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「遺伝子組み換えって、煮たり焼いたりすれば危なくないんだって」「醤油や味噌は発酵させるから大丈夫って聞いたわよ」スーパーで何気なく耳にした会話。ちょっと違うんじゃない?と思っても、遺伝子組み換えに対する不安感は漠然としたもの。何がそんなにいけないものなのか、ほとんどの人には反論するだけの確たる知識がない。

その取り扱いや輸出入をめぐって、農家も大企業も、国を上げての大騒ぎになっているのに、肝心の台所をあずかる消費者には、選択の余地が限りなく狭い。それは、アメリカやカナダの製品には遺伝子組み換え作物の表示義務がないから。それって本当に大丈夫?


<農業の技術革命? 遺伝子組み換え作物>

遺伝子組み換え作物 Genetically Modified Foods(GMF)とは、ある生物の遺伝子に他の生物の遺伝子を組み込んで、その生長・栽培を人為的にコントロールしようとする技術。

例えば、あらゆる植物を枯らしてしまうほど強力な除草剤ラウンドアップを大豆畑の雑草とりに撒くと、当然大豆自体も枯れてしまう。そこで土壌中に生息する微生物アグロバクテリウムが持つ、除草剤の影響を抑える遺伝子を大豆に組み込む。この除草剤耐性大豆は、除草剤をいくら撒いても平気でぐんぐん育ち続ける。

また、トウモロコシの害虫アワノメイガは、病原菌バチルスの毒素に感染すると死ぬ。そこで、この病原菌の遺伝子を、トウモロコシの遺伝子に組み込む。殺虫トウモロコシを食べたアワイノガは、トウモロコシ自体が作り出した毒素によって死んでしまうので、農薬がいらなくて合理的といった具合。

この技術により、遺伝子という生物の設計図を操作して、自然界では起こり得ない「種の壁」を乗り越えた。従来の品種改良では、味のいいリンゴ同士を掛け合わせることはできても、リンゴとブトウの掛け合わせは不可能だった。

ところが、遺伝子組み換えでは、まったく違う生物種の間で、遺伝子が直接やり取りされる。ホタルの遺伝子で光るナス、微生物の遺伝子で殺虫毒素を作るジャガイモ、腐らないトマト、これまで人類が一度も口にしたことのないような作物が、そのまま私たちの食卓にのぼることになる。


<100年食べてもだいじょうぶ?>

遺伝子組み換え食品の毒性試験は3年半まで。それ以上長期間食べ続けることによる慢性毒性やアレルギーの発生、また遺伝子を操作することで全く未知の毒性物質やアレルギー物質が生じる危険性など、健康への影響は調べられていない。

特に、組み換えられた遺伝子は次世代に受け継がれていくことがわかっているので、今の世代の選択が私たちの子孫に思わぬ惨事を招くことにもなりかねない。

★ 実例1:トリプトファン事件(1989年アメリカ)

昭和電工が製造した健康食品トリプトファンを食べて、1500人以上が障害を起こし、38人が亡くなった。必須アミノ酸の一種トリプトファンを作る微生物に、生産力を上げるため枯草菌の遺伝子を入れたところ、予期しなかった有害物質を生成して製品に混入したために起きたもの。

★ 実例2:ブラジルナッツ事件(1996年アメリカ)

種子会社 Pioneer Hi-bred International が、完全なタンパクを持つ大豆を作ろうと、ブラジルナッツのアミノ酸生成遺伝子を大豆に組み込んで試したところ、ナッツアレルギーをもつ人に反応が出たため、実験を取り止めた。


<遺伝子は走り出したら止まらない>

遺伝子組み換え食品の危険性は、人間だけにとどまらない。例えば、遺伝子組み換え作物が栽培され自然界と接触をもつことによって、導入された遺伝子が野生生物に移行する遺伝子汚染や、組み換え作物が標的以外の生物に悪影響を及ぼす危険性などがある。

実際に、除草剤に耐性をもった雑草が確認されたり、殺虫性作物が益虫を殺してしまい害虫が大量発生した例などが起きている。遺伝子組み換え作物の広まりによって、絶妙なバランスの上にある生態系が乱され、生物の多様性が脅かされる。

★ 実例3:各地に広がる遺伝子汚染

デンマークの国立リン研究所のグループが、除草剤耐性の組み換えナタネの近くに、ある雑草を植えたところ、それらが交配し、組み換えナタネに導入された遺伝子が雑草に移行して除草剤耐性を持つようになった。しかもそれが子孫にも高い割合で受け継がれることがわかった。

このほか、組み換えジャガイモや組み換えハツカダイコンが、1キロメートル離れた従来のジャガイモやハツカダイコンと交配し、遺伝子が移行することも確認された。

また、組み換え作物に導入された遺伝子が微生物に移行し、自然界に存在しない新たな微生物が誕生し得ることがミシガン大学の実験で証明された。

★ 実例4:チョウやハチを殺すトウモロコシ

遺伝子を組み換えて殺虫毒素を持たせたトウモロコシが、益虫にも害を及ぼす恐れがあると、米コーネル大のローシー助教授らが英科学誌ネイチャーに発表。細菌毒素BTの遺伝子を組み込んだトウモロコシは、農薬の使用を減らせる上、害虫以外には有毒性はないとされていたが、この品種は花粉にも毒素ができることから、トウモロコシ畑の周囲に多いオオカバマダラというチョウへの影響を実験室で確かめた。

このチョウは幼虫の間、畑の周囲に生えるトウワタとう植物の葉を食べて育つ。トウワタの葉にBT遺伝子を組み込んだ品種の花粉を振り掛け、この葉と一緒に幼虫を飼育した結果、4日間で幼虫の44%が死亡。一方、普通のトウモロコシの花粉を振り掛けた葉で育てた幼虫はすべて生き延びた。

トウモロコシの花粉は風で60メートル以上飛ばされて周囲に広がる上、花粉が出る時期とチョウの育つ時期が一致しているため、自然の状態でも、チョウやハチに被害が出ている可能性が高い。また花粉や蜜を集めるチョウやハチの活動に頼って自然受粉している植物にも甚大な影響を及ぼす。


<人為淘汰される植物たち>

現在、市場に出回る野菜は、商業用に改良された特定の品種に限られている。収量も多く、味も良い、そのうえ虫もつかないとなると、その品種ばかりが出回ることになり、一方で栽培されなくなった他の品種は、人為淘汰されて自然界から無くなってしまう。

★ 実例5:絶滅に瀕する植物

地球環境問題の民間研究機関ワールド・ウオッチ(本部ワシントン)が、世界で約3万種以上もの植物の「種」が絶滅の危機にあると発表。病害虫に強く多収穫になるように遺伝子を組み換えした農作物の品種改良が、植物の多様性を失わせると指摘。また、品種を限って栽培すると、予期せぬ災害、病害虫の大発生などが起きた場合に対応できず、食糧危機を招く恐れがある。

世界で最も絶滅の恐れのある植物種が多いのは米国で、4669種が絶滅の危機にある。米国では、約100年前に存在していた野菜の種のうち、現在商業的に栽培されているのは20%未満。中国では第二次世界大戦以降、小麦の種が90%近く絶滅してしまった。

世界的に進む生物の種の絶滅を防ぐ「生物多様性条約」の下で、遺伝子組み換え作物の国際的な取引規制が検討されているが、モンサントなど大企業の圧力がかかっている米政府の反対で、国際的合意ができていない。


<企業は食糧難を救えるか>

多国籍企業はその技術を進めるために、発展途上国の資源から採れる遺伝子に特許をつけて独占し、その遺伝子を組み換えた農作物を大規模に栽培して輸出したり、種と除草剤をセットにして売りつける彼らはこうした「遺伝子組み換え作物」を、食糧自給率の低い国に売り込み、利益の増大を図っている。

つまり、彼らの技術は、食糧危機を解決するものではない。遺伝子に特許をつけて彼らを保護するといった自由貿易体制に基づく世界貿易のルールは、実は多国籍企業煮だけ非常に都合良くできている。


<遺伝子組み換えはオーガニック???>

殺虫トウモロコシには農薬がいらないから、限りなくオーガニックに近いとの主張がある。だが、コーンチップスに加えられた添加物は表示されるのに、主原料のトウモロコシ自体が殺虫毒素を含むことは知らされていない。

農薬なら洗ったり煮たり焼いたりしたら少しは落とせるが、遺伝子の情報伝達により生みだされた毒素は、いつまでもタンパク質内に存在する。発酵食品も、完熱状態でタンパク質が完全に分解されない限り影響が残るので、速醸法で大量生産された味噌や醤油は必ずしも安全とはいえない。

また、除草剤耐性作物には、これまで以上に除草剤が使われる可能性があり、残留農薬や土や水への汚染度も計り知れない。


<自分で食べるものは自分で選びたい>

現在、北米で栽培される大豆や綿の半分、トウモロコシの3分の1は遺伝子組み換え作物。しかもそれらを、普通の作物と分別して流通されるシステムはなく、ヨーロッパではそれを理由に北米産トウモロコシを輸入禁止にしている。

忘れてならないのは、遺伝子組み換え技術はあくまで売り側、作る側の利便を追及したもので、食べる側の利益は考えられていないこと。政府が決めたことだから、大企業がしていることだからと安心してはいられない。

現在、日本製の醤油や味噌、お菓子など加工食品の原材料にも、遺伝子組み換え作物がかなりの割合で使われている。しかも、みんなが知っている大企業の製品ばかり。

今までに、科学的に「安全」とされてきたものが後に「危険」とわかったことは数多くある。また食品添加物のように直感的に「危険だ!」と思ったことが、当たっていたことも少なくない。遺伝子組み換え食品を選ぶか否かは、確実な知識をもって、私たち一人一人が主体的に判断したい。

(石川まりこ)


<参考>
Organic Gardening
(January/February 2000:Rodale Inc.)


オーガニック・ライフ・サークル会報
2000年2月・3月号(No.27)掲載