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第9話

軽巡ホ級「コノッ!コノッ!」
叢雲「うぐっ!がはっ!」
何度も何度も腹を殴られ、吐血する。
身体中殴られ、アザや腫れが痛々しい。
軽巡ホ級「ワタシノナカマハ!コレイジョウ!クルシンデ!シンダ!
オマエニハ!マダマダ!クルシミガ!タリナイ!」
軽巡ホ級は話しながら、叢雲の顔を往復で殴る。
殴られる度、小さく叫び声が漏れ、顔は苦痛に歪む。
しかし、心は強く持ち、決して折れるものかと叢雲は思っていた。

叢雲(みんなに通信を入れた、きっと空母の誰かが先に行った敵を倒してくれるはず、
それまでコイツを足止めして、、)
軽巡ホ級「ナグルダケデハ、ソロソロアキタナ、、
ツギハ、アシヤ ウデヲ イッポンイッポン フキトバシテヤル」
ケケケと薄気味悪い笑いをすると、叢雲の足をさする。
軽巡ホ級「コノ キレイナアシガ、グチャグチャニ、フキトビ、
オマエガ、モガキクルシム サマヲミレバ ナカマモウカバレルダロウ、、」
自然と体が強張る。
叢雲「や、やってみなさいよ!
吹き飛ばされたって、す、涼しい顔をしてやるわ!」
威勢良く声を上げてみせる。

軽巡ホ級「クハハ、アシガフルエテイルゾ?
キョセイヲハルノモ、イイカゲンニシタラドウダ。
ククク、マアイイ、ドノミチオマエハ、シヌノダカラナ、ソレマデ、タップリ、クルシメ」
軽巡ホ級は少し離れた所に移動し、砲門を叢雲の足に合わせた。
叢雲「くっ、、」
腕に巻かれた鎖を握りしめ、目をギュッと閉じる。
軽巡ホ級「アシニオワカレヲイエ!」
叢雲「あああーー!!、、」
爆音が鳴り響く、地鳴りと共に、周りは爆炎に包まれた。


、、、


自分は足を失ってしまった。
怖くて、自分の足を見る事は出来ない。
体の力が抜け、放心状態になる。
震えはいつしか体中に広がっていた。
その時、爆炎を晴らす、エンジン音が響きわたった。
「叢雲!大丈夫!?」
通信が入り、叢雲は周りを見渡す。
上空に零戦の部隊が展開しているのが見えた。
先程の軽巡はバラバラになり、
焦げた肉片が煙を上げていた。

叢雲「ずい、かく、、?」
助けが来たのだ、気が緩み、
へたり込む、見ると足はまだ残っていた。
瑞鶴「叢雲、今助けるから!」
数機の零戦が編隊から抜け、旋回し、
着陸しようとする。
叢雲は首を振り、申し出を断った。
叢雲「私の事は後回しにして!
敵が上流に向かってるわ!
早くしないと間に合わない」
瑞鶴は叢雲を心配する。
瑞鶴「でも、その傷を早く治さないと、、」
足こそ失ってないものの、
至る所が腫れ、流血していた。

叢雲「いいから早く行って!」
叢雲は腹の奥から声を出し語気を強める。
切れた口内からは鉄の味がした。
白露「私達にお任せだよ〜!」
そんなやり取りをしている間に、
黒煙を上げるヘリコプターが入って来た。
叢雲・瑞鶴「白露!」
白露は叢雲の真上でホバリングした。
叢雲「くっ!」
激しい風が髪や破れた服を暴れさせる。
暁「ここは私達に任せて、瑞鶴さんは敵を!」
機体脇から暁が、顔を出し瑞鶴に通信を入れた。
瑞鶴「分かったわ、叢雲をよろしくね!」
叢雲は腰が抜けているのか、まともに立てず、
解放と共に尻餅をついた。

暁「叢雲、大丈夫?
手を貸すわ」
暁は叢雲に手を差し出す。
叢雲「、、、うぐっ、ぐすっ、み、見ないでよ、、」
泣きべそをかきながら座り込む叢雲
何事かと、驚いた暁は
叢雲の座っている所を見た。
叢雲の下の砂利は色が濃くなり、
湯気が立っていた。
暁「、、替えの下着は上にあるわ、
安心して、レディーは口が固いんだから」
暁は人差し指を立て、口に当てると、
ウインクして見せた。
叢雲「、、、ありがと」
叢雲はボソッと小さな声で言った。
白露「暁、急いで!
燃料が少ないから!」
ヘリのホバリングが、不安定に揺らいでいる。
暁「さぁ、早く行きましょ」
暁は叢雲をおぶうと、はしごを登った。
白露は暁がヘリに乗り込むのを確認すると、
操縦桿を引き、川から離脱した。


叢雲「ううっ、ああっ、、」
担架に乗せられた叢雲は荒い息を上げ、苦しそうに呻いている。
暁「叢雲、応急手当をするわ。脱がすわよ」
ボロ切れになったセーラー服を丁寧に剥ぎ取ると、
体の至る所に艤装の破片が突き刺さっているのが分かった。
白い肌は赤紫に変色し、痛々しい。
暁「ひどい怪我、、よくここまで耐えたわね」
暁は手早く医療器具を並べる。
多くは床に落ちたり、外に投げ出されたりし、使えなくなっていたが、
応急手当に使う分くらいは残っていた。

暁「白露!これから叢雲の応急手当するわ!
なるべく揺らさないで!」
白露「オッケー!」
白露は振り向き、親指を立てた。
暁は叢雲に向き直り、突き刺さった破片を素手で抜こうとする。
叢雲「あ〝あ〝〜〜〜!!」
獲れたての魚の様に体が跳ねる。
暁「大人しくして!」
手で押さえつけ、思い切り破片を引き抜く
鮮血が機内に飛び散る。
叢雲「も、もっとやさしくしなさいよ!」
暁「急がないと、命に関わるじゃない!」
そう言いながら次の破片に手を掛ける。
叢雲「ぎゃあ〜〜!!」
悲痛な叫び声が鼓膜を震わす。

白露はガス欠なりかけ、
機体の姿勢維持が難しいヘリと格闘している。
白露「白露はいっーちばん操縦が上手いんだから、、!」
暁は懸命に破片を引き抜く。
何も叢雲を苦しめる為に抜いてるのではないのだ。
破片を抜かなければ、
高速修復材で治した時に破片が体に残ってしまう。
しかも、急がなければ、
叢雲の体力がどんどん無くなって、
命の危機に陥る。
暁「叢雲、頑張って!」
叢雲「あ〝あ〝〜〜〜!!」
暁は心を鬼にして摘出作業を進めた。
暁「よし、これで大きいのは全部ね」
最後の破片を銀色のトレイに乗せると、
ペットボトルに入った高速修復材の封を切る。

暁「叢雲、高速修復材よ!」
叢雲「うう、ああぁ、、」
青い顔をし、虚ろな目をした叢雲
急がなければ!
傷口に高速修復材をかける、
叢雲「〜〜〜!!」
叢雲は目と口を塞ぎ、苦しみに耐える。
蒸気が吹き出し、傷口が塞がりかけるが、反応が止まった。

暁「そんな、まさか」
叢雲の口に耳を当てる。
、、息をしていない。
暁「ダメよ、叢雲!死んじゃいや!」
叩いても、揺すっても、反応がない。
体は力が抜けぐったりしている。
大量出血により、体温も低下している。
しかし、輸血パックは吹き飛ばされたのか、見当たらなかった。
暁「どうすれば、叢雲を助けられるの」
暁は必死に考えた。
壁に掛かっている、チューブが目に入った。
暁「一か八か、賭けてみるしかないわね!」

もはや手段は選んでられなかった。
暁は自分の胸にメスを突き立て穴を開けた。
暁「ぐっ!!」
鮮やかな血が勢い良く溢れ出て、目が霞む。
チューブをその穴に突き刺し、
もう片方を叢雲の心臓にメスで穴を開け突き刺した。
ビクッビクッと叢雲の体が動く。
暁はペットボトルの高速修復材を飲む。
暁「うああああっ!!」
激しく鼓動する心臓、胸が大きく膨らみ、破裂しそうなほど圧迫する。
新陳代謝が異常に活性化され、大量の血液を生成する。
それが直に叢雲に注ぎ込まれた。

叢雲の血色はみるみる良くなり、
高速修復材入りの血液は傷を超高速で修復する。
白露は機内の叫び声を聞きに振り返る。
白露「暁!何があったの!?」
ヘリが傾く。
白露「ちょっと!集中しないと、姿勢維持出来ない」
暁の事が心配だが、気を抜くと墜落してしまう
暁「傷口が塞がらない様に、、いぐぐっ!」
暁は自分の胸の傷が塞がりかけているのを、ふたたびメスで切り開く。
激しい痛みに耐えながら、輸血作業をする。
叢雲はほとんど傷が治り、目を覚ました。
目の前では大流血しながら輸血する暁の姿
すぐに状況が飲み込めた、チューブを握り、血流を止める。
叢雲「あんた無茶しすぎよ」
飽きれた様な物言い
暁「あなたに言われたくないわ」
叢雲「フン!」
暁は苦痛の表情を笑顔にすると、叢雲の呆れ顔も笑顔になった。
叢雲がチューブを引き抜くと瞬く間に胸の穴が塞がる。
暁に刺さってるチューブも引き抜く、
暁「いたたっ!!もっと優しくしてよ!」
叢雲「さっきのお返しよ!」
ムッとする暁に対し、意地悪そうな笑みを浮かべる。

白露「大変だよ!もうヘリがもたないよ!!」
操縦席の方から、白露の叫び声が響いて来た。
暁は操縦席に顔を出す。
激しく針を振るメーター類、断続的に鳴る警告音
操縦桿を握りながら、操作パネルや天井のスイッチをせわしなく操作する白露
高度はどんどん下がり、山の木々に機体が擦れている。
暁「何とかならないの!?」
白露「もうダメ!みんな早く飛び降りて!!」
叢雲は担架のシーツを引っぺがし羽織る。
叢雲「暁、迷ってる暇はないわ、行くわよ!」
暁の手を引く。
暁「白露、あなたも早く!」

眼下に数件の山小屋が見えた。
煙突から煙が上がってるのが見える。
誰か住んでいる様だ、しかしこのまま進行すれば直撃してしまう。
白露「あの小屋に当たっちゃう!
私も脱出するから、2人は先に!」
後ろを振り向く暇も無く、操縦している。
叢雲「必ず脱出しなさいよ!」
暁を掴み、ドアを開ける。
凄いスピードで木々が流れている。
機体から吹き出る黒煙が目にしみた。
その時、ヘリの燃料タンクが小爆発し、プロペラが何枚も吹き飛ぶ。
機体が大きく揺れた。
姿勢を崩した叢雲と暁は、ヘリの外に吹き飛ばされる。

叢雲「きゃぁーーー!!」
暁「白露ーーー!!」
2人は立ち並ぶ木の枝を折りながら、
失速し、枯葉の敷き詰められた土の上に落ちた。
ヘリの機内は炎に包まれる。
白露「ここで離したら、小屋にぶつかっちゃう、、
いう事を聞いて!」
炎が体に燃え移るも、操縦桿を離さない白露
羽を何枚か失ったプロペラは激しく振動し、
操縦は尾翼のみで、行われている。
機体を辛うじて曲げたヘリはギリギリ小屋の間を抜ける。
しかし、開けた視界は、山の絶壁に再び遮られる。
プロペラの無い機体では上昇は不可能だ。
そのままのスピードで絶壁に一直線!

前方が暗くなり、
押し寄せるガラス片、機体はグシャグシャに潰れ、奈落の底に落ちていった。