あるとき、整体ステップ1を教えた男性から電話がかかってきました。


「先生、施術やったあと頭痛がするっていう人がいるんですよ、なんて答えていいのか困ってしまって・・・どう対処したらいいのでしょうか?」とのこと。


「施術後?施術の前は頭痛がなかったということ?」
「そうです。施術前は頭痛がなかったらしいのです」


「その方、お幾つ?既往歴は?どんな生活スタイル?」
「歳は70歳を超えています。既往歴は脳梗塞、ただし今は完全復活して後遺症らしきものはありません。女性ですが、現役の社長さんで、睡眠時間が2~3時間くらいのハードワークをする人です」


「なるほど・・・少なくとも私が手がけた中で施術後に頭痛を訴えた人はいないなぁ。揉みが入るマッサージ的な方法なら頭痛を憎悪させることはあり得るけどね・・・私が教える方法論では、頭痛がその場で取れるということはあっても、頭痛を起こさせるなんてことなど、まず考えられないよ」


よほど下手クソにやったんじゃないの?と喉まで出かかりましたが、そうじゃない場合もありますから、色々可能性を考えてみました。


「一日、2~3時間しか寝ないで仕事しているの?その年齢で?」
「そうなんですよ、地元では名物的な女社長さんで・・・」


これは整体質問箱の中の回答にも書きましたが、日常的にハードワークをこなしている人、それもハードであればあるほど、瞑眩反応(好転反応)を起こしやすいものです。しかも、この方、世間でいうところではもはや高齢者の部類です。そういう人がこんなハードワークをしていれば身体の芯にまで深くコリが入ってしまっているのは容易に想像できますよね。それでもそういう活動ができるということは、ある種の「失体感症」に陥っている可能性があるわけです。


「そうだね・・・まず超ハードワークの人の反応ってそれはそれは酷く重い反応になることが多いんですよ」
「ええ」
返事の仕方からどうやら私の整体質問箱もちゃんと読んでいるようです。


「初めて施術したの?」
「いえ、3回目なんです」
「じゃ過去2回は?頭痛を訴えた?」
「いやそんなことはありません、そういう現象は起きませんでしたし、それどころか満足して喜んでいました」


ほう・・・ますます謎が深まるじゃないですか。ガリレオの福山雅治のように(実に面白い)とつぶやきたいところではありますが、不謹慎ですから止めておきました。


「多分ね・・・一応の仮説だけれども、やっぱり反応の一種だな。瞑眩反応。普通は頭痛としてあまり出ないんだけどね。相当に歪みが深く内向していて、過去2回の施術では届かず、そして今回の施術でようやく届いて、歪みが浮いてきたというところじゃないかな。なんせ脳腫瘍とかクモ膜下出血のような特殊の場合を除いて頭痛の原因っていうのは首、肩まわりのコリからくるからさ。その首、肩コリが緩む過程で、強い反応が起きたと思うよ。よほど強いコリが内向していたんだろうね」


「じゃ、どうすれば良いですか?」
「私の仮説が正しければ、もう大丈夫だと思う。なるべく近い将来に施術したら良いよ。歪みが浮き上がってきているので、今度はちゃんと緩んでTPも沈静化されるはず」


「明日にでもやったほうが良いですか?」
「うん、早いに越したことはないね。できればまだ頭痛がしているうちにやるといいよ」
「じゃ、今日の晩でも?」
「もちろん」


こんなやり取りをした次第です。


それからか、気になったものですから、翌日連絡を取ってみました。


「どうでした?」
「いやそれがですね。あれから早速行って施術したんですよ」
「ふむふむ、それでそれで?」
「それがですね・・・
施術の前はまだ頭痛がしていたんですが、施術が終わったあとに治ったんですよ」
「ほう!」
「ところが、気になったので今朝電話してみたんです。すると翌日、つまり今日、また頭痛がするっていうんです・・・・」


「ちょっと待って、施術する前は頭痛がしていて、施術後治ったと・・・そして一晩経った今朝には頭痛が再発したと、そういうことだよね?」
「そうなんですよ」


なんとも、もどかしいですよね。どんな施術しているか見てないわけですし、ましてや自分でやってないので感触も分かりません。(これは色んな可能性を考えないといけないな・・・)と思っていた矢先、問わず語りに施術の時の様子を述べてきました。


「例の黄金の三角地帯があるじゃないですか」
「ああ、斜角筋ね」
「ええ、その斜角筋をやっているときに響きますよね。その時に治った!とか本人が言って・・・それで頭痛が治まったんですけどね、そのときは」

「えっ?斜角筋?斜角筋の処理で治ったと?」
「そうです」


いや~痛恨のミスをしていました。
まだスッテプ1なんだ・・・そうか・・・そういうことか・・・謎が解けた!


「その頭痛って頭のどこらへんが痛むって言ってた?」
「頭の後っていうか頭のてっぺんあたりですかね」

(あ~やっぱり・・・そうなんだ)


「いや~○○さん、ごめんね。ステップ1ではまだ症状別アプローチはやってないでしょ。でね、頭痛の原因を処理する上でステップ1の手技の中には全く出てこないのがあるんですよ。それは胸鎖乳突筋という筋肉なんですが、これはちょっと特殊な技法を使うし、やってもらって気持ち良いというものでもないんです。だからステップ1基本手技の中には含めてはいないのですよ。そうだよね、それ知らないものね・・・いやこっちが迂闊でした。ゴメン」


つまり、こういうことです。
胸鎖乳突筋は斜角筋の上に被さるように存在します。そもそも斜角筋というのは腕とか肩、肩甲骨、場合によっては指先にまでよく響き、かつ首から下の症状の原因になるTPができる筋肉です。そしてその上の胸鎖乳突筋というのは斜角筋とは逆に首から上に症状を出すTPを発生させるのです。頭のてっぺん近く起きる頭痛もその一例です。ところが胸鎖乳突筋の筋肉のつき方というのは独特で、斜角筋を圧す際に同時に圧されるのは圧されるのですが、角度的にちゃんと入らず、ある意味不完全な圧にならざるを得ません。

ですから、胸鎖乳突筋を狙い撃ちするときは斜角筋とは全く別のアプローチを採ることになるわけです(であるが故に基本手技に入れてないのですけが)

彼はまだ教えられていないので胸鎖乳突筋の概念およびその関連痛パターンを知りませんでした。故に基本手技の順番にしたがって、斜角筋の押圧を行なっていたわけですが、このクライアントさんはたまたま胸鎖乳突筋に活性化寸前のTPを持っていて、それに対してたまたま不用意かつ不完全な刺激を与えたということになってしまったのでしょう。


すごく分かりやすい言い方をすると「寝ている子を起こしてしまった」のです。
勿論、先に立てた私の仮説が間違いということではありません。
1,歪みが深く内向している。 2,オーバーワーク気味の人の反応はキツイ傾向がある。これらの条件の元に「寝てる子を起こしてしまった」というのが真相でしょう。


胸鎖乳突筋の概念が頭に入っていると、すぐに対処の仕方が思い浮かびます。あとで聞くところによると片方の耳が聞こえづらくなってきている、という情報は入ってきていたそうです。普通であればこの時点で、あっ間違いない!胸鎖乳突筋が問題だ!と悟るところなんですが、それを知らないとサインを見逃してしまいますよね。彼の責任ではありません。
だって習ってないんですもの。


実にレアケースですが、まさに(実に面白い)というケースでもあります。
そして、私自身、迂闊であったなぁ、と深く反省する材料にもなりました。


まことに文字情報や声情報だけでは状況を掴みにくいものです。


「そうしたら、先生、どうしたら良いんでしょうか?ステップ2を早く習ったほうが良いですよね」
「そうだね、貴方くらい実践で整体を活かしているなら、早急に習ったほうが良いよね、むしろそのステップに行かないとマイナス効果が働く位の頻度だもね。で、結論はステップ2で習うまでなんとかつないでいてよ、っていうことになるんだけれども、それじゃ遅いか。施術を受けに来る予定があったよね。そんときに胸鎖乳突筋の処理の仕方だけ教えるわ。だからそれまでなんとかつなげる?」
「大丈夫です」


かくして一件落着なんですが、盲点というのは常に存在します。


教訓
注意深くあれ、そしてそれが出来たら、もっと注意深くあれ。


※今回の件があったからといって、ステップ1の基本手技に胸鎖乳突筋の処理を含めるつもりはありません。そんなこというとキリがなくなります。基本手技は症状改善の技術の90%ほどカバーしています。それをしっかり身に付けた上でスッテプアップする。これは普遍の方針です。そういう組み方が一年間、毎日通って身に付けるのと同等の学習効果を生み、もっとも時間とお金を節約できる方法なのです。


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