2013年10月08日18時45分

単なるリネーム品ではない~新しいRADEON R9/R7 2xxシリーズの秘密 by笠原一輝

 AMDからRADEON R9 280X、RADEON R9 270X、RADEON R7 260X、RADEON R7 250、RADEON R7 240の5製品が発表された。すでに別途ベンチマーク記事が掲載されていると思うので、そのパフォーマンスに関してはそちら(関連記事)を参照していただくとして、本記事ではこれらの新製品が、PCゲームユーザーにとってどのような意味がある製品なのかについて考えていきたい。

 最初にひとつ紹介しておかなければいけないこととして、今回発表された5製品はいずれも新開発されたダイという訳ではない。今回はまだ詳細が公開されていないRADEON R9 290X/290は、新世代のアーキテクチャになると考えられているのに対して、今回の製品に採用されているGPUのダイはRADEON HD 8000世代やRADEON HD 7000世代に利用されていた28nmプロセスルールで製造されているダイが活用されている。

 しかしながら、回路設計と呼ばれる半導体の性能を決めるもうひとつのポイントから見れば、今回のダイは世代が半分だけアップしたような新設計になっており、従来の製品に比べるとクロックが向上したり、同じ電力で実現できる性能が向上するなど電力効率が改善されており、トータルで見れば性能が向上しているのだ。ぶっちゃけて言えば、単なる“リネーム品”じゃないのだ。

●“リネーム品”とディスられることになる背景にはマーケティング的な事情が…

 新しいGPUが発表されたときに、非常にわかりやすくそれをディスる方法としては“リネームじゃん”という言い方がある。あまりGPUやCPUについて詳しくない人のために説明すると、リネームというのは、同じGPUダイを使っていながら、ブランド名だけが変わった場合のことを意味している。つまり、使われている半導体そのものには何も手が入っていないのに、ブランド名という“バッジ”だけを付け替えることで新製品であるように“装う”場合のことを言っている。率直に言って、GPUベンダーはどちらもこの手法を何度も使ってきたため、そういうようにディスられても仕方ないという例がいくつもあったのは事実だ。

 では、なぜGPUベンダーはそういう手法を採用するのかと言えば、一言で言ってしまえばPCメーカーなり、AIBパートナー(ASUSやMSIなどグラフィックスボードを製造販売するメーカー)がそれを必要とするからだ。例えば、市場に“週アス7000”というGPUのシリーズが出回っている状態のことを想像してみよう。その時に、前世代の“週アス6000”というGPUのシリーズに利用されていた週アス6300があって、それをユーザーに販売しないといけない場合、それを“週アス7300”と改名してみたらどうだろうか?ユーザーから見れば、7300となっていれば、7000シリーズのローエンドなのかと考えて買う人も増えるだろうし、それで販売促進につながればメーカーとして万々歳、とそういう仕組みだ。

 もちろん、これはユーザーを騙そうとかそういうことではない。そもそもブランド名という便宜的につけられているものであり、それ自体が販売促進を狙ってつけられているものだから、このようにリブランドして製品を販売する例というのは世の中にいくらでもある。実際、機能や新チップにこだわるユーザーなら、よくスペックを比較してから購入するだろうし、そういうことにはこだわらずに購入したいユーザーにとってはむしろこうした方がわかりやすいとも言える。

 ただ、ちゃんと詳細にこだわって買いたいユーザーにとっては、せっかくの新シリーズかと思ったら、「前のチップの使い回しかよ」という不満を感じる気持ちはわかる。これが“リネーム品”というストーリーの原因だろう。

●今回発表された5製品は単なるリネーム品ではなく回路設計などに手が入っている

 その上で、今回発表されたRADEON R9 280X、RADEON R9 270X、RADEON R7 260X、RADEON R7 250、RADEON R7 240のスペックを見てみよう。

 AMDが発表したRADEON R9/R7 2xxxシリーズ(開発コードネームはAMDからは非公表)

 R9 280XR9 270XR7 260X
開発コードネームTahitiPitcairnBonaire
製造プロセスルールTSMC 28nmTSMC 28nmTSMC 28nm
ストリームプロセッサー20481280896
エンジンクロック最大1GHz最大1.05GHz最大1.1GHz
処理能力4.1TFLOPS2.69TFLOPS1.97TFLOPS
メモリー構成3GB GDDR52GB/4GB GDDR52GB GDDR3
メモリーバス幅384ビット256ビット128ビット
メモリー速度6Gbps5.6Gbps6.5Gbps
TrueAudio対応--対応
追加電源コネクター8ピン×1/6ピン×16ピン×26ピン×1
消費電力250W180W115W
ディスプレイコントローラー666
PCI Express333
DirectX(API)11.211.211.2
OpenGL(API)4.34.34.3
Mantle(API)
予想価格299ドル199ドル139ドル

 

 R7 250R240
開発コードネームOlandOland
製造プロセスルールTSMC 28nmTSMC 28nm
ストリームプロセッサー384320
エンジンクロック最大1.05GHz最大0.78GHz
処理能力0.806TFLOPS0.499GFLOPS
メモリー構成1GB GDDR3/2GB DDR31GB GDDR3/2GB DDR3
メモリーバス幅128ビット128ビット
メモリー速度4.6Gbps4.6Gbps
TrueAudio対応--
追加電源コネクター不要不要
消費電力65W30W
ディスプレイコントローラー44
PCI Express33
DirectX(API)11.211.2
OpenGL(API)4.34.3
Mantle(API)
予想価格89ドル未公表

 

 勘のいい人は、この表だけですべてを理解したと思うが、利用されているGPUのダイのコードネームを見れば明らかなように、RADEON HD8000シリーズ、RADEON HD7000シリーズに利用されていたダイが利用されている。例えば、RADEON R9 280Xに採用されているダイは、“Tahiti”の開発コードネームで知られるダイで、RADEON HD7000シリーズの最上位であるRADEON HD7900/7800シリーズで利用されていたモノだ。そういう意味では、同じダイを利用して別ブランドになるという“リネーム”品としてディスる人はでてきておかしくない。

 だが、今回に関しては、単純に“リネーム品”だとディスることは実は無理がある。というのも、確かにチップのマイクロアーキテクチャー(半導体の機能上の仕様、演算器の数などのこと)は、RADEON HD8000シリーズ、RADEON HD7000シリーズに採用されていたモノと同じになっている。しかし、ダイそのものには手が入れられているからだ。

 半導体の性能を決めるパラメーターは実はたくさんあるのだが、もちろん最大のモノはマイクロアーキテクチャーとプロセスルールの世代となるが、すでに述べたように、今回の製品ではいずれも変わっていない。すべての製品のプロセスルールは、TSMCの28nmプロセスルールで、この点はRADEON HD7000/8000シリーズと同等だ。

 ではどこに手が入っているのかと言えば、ダイの回路周りだ。この回路とは、マイクロアーキテクチャを半導体に実装するときのデザイン一般のことを言っており、この回路設計が優れていればより高いクロック周波数で動かしたり、同じ性能なのにより消費電力を下げたりすることができるようになる。つまり、回路設計の善し悪しによっても性能が変わってくるのだ。

 今回AMDはRADEON R9/R7 2xxシリーズをリリースするにあたり、従来のダイの回路設計を見直し、より最適化した回路設計にしているのだ。つまり、RADEON R9 280Xに採用されているTahitiは、RADEON HD7900/7800シリーズに採用されていたTahitiとマイクロアーキテクチャーは一緒だが、回路設計などが新しくなっている新リビジョンのチップなのだ。RADEON R9 270X、RADEON R7 260Xなども同等で、同じように回路設計などが新しくなった新リビジョンのダイに変更されている。

 AMDによれば、このメリットは小さくなく、例えばクロック周波数をあげることが可能になっていたり、同じ性能を実現するときに消費される電力が小さくなっている(つまり、電力効率が改善されている)などのメリットがあるという。つまり、同じダイであっても半導体の特性が改善されることで性能が向上しているのだ。言ってみればバージョン2にはなっていないけど、バージョン1.5ぐらいのバージョンアップがされたダイということだ。これをそのまま“リネーム”だとディスるのは無理があるというのはこういう意味だ。

バトルフィールド 4のMantle対応版が年内にリリース予定。R7 260XはTrue Audioに対応

 しかも、今回のRADEON R9/R7シリーズには、PCゲームユーザーにとって見逃せない新機能がいくつか追加されている。ひとつは以前の記事(関連記事)でも紹介した『Mantle』だ。MantleはMicrosoftのDirect3Dを置き換えるようなAPIで、よりAMDのGPUに最適化されているため、Mantleを利用したPCゲームが登場すれば、GPUの性能をより引き出すことが可能になる。AMDは間もなくエレクトロニック・アーツがリリースする人気ゲームタイトル『バトルフィールド 4』にDirect3D版のみでなく、Mantle版が提供される予定であることを明らかにした。RADEON R9/R7世代のGPUを持っていれば、このバトルフィールド 4のMantle版を利用することが可能になるため、バトルフィールド 4をプレイするユーザーであれば、この点は大きな魅力のひとつとなるだろう。

 さらにRADEON R7 260Xに関しては、以前の記事でも紹介したプログラマブルオーディオ機能『True Audio』に対応している。従来のダイの改良版で、マイクロアーキテクチャーは同じなのに、なぜRADEON R7 260XだけTrue Audioに対応しているのかと言えば、このRADEON R7 260Xに採用されていたダイだけに、True Audioのエンジンをあらかじめ内蔵していたからだ(RADEON HD8000世代に使われていたときにはその機能は無効にされていた)。これにより、ゲームがTrue Audioに対応すれば、CPUの負荷率をあげることなく、より臨場感のあるオーディオを楽しむことができるようになる。

 このように、今回発表されたRADEON R9/R7 2xxシリーズは、GPUの基本的なアーキテクチャこそ前世代と変わらないものの、回路設計の改善などによりパフォーマンスや電力効率が上がっているほか、新APIへの対応やTrue Audioへの対応など重要な新機能も実装されている。このように、そんじょそこらの“リネーム”品とは違って、これからグラフィックスボードを買い換えるなら、ぜひとも選択肢のひとつに入れておきたい新シリーズなのだ。

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