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健康ファミリー 2013年3月号
特集② 加齢臭


中高年男性の体臭を「オヤジ臭」と蔑称していますが……
ーあなたの体臭はあなただけの貴重な臭いー



 ヘアケア剤、洗剤、各種消臭剤、などなど、毎日人工香料に囲まれた中で暮らしている私たち。こんな不自然な環境がなぜ作り出されてしまったのでしょうか。
 一つには、生物には当然あるべき自分自身の「体臭」を異臭に感じ、生活臭を嫌う現代人が増えていることです。
 典型的な例が、中高年男性の体臭を「オヤジ臭」と蔑称し、排斥しようとする風潮です。しかし本当に、あなたの体臭やオヤジ臭はダメな臭いなのでしょうか?
 この疑問を体臭・多汗研究の大家で、五味クリニック院長の五味常明先生に解いていただきます。


若い男女にもオヤジ臭は出ている

本誌 若者と中高年者の体臭に違いはありますか。

五味 「お父さんは臭い」などと娘さんたちは父親の体臭を毛嫌いしますが、若い女性だってお父さんと同じ"オヤジ臭"が出ているんですよ。

本誌 そうですか!

五味 オヤジ臭を代表する臭いの成分はノネナールという物質ですが、ノネナールは年齢や性別に関係なく皆さんの皮脂腺から出ています。

本誌 先生のご著書『気になる口臭・体臭・加齢臭』によると、ノネナールは脂肪酸の酸化が元だということですが。

五味 そうです。中年になると皮脂腺の中にパルミトオレイン酸という脂肪酸が増えてきます。同時に活性酸素によって酸化された過酸化脂質も増えてきます。この過酸化脂質とパルミトオレイン酸が結びついて分解・酸化  されてできるのが、ノネナールです。

本誌 オヤジ臭が強い人は体の中が酸化している?

五味 一般に、中年になると血液中に中性脂肪やコレステロールが増えてきます。これらが活性酸素によって酸化すると過酸化脂質、つまり悪玉コレステロールになります。
   悪玉コレステロールが血液中や血管壁に溜まると心筋梗塞とか脳梗塞など、生活習慣病の発症リスクが高まります。
   オヤジ臭は、生活習慣病の発症過程と同じことが、皮脂腺の中で起きているということです。

本誌 そうすると、オヤジ臭はやはりよくない臭いということになりますか?

五味 オヤジ臭が悪いとは言い切れません。オヤジ臭も含めて、あなたの臭いは、あなたが生きている証ですからね。
   それに体臭や口臭は、自分の体の中で起きていることの「目撃者」ですから、その臭いを健康管理に応用するといいですね。昔の医師は「嗅診」といって、患者から出ている臭いで肺ガンだとか子宮系の疾患などを見  つけていました。

本誌 近年の医師はパソコン画面を「望診」してます。


口臭や体臭は体内の「目撃者」

本誌 体の中の「目撃者」の一言にハッとしました。体から発する臭いで、肝臓や胃腸の働き具合がわかるとご著書にありました。

五味 飲食物にはそれぞれの臭いがあります。ニンニクやニラなど特別な食べものは別として、本来なら飲食物に含まれる臭いが体臭に出てきてもよいはずですが、そんなことは普通はありません。
   ところが胃腸の働きが悪かったり、腸内細菌叢のバランスが崩れていたりすると、飲食した物が十分に消化されないまま、臭いとともに肝臓に送られます。
   肝臓の働きの一つに分解作用があるので、本来ならばこの臭いも分解され、肝臓から全身に送り出される血液には臭いはついていません。しかし肝臓が疲弊していたり、脂肪肝や慢性肝炎など肝臓障害があると、臭い  のついた血液が全身に送り出されます。臭いのついた血液が肺に送られると口臭になり、皮膚に送られると体臭になります。

本誌 まさに臭いは体内で起きていることの「目撃者」ですね。

五味 ですから、日頃から自分の体臭をかいで、健康なときの自分の臭いを知っておくことです。いつもと違う臭いがしたときは、体調変化やライフスタイルをチェックしてみると、病気の予防や健康管理に役立ちます。

本誌 自分の脱いだ靴下を嗅いでいるお父さんたちがいるようですが、悪いクセではないのですね。

五味 娘さんたちがオヤジ臭を嫌う理由の中には、そうした姿が含まれていることは確かです(笑い)。オヤジ臭はイメージ臭の側面もありますから、男女を問わず年を取れば取るほど、服装など見かけの良い格好をするこ  とも大切なんです。
   それに、一日履いて汗や細菌に汚染された臭いと、体臭は別物です。靴下が臭くなるという人や、汗の臭いが気になるという人は、薬品ではなく繊維そのものに臭いを分解する機能を持たせた、靴下や肌着を利用する  といいでしょう。


肝臓が元気ならアンモニア臭はない

本誌 先ほど、オヤジ臭を生み出す原因物質の一つとして活性酸素の話が出ましたが、働き盛りのお父さんたちはストレスも多く、慢性的な疲労もあるでしょうから、活性酸素もたくさん出ていると考えられます。

五味 中高年男性の体臭をオヤジ臭とか加齢臭などと呼んでいますが、加齢臭というのは某化粧品メーカーが作り出した言葉で、私は「疲労臭」と言っています。
   慢性的な疲労と、年を取れば胃腸や肝臓の機能も低下しますから、オヤジ臭はそれらが相乗して作り出す疲労臭なんです。

本誌 疲労臭なら、老若男女問わず出ていると言われてもうなずけます。

五味 体臭の発生元には、脂質系、たん白質系、糖(炭水化物)系がありますが、疲労臭の一番の元はたん白質です。たん白質はアミノ酸で構成されていて、アミノ酸が分解されるときにアンモニアが発生します。
   アンモニアは猛毒物質ですから、肝細胞の中のオルニチン回路(尿素回路)で無毒な尿素とオルニチンに分解され、尿素は体外に排泄されます。
   それから運動すると疲労物質の乳酸が分泌されますが、乳酸とアンモニアはペアで出やすいのです。
   どちらも肝臓で処理されますが、この時にもう一つ、全身の細胞内でTCA回路(クエン酸回路)が働いて、飲食物の栄養素をクエン酸など八種類の酸に分解します。分解するときにエネルギーが作られます。
   したがって、オルニチン回路とクエン酸回路が十分に機能していれば、疲れは休息することで解消します。

本誌 なるほど、毎日ハードな仕事や人間関係等々でストレスと疲労がたまりがちな中年層は、機能の低下とも相まって、アンモニアが体内に充満しやすいわけですね。その先にあるのがオヤジ臭とは……。

五味 そこで重要なのが食生活です。オルニチン回路を回すには、オルニチンを多く含んでいるシジミなどを意識的に食生活に取り入れること。梅干はクエン酸が多いので、クエン酸サイクルを円滑にします。

本誌 肉や乳製品など動物性のたんぱ白が多い食品はアンモニアが作られやすいし、シジミや梅干はアンモニアや疲労物質の分解を助ける。ということは、体臭を防ぐには日本型食生活がよいということになりませんか。

五味 生活習慣病発症の過程と、体臭が作られる過程は同じだと言いました。生活習慣病予防に日本型食生活が推奨されていますよね。

本誌 生活習慣病と体臭は同根だということが実感できました。


体臭を作る遺伝子は免疫遺伝子の中に

五味 それに体臭を作る遺伝子は、免疫を作る遺伝子の中にあるんです。だから病的な体臭をさせている人は、免疫力も下がっていると考えられます。

本誌 免疫の遺伝子と体臭の遺伝子が"同居"しているとは! また目からウロコです!
   そうすると、免疫細胞の八〇%は腸管(主に小腸)内に棲んでいるそうですから、病的な体臭を作らないためにも腸内細菌叢は、乳酸菌やビフィズス菌などの有用菌(微生物)優勢状態にしておかないといけません。

五味 そのとおりです。特に四十代を過ぎた頃から腸の汚れは一段と進みます。疲労臭対策にも生活習慣病予防で言われているように、腸内のクリーン化に食物繊維の多い野菜類や未精白穀類を積極的に摂ることです。

本誌 ここまで伺ってきて、やはりオヤジ臭(疲労臭)はよくないことがわかりました。

五味 誤解しないでください。体臭そのものは、その人が生きている証です。それに、あなたの体臭はあなただけの物で、同じ臭いの人は二人といません。大切な"個性"なのです。
   体臭は自己を識別するものであり、自己主張の一つですから、体臭をすべて否定することは、自分自身を否定することです。

本誌 体臭の奥の深さに圧倒されますね。
   若い人たちは頭皮の臭いが気になるといって、朝シャンしてみんなが使っているのと同じシャンプー剤やリンス剤の人工香料の臭いを平気で撒き散らしていますが、これなどは自己否定の最たるものですね。
   最後に、これからの季節寝汗をかく人も増えるかと思います。朝シャンならぬ朝風呂は体臭にどうでしょうか。

五味 かいた汗がベトベトしていたり臭いがきついような場合は、それを洗い流す意味での朝風呂はよいでしょうが、入浴の目的は衛生面だけでなく、リラックス効果や血液循環の改善があります。それには時間にゆとりを  持って、ゆっくり入るのがよいわけですから、体臭改善には朝風呂より夜の入浴をおすすめします。
   異常な体臭対策には朝風呂よりも、食生活やストレス、ライフスタイルを改めて、サラッとしてすぐに乾くような汗をかくことです。

本誌 改めて自分の臭いを確認してみたいと思います。