石油ガリバーの勝算 JX・東燃ゼネ統合

ー上ー 大編成 避けられぬ合理化 日本経済新聞  2015/12/07(月)
低収益からの脱却焦点  稼働率低い製油所  商圏重なる給油所

 石油元売り国内首位のJXホールディングス(HD)と3位の東燃ゼネラル石油が経営統合で大筋合意した。国内ガソリン販売シェアで5割を握る「石油ガリバー」が誕生する。JXHDは苦境のたびに合併を繰り返してきたが、低収益体質から抜け出せていない。成長するアジア市場の開拓などで収益力を高められるのか真価が問われる。
 「なぜ今回はできるのか」。3日、統合発表後に両社が都内で開いた説明会でアナリストは辛辣な質問を投げかけた。疑問視するのは統合への基本方針として示した「精製から販売まで全てで全体最適を目指す」という1文だ。あるアナリストは「今までできなかったのに」と冷ややかだ。

 JXHD株は11月中旬に統合交渉が報じられる前より株価が11.5%上がったが、東燃ゼネ株は3%下がった。「統合により収益性が低下する可能性がある」(SMBC日興証券)との懸念が出ている。

 市場関係者が統合を手放しで評価できないのは「統合後、株主還元への姿勢が後退する可能性もある」(JPモルガン証券の西山雄ニアナリスト)との見方もあるからだ。配当性向は黒字だった2013年度でJXHDが37%。60%だった東燃ゼネに比べ見劣りする。

 1888年に創立された日本石油は三菱石油などと合併を重ねてきた。売上高や資産規模では拡大し続けてきた華々しい歴史も、収益面からみれば輝きを失う。JXHDの15年3月期の連結売上高は10兆8824億円、総資産は7兆4234億円だった。1999年3月期の旧日本石油より売上高は4.5倍、総資産は2.5倍に膨らんだ。

 一方で経常損益では旧日本石油は175億円の黒字(99年3月期)だったが、JXHDは1501億円の赤字(15年3月期)。原油安による在庫評価損が足を引っ張ったが、仮に評価損を除いても経常利益率は2.3%と、低収益体質から抜け出せていない。合併で体は大きくなったが、ぜい肉を絞り切れなかったことが主因だ。

 まず石油製品の過剰な供給力。過去10年で国内の石油製品需要は約2割減った。JXHDも北海道など7カ所の製油所を閉鎖・縮小したが、能力削減幅は約2割。需要減と同程度にとどまり、製油所の稼働率が十分に上がらない。

 第2に多すぎる給油所だ。JXHDは全国約1万600カ所の給油所を展開する。近くに同じ「エネオス」ブランドの給油所があるのに統廃合できず、同じエリアで顧客を取り合う例も目立つ。給油所運営の大部分を地方の特約店に委ねていることが背景にある。もともと日本石油や三菱石油など様々な系列だった特約店の経営者は縄張り意識を持ちがち。特約店経営者への配慮から過当競争を避けるための閉鎖を徹底しきれていない。

 17年4月の経営統合で東燃ゼネの約3400ヵ所の給油所が加われば、さらに同一エリアでの競合が増えることになる。これまでのように対策を先送りすれば、販売効率はさらに悪化する。
 JXHDの15年4~9月期の経常損益は276億円の赤字だった一方、東燃ゼネは同年1~9月期に79億円の黒字。「なぜ環境の厳しさは同じなのに東燃ゼネの利益率は高いのか」。JXHDの社内では統合交渉と並行し、ひそかに東燃ゼネの研究が進められていた。

 東燃ゼネは12年に米エクソンモービルから日嵐での関連事業を買収して独立。製油所の効率的な運営などで収益力を磨いた。ただ長らく外資の傘下だったため原則として日本国内に事業が限定され、このままでは縮小均衡は避けられない。東燃ゼネが計画する大型火力発電所の建設には数千億円規模の投資も必要になる、統合で規模を拡大すれば将来への種まきの選択肢も増える。

 統合を発表した3日の記者会見。東燃ゼネの武藤潤社長は「1足す1が2を大きく上回る成果をあげたい」と述べた。JXHDの内田幸雄社長も「単純な合算以上の付加価値を達成したい」との考えで一致する。足し算を超えた成果を出すためには、製油所の統廃合など痛みを伴う決断も避けられない。

 
ー中ー メジャー対抗 なお遠く  日本経済新聞  2015/12/08(火)
製油所建設・製品供給に活路

 「やはり大きい。ウチが対抗できるのか」。JXホールディングス(HD)の木村康会長は昨年10月、韓国蔚山市で見たSKグループの巨大な製油所の姿が目に焼き付いている。原油処理能力は日量約80万バレルと、JXHDで最大の水島製油所(岡山県倉敷市)の2倍以上にのぼる。
 規模に勝る韓国の製油所はコスト競争力も高い。経済産業省が石油元売り各社に再編を促すために作成した資料によると、韓国の製油所の平均生産コストは2010年時点で1バレル当たり84.22ドル。日本の製油所の平均値に比べて2.78ドル安い。

 輸出を前提として大規模な製油所を設計し、低コストを武器にアジアへの供給を拡大する戦略で日本勢の先を行く。日本は石油元売りの輸出比率が平均1割強にとどまるが、SKなど韓国大手は6割前後に達する。
 「国際的な競争力を持つアジア有数の総合エネルギー・資源・素材企業グループを目指す」。東燃ゼネラル石油と経営統合で大筋合意したJXHDの内田幸雄社長は将来像をこう描く。

 統合によりJXHDと東燃ゼネの売上高は単純合算で約14兆3千億円になる。韓国SKイノベーションの2倍近い規模だが、海外メジャーは英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル、米エクソンモービルなど50兆円超の企業がひしめき、背中は遠い。

 投資を利益で回収する力も見劣りする。メジャーが重視する「使用総資本利益率(ROCE)」。自己資本や有利子負債など利用したあらゆる資本に対し、どれだけ利益を上げられたかを示す。エクソンモービルは14年までの4年間の平均が約20%に達し、アジア勢でもインドのリライアンス・インダストリーズは4年平均で12%を確保する。10%超が各国を代表する石油会社の合格点といえるが、JXHDは約4%にとどまる。

 10年に新日本石油と新日鉱ホールディングスの統合でJXHDが誕生した際、当時のトップは「海外大手に伍(ご)する利益率を手に入れたい」と強調していた。メジャーの利益の源泉である油田・ガス田開発の上流事業を拡大する方針を打ち出したが、権益獲得は思うように進んでいない。
 さらに昨夏から油価が1バレル100ドル台から一気に40ドル前後まで下落し、事業採算が合いにくくなっている。日本勢が今、活路を見いだすのは製油所建設や石油製品の供給を手掛ける中・下流事業だ。

 「御社の技術と資金力に期待しています」。先月初旬、JX幹部を訪れたのはインドネシア国営石油プルタミナのドゥイ・スチプト社長兼最高経営責任者(CEO)。5カ所の製油所増強計画のうちの1つでJXに協力を求めるためだ。
 同国は経済成長や人口増でエネルギーの需要拡大に供給が追いつかない状況が続く。他の東南アジア各国でも需要増が見込める。メジャーは上流事業にシフトしており、入り込む余地は大きい。

 統合を機に製油所などの統廃合を進めて収益力を改善すれば、JXHDと東燃ゼネの投資余力は高まる。アジアの需要拡大を取り込む成長戦略にも弾みを付けられる。

 
―下― 負債重荷、投資足かせ  日本経済新聞  2015/12/09(水)
統合効果、「種まき」原資に

 「東京ガスとの統合を検討する日が来るかもしれない」。JXホ!ルディングス(HD)のある幹部は真顔で話す。
 同社が東燃ゼネラル石油との統合で石油・化学の一体運営に乗り出す川崎地区(川崎市)。この近隣ではJXHD子会社のJX日鉱日石エネルギーが東京ガスと共同で天然ガスを燃料とする火力発電所を運営する。発電能力は原子力発電所1基分に相当する約84万キロワット。2021年には195万キロワットに増強する。

 電力事業に力を入れるJXエネは来春から家庭向けの電力小売りにも参入する。東燃ゼネも千葉県や静岡県で大型発電所の建設を計画しており、電力を石油・石化事業に次ぐ柱に育てようとしている。

 約26兆円の国内石油市場に対し、電力市場は約20兆円、ガスは約7兆円だ。じり貧が続く石油事業への依存から脱却するには新しいエネルギー分野にも手を広げ、東燃ゼネとの統合で掲げる「総合エネルギー企業」を名実ともに実現する必要がある。

 石油や電力、ガスの業種の壁を越えた競争はすでに海外では現実になっている。特に欧米企業はM&A(合併・買収)を駆使し、食欲に事業領域を広げている。

 仏石油大手のトタルは11年、太陽電池大手の米サンパワーを約13億8000万ドル(約1700億円)で買収した。市場が広がる再生可能工ネルギー事業を拡大することが狙いだ。「太陽光やバイオ燃料などの事業を今後15~20年で全体の1割程度まで伸ばす」(プヤンネ巖高経営責任者=CEO)。石油メジャーの一角を占めるトタルでさえ、現状に安住する考えはない。

 独電力大手のエーオンは欧州各国の電力会社やガス会社を相次いで買収。14年度の売上高は14兆9000億円とこの10年で2.4倍に増やし、欧州各地の電力、ガス需要を取り込んでいる。

 M&Aで企業を丸ごと傘下に収めれば、事業を一気に拡大できる。JXHDと東燃ゼネは統合で規模は大きくなるが、M&Aを活用するなど積極投資を進めていくうえで財務体質の問題が立ちはだかる。

 「今の財務状況では海外の機関投資家からの資金調達は困難だろう」。あるアナリストは厳しい見方を示す。JXHDと東燃ゼネが統合した場合、資本に対する負債の比率を示すDEレシオは14年度実績の単純合算で1.4倍に達する。0.5倍以下の欧米メジャーに比べ、負債が重荷となり財務体質は脆弱だ。

 JXHDは資源価格の下落などで海外の油田・ガス田や銅鉱山の開発に投じてきた資金の回収が大幅に遅れている。東燃ゼネも親会社だった米エクソンモービルから12年に独立する際、日本事業を買い取るために使った約3000億円の借り入れ負担がのしかかる。

 出光興産と昭和シェル石油も合併で合意し、日本の石油元売りは大手3社に集約される。規模を追う国内再編は最終章を迎えた。今後は海外開拓や新事業育成など成長戦略を競う局面に入る。将来に芽吹く種をまく原資にするためにも、製販の合理化などで「年1000億円以上」を目指す統合効果を引き出すことが重要になる。

西岡貴司、岡田達也、指宿伸一郎、志賀優一が担当しました。


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