橋本病の甲状腺ホルモン剤の服用は少量から徐々に増やしていきます
甲状腺ホルモンの不足状態がつづくと、「心臓の働きが悪くなる」「肝臓の機能が低下する」など、いろいろな臓器に影響が出てきます。また、血液中のコレステロール濃度が上がり、動脈硬化を引き起こす危険性が高くなります。
こういったリスクを避けるためにも、機能低下症が確認された場合は、すぐ治療をはじめます。
甲状腺ホルモンと同じ成分のT4製剤を服用
甲状腺機能低下症の治療法はただ一つ、体に不足している甲状腺ホルモンを薬で補う薬物療法しかありません。
自己免疫によって組織が傷つき破壊された甲状腺を、もう一度ホルモンが合成・分泌できるように修復する方法はないので、外から補うしかないのです。
甲状腺ホルモンには、T4とT3の2種類があります。T4は、体の状態にあわせ、必要に応じて肝臓などでT3に変化します。
T3はパワーがありますが、T4のほうが調整力があるため、治療に使う場合は、T4を人工的に合成した以下の薬を使います。
合成T4製剤(商品名:チラーヂンS)
チラーヂンSの主成分は、体内でつくる甲状腺ホルモンと同じ成分ですので、体にとって異物ではありません。そのため、アレルギー反応を起こすことはありません。
チラーヂンSは、持続的な治療に向いています。指示通りに飲んでいれば、副作用もありません。
T3の合成製剤・チロナミン
チロナミン(商品名)は、T3を人工的に合成した薬です。チラーヂンSにくらべて吸収が速く、体から出ていくのも速いという特徴があります。
そのため、血中のホルモン量を長期間にわたって適切に保つのがむずかしく、ホルモンを正常な状態に維持する治療には向きません。
また、チロナミンは、下垂体にとっても好ましくありません。下垂体は、血液中のホルモン量を総合的に判断しながらTSHの分泌量を調整していますが、T3だけを補給する治療は、この調整力を乱してしまうのです。
チロナミンは、通常の治療には使われませんが、作用が速くあらわれるため、甲状腺がんの手術後や、粘液水腫性昏睡の治療などに使用されることがあります。
服用は少量からはじめ徐々に必要量を決める
はじめは少量から
甲状腺ホルモンの服用は、少量からはじめます。いきなり大量のホルモン補給をすると、体全体のバランスをくずしてしまうからです。
特に、心臓に病気のある人や、機能低下の激しい人(粘液水腫の状態にある人など)は、少量から慎重に量をふやしていきます。ときには入院が必要になる場合もあります。
その人の必要量を決める
初期の量
年齢、機能低下症になってからの期間、重症度、合併症の有無などにもよりますが、通常は1日25~50mlから服用をはじめます。
徐々にふやす
血液検査でホルモン濃度をはかりながら、徐々に量をふやし、その人に適した量を決めていきます。
服用後2~3カ月で適量がわかる
服用をはじめて1カ月以上たつと、飲んだT4製剤の量に見合ったホルモン濃度に達します。この時点で、服用量が足りているか、過剰になっていないかを判断し、薬の量を加減します。TSHを測定し、値が正常であれば、適量と判定します。
服用後2~3カ月すると、自分に適した量がわかりますので、あとはその適量(維持量)を継続して飲んでいきます。維持量は1日100~125mgとする場合が多くなっています。
服用後4カ月くらいで症状が取れる
病気の程度などにより個人差はありますが、服用をはじめて1~4カ月くらいになると、甲状腺ホルモンの数値が正常の範囲になり、つらい症状が薄紙をはぐように取れていきます。その治り方は、春になって冬眠からさめるような感じ、といわれます。体に活気が戻り、若返ります。
量が決まれば変更しない
いったん必要な量が決まれば、状態が安定している限り、変更はありません。
数カ月に1度、血液検査でホルモン濃度を確認すればだいじょうぶです。
甲状腺ホルモン剤の効果を弱める薬や食品
吸収をさまたげたり、分解を速めたりして、甲状腺ホルモン剤の効き目を弱める薬があります。脂質異常症の治療薬、一部の胃薬、貧血治療薬(鉄剤)などです。
これらの薬と併用するのを避け、飲む場合には、286時間、間隔をあけて飲むのがのぞましいとされます。
また、野菜ジュースやダイエット食品など繊維の多い食品も、甲状腺ホルモン剤の吸収をさまたげることがあります。これらの食品をとっている場合は、甲状腺ホルモン剤の服用を、就寝前や起床時にずらすとよいでしょう。
甲状腺ホルモン剤の飲み方
飲みはじめは少量で、徐々にふやしていきます。その人に合った量が決まるまで2~3カ月かかります。適量(維持量)が決まったら、1日1回、その量を飲んでいきます。
飲む時間は、朝昼晩、いつでもだいじょうぶです。毎日決まった時間に飲むようにして習慣づけると、飲み忘れがありません。
薬の効果があらわれ症状が改善されるまでに、個人差はありますが、1~4カ月かかります。症状が改善されても、橋本病が治ったわけではありません。
服用をやめれば機能低下症に戻ってしまいますので、医師の指示通りに服用をつづけてください。
状態が安定していても、体内のホルモン濃度は変わることがあります。定期的にホルモン濃度を検査し、量が適切かチェックします。
適切な量を服用していれば、特に副作用はなく、妊娠中や授乳中でも飲めます。
必要量を超えて過剰に服用すると、体内のホルモン濃度が高くなります。その状態が長<つづくと、骨量が減少したり、不整脈が出やすくなったりします。特に、閉経以降の女性や、高齢の人は注意が必要です。服用量は必ず守るようにしてください。
甲状腺ホルモン剤のQ&A
甲状腺ホルモン剤は、その人に合った適量を、1日1回飲みつづけることが大切です。飲む時間は、1日のうちいつでもよいのですが、あらかじめ時間を決めておくと忘れずにすみます。
たとえば、1日のリズムがはじまる朝食後や、夜床につく前など、自分の行動にあわせて決めておくと習慣づけられます。
朝、飲み忘れたときは昼にそれも忘れたときは夜にというように、その日のうちに飲めれば問題はありません。前の日に遅く飲んでも、朝いつものように飲むのもかまいません。
ただし、前の日に飲み忘れた場合、翌日、忘れた分まで飲むことは避けましょう。甲状腺ホルモンは作用時間が長く、チラーヂンSの成分が血液から減っていって、半分くらいになる日数(半減期)は約7日間です。1~2日忘れたくらいでは、血液中のホルモンが不足することはありません。
ホルモン剤を飲みはじめると、足りなかったホルモンが補充されますので、つらい症状はなくなり、元気になります。ただし、病気(橋本病)が治ったわけではありません。
いったん破壊された甲状腺の組織は、正常に戻ることはなく、自分自身でホルモンをつくる機能は失われます。したがって、ずっと外からホルモンを補充しつづける必要があります。自己判断で薬の服用をやめてしまうのは、非常に危険です。薬の減量や中止については、必ず医師と相談してください。
橋本病がたどる経過は、人によってさまざまです。一人一人違うといってもよいほどです。回復して薬を飲む必要がなくなる人もいますが、生涯飲みつづけなければならない人もいます。
残念ながら、甲状腺の機能低下が一過性のものか永続性のものかを見分ける方法、つまり、薬を永続的に飲む必要があるかどうかを見分ける確実な方法はありません。
いずれにしても、年に数回は医師を受診し、血液検査などで経過をチェックしていく必要があります。
甲状腺ホルモン剤を飲む必要がない人でも、年に1~2度は医師を受診して、検査を受ける必要があります。
薬を飲みはじめた場合、通院の間隔や必要な検査は、人によって異なりますので医師と相談してください。仕事や家事などで忙しい人は、通いやすい近くの病院を選ぶなどの工夫をして、必ず受診するようにしましょう。
甲状腺ホルモン剤は、1日1回の服用で十分ですし、薬代は非常に安価です。また、一部の自治体では特定疾患に指定され、医療費の助成が受けられます。近くの保健所に問い合わせてみましょう。
甲状腺ホルモン剤は、適切な量を服用している限り、長期間使ってもまったく問題のない薬の優等生です。
問題になるのは、薬そのものではなく、薬の量が多すぎた場合です。動悸など機能亢進症の症状が出てきたり、長い間には骨のカルシウムが減るリスクもあります。いま飲んでいる薬の量が適切かどうかは、血液検査でわかります。体内のホルモン濃度は微妙に変わることがありますので、状態が安定していても、年に数回のチェックは必ず受けるようにしてください。
きちんと服用しているのに機能低下が見られる場合、考えられる原因の一つは、自分で合成・分泌するホルモン量がさらに減ったり、変動していることです。
また、甲状腺ホルモン剤の効き目を弱めるような食品や薬の影響も考えられますので、日ごろの生活を見直してみましょう。
【スポンサードリンク】