ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 訪問販売8 『腋臭保護フィルム』2013年10月21日 00:16書いてから気付きましたけどこのシリーズで初の全年齢向けでした。……全年齢向け、ですよね?―――ぷぴっ――――――ぽぴっ―――動くたびに、恥ずかしい音がする。音がしているのは腋の下。音を抑えるには腕を動かさないようにしないとならない。でもそれじゃ不自然な動きしか出来なくって……「ねえ、なんか朝から動きが変じゃない?ひょっとしてこの連休で何かあったの?」やっぱり、変な目で見られるよね。こんなことを朝から何人にも聞かれてる。「あるわけないじゃない。ちょっと筋肉痛になっちゃってるだけだから、気にしないで。」「なぁんだ。つまんないの。」それは嘘。彼女が期待していることとは違うけれど、実際には信じられない『何か』が起こってしまった。それでもこんなこと、想像出来るわけもないだろうし説明しようだなんて気にもならない。むしろ隠しておきたいんだけど……誤魔化せた、かな?「あれ?」あ……まずいかも……距離が近いから、音じゃない方にも気付かれたかも知れない。「……なに?」不自然にならないように距離を取りながら確認をする。「えっと……ううん、なんでもない。」うぅ……この反応。はっきりとは言わないけど、間違いなく気付かれてる。もう……ヤだ……こんなの……「ごめん……ちょっとお手洗い行きたいから……また、後でね。」「あ、うん。また……」逃げるようにその場を離れトイレへと駆け込んだ。個室の中で一息ついてから、改めて確認する。―――スン―――トイレの中でもはっきりと嗅ぎ分けられるこの臭い。その原因が私の身体からだなんて……信じられない……こんなことになった原因は3日前、3連休の初日だった。両親の留守を狙ったようにやってきた訪問販売の女の人。何も買わないからと追い出そうとしたんだけれど、私宛にプレゼント依頼を受けていて既にその代金も受け取ってしまっているらしかった。プレゼントと言われて興味が湧いて、ついついそのまま話を聞くことにしてしまった。綾重と名乗ったその人はトランクを漁ると、手を突き出してきた。一見すると何も持ってない様に見えたけれど、無理やり手渡されてそこに透明なものがあることに気付いた。『これはですねぇ、透明度が高いので知らなければまず気付くことは出来ないんですよぉ。』随分とおっとりとした声でそんな説明をされた。この時点で追い出してれば、こんなことにはならなかったのかな……『それはいいんですけれど……これ、一体何なんですか?』透明なお椀型のフィルム。それが触って分かったその品物の第一印象だった。柔らかくて押せば簡単にへこむけれど、手を離すとすぐに元通りの形になるフィルム。『えぇっとですねぇ。それを使う前にはちょっと準備が必要でして……う~ん、そろそろ寒くなってきたからってお手入れはちゃんとした方がいいですよ?』唐突に話を変えられて、話の流れが全く見えなくなる。『じゃあこれはぁお返しします。要らなければそのまま捨ててくださいねぇ?』いつの間にか綾重さんが手にしていたビニール袋を渡され、お椀型のフィルムを取り上げられる。ビニール袋の中に入っていたのは沢山の毛。しかもしっかり毛根まで付いているところを見ると、切ったのではなく抜いたものだろうと思えた。『返すって……何ですかこれ。』『えぇ、そのままですと段々と抜けていってしまいますからねぇ。事前に永久脱毛しておく必要があるんです。』さっぱり会話が噛み合わなかった。それでも何か得体の知れない恐怖感が湧き上がったのはこの辺りだったと思う。『それでぇ、代わりなんですけれど色はどうしましょうか?元と同じ色でもいいんですけれど、折角ですから金色とかぁ……あ、普通じゃ有り得ないピンクとかも面白いかも知れませんね。』トランクを漁りながら独り言のように喋り続ける。『う~ん……まだ学生さんですしあんまり奇抜な色にしても何ですからぁ、この辺にしておきましょうか。』振り返った綾重さんが両手で持っていたのは、先ほどのビニール袋の中にあったのと似たようなもの。つまり沢山の毛だった。ただし色は金色をしていて、袋の中にあったものよりずっと大量だった。『はい、それじゃこれを先に付けちゃいますね。』綾重さんが毛を持った手を近づけてきた。付けると言われて逃げようと思ったのに、身体は思うように動いてくれなかった。そしていつの間にか私は上着を脱いでいて、上半身がブラしか身につけていない半裸になっていることに気付いた。綾重さんの仕業なのか、確認しようと思った時にはもう手が至近距離まで迫っていた。ポンッ、と叩くように腋の下に触れただけ。それなのに手の上からは毛がなくなっていた。慌てて確認すると、私の腋に金色の毛が全てくっついている。これまで腋に生えていた毛よりもはるかに多い量だった。この時、さっき渡されたビニール袋の中身が自分の腋の毛だったことに気付いた。『いやっ!!』取ろうとしたけれど、しっかりと肌に張り付いたるみたいで……ううん、張り付いているって言うか肌の奥にまで根元が入り込んで元から生えていたみたいな感じになっていた。『痛ッ!!』引っ張っても痛みを感じるばかりで一本だって抜けることはなかった。『それはですねぇ。それ以上伸びることは有りませんけど抜けることもありませんからぁ、今後のお手入れは不要になりますよ。』その場で起こっていることが信じられなかった。『さ、それじゃ仕上げです。』また腋の下を軽く叩かれる。何故かわからないけれど、綾重さんの手が伸びてくると抵抗出来ずに……それどころかまるで協力するように、自分で腕を上げてしまっていた。『今度は何をしたの!?』目で見ても何かされたようには見えなかった。確認の為に、腋の下に手を伸ばす。手に返ってきた感触は、滑らかなフィルムに触れたようなもの。最初に手渡されたお椀型のフィルムを貼り付けられたみたいだった。『このフィルムなんですけれどぉ、特殊な加工がされていまして空気は通過出来るんですね。それで水分は内側から外側に向けては抜けて行くんですけれどぉ、逆は通らない様になっているんです。』……意味がわからなかった。『登山用のカッパなんかに使われている技術に似てますね。外からの雨は入り込まないけれど、汗は蒸発するので中が蒸れないっていうカッパ。聞いたことありません?』得意そうに解説されたけれど、何の為にそんなことになっているのかが知りたかった。『うふふふふ、わかりません?外から水が通らないってことは、今後貴女は腋の下を洗うことが出来なくなっちゃったってことですよ。でも空気や内側からの汗は通り抜けてくる。どんなにおいが広がるんでしょうねぇ?』『嘘……でしょ?』頭がくらくらして、目の前が歪んで見えていた。『事前処理をしませんと、フィルムの中に抜け落ちた腋毛が溜まっちゃうんですけれど作り物に置き換えてますからその心配も無用です。しかもたっぷりの毛があるのでこれまで以上に蒸れやすくなってるんですよぉ。』『いやっ、こんなのっ!!取って、取ってよ!!』必死で取ろうとしたけれど、腋に貼られたフィルムはまともに抓むことすら出来なくてとても剥がせそうもなかった。腋を引っ掻くようにしても、フィルムの縁はぴったりと張り付いていて全く取れる気配がない。押されて中の空気が抜けるたびに「ぷぴっ」だの「ぽぴっ」だのと、奇妙な音を立てるだけだった。『うふふふふ、体育の後なんかに嗅ぐことの出来る貴女の汗の匂いが好きだって方からのリクエストでこんな商品をご用意してみました。喜んで頂けました?』喜べるはずなんて、なかった。『誰なのよ、そんなリクエストなんてしたの!!』『それは守秘義務って奴でしてぇ、お答えできません。それでは無事商品のお渡しも出来ましたし、私はこれで。』上半身が半裸の私は、出て行く綾重さんを追いかけることすら出来なかった。あれから3日。綾重さんの言葉通り、腋の下は洗うことが出来なくて段々と臭いが強くなってきていしまっている。空気だけは通り抜け出来るせいで腋を閉じたり開いたりするたびに、間の抜けた音とともにその臭いが広がる。……3日。まだ3日。このまま洗うことが出来なければ、臭いだってどんどん強くなってしまうはず。汗のにおいだなんてそんなものじゃすまなくなるかも知れないのに、こんなリクエストをした犯人はそれでもいいっていうの!?……うぅ……せめて、制汗スプレーでちょっとでも臭いを誤魔化して教室に戻ろう……