自律神経機能障害

受傷によって、感覚、運動だけではなく脊髄に平行して密接に連携している自律神経系も同時に影響を受けて、機能低下します。その結果、マヒ域では新陳代謝が不活発となるため、傷が治りにくくなり、また、下記の様々な症状が出たりします。

自律神経過反射
自律神経の機能不全で、身体や機能に負担がかかると、突然異常な身体反応が起こるものです。
T6以上の高位胸損と頚損にはきわめて起こりやすく、この状態になると、血圧が上昇し、頭痛、鼻閉塞(鼻が詰まること)、呼吸困難、マヒしている筋肉の痙攣[けいれん=筋肉が発作的に収縮を繰り返すこと]・痙性[けいせい=筋肉がひきつって硬直すること]が誘発されます。また、血圧が急激に上ったり下がったりして命にかかわる危険な状態になるので、速やかに原因を除かなければなりません。
原因は、マヒした膀胱の反射機能がうまく働かずに膀胱に尿が溜まり過ぎた場合や、便秘や、排便の間隔があいて便が溜まり過ぎたり、きちんと排便できずに残便が腸管を刺激したりすることや、マヒしている皮膚の表面、特に腹部や大腿骨の内側を刺激することで誘発されます。また、内臓(膀胱や腎臓など)の感染症によっても引き起こされます。
特に、傷や骨折や内臓に大きな刺激が加わった場合、外科手術などの刺激に対して極端に反射反応して血圧が急激に上がる場合があります。この場合は、事後に極端に低血圧になったり、更に血圧が危険なほどに上がったり下がったりをくりかえすことがあります。
脊損を専門的に診て[みて]いない医師の場合は、この症状に注意していないことがあるので、自律神経過反射を起こしやすい人は、脊損治療以外の他科での診察時には自律神経過反射に留意するように申告しておくなどの注意が必要です。
体温調節機能障害
高位胸損と頚損は、汗をかく機能が低下・消失します。高位胸損は肩や頭部の汗は出ますが、頚損はまったく汗をかかなくなります。
自律神経の発汗中枢があるT4より高位の胸損と頚損は気温が26℃・27℃を超えると欝熱[うつねつ=熱がこもること]状態になり、体温が上昇し始めて38℃以上の異常高体温になります。そのままにしておくと熱中症と同じように危険な状態になります。
高位胸損の場合は解熱剤を服用して発汗可能な部位を強制的に発汗させたり、ぬれタオルで手足を拭いたりすることで体温を下げることができます。
頚損は汗をまったくかかないので、霧吹きで顔や手足の露出部分に霧を吹きかけて汗の代わりにしたり、アルコール清拭で体温を下げたりしないと間に合わないことがあります。尚、この場合、霧吹きや清拭には冷たい水が効果的です。
いったん欝熱状態になると、体の芯の体温が上がって、容易に体温を下げられなくなるので、事前の予防対策と身体状態の注意観察と迅速な手当が大切です。もしも高体温状態になれば、水風呂に入れたり、冷たくした飲み物や氷などを与えたりしてください。
なお、共に季節の変わり目や急激な気温の変化にも体温調整機能がついていきません。暑さと共に寒さについても、基本的に汗腺や皮膚表層血管の機能が低下しているので、反応が遅くなり、体温が低下してから突然大きく身体がふるえだしたりするので予防的保温に注意が必要です。頚損は事前に屋内外の状況に注意して対策をしっかりしなければなりません。
寝冷えにも注意が必要です。また、活動中は意外と不注意になり、雨天時や夜間に突然体温が冷え込んだり、日中の照り返しでのぼせたりすることになります。また、寒冷期の屋外での行動や、温水プールを含む水中でのスポーツについても水温による熱損失について注意が必要です。
頻脈[ひんみゃく]
脈拍が速い状態のことです。脈拍は、普通は身体機能の状況に対応してコントロールされていますが、脊損者の場合は状況に関係なく脈が1分間に100以上と速くなることがあります。脈が速く打ち、息苦しさと、動悸や両手足のしびれを感じることがあります。特に危険もなく手当法もありませんが、他に原因がないか確認しておく必要があります。
末梢血管拡張症[まっしょうけっかんかくちょうしょう]
自律神経系は、手足や皮膚表層の血管が皮膚温や、気温の寒暖、感情の変化によって、反射的に毛細血管を拡張したり収縮したりすることで血流量を変化させる作用をもっていますが、頚損や高位胸損では自律神経系の機能が低下すると、条件に関わらず基本的に血管が拡張したままになることがあります。その結果、起立性を含む低血圧、頭痛、めまい、動悸、顔面紅潮、下肢の浮腫[ふしゅ=むくみ]などが生じます。
なお、血管が拡張すると、当初は末梢血管の血流が増えるので手足や皮膚の温度が上昇します。また、極端な場合は他の臓器や頭部への血流が減少してショック状態になることがあります。
また、頚損の場合は動かせる筋肉が少ないので、この状態が続くとどんどん体温が逃げて、いずれ低体温症におちいって意識がなくなったりこん睡状態になったりするので、体温維持の保温に注意が必要です。
低血圧・起立性低血圧(起立性調節障害)
末梢血管拡張でも生じますが、臥位[がい=寝た姿勢]から座位[ざい=座り姿勢]などへの身体を起こす動作で、一時的に血液が身体の低位の方向に流れて血圧が急に下がり脳や心臓への血流が減って、めまいや立ちくらみが起こり、時には失神したりもします。また、動悸[動悸=胸がどきどきすること]や吐き気を起こしたりもします。排泄後、入浴後、(満腹の)食後にも起こりやすいので注意が必要です。
脊損の神経機能的副次症状なので予防は困難ですが、十分な睡眠をとり、一度に摂取する食事量を減らしたり、朝食後にカフェイン(コーヒーや玉露などの濃い目のお茶2杯分)を摂取したりするのがよいとされています。
発生時には、しばらく横になります。車いす乗用時には、後ろにもたれたり背をそらして脚部分をあげたり頭部を低くすると回復します。
高位頚損で頻発する場合は、姿勢を変えるときにゆっくりおこなうことや、水と塩分を十分に取ることにも注意してください。
なお、横になっている時間が長いと生体順応[せいたいじゅんのう=身体が環境条件になれること]でこの状態になれてしまいます。
通常の対処法は運動することで血流を戻す機能を強化しますが、脊損はマヒ域の運動ができないので、座位や(機器や補装具を利用した)立位を意識的にとることや、他動的に足・足首・ひざの屈曲、ふくらはぎを下から上へ絞るようにマッサージすることなどで脚部のうっ血を解除することなどで対処します。
なお、車いすスポーツは全身の血流を増加し、勢いづけるので大きな予防効果があります。
また、頚損の場合に生じる低血糖症状と間違えない注意も必要です。
深部静脈血栓症[しんぶじょうみゃくけっせんしょう]
血液は、筋肉の収縮運動で手足の末端から心臓に戻ります。長時間、手足を動かさないままでいると、血液の流れが滞って、血管内に血液の塊ができやすくなります。
特に、心臓から離れた下肢や上腕や体幹の奥にある静脈に血栓[けっせん=血のかたまり]ができやすく、その血栓が何かの拍子にちぎれ飛んで、肺の血管(肺動脈)を閉塞[へいそく=ふさぎとじること]して、突然の胸痛、呼吸困難を起こし、死亡に至る肺塞栓症を発症する事例につながります。心臓に飛ぶと致死率の高い心筋梗塞になります。
長期臥床[ちょうきがしょう=寝たきり状態]の後に発症することが多いとされていますが、きゅうくつな姿勢で長時間座り続ける上に脚の筋肉を使わない長距離旅客機の乗客の症例から「エコノミークラス症候群」と名付けられていました。
しかし、他の交通機関や自家用自動車の座席でもごく簡単に発生するので「旅行者血栓症」と改称されたように、健康な人の日常生活の正座やいす利用の座位姿勢等でも発生することが確認されています。
この他の原因としては、脱水、感染、手術などがあり、(脂肪が血管を圧迫する)肥満、(末梢血管を収縮させる)喫煙、(血液濃度を濃くする)脱水などもあるので、中高年者や他の内科的疾患のある方は注意が必要です。
健康な人は血栓を溶解させる機能が働くのでほとんど大事に至りませんが、脊損の場合は、長時間、車いす上で同じ姿勢で座ったままでいると、足首(くるぶし)や膝裏や股関節部分などの屈曲部で静脈を圧迫したり、肌着やズボンが大腿や鼠径部[そけいぶ=もものつけね(股関節=こかんせつ)]部分などに食い込んだりすることで、脚の静脈の血流を簡単に止めて血の固まりをつくります。
特に中年以後は身体機能が低下し始めるので意識的な注意が必要です。
予防法は、長時間にわたって同じ姿勢を取らない、車いす使用時でも時々下肢をフットレストからはずして伸ばしたり、足首・ひざを屈伸させる、(ウエストやまたぐりなどを締め付けない)ゆったりとした伸縮性のある衣服を着る、冬季の暖房した部屋は乾燥するので(コーヒーやアルコール類などの)利尿作用のある飲料を摂った後は水分を十分補給することなどがあります。
また、発症の恐れが高い場合は、弾性ストッキングや空気式圧迫装置を用いて足のうっ血を防ぐことも必要です。
なお、同じ要因で浮腫[ふしゅ=むくみ]がマヒ域に現われやすくなります。対策も同じように浮腫の現われた部分から心臓方向にマッサージしたり、手足を屈伸したり、その他の対策を同じように行なってください。
低血糖
特に頚損の場合には、自律神経が関与する血糖調節メカニズムが影響を受けて、突然、冷や汗、動悸、手のふるえ(振戦)を伴う低血糖状態におちいることがあります。粉ブドウ糖、あめなどで糖分を摂ると回復します。低血糖の経験者はチョコレートをいつでも食べられる状態にしての携行が有効です。