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| デンマークのダムが1929年、脂肪をまったく含まない飼料でねずみを飼育したところ、皮下や筋肉の組織などに出血を起こし、血液が凝固しにくくなることを偶然発見しました。この症状はビタミンA、C、Eでは予防できないので、まったく別の因子が原因であると考え、1935年にその因子をつきとめました。その因子は従来のビタミンの命名の仕方のように順番にアルファベットを冠すのではなく、ドイツ語の凝固(koagulation)の頭文字をとってビタミンKと名づけられました。1939年にはビタミンK1とK2に分類され、1940年までにそれらの構造も決定されました。 |
ビタミンKは天然にはビタミンK1(フィロキノン phylloquinone)とビタミンK2(メナキノン menaquinone)の2種類が存在します。ビタミンK1は主に植物の葉緑体で作られるので、緑黄野菜に広く分布しています。ビタミンK2は微生物により作られるので、納豆や乳製品、肉、野菜、果物などに含まれます。メナキノンにはいくつか種類があり、メナキノン中のプレニル基の数により、メナキノン-nと称します。プレニル基の数が4つならメナキノン-4となります。納豆にはメナキノン-4~8が、肉類やバターにはメナキノン-4が、母乳にはメナキノン-4,7が含まれます。ビタミンK2は腸内細菌によっても作られるので、糞便中にも多く含まれます。ビタミンKにはこのほか合成品のビタミンK3(メナジオン menadione)がありますが、副作用が強いため人間には使われず、動物の飼料用などに使われます。
| 種類 | 別名 | 生成 | 含まれる食品 | | ビタミンK1 | フィロキノン | 葉緑体 | 緑黄野菜 | | ビタミンK2 | メナキノン | 微生物 | 納豆や乳製品、肉、野菜、果物など | | ビタミンK3 | メナジオン | 合成 | |
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ビタミンKは血液凝固を促進する働きと抑制する働きの両方に関与します。血液凝固の促進因子と抑制因子はどちらもγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)を持つタンパク質です。このγ-カルボキシグルタミン酸はアミノ酸の一種であるグルタミン酸残基(Glu)がγ-カルボキシラーゼと呼ばれる酵素によりカルボキシル化されることで合成されます。Glaになるとカルシウムと結合可能になり、生物活性を有するようになります。ビタミンKはこの酵素(γ-カルボキシラーゼ)の補酵素として反応の活性化に関与します。ビタミンKは血液凝固の促進因子と抑制因子の両方を活性化させる働きがあるのです。
血液凝固は多数の因子が関与して進行する複雑な現象ですが、ビタミンKはGla化を通してそれら因子の活性化に働くとともに、過度な血液凝固による血流中の血栓の防止にも働いているものと思われます。
■残基とは 二つ以上の単量体が結合したものを重合体といい、重合体を構成する単量体の部分を残基といいます。アミノ酸(単量体)のペプチド結合でできるタンパク質(重合体)の場合はタンパク質を構成するアミノ酸にあたる部分がアミノ酸残基となります。 |
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血液の凝固過程を詳しく見ていくと、血液の凝固には12の因子(第Ⅰ~第13因子、第Ⅵ因子は欠番)とプラス2つの因子(カリクレイン、キニノーゲン)が関与しています。この中の第Ⅱ因子(プロトロンビン)、第Ⅶ因子(プロコンベルチン)、第Ⅸ因子(Christmas因子)、第Ⅹ因子(Stuart因子)の4つにはグルタミン酸残基が含まれていて、ビタミンKによりGla化され生理活性を発揮するようになります。
血液凝固因子は相互に段階的に関与していくことで血液凝固の過程は進行していきますが、この過程を血液凝固のカスケード反応といいます。この過程を詳しく見ていくと、まず血液の凝固には血管内壁の損傷などの内因性要因と、空気や組織液などの血管外の物質との接触による外因性要因の2パターンがあります。まず内因性要因ではカリクレインとキニノーゲンが第12因子を活性化し、活性化した第12因子が第11因子を活性化します。さらに活性化した第11因子は今度は第Ⅸ因子を活性化します。活性化した第Ⅸ因子はあらかじめ活性化した第Ⅷ因子とカルシウム、リン脂質で結合して複合体を作り、第Ⅹ因子を活性化させます。
次に外因性要因ですが第Ⅲ因子がビタミンKによって活性化された第Ⅶ因子とカルシウムとで複合体を形成します。この複合体は内因性要因の時と同様第Ⅹ因子を活性化させます。第Ⅹ因子は内因性と外因性の2つのルートで活性化されるのです。さらにこの第Ⅲ因子と第Ⅶ因子の複合体は内因子系の第Ⅸ因子の活性化にも働きかけます。
活性化された第Ⅹ因子はカルシウムとあらかじめ活性化された第Ⅴ因子、リン脂質で複合体を作ります。さらに第Ⅹ因子の複合体がビタミンKによって活性化されたプロトロンビンをトロンビンへと変化させます。トロンビンはフィブリノーゲンをフィブリンへと変え、このフィブリンの働きにより血小板などの血球成分が凝集して血液凝固が起こります。
ビタミンKが欠乏するとGla化が不十分なプロトロンビンなどのビタミンK依存性血液凝固因子が増え、血液凝固の遅延、抑制、出血症状などが見られるようになります。
■カスケード反応とは 最初の刺激による生成物が次の段階の反応を活性化させ、連鎖的に段階が進行していく反応様式をカスケード反応といいます。カスケードとは英語で階段状に連続する滝を意味する言葉です。 |
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| 血液凝固の抑制に働く因子であるプロテインCとプロテインSもビタミンKによってGla化されるタンパク質です。活性化したプロテインCとプロテインSは協力して血液凝固因子である活性型の第Ⅷ因子と第Ⅴ因子を不活性化します。血液凝固因子を不活性化させると、結果プロトロンビンからトロンビンへの生成も抑制され、血液凝固も抑制されます。このようにビタミンKは血液凝固の促進と抑制の両方に働きかけます。これら作用の調整がどのようなメカニズムになっているのかは、まだ不明な点が多いです。 |
グルタミン酸残基をカルボキシル化する際に使われるビタミンKは活性型が用いられます。ビタミンKは還元酵素の働きにより還元(水素を奪われる)され活性型ビタミンKとなります。活性型ビタミンKはグルタミン酸残基をカルボキシル化したあと不活性型(酸化型:水素と結びつく)ビタミンKとなり、再び還元酵素の働きにより活性型に戻され繰り返し利用されます。このビタミンKの流れをビタミンKサイクルといいます。
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骨は破骨細胞による骨吸収(古くなった骨の破壊)と骨芽細胞による骨形成を絶えず行っています(骨のリモデリング)。加齢による骨量減少作用は、骨吸収と骨形成のバランスが崩れ、骨吸収が骨形成に勝るために起こります。ビタミンKはこの骨の代謝に関与します。
1975年にビタミンKによってGla化されるタンパク質であるオステオカルシンが骨に発見されました。このタンパク質は骨芽細胞で産生され、骨の主要なミネラルであるヒドロキシアパタイト(リン酸カルシウム結晶)と強く結合し、骨新生(新しい骨が作られる)部位で局在して存在しています。その量は骨の非コーラゲンタンパク質の10~20%を占めます。ちなみに体内のタンパク質の内訳はその1/3がコラーゲン、2/3が非コラーゲンタンパク質です。オステオカルシンは骨の石灰化(新しい骨を作る)や骨にカルシウムをためる際に必要なタンパク質です。ビタミンKはオステオカルシンのGla化を介して骨形成の促進に働きます。
またビタミンKは骨吸収の抑制にも作用します。これはオステオカルシンのGla化を介さない形での骨代謝への関与です。骨吸収過程は造血幹細胞からは破骨細胞への分化過程と、破骨細胞による骨吸収過程に大別できますが、ビタミンK2(メナキノン-4)は造血幹細胞から破骨細胞への分化を抑制し、破骨細胞の供給を減少させることで、骨吸収の抑制作用を発揮します。このようにビタミンKは骨吸収の抑制と骨形成の促進という2つの作用を持つユニークな化合物で、現在骨量改善治療薬としても使用されています。 |
ビタミンK2製剤(グラケー)には骨質を改善して骨折を予防する効果があることが示されています。大規模な疫学調査でもビタミンKとその関連物質が大腿骨の頚部骨折の危険性を低下させることが報告されています。骨吸収抑制作用に関してはビタミンK1にはなく、ビタミンK2のみにあるので、ビタミンK2の方がより好ましい作用を発揮すると思われます。
骨折にはGla化されたオステオカルシンの血中濃度や全オステオカルシンに対するGla化されたオステオカルシンの割合の血中レベルの低さも関連していることがわかっています。オステオカルシンのGla化に関しては、ビタミンK1もK2もその効果に大差はないということがin vitroの研究結果で報告されています。
| ビタミンK1 | ビタミンK2 | | 骨細胞 | 骨芽細胞 | 活性 | 活性 | | 破骨細胞 | - | 抑制 |
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参考文献わかりやすいからだとビタミンの知識 サプリメントデータブック エキスパートのためのビタミン・サプリメント よくわかる栄養学の基本としくみ 基礎栄養学 健康・栄養科学シリーズ 基礎栄養学 (スタンダード栄養・食物シリーズ)第3版 栄養・健康化学シリーズ 生化学
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