過剰な甲状腺ホルモンは代謝を異常に高めて全身に多様な症状を起こします
甲状腺ホルモンは新陳代謝を高めますが、多くなりすぎると、全身の代謝が異常に活発になり、体も心も一種の興奮状態になります。
肉体面では、常にエネルギーが燃えて、休んでいても激しい運動をしているような状態になります。精神面では、不安定になってイライラしたり、集中力がなくなります。
甲状腺機能亢進症の症状は気づきにくく、いつ病気がはじまったのか、自分でもなかなかわかりません。次のような症状に気を配るようにしてください。
動悸、頻脈、高血圧などもっとも多い心臓の症状
動悸・頻脈
甲状腺ホルモンがふえすぎると代謝が高まり、全身の細胞でたくさんの酸素が必要になります。その酸素を送るため、心臓の働きが活発にたり、心臓の筋肉が過剰に刺激されるため、動悸や頻脈などがあらわれます。バセドウ病の患者さんがもっとも多く訴える症状です。
バセドウ病の動悸の特徴
胸のドキドキ(動悸)は、階段を上るなどして体を動かしたあとに強くなります。そして、体を休めると、徐々に軽くなります。
動悸には、脈が速くなる頻脈がともないます。脈拍数は、ふつうは1分間に70~80くらいですが、バセドウ病では100以上になることも珍しくありません。
眠ろうとすると強い動悸を感じ、寝つけず不眠になることがあります
注意点
動いているときは気にならないのに、じっとしていると動悸を感じ、何か用事をはじめると忘れてしまうような場合は、不安や緊張など精神的なものが原因となっていると考えられます。このような動悸には、頻脈はともないません。
心房細動
これは、心臓の中に異常な電気回路ができて、不規則にからまわりする状態です。脈が不規則に、ゆっくり打ったり速く打ったりします。バセドウ病ではよく起こります。
高血圧
心臓から送られる血液の量がふえ末梢血管が拡張するため、血圧が上がることがあります。ただし、バセドウ病の場合、最高血圧は高くなりますが、最低血圧は90、もしくはそれ以下です。通常の高血圧症では最低血圧も高くなりますが、バセドウ病では最高血圧だけが上がるため、最高と最低の差が大きいのが特徴です。
70~80%にあらわれる手指のふるえ(振戦)
甲状腺ホルモンの過剰による手指のふるえ(振戦)は、バセドウ病患者の70~80%にあらわれる、非常に多い症状です。指先が小さく、こまかく、速くふるえるのが特徴で、ガクガクと大きくふるえることはありません。
ペンを持つ手指がふるえて文字が(特に小さな文字が)書きにくい、針仕事がうまくできない、といった状態になります。ふるえは、まぶたやひざにまでおよぶことがあります。さらに進むと、全身がふるえ、じっと座っていてもカタカタと音がするようになります。
ふるえは、バセドウ病の治療をしてもなかなか消えないのですが、バセドウ病が治ればおさまります。
体内の発熱量が上がり暑がりになる、汗をかく
バセドウ病になると、過剰な代謝によって、体内ではいつもエネルギーが燃えている状態になります。そのため、体がほてり、暑がりになります。体内の発熱量が高いために、微熱(37度程度)が出る人もいます。
暑いためによく水を飲むようになり、汗もよくかきます。バセドウ病の場合は、動いていないのにじとっとした汗をかくのが特徴です。皮膚はいつも湿っていて、脂ぎった感じになることもあります。
バセドウ病の人は、冬は人より薄着で過ごせて、体調もいいようです。暖房が入っているところでは、ほかの人にとってはちょうどよくても、一人じっとり汗をかきます。
その一方、夏は全身から吹き出るように汗をかきます。暑さが体にこたえ、具合が悪くなる傾向もあります。現代は冷房が発達していますので、昔ほどではないのですが、それでも「夏はつらい」「夏負けする」
という人が多く見られます。
暑がりや多汗も、バセドウ病患者の70~80%に見られる、大変に多い症状です。
注意点
40歳以上の女性で、首から上だけ汗をかいたり、急に頭のてっぺんから汗が吹き出してくるような場合は、バセドウ病の可能性は低く、更年期障害が考えられます。‥半数の人が食べてもやせる‥下痢ぎみになることもある
バセドウ病の半数の人が食べても痩せて下痢気味になることもあります
体重減少(あるいは増加)
代謝とは、栄養素を体が利用しやすい形に分解・合成する働きですが、甲状腺機能亢進症では、この代謝が異常に高まります。そのため「燃費の悪いクルマ」のような状態になり、カロリーが無駄に消費されます。 ですから、いくら食べても太らないか、あるいはやせてきます。バセドウ病の人の半数は、こういったタイプです。
しかし一方では、太る人もいます。食欲が出るため、体が消費する以上に食べてしまって、エネルギーの消費バランスがプラスになってしまうのです。若い女性に多く見られる傾向で、女性患者の20%ほどは、かえって太るようになります。
なお、男性患者では、バセドウ病になって太る人はほとんど見られません。また、お年寄りの場合も、バセドウ病になると食欲がなくなるため、いっそうやせてきます。
下痢ぎみ(軟便)
甲状腺ホルモンが過剰になると、消化管の働きが活発になりますので、下痢ぎみになります。ひどい下痢ではないのですが、軟便になり、1日に2~3回の排便があります。
血糖値の上昇
食べ物の栄養素が、急速に消化管から吸収されるので、一時的に血糖値が上がることがあります。そのため、糖尿病とまちがえられる場合があります。
筋肉が弱くなる疲れやすくなる
筋肉が弱る
バセドウ病では代謝が活発になりすぎて、筋肉のたんぱく質も過剰に分解されます。そのため、筋肉が弱くなります。特に、太もも、おしり、背中などの大きな筋肉が落ちてきます。
筋肉が弱ると、いろいろな動作がっらくなりますが、中でも中腰になった姿勢から立ち上がるようなとき、筋肉のおとろえを感じます。また、筋力がないため、腰やひざなどの関節に痛みが出る人もいます。
腕力や握力が低下する場合もあり、ものを落としやすくなったり、ものを運ぶのがつらくなったりします。
疲れやすくなる
バセドウ病では、機能亢進のために、体中の細胞が必要以上にエネルギーを消費するようになります。動いていないのに休みなくジョギングをしているような状態になって、体力を消耗するので、とにかく疲れます。
消費エネルギーが多い上に、体を支える筋肉が弱まるので、体力が落ちて疲れやすくなるのです。疲労も、多くの患者さんが訴える症状の一つです。
不安、イライラなど精神や行動面の症状
バセドウ病は、体だけでなく心にも影響をあたえます。甲状腺ホルモンが過剰な状態がっづくと、気分がしずんだり、逆に精神が高ぶって興奮しやすくなることもあります。精神的に不安定になりイライラする人も、かなり見られます。イライラから気が短くなり、性格が変わったように見えることもあります。
行動面では、代謝が高まるために活動的になるのですが、むしろそわそわと落ち着かない印象をあたえます。いずれにしても、バセドウ病と心の問題は深いかかわりがあり、精神的ストレスが発病の引き金になったり、病気を悪化させるリスク因子にもなります。
子どもにあらわれる影響
子どもの場合、甲状腺の機能が亢進すると、体よりも精神や情緒、行動面に、いっそう強く影響があらわれるようになります。たとえば、一つのことに集中できなくなり、成績が急に下がるような場合です。
また、気が散りやすい、落ち着きがない、まわりとの協調性がない、といった指摘を先生から受けたり、LD(学習障害)とまちがえられるような場合。そういう場合は、家族や周囲の人は、子どもがバセドウ病になっていないか気を配ってあげることが大切です。
脱毛、かゆみなど毛髪や皮膚の症状
毛髪にあらわれる症状
バセドウ病では、毛が細くなったり脱毛することが多く、若い女性にとっては美容上からも気になる症状です。このままハゲてしまうのではないかと悩みますが、治療が進むうち脱毛も止まり、もとに戻ります。
また、若くても白髪になる人が多いのですが、こちらも治療後は黒髪に戻ります。
皮膚や爪にあらわれる症状
皮膚の症状でもっとも多いのはかゆみで、40~50%の人に見られますまた、湿疹も30%ほどの人にあらわれます。男性によく見られるのが色素沈着で、日焼けをしたように皮膚が黒くなります。これは、病気の治療をすれば治ります。
一方、皮膚のメラニン色素が抜けてしまうため、皮膚に白い斑点のようなものができる白斑という症状もあります。こちらは、甲状腺の機能亢進とは直接は関係がないため、病気の治療をしても残ってしまう場合が多いようです。
バセドウ病では、20%の人に爪の変形が見られます。爪が早くのびて縁がギザギザになる、爪の甲が爪床からはがれて白くなる(爪甲剥離症〈プランマーズーネイル〉)などです。爪の変化は、病気の治療後もなかなかもと通りにはならないのですが、徐々に回復します。
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