[2003年2月:公表]
エステティックサロンでの施術で再発したアトピー性皮膚炎
本件は、エステティックサロンにおける超音波を発する美容器具を用いた顔面の施術で、消失していたアトピー性皮膚炎が発症・悪化したことについて、エステ業者の責任が認められた事例である。(東京地方裁判所平成13年5月22日判決)
- 判例時報1765号67ページ
- 控訴(後和解)
事件の概要
X:原告(消費者)
Y:被告(エステティックサロン経営会社)
A~D:Yの従業員
E:皮膚科医院
短大を卒業したばかりのX(エステ施術開始当時20歳の女性)は、過去にアトピー性皮膚炎に罹患していたが、寛解状態(症状が消失した状態)にあった。Xは、顔面のにきびを治して肌を綺麗にしたいと考えていたことから、Yの店を訪れカウンセリングを受けた。
Yの従業員Aは、Xに対して過去にステロイド剤を使用したことがないか質問したが、Xは5、6年前まで使用していたが最近は使用していない旨答えた。Aは、ステロイドを使用した経験のある者は、超音波を発する美容器具を使うことにより、肌の中に内在されているステロイドがリバウンドとして症状が出る場合があるが、悪いものは出さないとにきびも治らない、リバウンドが出ても肌の細胞は3ヵ月ごとに変わるので3ヵ月後には治る旨を説明した。
Xは超音波による顔面のエステ施術を受けたが、翌朝顔が赤くはれており、その部分にかゆみを感じた。そのため、Yの店に行き、店長であったBに見てもらったが、ステロイドによるリバウンドであること、3ヵ月の辛抱であること、みんな綺麗になるために努力をしているといわれた。
その後、XはYの店に通い続け超音波を発する美容器具によるセルフエステ方式での顔面のエステを続けたが、顔だけだったアトピーが体にも出てきたので、Yに相談したところ、従業員Cは血液が流れているから体にも出ると答えた。そのころ、Cはステロイド剤の悪影響について繰り返しXに述べていた。
その後、Bから替わった新店長Dから、Xはエステエキスを飲むよう勧められ、1ヵ月分を8000円で購入した。しかし、3ヵ月もしても全然治らないと苦情を述べると、Cは3ヵ月とはエステエキスを飲んで、キトサンを飲んでいえることであると言った。が、そのような説明は当初なかったこと、キトサンやエステエキスはいずれもYで販売している高価な食品であったことから、Xは憤慨するとともに皮膚の症状が治るか不安に思った。
そして、1年半しても悪い状態であったため、XはYに強い不信感を持ち、家族の勧めによりE皮膚科の診察を受けた。そこで、医師により、ステロイドが体に残るということはないことなど、アトピー性皮膚炎についての詳しい説明を受けた。その後は、ステロイドを使用した医学的治療に専念し、Yのエステ施術を受けることをやめた。
Xは、Yの従業員の不法行為を理由に、Yに対して使用者責任等に基づいて損害賠償を請求したが、Yはエステ施術との因果関係などを争った。
理由
1.因果関係
Xがエステ施術を受け始めた当時は、Xのアトピー性皮膚炎は寛解状態にあったこと、Yのエステ施術の翌日には施術部位である顔面に異常が生じていること、その後のアトピー性皮膚炎の発症・悪化に至る経緯について、Yのエステ施術を要因と考えれば医学的に説明が十分可能であること、Xには、当時Yのエステ施術以外に、アトピー性皮膚炎の発症・悪化の影響となる特段の要因はなかったこと、X以外にも、アトピー症状の者がYのエステ施術を受けた結果、アトピー性皮膚炎を発症または悪化させた実例が存在することを総合的に考慮すれば、本件のXのアトピー性皮膚炎の発症および悪化の原因は、Yのエステ施術を継続的に受けたことであると認めることができる。
2.Yの従業員の故意または過失
一般に、エステティックサロンを営業する者およびその従業員は、エステ施術を行うに際し、客が皮膚障害を生ずることのないように配慮すべき注意義務を負い、仮にエステ施術により皮膚障害が生じた場合には、直ちにエステ施術を中止し、医師の診察を受けるよう勧めるなど、被害防止のために適切な措置を講じなければならない。
Aらはアトピー素因を有する客に炎症が発生する可能性を認識していたのに、これをステロイドによるリバウンドと称して、超音波治療を重ねることによってアトピー体質を改善することができると誤った理解をし、Xにエステ施術を受けるように勧めたものである。
またAらは、エステ施術後に客に皮膚障害が生じた場合には、直ちにエステ施術を中止するよう指示し、医師の診察を受けるように勧める義務があるのに、Xの皮膚障害は体内に蓄積したステロイド剤が皮膚に出てくる改善現象であるとの誤った理解に基づき、エステ施術の中止を指示せずに、かえって、アトピー体質の改善を期待させる言動を行なうなどして、Xが自らの判断でエステ施術を中止するまでの間、何らの措置も取らなかった。
以上によれば、Aらは、エステ施術に際し、Xが皮膚障害を発症・悪化させることのないように配慮すべき注意義務に違反したものとして、過失による不法行為が成立する。
3.使用者責任
Aらの不法行為は、いずれもYの被用者である従業員が、Yの事業の執行につきなしたものであるから、Yは民法715条に基づき、損害賠償責任を負うべきである。
4.過失相殺
XはYのエステ施術を受けた翌日に顔面の皮膚炎を発見した時点で、エステが原因と疑ったのであるから、直ちにエステ施術を中止して医師による診察を受けるべきであった。
にもかかわらず、XはAらの説明に疑問を持ちながらも、エステ施術を継続してアトピー症状を悪化させたことを考慮すれば、Xにも過失が認められる。
しかし、Xがエステ施術を受け続けたのは、主にY従業員の誤った指導によるものであり、また、Xが医師の診療をためらったのも、Yの従業員がステロイド剤の副作用を強調して、Xを医学的治療から遠ざけてYのエステ施術を勧めたことが主な原因であると認められ、以上の諸事情を勘案すると、Xの過失割合は3割とするのが相当である。
解説
本件は、アトピー性皮膚炎に罹患したことのある客に対する、エステ業者の注意義務を明らかにした初めての判決として重要である。事案の認定についてもほぼX側の主張が認められている。
(1)因果関係の認定
アレルギー性の疾患同様、アトピーにおいても、原因行為との因果関係の有無が問題になるが、本件では、最初のエステ施術後の翌朝に発症していること、他に主たる原因となるべき事由が考えられないことから、因果関係は比較的容易に認められている。
(2)過失の認定
過失についても、医学的に明らかに誤った信念に基づいて、被告エステ業者の運営が行われており、過失も容易に認定されている。
(3)損害賠償の内容
1.エステ代及び化粧品等の既払い購入代金や2.店舗までの188回にわたる往復交通費を損害と認めたり、3.アトピー性皮膚炎による肉体的苦痛および精神的ストレスにより、Xが専門学校に途中から登校しなくなったのはやむを得ないとして、学費のうち不登校分に対応する額を損害と認めるなど、損害の認定でも注目される内容を含んでいる。
また、4.障害による慰謝料については、若い女性であるXが、1年7ヵ月近くにわたり皮膚障害により多大な肉体的・精神的苦痛を受け、現在も完全には回復していないこと、不法行為の態様などを考慮して350万円が認められている。他方で、5.Xの皮膚炎は依然として寛解してはいないが、今後回復する可能性がないとはいえない、アトピー性皮膚炎はいわゆる症状の固定を観念することはできず、減収を認めないとして、後遺症による逸失利益の損害賠償は認められていない。
(4)過失相殺
本判決では過失相殺を認めているが、原告の過失割合を3割にとどめている。Xは疑問を持ちながらも1年7ヵ月もの長期にわたり通い続けてはいるが、Yが客を医学から遠ざけ自分のエステ施術に進ませようとしていることが大きく考慮されている。逆にいえば、消費者としてはエステ業者を医者のように信じているとしても、このように長期にわたって疑問をもちながらエステに通い続けた場合には、過失相殺もありうることになる。
参考判例
美容整形についての近時の判例
- (1)京都地裁平成5年6月25日判決(判例タイムズ841号211ページ)、
- (2)福岡地裁平成5年10月7日判決(判例時報1509号123ページ)、
- (3)京都地裁平成7年7月13日判決(判例時報1558号104ページ)、
- (4)東京地裁平成7年7月28日判決(判例時報1551号100ページ)、
- (5)東京地裁平成8年2月7日判決(判例時報1581号77ページ)、
- (6)東京地裁平成9年11月11日判決(判例タイムズ986号271ページ)
育毛サービスについての判例
- (7)東京地裁平成12年11月28日判決(判例集未登載)