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ドライイーストで「象の歯磨き粉」の実験に挑戦!
[注意]過酸化水素水は危険物及び劇物に指定されています。取扱には十分な注意が必要です。

皆さんは「象の歯磨き粉(Elephant toothpaste)」という実験をご存知ですか? 上の写真のように、猛烈な泡を吹き出す実験です。海外ではよく科学実験ショーで公開されることが多く、YouTubeなどでも紹介されています。

科学実験ショーでは、ヨウ化カリウムという薬品がよく使われます。けれど、この薬品はちょっと高いし、一般の人では手に入れにくいですよね。しかし、普通にスーパーに売っているイースト菌を使う事によって、この実験を行う事ができるんです!

 


ドライイーストの「象の歯磨き粉」を準備!

「象の歯磨き粉」は危険な薬品を使いますので、安全に十分注意しましょう。

【材料】

  • 35%過酸化水素水 H2O2 30mL
  • ドライイースト(イースト菌)大さじ1
  • 人肌程度のお湯 大さじ2
  • 台所洗剤(界面活性剤の多いものが良い。キュキュットはおすすめ!)
  • 食用色素(※2種類以上を使ってもOK)

これらの道具はドラッグストアで簡単に手に入ります。

過酸化水素水は酸化性液体として危険物第6類に指定されています。火気厳禁です! また、6%以上は劇物にも指定されており、皮膚に触れると炎症を起こし激しい痛みを伴います。目に入った場合は失明の恐れもありますので、必ず防護メガネ、白衣を着用してください。もし万が一、皮膚や目に触れた場合は多量の水で洗い流し、医師の診断を受ける必要があります。

これだけ危険な過酸化水素水ですが、パンを焼くときに使う、スーパーでも売られているドライイーストを使うことで不思議な現象が起きます。

 

【器具】

  • 100mLメスシリンダー
  • 三角フラスコ
  • 計量スプーン
  • 電子天秤
  • ボックス

こちらの道具もコップや計量カップなどのキッチンにあるもので代用可能です。

まずはこれらの道具を使って、材料を量りとりましょう!

 

薬品を量りとろう!

①過酸化水素水の混合液の作り方

まず、メスシリンダーで過酸化水素水を30mL量りとります。このとき防護メガネ・白衣着用は絶対です!


一応メスシリンダーを使用して量りとっていますが、厳密でなくても大丈夫です。

この過酸化水素水に、台所洗剤を加えて45mLにしましょう(界面活性剤を多く含んでいますので、あまり環境に良い実験でないのがこの実験の難点です)。


さらにこの過酸化水素水に色を付けてビジュアルを良くしていきます。別の容器に食用色素を少量取りましょう。


食用色素を耳かき一杯分ほどビーカーに入れ、水を10mLほど入れて溶かし、色水を作ります。


これを先ほどの過酸化水素水の中に入れましょう。


メスシリンダーを軽く回転させると色が混ざります。少量でも十分に色がつきますのでご安心下さいね。


なお、食用色素はスーパーで売られている色(※紫色除く)を組み合わせることで様々な色ができます。

 

②イースト菌を復活させよう!

次にドライイーストの準備をしましょう。

ドライイーストとは、イースト菌(酵母菌)を乾燥させ粉末にしたもの。パンを焼くときに使うものですが、れっきとした生き物、微生物です。まずはドライイースト大さじ1を容器に取りましょう。ちなみにドライイースト大さじ1はパンを約10斤焼くときに使用する量です。


これに、人肌程度のお湯(40℃程度)を大さじ2加えます。熱すぎても冷たすぎてもダメ。赤ちゃんのミルクを作るつもりで、温度に注意してくださいね!


お湯を入れた後は、ドライイーストのだまが残らないように、とろみがつくまでよく混ぜましょう。


これで準備完了です。乾燥したイースト菌は水を吸って元気に活動できるようになります。

 

イースト菌で泡が放出!

先ほど作った色のついた洗剤入り過酸化水素水とイースト菌が準備したら、いよいよ実験開始です。(写真のボックスのように、大きい容器に入れておくと片付けが楽になります)


過酸化水素水の中にイースト菌を入れます。一気に全部入れてしまいましょう!

すると・・・


巨大な泡が出てきました! この大量の泡が歯磨き粉のように見えることが「象の歯磨き粉(Elephant toothpaste)」という名前の由来です。

今回の実験では青い着色料を使ったので、本当に大きな歯磨き粉みたいですね。黄色くなっているところは先ほど入れたイースト菌の溶液です。写真では分かりませんが、発酵したようなニオイ(パンのニオイを何倍にも濃くしたようなニオイ)がします。

最初に書いた通り、過酸化水素水の原液は扱いを誤ると大変危険です。しかし反応後のこの泡はただの酸素なんです(ただしまだ過酸化水素が残っている可能性があるので,泡を手で直接触れるのはやめましょう)(※1)。

 

生き物のもつ酵素の力で起こっている!

この実験は見た目の驚きがとても大きく、海外の科学実験ショーなどではよく行われています。しかし、洗剤や色水はあくまでビジュアルをよくするための小道具。この化学反応の正体は、ただの過酸化水素H2O2の分解反応です。その結果、水と酸素になってしまいます。

2H2O2 → 2H2O + O2


この化学反応は、過酸化水素水を瓶から出して放っておいてもゆっくり起こりますが、お湯でふやかしたイースト菌を入れることでさらに反応速度を急激に速めているのです。これには生物がもつ「酵素」というものが関係しています。

自分は変化せず、ある化学反応を速める物質を「触媒」といいます。象の歯磨き粉実験は、触媒としてヨウ化カリウムを使うことが一般的です(詳しくはこちらの記事にまとめてあります)。

しかし、同じ事がスーパーで売っているドライイーストでもできてしまいます。というのも、生物は体の中で触媒としてはたらくタンパク質をつくる事ができるのです。このタンパク質を「酵素」といいます。

イースト菌だけでなく、ほとんどの生物がこのヨウ化カリウムと同じはたらきをする酵素をもっています。過酸化水素を分解する酵素の名前を「カタラーゼ」といいます。ヒトの場合は肝臓で多く作られています。例えば、転んで擦りむいたときに消毒液のオキシドールをつけるとジュワっとしますよね?(そしてすごくしみますね)。アレこそ、カタラーゼのはたらきです。

象の歯磨き粉実験は、イースト菌のもつカタラーゼのはたらきで過酸化水素が分解され、酸素が放出されたのです。

つまり、カタラーゼがこの化学反応を速める触媒だったのです。

 

カタラーゼの深~い話

ここから先はちょっとマニアックなので、もしお時間があれば読んでもらえると嬉しいです。

カタラーゼはイースト菌(酵母菌)のような微生物からヒトまで、ほとんどの生物がもつ酵素です。そして、過酸化水素はほとんどの生物にとって毒です。この過酸化水素を分解する仕組みを獲得した歴史は大変古く、約35億年前に遡ります。

昔、地球の大気は、二酸化炭素が主成分でした。地球が誕生した約46億年前から10億年ほどたった地球に住む生き物はまだ単純なつくりしかもっていませんでしたし、高い濃度の二酸化炭素の中で生きられる生物だったのです。

この頃の単純なからだのつくりをもつ生物たちは、海の中の栄養分を吸収して暮らしていました。次第に生物の数が増え、逆に海の中にあった栄養分は減っていき、ついには食糧難となってしまったのです。

このとき、太陽の光エネルギーを使って、当時の地球に豊富にあった二酸化炭素と水から栄養分を つくることができる生物が現れました。このしくみは「光合成」といって、現在も植物に受け継がれています。

光合成のおかげで、食糧難は免れましたが、問題が勃発しました。光合成によって、酸素が出るのです。当時の生物たちにとって、酸素は猛毒!酸素に触れるだけで死んでしまいます。光合成をする生物がどんどん増えたので、多くの生物が死んでしまいました。

生物たちが生きるためにとった戦略は2つ。1つは酸素のないところへ逃げ込むか。もう1つは、酸素に立ち向かうか。立ち向かった結果、進化の過程で酸素を体内に取り込んでも平気な生物が現れました。

今回実験した過酸化水素H2O2は酸素O2がある環境で発生してしまう副産物です。過酸化水素も酸素と同じく、細胞の中にあるDNAなど、生物にとって大切な物質を壊してしまいます。やはりこちらも進化の過程で有害な過酸化水素を分解するしくみを獲得した生物がいたのです。そのしくみこそ、カタラーゼという酵素です。

イースト菌も、ヒトも、酸素を取り込んだり過酸化水素を分解したりする事ができます。イースト菌とヒトのご先祖様は共通なのですね。

 

イースト菌を使った実験で注意したいこと

話を戻します。このイースト菌をつかった象の歯磨き粉実験のよいところは、高価なヨウ化カリウムを使うより低予算でできるところです。しかし、一点気をつけなければならない事があります

それは、温度。

カタラーゼをはじめとする酵素は温度の影響を受けやすいのです。「最適温度」といって、だいたい35~45℃の間ではよくはたらくのですが、それより高すぎたり低すぎたりすると途端に効果が落ちてしまいます。

例えば、冬の寒い時期に冷えた部屋の中でやってもうまく反応しません。容器も冷たくなっているので、反応を鈍らせてしまうのです。したがって、もし実験をするのなら、十分暖かい場所で行うのが良いでしょう。

 

安全に気をつければ、大人気の実験です!

この実験のメリットは、とにかく見た目がハデなこと!そしてイースト菌という小さな生物の力を感じる事のできる面白い実験です。もし実験を行う際には、安全には十分気をつけましょう。

 

【追記】
  • 2015.10.17 危険物に関する表記の誤りを修正いたしました。
  • 2015.10.16 発生した泡の説明および安全面の記述(※1)を修正いたしました。
  • 2014.01.23 記事をアップしました。


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