蔵書No.06 WJTOG肺がん市民公開講座 in 北九州-肺がんになったらどうする?-
4.くすりでなおす肺がん治療(九州大学 高山浩一)
肺がん治療の原則は切れるものは切る、どうしても切れない場合に、放射線があてられる範囲の病変の広がりであれば放射線をあてるというのが原則ですが、切ることもできず、病変が広がっていて放射線をあてることができない場合には、抗がん剤を使わざるをえません。抗がん剤は癌が進行している時にだけ使うものではなくて、手術したあとの患者さんに使うこともありますし、放射線治療と並行して使うこともあります。従って、がんの早期から進行したものまで、どんな進み具合の患者さんでも抗癌剤による治療を受ける可能性があります。そこで、抗がん剤とはこういうものだということを知っていただくために、九大病院の呼吸器科の病棟では、入院患者さん及びそのご家族とお話をする会を毎週開いております。これは、その時にお配りしているパンフレットの表紙です。呼吸器科の中西教授が監修してつくったもので、今日はこのパンフレットにそってお話をしたいと思います。
まず肺がんの種類についてのお話です。癌のできる場所ですが、肺の中心部にできることもあれば、はしっこに出来てくる場合もあります。肺がんの種類を大きく分けると小細胞肺がんとそれ以外のがんに分けられ、小細胞以外のがんを一まとめにして非小細胞肺がんといいます。がんがどっちの種類かでその後の治療法が少しかわってきます。
癌の治療は、病期という癌の進行度によっておおまかな方針が決まります。このためにTNM分類が使われますが、ちょっと難しくなりますので詳しくは言いませんが、これを使って病期を決めていきます。肺がんは、その進行具合によって・期から・期までに分類されます。早期の場合が・期でそれが進行していくと、・期・・期と進み、一番進行すると・期になります。・期・期、・期は切れるものは切って、切れないものでも放射線があてられる場合には放射線をあてますが、放射線の効果を高めるために抗がん剤を一緒に使うこともあります。そして放射線をあてられない場合、あるいは・期になって肺の外にまで癌が広がった場合には抗がん剤を使うことになります。
小細胞肺がんというのは非常に進行が早いがんで、通常は手術が出来ません。・期の一番早い時期でも多くの場合は手術に加えて抗がん剤に化学療法を追加することになります。・~・A期では放射線と抗がん剤を同時に使う、それ以上に進行しているときには化学療法ということになります。小細胞肺がんのもうひとつの特徴は、抗がん剤や放射線治療に対する効き目の違いです。小細胞肺がんは進行スピードが早く、抗がん剤や放射線治療の効果が高いのです。このため小細胞肺がんでは早期の段階から、抗がん剤を使うとういうことが行なわれています。
抗がん剤を使った治療を化学療法と呼びますが、これには静脈注射や点滴静脈注射が主ですが、飲み薬もあります。抗がん剤はふつう血液の流れに乗って全身をめぐるため肺の外に広がったがん細胞にも効果が期待できます。がんを手術で切り取った後も小さながん細胞が残っている場合もありますし、肺の外に転移している場合もありますので、手術のあとに抗がん剤を使うこともあります。放射線治療と組み合わせてより強い治療効果が期待できる場合もあります。抗がん剤というのは大なり小なり必ず副作用が出る薬です。そして副作用の出方というのは個人差があるので、よく医師と相談して治療をすすめないといけません。
それでは、どのようなくすりが、肺がんの治療に使われるかということですが、これも小細胞肺がんと非小細胞がんで変わってきます。非小細胞肺がんには、シスプラチンやカルボプラチンといったプラチナ製剤と呼ばれているものと、それ以外にこの過去10年くらいの間に次々と開発されてきたイリノテカン、ビノレルビン、ゲムシタビン、バクリタキセル、ドセタキセルといった新しい製剤が使用されます。基本的には二つの薬を組み合わせて点滴の治療を行なうというのが原則ですが、場合によっては単剤で治療することもあります。小細胞肺がんの場合はちょっと使われる薬が違いまして、シスプラスチンまたはカルボプラチンを中心に使い、それにエトポシドとかイリノテカンなどを組み合わせて使うというような治療法が一般的です。
抗がん剤の投与のスケジュールですが、おおむね1ヶ月間を治療期間の単位として考えています。副作用の話は後でしますが、抗がん剤の治療後に概ね1ヶ月くらいたつと治療をやる前の体力に回復してきてまた治療ができるという状態になります。抗がん剤の投与方法は、1日目に全部点滴で投与する場合もあれば2回に分けて1日目と15日目と2回半分ずつ投与する場合、また3回にわけて1日目と1週間後、2週間後の3回に分けて投与する場合もあります。患者さんの状態やがんの状態を見ながら、あるいは薬の組み合わせによってどのようなスケジュールで投与するかを決めています。どれがいいというのは一概にはいえないのですが、いずれにしても、1ヶ月が一つの単位ということで考えてもらったらいいと思います。少し詳しく言いますと、例えばシスプラチンとイリノテカンという組み合わせでいくとシスプラチンというのは1日目に全量を投与します。それに対してイリノテカンという薬は、1日目、8日目、15日目と3回に分割して投与します。この治療を4週ごとに、つまり一ヶ月をひとつの単位として、標準的にはこの治療を4回繰り返します。ビノレルビンとシスプラチンの併用となると、ビノレルビンは1日目と8日目の2回に分割して投与するというのが一般的な方法です。ゲムシタビンも同じように分割して投与します。カルボプラチンとパクリタキセルは1日目に全部投与するというのが、一般的ですけれども薬の副作用を軽くするために分けて投与するということも行なわれています。いずれも3ないし4週、おおよそ1ヶ月をひとつの単位として繰り返して行なわれ、合計3回から4回行うというのが標準的な治療スケジュールです。
抗がん剤を投与した後の副作用の出方を時間の流れにそって示してみました。全体を4週間の単位で見てみます。最初の一週間では、抗がん剤を投与した直後におこる注意すべき副作用としてアレルギー反応があります。おそらくどんなくすりでも起こる可能性はあるんですが、抗がん剤の中にアレルギーを起こしやすい薬があります。そういう薬は、投与直後にアレルギーをおこしていないかどうか注意しておかないといけません。最初の1週間の間に起こってくる副作用として一番多いのが食欲低下と吐き気です。これも抗がん剤の種類によっては強いものとそうでないものがあり、特にシスプラチンというお薬は吐き気が強くでます。シスプラチン以外の抗癌剤では吐き気はそれほど強くありませんが、多くの場合食欲不振は起こります。次の1週間の間に一番注意しなければいけないのが骨髄抑制です。これは血液の成分である白血球が少なくなったり、血小板が少なくなったり、貧血が起きたりして体の抵抗力が落ちる時期を迎えます。ただこれは自分ではわかりませんので必ず採血をして、血液の状態を見ながら、どれくらいの副作用がでているかということを確認しながら治療をすすめていくことになります。また一方では、最初の吐き気だとか食欲不振が起こったあとに、人によっては下痢が起こったり、口内炎が起きたりという消化器の症状がおこることがあります。それからもう少し遅れて、今度は脱毛がおこってきたり肝臓の障害が起こってきたりというようなことがありますし、さらに厄介なのは、神経障害といって、手足のしびれという副作用が薬によっては、じわじわと後のほうから起こるということもあります。こういった形でいろんな副作用がおこってきますが、この図は典型的なパターンの一つを示しただけで、このような副作用が全ての患者さんにおこるわけではないですし、おこるパターンも患者さんによってまちまちです。
抗がん剤の治療というのは、がんが進行した状態の患者さんに投与することが多いのですが、どんな患者さんに使っても、同じようにメリットが得られるという訳ではありません。これは、手術でも、放射線治療でも同じ事ですけれども、治療中には大なり小なり何らかのストレスがかかります。ですから、治療のストレスに耐えられるだけの体力を維持していないと治療とはできません。抗がん剤治療はやはり、相当なストレスを生じますからある程度体力に余裕がないと、むしろ抗がん剤を使うと状態が悪くなるといわれています。それを判断する方法にPS(パフォーマンステータス)という指標があります。PS0というのは全く無症状で病気になる前と同じように、生活できている状態です。PS1というのは少し症状があるけれども、軽い事務作業とか座ってできる仕事はできますよ、家事などはできますよという状態です。PS2というのは散歩や自分の身の回りのことはできるけれども、たまに介助がいる。軽い作業でも仕事をするのはちょっと難しいけど一日のうち半分はベッドから起きている状態です。PS3は1日の半分以上は寝てないと体がきつい。PS4になると身の回りのことをするのもきついというような状況です。抗がん剤治療ができるのは原則としてPS2までで、抗がん剤による治療に耐えてメリットを得られるのはこの状況までだというふうに一般的には考えられています。あまりにも体力が落ちた状況で抗がん剤を使うとむしろより体力を奪ってしまうことにもなりますし、場合によっては病状が進行してしまうということもありますので、こういう人たちの場合はまず体力を改善する、何が原因で体力が落ちているかということをよく考えて、体力を改善させる方法を先に考えないといけないということになります。
次に治療中の生活で気をつけることについてお話します。先ほどお示しした図の流れにそって、副作用がおきますので、それぞれの副作用に対しての注意するがあります。ひとつは治療後1週間後から2週間後にかけて、白血球が減ってくるというお話をしました。白血球というのは外から身体の中に病原菌が入ってきたときに、それに抵抗する力です。従って白血球が少なくなると、病原菌に対する抵抗力が落ちてしまいます。例えば普通だったら風邪で終わるところが、気管支炎になったり場合によっては肺炎になったりということがあります。熱が出るというのは、感染がおきている兆候で、感染というのは外からバイ菌が入ってくることですから、場合によっては、抗生物質を使ったり血液検査やったりというようなことが必要になってきます。入院中は毎日看護師が検温しますから、見落とすということはありませんが、外来で通院治療をしている方は、自分できちんと体温を毎日測って管理しておかないといけません。
血小板という血液の成分が減ってくると、血が固まりにくくなります。肺がんの治療は、血小板がとても少なくなって出血するということは、比較的まれですが、それでも中には血小板がかなり減ってくる方もおられますので、もし歯磨きをするたびに毎回歯茎から出血する、あるいは鼻をかんだだけで必ず鼻血が出るとか、手足をちょっとぶつけただけで内出血がおきるということが頻繁にみられる場合は血小板が下がっているのではないかと疑って、血液検査をしてみないといけません。
それから吐き気についてですが、これも抗がん剤の治療をする時にやっぱり大なり小なり起こってくるもっとも頻度の高い副作用のひとつです。食欲がない時に、患者さんにいつも勧めているのはとにかく食べなれたもので自分が食べやすいものを食べるということです。ただ一般的に、みなさんがよく言われるのは、あったかくて臭いのあるものはどうしてもだめで、臭いがあるとどうしてもそれだけでむかむかして吐き気が起こるという方が多いですね。それに対して豆腐だとか、酢の物だとかそういう冷たいものは割によく入る。それから飲み物でも炭酸飲料は比較的飲みやすいということは多くの患者さんが言われます。どうしてもいろんなものが飲めないのだけれども、コーラだけは飲めるという人が時々います。人によっては果汁が飲みやすいという方もおられます。もし抗がん剤の治療を受けて、吐き気がおこる食欲がなくなるということがあった場合には、こういったものを試してみるのもよいかと思います。
腸の動きを悪くする消化器の症状として便秘がおこりやすくなります。薬によっては下痢がおこることもありますが、便秘に傾くことのほうが多いようです。腸の動きが少し悪くなって便秘になったときには、水分をなるだけ多くとって繊維性の多いものをとると良いのですけれど、やっぱり食欲のないときにこういうものはなかなか食べれないですね。しかし水分だけは十分とってもらいたいですし、何日も便通がなくてお腹がはってくるようなときは、下剤を使ってでも、便通を整えることが必要になってきます。
逆に抗癌剤によっては下痢がおこってくることがあります。これは例えば抗がん剤の中では、先ほどいくつか抗がん剤を示しましたけど、イリノテカンと呼ばれるお薬に、非常に多く下痢がおこることが知られています。特にイリノテカンを使っている患者さんの場合には注意をしておかないといけないのですが、この場合も水分補給ですね。それとおかゆだとかうどんとか当たり前のことですがそういった消化のよいものをとりましょう。下痢というのは腸液を失うということなのですが、人間の腸液というのはカリウムが非常に豊富なので体からカリウムを失うことになります。そのためにカリウムの多いもの、バナナとか果汁とかを一緒に補っていくことも必要ですし、スポーツドリンクにはミネラルがバランスよく入っていますのでスポーツドリンクを飲んでいただくこともあります。ただ、あまり下痢が続いている時はどんどん体力消耗しますので、薬によって改善できる場合もありますから、主治医に相談していただかなければいけません。
それから次に手足のしびれですが、抗癌剤によっては手足の神経が障害されてしびれることがあります。特にこれがおこるのは、パクリタキセルやドセタキセルといったタキサン系のお薬です。軽いうちは、手先足先に違和感がある程度ですけれどひどくなると、しびれというより痛みとして感じるあるいや細かい作業ができないとか力が入らないといった状態になることがあります。もししびれがひどくなった場合には、抗癌剤そのものを変えるということも考えなくてはいけませんし、しびれに対するなかなか効果的な薬ではないんですけども、ビタミン剤とかあるいはある種の漢方薬とかが良いといわれることもありますから、そういったものを使いながら経過をみています。
それからほてり、かゆみといったアレルギー症状の話しをします。これもパクリタキセルとかドセタキセルといった薬に時々ありますが、特にパクリタキセルという薬に、投与直後にアレルギー反応がおこることがあります。軽ければかゆみだとか体がほてった感じだけで終わることもあるのですけど、ひどくなると、息苦しくなったり、場合によっては血圧が下がって意識レベルが下がったりということもありますから、アレルギーが疑われる症状の時は軽くてもすぐにドクターに報告していただかないといけません。
それから次に脱毛ですが、抗がん剤によって脱毛の程度が軽いものと重いものがありますけれど、ほとんどの抗がん剤に共通しておこります。脱毛は点滴してすぐにおこるわけではありませんが2週、3週と時間が経ってくると、だんだん髪の毛が抜けるということがあります。特に女性の患者さんの場合には美容上の問題がありますから、治療をする前に必ず、帽子やかつらなどを準備するようにおすすめしています。九大の場合には外来に外来化学療法室というのがありまして、そこにかつらに関しては、メーカーさんからいろんな情報を集めていますので、もしご相談されたいことがありましたら、外来化学療法室というところにお尋ねになったらいいかと思います。
また抗癌剤によっては、関節痛や筋肉痛が起こってくる場合があります。これも時間がたてば改善していきますけども、あまりひどいときには、我慢せずに痛み止めを飲んで必ず痛みをとるというふうにしておいたほうがよいと思います。
それから精神的なストレスですが、治療期間中なんとなく体がだるいとか、ストレスがいつもかかっている感じがする、あるいは眠ろうと思ってもぐっすり眠れない、といった精神的な疲労感を患者さんが時々訴えられます。このことが治療そのものによっておこってきているのか、あるいは病気そのものによっておこってきているのか、それはよくわからないことが多いのですけれども、こういう状態を続けておくとうつ病という状態になることがあります。このような精神的なストレスあるいは、疲労感とか倦怠感、十分眠れないという症状があるときは、いわゆる心をみてくれる先生、たとえば精神科や心療内科のドクターに診ていただくことをおすすめしています。九大病院の場合は必ず精神科の先生にみてもらうようにしています。精神科というとなかなか、ちょっと敷居が高いといいますか、受診しにくいと患者さんがよくいわれるんですが、欧米では精神科にかかるのは当たり前となっていますので一人で悩まずに気軽に相談してもらいたいと思います。現在、九大病院ではこのような精神的ストレスがどれくらいかかっているかということを入院時にアンケートで調べさせてもらっています。もし強くストレスがかかっている患者さんの場合には精神科のドクターに病棟に来てもらって、病棟でお話しを聴いてもらうということをおすすめしています。もちろん通院治療されている方の場合は自宅でリラックスできる方法がいろいろあると思いますけども、入院していますとなかなかできませんので、できるだけ心のケアも含めて治療をすすめていく必要があります。逆にいつもイライラして落ち着かない精神状態になることもありますが、やはりこれも心の問題であることが多いですのでこういう場合も心療内科、精神科の先生に相談しながら一緒にやっていっています。
日常生活に気をつけることをスライドにまとめてみました。基本的には普段どおりに生活してもらいたいのですが、最初にお話したように抗がん剤をつかったあといろんな副作用が起こってきますので、そのことをしっかりと自覚しておいて対応していかなければいけません。ひとつだけ痛みに関してお話いたします。がんにともなう痛みを我慢してもなにも良いことはありません。痛みがある場合、まず一般的な痛み止めを使います。それで治まればいいのですけど、治まらないときには、医療用のモルヒネを使います。この医療用モルヒネについてはしばしば誤解があって、患者さんが拒否されることがときどきあります。よく患者さんからモルヒネを使うとやめられなくなるのではないかと依存性をすごく気にされる場合があります。しかし依存性ができるという薬は、使うと気持ちがよくなる薬で、医療用のモルヒネは基本的には苦いばかりでまったく気持ちよくなることはありません。治療がすすんで痛みが軽くなればいつでもやめられる薬です。しかしモルヒネの鎮痛効果は非常にすぐれていますので、通常の鎮痛剤で痛みが取れない場合には我慢せずにモルヒネ製剤をつかってでも、きちんと痛みをとっておいたほうがその後の治療もスムースにすすんでいくことになります。
それから最後にたばこの話です。これはあとで吉井先生がお話されると思いますけど、予防にとって大事なのは当然ですが、たばこを吸っていると肺の機能がおちていくために、手術できる人も手術できなくなることもありますし、最近ではたばこを吸うことが、抗がん剤の効果を弱めるというようなことが報告されてきています。何一ついいことがないので、できるだけやめていただきたいと思っております。
肺がん治療の原則は切れるものは切る、どうしても切れない場合に、放射線があてられる範囲の病変の広がりであれば放射線をあてるというのが原則ですが、切ることもできず、病変が広がっていて放射線をあてることができない場合には、抗がん剤を使わざるをえません。抗がん剤は癌が進行している時にだけ使うものではなくて、手術したあとの患者さんに使うこともありますし、放射線治療と並行して使うこともあります。従って、がんの早期から進行したものまで、どんな進み具合の患者さんでも抗癌剤による治療を受ける可能性があります。そこで、抗がん剤とはこういうものだということを知っていただくために、九大病院の呼吸器科の病棟では、入院患者さん及びそのご家族とお話をする会を毎週開いております。これは、その時にお配りしているパンフレットの表紙です。呼吸器科の中西教授が監修してつくったもので、今日はこのパンフレットにそってお話をしたいと思います。
まず肺がんの種類についてのお話です。癌のできる場所ですが、肺の中心部にできることもあれば、はしっこに出来てくる場合もあります。肺がんの種類を大きく分けると小細胞肺がんとそれ以外のがんに分けられ、小細胞以外のがんを一まとめにして非小細胞肺がんといいます。がんがどっちの種類かでその後の治療法が少しかわってきます。
癌の治療は、病期という癌の進行度によっておおまかな方針が決まります。このためにTNM分類が使われますが、ちょっと難しくなりますので詳しくは言いませんが、これを使って病期を決めていきます。肺がんは、その進行具合によって・期から・期までに分類されます。早期の場合が・期でそれが進行していくと、・期・・期と進み、一番進行すると・期になります。・期・期、・期は切れるものは切って、切れないものでも放射線があてられる場合には放射線をあてますが、放射線の効果を高めるために抗がん剤を一緒に使うこともあります。そして放射線をあてられない場合、あるいは・期になって肺の外にまで癌が広がった場合には抗がん剤を使うことになります。
小細胞肺がんというのは非常に進行が早いがんで、通常は手術が出来ません。・期の一番早い時期でも多くの場合は手術に加えて抗がん剤に化学療法を追加することになります。・~・A期では放射線と抗がん剤を同時に使う、それ以上に進行しているときには化学療法ということになります。小細胞肺がんのもうひとつの特徴は、抗がん剤や放射線治療に対する効き目の違いです。小細胞肺がんは進行スピードが早く、抗がん剤や放射線治療の効果が高いのです。このため小細胞肺がんでは早期の段階から、抗がん剤を使うとういうことが行なわれています。
抗がん剤を使った治療を化学療法と呼びますが、これには静脈注射や点滴静脈注射が主ですが、飲み薬もあります。抗がん剤はふつう血液の流れに乗って全身をめぐるため肺の外に広がったがん細胞にも効果が期待できます。がんを手術で切り取った後も小さながん細胞が残っている場合もありますし、肺の外に転移している場合もありますので、手術のあとに抗がん剤を使うこともあります。放射線治療と組み合わせてより強い治療効果が期待できる場合もあります。抗がん剤というのは大なり小なり必ず副作用が出る薬です。そして副作用の出方というのは個人差があるので、よく医師と相談して治療をすすめないといけません。
それでは、どのようなくすりが、肺がんの治療に使われるかということですが、これも小細胞肺がんと非小細胞がんで変わってきます。非小細胞肺がんには、シスプラチンやカルボプラチンといったプラチナ製剤と呼ばれているものと、それ以外にこの過去10年くらいの間に次々と開発されてきたイリノテカン、ビノレルビン、ゲムシタビン、バクリタキセル、ドセタキセルといった新しい製剤が使用されます。基本的には二つの薬を組み合わせて点滴の治療を行なうというのが原則ですが、場合によっては単剤で治療することもあります。小細胞肺がんの場合はちょっと使われる薬が違いまして、シスプラスチンまたはカルボプラチンを中心に使い、それにエトポシドとかイリノテカンなどを組み合わせて使うというような治療法が一般的です。
抗がん剤の投与のスケジュールですが、おおむね1ヶ月間を治療期間の単位として考えています。副作用の話は後でしますが、抗がん剤の治療後に概ね1ヶ月くらいたつと治療をやる前の体力に回復してきてまた治療ができるという状態になります。抗がん剤の投与方法は、1日目に全部点滴で投与する場合もあれば2回に分けて1日目と15日目と2回半分ずつ投与する場合、また3回にわけて1日目と1週間後、2週間後の3回に分けて投与する場合もあります。患者さんの状態やがんの状態を見ながら、あるいは薬の組み合わせによってどのようなスケジュールで投与するかを決めています。どれがいいというのは一概にはいえないのですが、いずれにしても、1ヶ月が一つの単位ということで考えてもらったらいいと思います。少し詳しく言いますと、例えばシスプラチンとイリノテカンという組み合わせでいくとシスプラチンというのは1日目に全量を投与します。それに対してイリノテカンという薬は、1日目、8日目、15日目と3回に分割して投与します。この治療を4週ごとに、つまり一ヶ月をひとつの単位として、標準的にはこの治療を4回繰り返します。ビノレルビンとシスプラチンの併用となると、ビノレルビンは1日目と8日目の2回に分割して投与するというのが一般的な方法です。ゲムシタビンも同じように分割して投与します。カルボプラチンとパクリタキセルは1日目に全部投与するというのが、一般的ですけれども薬の副作用を軽くするために分けて投与するということも行なわれています。いずれも3ないし4週、おおよそ1ヶ月をひとつの単位として繰り返して行なわれ、合計3回から4回行うというのが標準的な治療スケジュールです。
抗がん剤を投与した後の副作用の出方を時間の流れにそって示してみました。全体を4週間の単位で見てみます。最初の一週間では、抗がん剤を投与した直後におこる注意すべき副作用としてアレルギー反応があります。おそらくどんなくすりでも起こる可能性はあるんですが、抗がん剤の中にアレルギーを起こしやすい薬があります。そういう薬は、投与直後にアレルギーをおこしていないかどうか注意しておかないといけません。最初の1週間の間に起こってくる副作用として一番多いのが食欲低下と吐き気です。これも抗がん剤の種類によっては強いものとそうでないものがあり、特にシスプラチンというお薬は吐き気が強くでます。シスプラチン以外の抗癌剤では吐き気はそれほど強くありませんが、多くの場合食欲不振は起こります。次の1週間の間に一番注意しなければいけないのが骨髄抑制です。これは血液の成分である白血球が少なくなったり、血小板が少なくなったり、貧血が起きたりして体の抵抗力が落ちる時期を迎えます。ただこれは自分ではわかりませんので必ず採血をして、血液の状態を見ながら、どれくらいの副作用がでているかということを確認しながら治療をすすめていくことになります。また一方では、最初の吐き気だとか食欲不振が起こったあとに、人によっては下痢が起こったり、口内炎が起きたりという消化器の症状がおこることがあります。それからもう少し遅れて、今度は脱毛がおこってきたり肝臓の障害が起こってきたりというようなことがありますし、さらに厄介なのは、神経障害といって、手足のしびれという副作用が薬によっては、じわじわと後のほうから起こるということもあります。こういった形でいろんな副作用がおこってきますが、この図は典型的なパターンの一つを示しただけで、このような副作用が全ての患者さんにおこるわけではないですし、おこるパターンも患者さんによってまちまちです。
抗がん剤の治療というのは、がんが進行した状態の患者さんに投与することが多いのですが、どんな患者さんに使っても、同じようにメリットが得られるという訳ではありません。これは、手術でも、放射線治療でも同じ事ですけれども、治療中には大なり小なり何らかのストレスがかかります。ですから、治療のストレスに耐えられるだけの体力を維持していないと治療とはできません。抗がん剤治療はやはり、相当なストレスを生じますからある程度体力に余裕がないと、むしろ抗がん剤を使うと状態が悪くなるといわれています。それを判断する方法にPS(パフォーマンステータス)という指標があります。PS0というのは全く無症状で病気になる前と同じように、生活できている状態です。PS1というのは少し症状があるけれども、軽い事務作業とか座ってできる仕事はできますよ、家事などはできますよという状態です。PS2というのは散歩や自分の身の回りのことはできるけれども、たまに介助がいる。軽い作業でも仕事をするのはちょっと難しいけど一日のうち半分はベッドから起きている状態です。PS3は1日の半分以上は寝てないと体がきつい。PS4になると身の回りのことをするのもきついというような状況です。抗がん剤治療ができるのは原則としてPS2までで、抗がん剤による治療に耐えてメリットを得られるのはこの状況までだというふうに一般的には考えられています。あまりにも体力が落ちた状況で抗がん剤を使うとむしろより体力を奪ってしまうことにもなりますし、場合によっては病状が進行してしまうということもありますので、こういう人たちの場合はまず体力を改善する、何が原因で体力が落ちているかということをよく考えて、体力を改善させる方法を先に考えないといけないということになります。
次に治療中の生活で気をつけることについてお話します。先ほどお示しした図の流れにそって、副作用がおきますので、それぞれの副作用に対しての注意するがあります。ひとつは治療後1週間後から2週間後にかけて、白血球が減ってくるというお話をしました。白血球というのは外から身体の中に病原菌が入ってきたときに、それに抵抗する力です。従って白血球が少なくなると、病原菌に対する抵抗力が落ちてしまいます。例えば普通だったら風邪で終わるところが、気管支炎になったり場合によっては肺炎になったりということがあります。熱が出るというのは、感染がおきている兆候で、感染というのは外からバイ菌が入ってくることですから、場合によっては、抗生物質を使ったり血液検査やったりというようなことが必要になってきます。入院中は毎日看護師が検温しますから、見落とすということはありませんが、外来で通院治療をしている方は、自分できちんと体温を毎日測って管理しておかないといけません。
血小板という血液の成分が減ってくると、血が固まりにくくなります。肺がんの治療は、血小板がとても少なくなって出血するということは、比較的まれですが、それでも中には血小板がかなり減ってくる方もおられますので、もし歯磨きをするたびに毎回歯茎から出血する、あるいは鼻をかんだだけで必ず鼻血が出るとか、手足をちょっとぶつけただけで内出血がおきるということが頻繁にみられる場合は血小板が下がっているのではないかと疑って、血液検査をしてみないといけません。
それから吐き気についてですが、これも抗がん剤の治療をする時にやっぱり大なり小なり起こってくるもっとも頻度の高い副作用のひとつです。食欲がない時に、患者さんにいつも勧めているのはとにかく食べなれたもので自分が食べやすいものを食べるということです。ただ一般的に、みなさんがよく言われるのは、あったかくて臭いのあるものはどうしてもだめで、臭いがあるとどうしてもそれだけでむかむかして吐き気が起こるという方が多いですね。それに対して豆腐だとか、酢の物だとかそういう冷たいものは割によく入る。それから飲み物でも炭酸飲料は比較的飲みやすいということは多くの患者さんが言われます。どうしてもいろんなものが飲めないのだけれども、コーラだけは飲めるという人が時々います。人によっては果汁が飲みやすいという方もおられます。もし抗がん剤の治療を受けて、吐き気がおこる食欲がなくなるということがあった場合には、こういったものを試してみるのもよいかと思います。
腸の動きを悪くする消化器の症状として便秘がおこりやすくなります。薬によっては下痢がおこることもありますが、便秘に傾くことのほうが多いようです。腸の動きが少し悪くなって便秘になったときには、水分をなるだけ多くとって繊維性の多いものをとると良いのですけれど、やっぱり食欲のないときにこういうものはなかなか食べれないですね。しかし水分だけは十分とってもらいたいですし、何日も便通がなくてお腹がはってくるようなときは、下剤を使ってでも、便通を整えることが必要になってきます。
逆に抗癌剤によっては下痢がおこってくることがあります。これは例えば抗がん剤の中では、先ほどいくつか抗がん剤を示しましたけど、イリノテカンと呼ばれるお薬に、非常に多く下痢がおこることが知られています。特にイリノテカンを使っている患者さんの場合には注意をしておかないといけないのですが、この場合も水分補給ですね。それとおかゆだとかうどんとか当たり前のことですがそういった消化のよいものをとりましょう。下痢というのは腸液を失うということなのですが、人間の腸液というのはカリウムが非常に豊富なので体からカリウムを失うことになります。そのためにカリウムの多いもの、バナナとか果汁とかを一緒に補っていくことも必要ですし、スポーツドリンクにはミネラルがバランスよく入っていますのでスポーツドリンクを飲んでいただくこともあります。ただ、あまり下痢が続いている時はどんどん体力消耗しますので、薬によって改善できる場合もありますから、主治医に相談していただかなければいけません。
それから次に手足のしびれですが、抗癌剤によっては手足の神経が障害されてしびれることがあります。特にこれがおこるのは、パクリタキセルやドセタキセルといったタキサン系のお薬です。軽いうちは、手先足先に違和感がある程度ですけれどひどくなると、しびれというより痛みとして感じるあるいや細かい作業ができないとか力が入らないといった状態になることがあります。もししびれがひどくなった場合には、抗癌剤そのものを変えるということも考えなくてはいけませんし、しびれに対するなかなか効果的な薬ではないんですけども、ビタミン剤とかあるいはある種の漢方薬とかが良いといわれることもありますから、そういったものを使いながら経過をみています。
それからほてり、かゆみといったアレルギー症状の話しをします。これもパクリタキセルとかドセタキセルといった薬に時々ありますが、特にパクリタキセルという薬に、投与直後にアレルギー反応がおこることがあります。軽ければかゆみだとか体がほてった感じだけで終わることもあるのですけど、ひどくなると、息苦しくなったり、場合によっては血圧が下がって意識レベルが下がったりということもありますから、アレルギーが疑われる症状の時は軽くてもすぐにドクターに報告していただかないといけません。
それから次に脱毛ですが、抗がん剤によって脱毛の程度が軽いものと重いものがありますけれど、ほとんどの抗がん剤に共通しておこります。脱毛は点滴してすぐにおこるわけではありませんが2週、3週と時間が経ってくると、だんだん髪の毛が抜けるということがあります。特に女性の患者さんの場合には美容上の問題がありますから、治療をする前に必ず、帽子やかつらなどを準備するようにおすすめしています。九大の場合には外来に外来化学療法室というのがありまして、そこにかつらに関しては、メーカーさんからいろんな情報を集めていますので、もしご相談されたいことがありましたら、外来化学療法室というところにお尋ねになったらいいかと思います。
また抗癌剤によっては、関節痛や筋肉痛が起こってくる場合があります。これも時間がたてば改善していきますけども、あまりひどいときには、我慢せずに痛み止めを飲んで必ず痛みをとるというふうにしておいたほうがよいと思います。
それから精神的なストレスですが、治療期間中なんとなく体がだるいとか、ストレスがいつもかかっている感じがする、あるいは眠ろうと思ってもぐっすり眠れない、といった精神的な疲労感を患者さんが時々訴えられます。このことが治療そのものによっておこってきているのか、あるいは病気そのものによっておこってきているのか、それはよくわからないことが多いのですけれども、こういう状態を続けておくとうつ病という状態になることがあります。このような精神的なストレスあるいは、疲労感とか倦怠感、十分眠れないという症状があるときは、いわゆる心をみてくれる先生、たとえば精神科や心療内科のドクターに診ていただくことをおすすめしています。九大病院の場合は必ず精神科の先生にみてもらうようにしています。精神科というとなかなか、ちょっと敷居が高いといいますか、受診しにくいと患者さんがよくいわれるんですが、欧米では精神科にかかるのは当たり前となっていますので一人で悩まずに気軽に相談してもらいたいと思います。現在、九大病院ではこのような精神的ストレスがどれくらいかかっているかということを入院時にアンケートで調べさせてもらっています。もし強くストレスがかかっている患者さんの場合には精神科のドクターに病棟に来てもらって、病棟でお話しを聴いてもらうということをおすすめしています。もちろん通院治療されている方の場合は自宅でリラックスできる方法がいろいろあると思いますけども、入院していますとなかなかできませんので、できるだけ心のケアも含めて治療をすすめていく必要があります。逆にいつもイライラして落ち着かない精神状態になることもありますが、やはりこれも心の問題であることが多いですのでこういう場合も心療内科、精神科の先生に相談しながら一緒にやっていっています。
日常生活に気をつけることをスライドにまとめてみました。基本的には普段どおりに生活してもらいたいのですが、最初にお話したように抗がん剤をつかったあといろんな副作用が起こってきますので、そのことをしっかりと自覚しておいて対応していかなければいけません。ひとつだけ痛みに関してお話いたします。がんにともなう痛みを我慢してもなにも良いことはありません。痛みがある場合、まず一般的な痛み止めを使います。それで治まればいいのですけど、治まらないときには、医療用のモルヒネを使います。この医療用モルヒネについてはしばしば誤解があって、患者さんが拒否されることがときどきあります。よく患者さんからモルヒネを使うとやめられなくなるのではないかと依存性をすごく気にされる場合があります。しかし依存性ができるという薬は、使うと気持ちがよくなる薬で、医療用のモルヒネは基本的には苦いばかりでまったく気持ちよくなることはありません。治療がすすんで痛みが軽くなればいつでもやめられる薬です。しかしモルヒネの鎮痛効果は非常にすぐれていますので、通常の鎮痛剤で痛みが取れない場合には我慢せずにモルヒネ製剤をつかってでも、きちんと痛みをとっておいたほうがその後の治療もスムースにすすんでいくことになります。
それから最後にたばこの話です。これはあとで吉井先生がお話されると思いますけど、予防にとって大事なのは当然ですが、たばこを吸っていると肺の機能がおちていくために、手術できる人も手術できなくなることもありますし、最近ではたばこを吸うことが、抗がん剤の効果を弱めるというようなことが報告されてきています。何一ついいことがないので、できるだけやめていただきたいと思っております。
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