに比べて1日800-1,000kcalを減らす
●体重1㎏あたり25-30kcal、野菜の摂取を増やし、砂糖の摂取を減らす。
●摂取カロリーを最初の3か月は16%減らし、残りの9か月は20%減らす
●心臓に優しい、バランスのとれた低コレステロールの食事計画の策定を助ける
●4か月1日450kcal、体重維持期は1日1,800kcal
●1日500-750kcal少ない食事。体重1㎏あたり1gの高品質たんぱく質を含む
●週1回の集中栄養教室(1-3か月)
●1日1,200-1,500kcal通常食
●1日800-1,000kcal、20%脂肪、1-8週間の厳密に決められた食事計画。その後16週まで1,200-1,500kcal。毎週グループ集会
●週1㎏減少できるカロリーの低脂肪食
●9か月で体脂肪の3分の1が減るようなカロリーの食事
運動介入の事例
●監督指導、毎週、有酸素(ジョギングなど)、最大心拍数の60-80%
●きびきび歩き30分週5日以上
●ウォーキング週2,000kcal以上MHR50-60%
●最低30分のきびきび歩き週4-5回
●週4日30分最大酸素摂取量70%サイクロエルゴメーターと1時間のトレーニング
●毎週ウォーミングアップ10分サーキットトレーニング45分
●週3回最低1時間エクササイズ
●週3日60-80%MHR25-45分
●週5日一回45分以上(週225分)の中高強度運動MHR70-85%
●有酸素、レジスタンス、もう一度有酸素、クールダウン
●週3日1時間有酸素ウォーキング15分、筋力20分、有酸素15分、クールダウン10分
●毎日1U以上
●週3回30分MHR65-75%
●監督指導きびきび歩き、高強度週4-5回45分
●監督指導毎週有酸素(16kmジョギング)1回
●監督指導週3回90分有酸素、レジスタンス、柔軟、バランス
●ノルディックトラックインドアスキー週3-4日30分
●週2回1時間有酸素、筋力、複合
●監督指導週1回3マイル(約5km)きびきび歩き
●監督指導9か月で体脂肪の3分の1を落とせるだけの消費エネルギーに基づいた運動