琴葉葵が綴るお姉ちゃんの日常(奇行)
いわゆる小ネタ集その3です。
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○月×日
「ぬおおおお」
家に帰ると、お姉ちゃんが呻きながら切れの無いV字バランスをやっていた。
「……なにしてんの、お姉ちゃん」
「腹、きん、や、腹筋、が」
ふんふん身体を揺らしながら言うお姉ちゃん。
なんだ、V字バランスならぬV字腹筋だったか。
それにしてはホント切れが無い。足も上半身もちょびっとしか浮いてないぞ。
もうちょっと頑張って、お姉ちゃん。
「腹筋、できんのやー」
「って出来てないんかーい」
ぶはあっと息を吐きながら脱力したお姉ちゃんに思わずツッコんでしまった。
V字腹筋じゃなくて普通に腹筋しようとしてたのか。
「まさかお姉ちゃんが足を抑えないと腹筋出来ない勢だったとは」
「なんやねんその呼び方ー。なんかバカにされとるきーするんやけど」
「そんな事ないよん」
ジト目のお姉ちゃんに向けて、てへっと舌を出してみる。
納得してないようなので助け舟を出してあげようか。
「それじゃ、私が足抑えててあげるから。それで出来るでしょ」
「おお、頼むわ葵ー」
お姉ちゃんの足をしっかりと固定。準備オーケーだ。
これならちゃんと腹筋できるだろうけど……。
「しっかしなんでいきなり腹筋なんかしてんの?」
「それがな、ウチちょっと体重増えててん、こりゃあかん思ってダイエットやん」
「んー、太ったようには見えないけどねえ」
私の目からは太ったようにはぜんぜん見えない。
ただまあ私達もお年頃の乙女だ、体重は気になって当然。一キロの差が許せない事も無くはない。
「ふっ、ふっ」
そうやって観察しているうちに、お姉ちゃんが腹筋を開始していた。
足を抑えた状態なら問題ないのか、調子良く腹筋をするお姉ちゃん。
「ふっふっふっふっ(ドヤァ…)」
「ぶっふぉっ!?」
「ってあああああああー!?」
ごろごろと転がっていくお姉ちゃん。
一体何があったかって?
腹筋をしていたお姉ちゃんが唐突にドヤ顔をかましてきたんだよ。
間近でそれを炸裂された私は堪らず決壊、抑えていた足を離してしまったのだ。
その結果があれだ。
相当な力を足にも込めてたんだろう。急に固定を外されたお姉ちゃんは勢い余って後方回転していった。
「いったいなー、なにすんねん葵ー!」
「それはこっちの台詞だよ!」
想像してほしい。腹筋している人の足を抑えていると、上体を起こしたときに二人の顔が接近するだろう。
そこでドヤ顔だ。ただの悪ふざけなんだろうけど、効果は絶大だ。会心の一撃だった。
「もう、真面目にやってよね」
「わーったから、ちゃんと抑えといてー」
私の苦言にしぶしぶと言った感じで応えたお姉ちゃんは、腹筋を再開する。
「ふっ、ふっ、ふっ」
今度は真面目に腹筋を続けるお姉ちゃん。
しかし、普段はこんな筋トレなんてしない人だ。
早々に疲れてきたのか、その端正なお顔が崩れてきた。
「ふっ、ふぉっ、ふっ、ふぇっ」
「ぶっふぅっ!?」
「っんあああああああー!?」
ごろごろと転がっていくお姉ちゃん。
「なんやねん葵! ウチ真面目にやっとったやん?」
「ちょっ、ごめんごめん」
いや、確かに真面目だったけど、ちょっと必死すぎやしませんかね?
失礼な話だけどさ、顔がヤバイんだって。
リズミカルに接近する顔がだんだんヤバくなってるんだって。
なにこのアハ体験。
「もう疲れたでしょ。ちょっと休憩しよう?」
「まだまだや、きつい時こそ頑張るべきやんか」
変なところで真面目なお姉ちゃん。
たしかにそうかもしれないけどさ、私の腹筋まで鍛えなくていいんだよ。
「ふっ、ふぅっ、ふぉっ、んふぅっ」
「……っ、っく」
上体が起きる毎に険しくなる顔。その顔に合わないリズミカルな動作。
まって、ほんとまって。これじゃ私の腹筋が先に割れちゃうじゃん。
「ふっ、ふぅっ、ふぉっ、くふぅっ」
「ぶっはっ!?」
「っおあああああああー!?」
ごろごろと転がっていくお姉ちゃん。
「こらあー! なんやのいったい――」
「うふふふふふ!」
あああああお腹痛い痛いからこれ!
ダメだって今の顔は反則だって一発レッドだって!
「っんく! ふ、ふふっ! ふふふふ!」
「な、なんでそんな爆笑しとんのや!? ちょお、葵ー!?」
「うふふふふあははははは!」
困惑しているお姉ちゃんの横で、私はお腹をおさえながら笑い続けていた。
◆
翌日。
「うああああお腹痛いよー葵ー」
「私も痛いんだから騒がないでよ……」
私達二人は揃って腹筋の筋肉痛に苦しんでいた。
「二人揃ってお腹痛いってどういう事なんかね……」
「お姉ちゃんは筋トレが効いてる証拠だから良いじゃん……」
私は完全にとばっちりだ。
てかダイエットならジョギングとかをやればよかったじゃんか。
「ふふ、真面目にやっとったウチを笑ったんやから天罰やで」
「あ、そんな事言っちゃう?」
イラッと来たからお姉ちゃんのお腹をつついてやった。
「ちょっ、やめ、葵、ゴメンて葵ー!」
「ふふふ、反省しなさいー」
「ああああああ!」
□◆□
○月△日
「……」
家に帰ると、机の向こう側に白い脚が二本生えていた。
「……なにしてんの、お姉ちゃん」
「ああ、これはヨガの頭立ちのポーズやー」
足が返事を返してきた。
机の向こう側に回ると、お姉ちゃんが脳天を地面に付けて逆立ちのようにピンと足を伸ばしている。
というか何、ヨガって言った?
「また唐突だね。てっきり犬神家の真似かと思った」
「そっちの方が唐突や!」
鋭いツッコミを返しつつバランスが崩れて倒れるお姉ちゃん。
結構綺麗だったのに。悪い事したかな?
「それで、なんでヨガなの?」
「なんや知らんのか、ヨガはダイエットにもええんやで」
ドヤ顔がむかつく。てかまだダイエットしてるのか。
「ふーん、そんなに効くの? ストレッチみたいなもんじゃないの?」
「お、いうたな。ヨガは凄いんやで?」
そう言ってなにやら体制を整えるお姉ちゃん。
いつのまにそんなにかぶれてしまったのか。変なものが好きだけど、流行にも弱いんだから。
しかし、そんな私の考えをよそに、お姉ちゃんは綺麗なポーズを取ったのだった。
「よっと」
「おお、さっきのポーズ」
頭立ちのポーズとやらだ。なんだか悔しいが綺麗に出来てる。
何気に運動神経は悪くないんだよなあ、この人。
「ふふふ、まだまだこっからや。こっからー、こう!」
「おおお!?」
お姉ちゃんはそこからポーズを変えた。
「これがさそりのぽーずや!」
「な、凄いかも……」
お姉ちゃんが見せたさそりのポーズに衝撃を受ける。
こんなポーズ私には出来ないと思う。
「ふふふ、じゃあ次はこうや!」
「おおおおお!」
気を良くしたのかまたポーズを変えるお姉ちゃん。
「これはカラスのポーズや!」
「す、凄いよ、お姉ちゃん!」
カラスのポーズも凄かった。我が姉ながらそのバランス感覚に驚嘆する。
「ふははは、じゃあ次はこれやー!」
「わー! 凄い凄い! お姉ちゃんカッコ良い!」
次々にポーズを変えるお姉ちゃん。
私はその数々のポーズにすっかり魅了されてしまった。
「どうや、ヨガは凄いやろ!」
「うん、びっくりした! お姉ちゃん凄い!」
こうして、私は不覚にもヨガで盛り上がってしまった。
それはお姉ちゃんが疲れてぶっ倒れるまで続いたのであった。
◆
翌日。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「これもう何回目なのよ」
お姉ちゃんがゾンビみたいな声を上げていた。
相変わらずの筋肉痛だった。
「なんでヨガで筋肉痛になるんよ……、激しい運動でもないやんか……」
「普段使わない筋肉使ったんでしょ」
動きは無くても筋力使いそうだしね。私にはとてもじゃないけど出来そうに無いや。
「でも昨日のは凄かったなあ、またやってよお姉ちゃん」
「お断りや……」
ゾンビのような声で答えるお姉ちゃん。
ちぇっ、残念。
□◆□
ある日の夜。
私はお風呂上りに、洗面所で体重計を見つけた。
最近お姉ちゃんがダイエットしているのを思い出して。そういや私も最近乗ってないなぁと、それに乗ってみた。
「……っえ゛!」
自分の目を疑った。数キロ増えている。そんなバカな!!!
「嘘、嘘、なんで……ってこれ?」
パニックになって体重計をガン見してると、おかしな事に気付いた。
「……針ズレてんじゃん」
家の体重計はレトロなアナログ式だ。その針が数キロ分ズレていた。
「なんだー、びっくりしたあー!」
なんというかベタな展開だが、体重が増えていた訳ではない事に心底ホッとする。
もう本気で焦ったぞ。
そして同時に理解した。
「お姉ちゃんも勘違いしてるんだろうな」
きっとお姉ちゃんは針のズレに気付かなかったんだろう。
「ふむ……」
私は針のズレを正しく直してから、お姉ちゃんを呼びにいった。
「ねえ、お姉ちゃん。最近なんか痩せたんじゃない? 体重量ってみたら?」
「ええ、この前は変わってなかったんやけど……」
「いいからいいから」
そう言って強引に洗面所に連れて行き、体重計に乗せる。
「――っ!」
驚いたように目を見開くお姉ちゃん。そこから数秒のタメの後、痩せたー!、と凄く喜んでいた。
まあ、実際には変わってないんだろうけど。
お姉ちゃんの喜ぶ顔が見れたから、良しとしよう。