平均値の検定
1.仮説検定とは(再掲)
仮説検定とは,母集団のある性質について,分析対象である標本を用いて判断,検証するために用いられる手段
仮説検定は以下の手順で行われる(山田・杉澤・村井[2008]を一部修正)
- 母集団に関する帰無仮説(きむかせつ)と対立仮説を設定する
- 検定統計量を選ぶ(検定を選ぶ)
- 有意水準の値を決める(棄却域を決める)
- データから検定統計量を実際に計算する
- 検定統計量が棄却域に入るかチェックする→帰無仮説,対立仮説どちらになるか判断する
- 検定では,帰無仮説は「同じである(=差がない)」といった形を採ることが多い.
- 検定統計量が棄却域に入ると,帰無仮説が間違っていると判断→「帰無仮説を棄却する」
- 帰無仮説が棄却されるならば,その逆の対立仮説が採択される(すなわち,実験者の予想が的中した)ことになる
- 帰無仮説が棄却できない場合,帰無仮説が正しい,となる
検定における判断基準
- 検定統計量と境界値を比較する方法と,検定統計量のp値を求めて判断する2通りがある.
- p値とは,検定統計量より大きい値,及び(あるいは)検定統計量より小さな値を取る確率のこと.言い換えれば,帰無仮説が成立する確率.
検定統計量(の絶対値)>境界値 帰無仮説を棄却 検定統計量に対するp値<棄却域の確率(1% or 5%が普通) 帰無仮説を棄却 - 帰無仮説は成立する確率が小さいほど,「それはレアなケース→そもそも帰無仮説が間違っている」とも言えるので,この場合帰無仮説を棄却する,ということになる.
2.平均値の検定(1標本のt検定)
標本から得られた平均値が母集団の平均値と等しいと考えてよいか,という検定.
(例)
和歌山の某梅干し工場では,塩分7%の梅干しを生産している.品質をチェックするため,30個の梅干しをピックアップし,検査したところ,平均は7.2%,標準偏差は0.6だった.帰無仮説:7%である 対立仮説:7%でない 母分散が既知の場合(z検定)
母平均をμ,母分散をσ ,標本平均をとすると,が正規分布に従うことを利用して検定する.帰無仮説はH0:= μである.ここで,nは標本数である.概ね標本数が30個以上ある場合は,母分散が未知であっても標本分散と等しいとみなして計算しても良い,と言われている.
母分散が未知の場合(t検定)
大抵の場合,母分散は分からない.ここでは,母集団が正規分布に従っていることが仮定されている.母集団が正規分布である場合,は自由度n-1のt分布に従うことを利用して検定する.ここでも帰無仮説はH0:= μである.また,sは標本標準偏差である.
Excelで求める
操作 関数名(引数) t分布の逆関数(両側)の値を求める t.inv.2t(確率,自由度) t分布の逆関数(左片側)の値を求める t.inv(確率,自由度) t分布の両側確率(p値)を求める t.dist.2t(t値,自由度) 例
和歌山の某梅干し工場では,塩分7%の梅干しを生産している.品質をチェックするため,30個の梅干しをピックアップし,検査したところ,平均は7.2%,標準偏差は0.6だった. 帰無仮説:7%である 対立仮説:7%ではない 母集団の分散が未知のケースの式に数値を代入すると,
t=((7.2-7)*√30)/0.6=1.826
この例では7%から高くても低くても製品としては不合格なので,両側検定を考える.自由度29(=30-1),有意水準5%のtの境界値はt.inv.2t関数を用いて
=T.INV.2T(0.05,29)=2.045 となり,「検定統計量(の絶対値)<境界値」より,
帰無仮説は5%の有意水準で棄却されない,つまり帰無仮説が採択され,梅干しの塩分濃度は7%である,という結論を得る.p値で考える場合,t.dist.2t関数を用いて,
=T.DIST.2T(1.826,29)=0.782 となり,5%,すなわち0.05より大きいので帰無仮説は棄却されない,となり,同じ結論を得る.3.分散の検定
分散の検定
得られた分散がある水準にあるのかの検定です.
母分散σ2に対する帰無仮説H0: σ2=σ02は標本分散s2を用いて,検定統計量,
が自由度n-1のχ2分布に従うことを利用して行われる.母分散の比の検定
2つのグループの分散が等しいかの検定.後述する平均値の差の検定の場合,それぞれが正規分布であることと,等分散であるという条件を満たさなくてはならない.そのため,この検定方法についても確認しておこう.
データX,Yの標本数をそれぞれ,m,nとし,標本分散をそれぞれsx2,sy2とすると,帰無仮説H0 : sx2=sy2に対して,
が自由度m-1,n-1のF分布に従うことを利用して検定を行う.Excelで求める
分散が等しいかの検定にはf.test関数がある.これはp値を出力する.定義通りに計算した場合には,棄却域にあたる確率,自由度を,それぞれの分布の逆関数の値を求める関数に代入して境界値を算出する.
操作 関数名(引数) 等分散の検定 f.test(データ範囲1,データ範囲2) カイ2乗分布の逆関数(左側)の値 chisq.inv(確率,自由度) カイ2乗分布の逆関数(右側)の値 chisq.inv.rt(確率,自由度) F分布の逆関数の値 f.inv(確率,自由度1,自由度2) Excelの分析ツールを使う方法についてはこちらを参照
4.平均値の差の検定(2標本のt検定)
- スチューデントのt分布を使って,2つのサンプルの母平均(母集団の平均)が等しいかどうかを確認する手法.
- 例えば,新しい錆止め剤をメーカーが開発して,その効果のほどを確認する際,サンプルを2つのグループ(新しい錆止め剤を塗ったものと,従来の錆止め剤を塗ったもの)に分け,2つのグループでその効果に差が生じているか(例えば1単位面積当たりの錆の数など)を検定する.
- こうした分析方法を2標本検定と呼ぶ.
- 2つのグループの分散が等しいかどうかで検定方法が異なる.
2つのグループの分散が等しいとき
同じ母集団からの2つの標本X,Yの大きさm,n,平均,分散をそれぞれ(, sx2),(, sy2)とすると,平均値の差の検定は,
帰無仮説H0 : =に対して,統計量
が自由度m+n-2のt分布に従うことを利用して検定する.ここで,s2は合算された分散で,
と定義する.
Excelの「分析ツール」では『分散が等しいと仮定した2標本による検定』がそれにあたる.2つのグループの分散が異なるとき
上の場合は2つのグループの分散が等しいことを前提としたが,当然,グループ間で分散が異なるケースがある.その場合はこちらの式を採用する.
この計算は上記の分散が等しい場合を含むので,常にこちらの計算方法で構わない.
検定はこのtが近似的に得られる自由度νのt分布に従うことを利用して行う.vの算式はここでは省略する.この検定はウェルチの検定と呼ばれるものである.
Excelの「分析ツール」では『分散が等しくないと仮定した2標本による検定』がそれにあたる.一対の標本を用いたt検定
- これは少し特別なケースのt検定.
- Excelのヘルプによれば,『1つの標本グループをある実験の前後で2度検定する場合のように,2つの観測値に自然な対の関係がある場合は,この形式のt検定を使います.』とある.
- 例えば,同じグループに事前にテストしてもらい,その後,勉強法を教えた後,再度テストを行ったような場合はこれにあたる.
- あるいは,あるダイエット方法を被験者に試してもらった前後のデータを比較したい時に適用する.
- 「対応のある平均値の差の検定」,「一対の標本を用いた平均値の検定」,「対応のあるt検定」などと呼ばれる.
イメージとしては,この前後の平均の差が0であるかどうかを検定する.帰無仮説H0 : D=0に対して,統計量,
がn-1のt分布に従うことを利用する.ここで,Dは対応のあるサンプルの差の平均,sD2は差の分散である.Excelによるt検定
例えば,このようなデータを分析してみよう.これは男女100人の身長,体重のデータ(仮想)です.以下の様にExcelの表の上にデータが並んでいたとする.※データはこの後にもならんでいる.
分かりきったようだが,男女の身長の平均が異なっていることを検定してみよう.帰無仮説,つまり直接検定する仮説は「男女の身長の平均に差がない(ゼロ)」となる.
- H0:男女の身長の平均に差がない
- H1:男女の身長の平均には差がある
ただし,このままでは分析に適さないので,例えば以下のように並べ替えをしたデータに対して分析を行なう.
でもっていよいよ分析を実行する.
【手順】
- メニューバーの「ツール(O)」
- 「分析ツール(D)」
- 「t検定」(ここでは,分散が等しくないと仮定した2 標本による検定)
の順で以下のダイアログが現れる.そこで,例えば次のようにデータ範囲,出力範囲を設定し,「OK」ボタンをクリック.
図中にあるように,「二標本の平均の差」には「0」を入力(両者の差はないことを帰無仮説にしているから).
データの範囲指定にデータの名前を含めていれば,「ラベル」もチェック.
「α」の部分は,棄却域の確率です.この確率に基づいてt境界値が表示される.
Excelによるt検定(出力結果)
先の分析を実行すると以下の結果が出力される.
検定結果を評価する際には(1)「P(T<=t)」あるいは,(2)「t」と「t>=t)」あるいは,(2)「t」と「t>
(1) P(T<> 帰無仮説を棄却 (2) t 境界値<「t」の絶対値 帰無仮説を棄却
- 仮に棄却域を5%(0.05)としたとき,片側,両側のP(T<=t)はどちらも0.05よりも小さいことが分かります.>=t)はどちらも0.05よりも小さいことが分かります.>
- t境界値は片側,両側とありますが,どちらの数値よりも「t」の絶対値9.65はこれを上回っている.
したがって,この例では「2つのグループの平均は等しい」という帰無仮説を棄却する.よって,2つのグループの平均身長は異なるということが分かった(あたりまえか).
Excelの関数で算出するt検定
上記のように「分析ツール」を使っても良いが,算出した統計量をさらに次の分析に移したいときや,マクロを書くときなどには「分析ツール」よりも関数を用いたほうが便利.以下ではt検定についての関数を挙げておく.
t分布に従う確率 t.test(配列1,配列2,尾部,検定の種類) t分布の値 t.dist.2t(値,自由度) t分布の逆関数(両側)の値 t.inv.2t(確率,自由度) ■ ttest関数は検定結果として帰無仮説が棄却できる確率(p値)を算出する
尾部は両側:2,片側:1を指定する
検定の種類は対をなすデータ:1,分散の等しい2標本:2,分散の等しくない2標本:3を指定する.■ t.dist.2t関数はt分布表(両側)の代わりに用いる.算式通りに計算して得られたt値を指定することで帰無仮説が棄却できる確率(p値)を求めることができる.
片側の場合は,t.dist.rt関数を用いる(右側)■ t.inv.2t関数もt分布表の代わりに用いる.棄却域(何%の有意水準で…というときの数値)と自由度を指定することで,そのときのt値(境界値)を求めることができる.結果は両側検定の場合の数値(片側の場合の数値が欲しいときはt.inv関数(左側)).
Copyright(C) 1997-2017 by ABE Keiji
All rights reserved.