Q.アキュテイン治療の副作用にはどんなものがありますか?
アキュテイン(イソトレチノイン)の副作用は多岐に渡りますが、代表的なものは皮膚、口、鼻、眼の粘膜の乾燥です。この副作用はほぼ100%の患者さんに起こります。乾燥によって皮膚炎、口角炎、口唇炎、鼻出血、ドライアイが起こる可能性があります。
顔だけでなく体全体が乾燥しますので、保湿剤をしっかり使用していただきます。顔の保湿はできるだけニキビが出来ない処方の保湿剤(当院では、調剤化粧品のVCローションやEGホワイトローション・EGホワイトクリームを推奨しています)、体や唇の保湿はワセリン(当院ではサンホワイトを推奨しています)を中心に、顔、体全体を保湿していただきます。保湿対策を十分行うことによって、治療に耐えられないというほどの乾燥は起きません。
頻度は下がりますが、骨、筋肉、関節の痛みや、頭痛(頭蓋内圧を亢進させるため、吐き気の症状が出た場合は注意が必要です)、赤ら顔などの副作用もあります。血液検査では、肝機能障害、腎機能障害、膵機能障害、中性脂肪、コレステロール、血糖値、尿酸値の上昇、血球成分の減少や増加、CPKの上昇などがみられます。
脱毛の副作用についてよく男性患者さんから聞かれるのですが、脱毛は2%~4%程度の患者さんに認めます。いきなりバッサリと髪が抜け落ちることはなく、抜け毛が多くなってきたかなという程度から始まりますので、中止すれば元に戻ります。
アキュテインの脱毛の理由としては、頭皮の乾燥による抜け毛もありますが、細胞のターンオーバーの亢進→毛周期の亢進による「休止期の毛の脱毛」が主なものとなります。内服中止によって脱毛の進行は止まり、元に戻るはずなのですが、極稀に回復しない例も報告されています。回復しない例は、基礎疾患にAGAなどがある方がほとんどです。
もともと毛周期が短縮していて、なおかつ成長期の毛が少ない患者さんの場合、アキュテインの服用により一過性に休止期脱毛が増えると、例えその後アキュテインの中止により脱毛の進行が止まったとしても、成長期の毛が追い付かないために回復しないのではないかと推察しています。いずれにしても、抜けるのは休止期の毛であり、本来は自然に抜け落ちるのを待つ毛になりますから、過度に心配する必要はないと考えます。逆に、脂漏性脱毛に悩まされている方は、アキュテインの服用により脱毛が減り、多毛になるといった副作用(副効用)も報告されていますが、こちらもアキュテインの服用中止により元に戻ります。
非常に稀ですが、重篤な副作用として視力低下、視野障害などの目の異常、急性膵炎、急性肝炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、アナフィラキシーショック、スティーブンス・ジョンソン症候群、自殺衝動などが報告されています。女性には胎児の催奇形性という重大な副作用があるため、内服中及び内服中止後6ヶ月間は必ず避妊を行っていただきます。また、処方には1ヶ月に1回の妊娠反応検査が必要です(アメリカのiPLEDGE programに準拠)。
そのほかの副作用については、診察時に副作用シートをお渡しして詳しく説明しています。何か不安なことがあれば遠慮なく医師にご相談ください。
11年間で私が経験した重篤な副作用は、以下のものがあります。
目の異常 3名
潰瘍性大腸炎 1名
高度のアレルギー 2名
敗血症 1名
目の異常については、2名の患者さんが目のかすみや近くのものが見えづらいといった症状を訴えたため、すぐに薬を中止して眼科の検査を受けていただきました。特に眼科検査の結果は異常はなく、視力低下等の後遺症も残さずに症状は回復しました。1名の患者さんについては、目のかすみを自覚されたために薬を中止して、眼科の検査を受けられたはずですが、結果のご報告を頂けないままで過ぎてしまっています。何か異常がある場合、連絡するように指示していましたので、特に問題がなかったものと思っています。(追記:2015年10月来院されて、症状もなくなり、眼科の検査でも異常がなかったとのことでご報告いただきました)
潰瘍性大腸炎については、1名の患者さんがアキュテイン治療終了後に潰瘍性大腸炎と診断されました。因果関係は不明でしたが、念のためその後のクールは行わずに経過を見ていただきました。現在はご家族から潰瘍性大腸炎の症状は寛解していると伺っています。2014年の調査では、アキュテインと大腸炎に関しては明らかな因果関係は証明されず、ニキビがある患者さんはアキュテインの服用をしているしていないに関わらず、腸炎を起こしやすいという報告があります。つまり、肌にニキビの炎症が起こりやすい方は、もともと腸の炎症も起こしやすい体質であり、アキュテインによって大腸炎が引き起こされる率が上がるわけではないという報告です。
また、ほとんどの患者さんがアキュテインの治療前に抗生物質を長期服用しており、抗生物質の腸への影響も示唆されています。ただ、副作用の可能性は否定できないため、当院では患者さんへは腸疾患の副作用の可能性があるものと説明しています。そのため、潰瘍性大腸炎やクローン病の持病をお持ちの方には、原則治療は行っておりません。
高度のアレルギーについては、1名の患者さんから飲み始めて1週間で38度の発熱が起こったという電話をいただきました。蕁麻疹などの薬疹は出現しておらず、他の感染性疾患(感冒等)の可能性も否定できませんでしたが、アレルギーによる発熱の可能性もあったため、薬を中止していただきました。
もう1名のアレルギーの患者さんは、内服して3週目ほどで全身に発疹が起こり、発熱と口腔粘膜のびらんを認めました。スティーブンスジョンソン症候群に近い形でしたが、幸い数日入院して、後遺症も残らずにすぐに軽快しました。
敗血症については、薬の直接的な副作用ではありませんが、間接的な副作用として起こりました。その患者さんは、過去に私が診た中でも最重症例でした。顔、胸、背中、腕やお腹、お尻や太ももまでニキビで埋め尽くされてしまっている全身性の「集簇性ざ瘡」の患者さんでした。大学病院で改善されないとのことで、当院を受診されました。
抗生物質と併用してアキュテイン治療を開始しましたが、アキュテインの一時的にニキビを悪化させる副作用が強く出て、全身のニキビが悪化して皮膚感染症を併発し、CRP(炎症反応の指標)が15まで上昇したため、山口病院へ緊急で入院してもらいました。血液培養や皮膚感染巣の培養検査を行い、強力な抗生物質の全身投与によってショック状態までには至らず、炎症は快方へ向かいました。その後、地元の病院へ転院していただき無事に退院されましたが、アキュテイン治療を継続できなかったため、根本的にニキビができる体質を治すことができませんでした。退院してから元気でやっていますというハガキを頂きましたが、もう少し何とかできたのではないかと非常に悔やまれる症例です。
アキュテインは以上のように副作用がある薬剤ですが、定期的に副作用チェックを行い、対処が早ければ重篤な後遺症を残す副作用は非常に稀です。当院では、副作用には厳重な注意を払いながら治療を行っています。
なお、「ある種のビタミン」(ビタミンEのことだと思われますが)によってアキュテインの副作用を予防できると謳っているクリニックがあるようで、患者さんから時々そのような質問を受けますが、残念ながらビタミン剤でアキュテインの副作用を防ぐことはできません。
1997年にアキュテインを使用した癌患者さんで、ビタミンEを1日800IU(約530mg)併用した群で毒性が下がったという報告がありました。その後、ニキビ患者さんに対する追加試験が行われましたが、ビタミンEを服用した群と服用しなかった群とで副作用に有意差は認められませんでした。ビタミンCやコエンザイムQ10、βカロテンなどが入った総合サプリメントで、アキュテインの毒性が低くなったという報告もありますが、症例数が足らずエビデンスとしては乏しいものです。
私も過去にアキュテインと同時にビタミンE500mg~600mgを処方したことがありましたが、なんら副作用に違いはなく、またビタミンE過剰摂取は骨粗しょう症を引き起こすことがわかっており、アキュテインにも骨粗しょう症の副作用があるため、その後併用することはなくなりました(適正量であれば併用は問題ありません)。
アキュテインによる正しい治療が広まることは良いことだと思いますが、個々のクリニックで副作用に対する説明がバラバラであれば、せっかくの治療が台無しになってしまうこともあります。過度の不安や期待を煽るのではなく、正しい知識を患者さんへ伝えることが当院の大切な役目であると考えています。
アキュテインはニキビに最も効果がある薬として、欧米では30年以上の歴史があります。重篤な副作用が起こる確率は、決して高いものではありません。医師のもとで正しく服用し、検査を定期的に受け、注意事項を守れば大部分の副作用を防ぐことができます。
日本でニキビ治療に頻繁に使用されている抗生物質でも、膵炎、大腸炎、間質性肺炎、アナフィラキシーショック、スティーブンス・ジョンソン症候群などの重篤な副作用が報告されており、どんな薬にも副作用のリスクがあることは認識しなければなりません。
当院では単にメリットだけを並べるのではなく、デメリットやリスクの説明もしっかり行い、患者さん自身の同意を得た上で治療を行なっています。