泌尿器科学講座紹介

精巣腫瘍に対するブレオマイシン―エトポシド―シスプラチン併用化学療法(BEP療法)

  1. 治療について

  2. このブレオマイシン+エトポシド+シスプラチン療法(BEP療法といいます。)は精巣腫瘍の化学療法として1980年台から施行されている化学療法の1つです。精巣腫瘍のなかで最も使用されている化学療法でもあり、その適応は国際的な診断基準に基づいて検討し判断しています。その治療効果は化学療法を始める前の患者さんの病気の状態(病期)やこれまでの報告によりますが、5年生存率が50~95%前後となっています。
    ブレオマイシンは、1969年に元厚生労働省から承認され、比較的広い抗腫瘍効果のある化合物であることから、精巣腫瘍の他に皮膚癌、頭頚部癌、肺癌、子宮頚癌、甲状腺癌など幅広く化学療法剤として使用されています。
    エトポシドは1987年に元厚生労働省から承認され、こちらも比較的広い抗腫瘍効果のある化合物であることから、精巣腫瘍の他に肺小細胞癌、悪性リンパ腫、急性白血病、膀胱癌など幅広く化学療法剤として使用されています。
    シスプラチンは、1983年に元厚生労働省から承認され、先の2剤と同様に比較的広い抗腫瘍効果のある化合物であることから、膀胱癌、腎盂・尿管癌、卵巣癌、頭頸部癌、胚細胞腫瘍など幅広く化学療法剤として使用されています。

  3. 治療方法

  4. 投与スケジュール
    薬剤 標準投与量
    (体表面積あたり)
    1~5日目
    (連日投与)
    2日目 9日目 16日目
    ブレオマイシン 30 mg/body ○ ○ ○
    エトポシド 100mg/m2 ○
    シスプラチン 20mg/m2 ○

    治療第1日目に点滴を開始し、治療第 1~5 日目まで毎日エトポシドとシスプラチンの点滴(静脈内注射)を行います。治療第2、9、16日目にブレオマイシンの点滴(静脈内注射)を行います。その後休薬日を入れ治療21日目(3週間)までを1コースとして、同じ内容の治療を繰り返します。
    なお、第1~5日目の投与は入院して行い、第9、16日目の投与は外来で行う(専用の部屋があります)ことも可能ですが、基本的には入院して施行します。(患者様の状態に応じて主治医が判断します。)
    エトポシドとシスプラチンの実際に投与する量は腎機能、肝機能、骨髄の機能の状態など、全身状態により減量する可能性があります。また副作用その他の要因により予定された治療や投与日を適宜変更、延期、中止する可能性があります。また、これらの薬剤の他に、点滴、副作用防止の薬剤など、他の薬剤の投与も同時に行われます。
    治療期間中は定期的に症状の観察や適宜の血液検査、腫瘍マーカー、X線検査、CT検査などを行います。いずれもこの治療法の効果と安全性を詳しく調べるために行いますので、従来の治療を行けるときよりも、血液検査や画像診断の回数は多くなるかもしれません。

  5. 予想される副作用

  6. 化学療法の一般的な副作用(有害事象)として、比較的よく認められるのは以下の4つです。

    1. ①骨髄抑制(20~100% :白血球減少、血小板減少、貧血)、感染症(発熱性好中球減少症、敗血症など)(*重症感染症は1.4~1.9%認めます)
    2. ②粘膜炎(10~25% 口内炎、胃潰瘍など)
    3. ③悪心・嘔吐(10~25% )
    4. ④脱毛(10~60% )
    さらに上記4つ以外の副作用として抗癌剤の血管外漏出、アレルギー、全身倦怠感、食欲低下、下痢、末梢神経障害、聴神経障害(耳の聞こえの障害)、造精機能障害(精子を造る機能の障害)、臓器障害(肝、腎、心、内分泌腺、生殖器など)、浮腫(むくみ)、皮膚の色素沈着、爪の異常やその他の副作用が起こりうる可能性もありますが、これらの副作用の防止および発生後対策は、米国癌治療学会や米国感染症学会の推奨するガイドライン等に準拠して対策を行っています。
    他にもブレオマイシンにより間質性肺炎という重篤な副作用が生じることがありますが、定期的検査により早期発見に努めています。(化学療法前に肺病変がある場合にはこの化学療法できない場合もあります。担当医へご相談ください。)とくにこの間質性肺炎は、喫煙者(とくにヘビースモーカー)、50歳以上、腎機能低下の方にリスク(危険)が高くなりますので注意が必要です。喫煙している方は、禁煙していただきます。
    また稀ながら死亡にいたる可能性もあります。(BEP療法では約0.8~4.3%前後の死亡率が報告されています)その原因としては、間質性肺炎、重症感染症が主です。

    各薬剤のついての主な副作用について次に記載します。各薬剤の副作用は必ず起こるものではなく、また組み合わせて使用することで副作用が増加したり逆に減少したりすることがあります。

    *ブレオマイシンの主な副作用
    総症例1,613例(承認時374例、市販後調査1,239例)における主な副作用は間質性肺炎・肺線維症等の重篤な肺症状10.2%、皮膚の硬化・色素沈着40.6%、発熱・悪寒39.8%、 脱毛29.5%、食欲不振・体重減少28.7%、全身Π怠感16.0%、悪心・嘔吐14.6%、口内炎13.3%、爪の変化11.2%などであった。重大な副作用として、1)間質性肺炎・肺線維症(10%)2)ショック(0.1%未満):ショックを起こすことがある。3)出血(2%):癌病巣が急速な壊死を起こし、そのために出血することがある。この他に、10%以上または頻度不明として脱毛、皮膚肥厚、色素沈着、爪の変形、皮膚の強皮様変化、食欲不振、悪心、嘔吐、口内炎、発熱、倦怠感がある。1~10%未満の頻度で、発疹、じんましん、口角炎、頭痛がある。1%未満の頻度で、下痢、肝機能障害、尿量低下、排尿時痛、頻尿、残尿感、白血球減少、注射部位の硬結や肥厚が認められました。
    *エトポシドの主な副作用
    総症例4,586例(承認時561例、使用成績調査4,025例)における副作用及び臨床検査値異常の発現率は89.2%であり、主なものは白血球減少68.5%、貧血(赤血球減少及びヘモグロビン減少)51.8%、血小板減少46.0%、食欲不振49.5%、脱毛44.4%、嘔気39.9%、嘔吐30.3%、Π怠感19.4%、発熱10.2%、口内炎9.7%などであった。〔再審査終了時〕 重大な副作用として1)汎血球減少(0.2%)等の骨髄抑制:汎血球減少、白血球減少、好中球減少、血小板減少、出血、貧血等があらわれることがある。2)ショック(0.2%)、アナフィラキシー様症状(頻度不明):ショック、アナフィラキシー様症状を起こすことがある。3)間質性肺炎(0.1%未満):発熱、咳嗽、呼吸困難、胸部X線異常、好酸球増多等を伴う間質性肺炎があらわれることがある。
    10%以上または頻度不明として脱毛、食欲不振、悪心、嘔吐、発熱、倦怠感がある。1~10%未満の頻度で、肝機能低下、下痢、便秘、腹痛、口内炎、頭痛、頻脈、発疹がある。1%未満の頻度で、紅斑、かゆみ、色素沈着、しびれ、肝機能障害、心電図異常、電解質以上、顔面の赤み、味覚異常、血しょう総蛋白低下などが認められました。
    *シスプラチンの主な副作用
    総症例8,787例(承認時1,339例、市販後調査7,448例)における副作用及び臨床検査値異常の発現率は85.6%であり、主なものは嘔気・嘔吐74.6%、食欲不振62.2%、全身Π怠感34.8%、脱毛25.7%、白血球減少36.5%、貧血28.0%、血小板減少17.0%、腎機能低下(BUN上昇14.3%、クレアチニン・クリアランス値低下14.1%、血清クレアチニン上昇6.6%等)でした。
    重大な副作用としては、急性腎不全(0.1%未満)、汎血球減少(0.1%未満)等の骨髄抑制(貧血、白血球減少、好中球減少、血小板減少等があらわれることがあります)、ショック、アナフィラキシー様症状(0.1%未満)、聴力低下・難聴(1.4%)、耳鳴(1.7%)、うっ血乳頭、球後視神経炎、皮質盲(すべて0.1%未満)、脳梗塞(0.1%未満)、一過性脳虚血発作(0.1%未満)、溶血性尿毒症症候群(0.1%未満)
    心筋梗塞、狭心症、うっ血性心不全、不整脈(すべて0.1%未満)、溶血性貧血(0.1%未満)、間質性肺炎(0.1%未満)、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(0.1%未満)、劇症肝炎(0.1%未満)、肝機能障害(頻度不明)、黄疸(0.1%未満)、消化管出血、消化性潰瘍、消化管穿孔(すべて0.1%未満)、急性膵炎(0.1%未満)、高血糖( 0 . 1 % 未満)、糖尿病の悪化( 0 . 1 % 未満)、横紋筋融解症(0.1%未満)が認められました。

    以上がブレオマイシン、エトポシド、シスプラチンについて報告されている主な副作用ですが、予想外の副作用が現れることもあります。しかし、すべての患者さんにこれらの副作用が現われるというわけではありません。また、白血球(好中球)減少に伴い熱が出たり肺炎などの感染症を併発したりすることがあります。
    また、吐き気が出ることも予想されますので、吐き気止めの薬が必要になることがあります。

  7. 医療費について

  8. 本治療はすべて通常の保険診療で行われますので、患者さんはご自身の健康保険内の自己負担分のみの負担となります。 抗癌剤は比較的単価が高額なものが多いため、自己負担額も高額となる場合があります。そうした場合の経済的な負担を軽くするために設けられた制度の一部を下記に示します。

    1. 1) 高額療養費制度:医療費の自己負担額は所得に応じてひと月の自己負担限度額が定められており、その金額を越えた部分は申請により高額療養費として払い戻されます。
    2. 2) 貸付制度:医療費が高額で支払いが困難な場合、高額療養費として払い戻される見込み金額の8~9割相当の金額を無利子で貸し付ける制度です。
    3. 3) 委任払い:保険者によって取り扱っていない場合がありますが、自己負担限度額のみ医療機関の窓口で支払い、高額療養分を保険者から医療機関に支払われる制度です。
    4. 4) 医療費控除:納税者が1年間に本人または家族(生計を1にする親族)のために支払った医療費が一定額を超える場合に、超えた部分が医療費控除となり確定申告をすれば税金が還付される制度です。



2) 進行性尿路上皮癌への化学療法