ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 特別な日常【高尾はぴば】2013年11月21日 14:4611月21日、午前6:30。いつものように目覚まし時計の音に意識を浮上させる。目覚ましを止め、起き上がり、一つ伸びをする。右手だけで眼鏡をかけ、窓から外を確認するともう冬に入りかけているこの季節、外はまだまだ薄暗かった。肌寒さを無視してベッドから降り、リビングへ向かう。母に挨拶して朝食を食べつつ日課のおは朝にて今日の運勢を確認すると、今日の蟹座は5位、普段はしないことをしてみるのも吉、ラッキーアイテムは誰かとお揃いのもの、ということだった。朝食を食べ終え、歯磨きと洗顔を済ませると自室に戻って制服に着替える。そして、奴に電話をかけた。『…へい?』最初に聞こえてきたのは大変眠たそうな少しかすれた低い声。この電話に起こされ、欠伸を噛み締めながら出ている姿が容易に想像できる。「俺だ」『…あーうん、おはよう真ちゃん…何?どうかした?』「おはよう、そろそろ起きなければ遅刻するのだよ」『…ソウデスネ。あー、サンキューな』朝から俺が電話をかけるというのは珍しい為、不思議そうな高尾の声が耳を通る。しかし、高尾はこの電話の意図を一つは理解したらしい。「あぁ…高尾、おめでとう」『っ………おう』一言添えれば高尾は一瞬息を詰め、そして柔らかい声が返ってくる。おそらく今、高尾の目元はほんのり色付き、口は笑みを浮かべているのだろう。電話を切り、学校へ向かう準備をする。ラッキーアイテムにちょうどいいものを見つけ、その一つを身に付ける。俺は見ていたテレビニュースから顔を上げて時間を確認すると、8時10分、そろそろ高尾が迎えにくる時間だ。テレビを切り、最後に軽く準備の確認をしてから家を出る。もちろん靴は右足から履いた。「うっす。おはよー」「おはよう」軽く挨拶を交わし、じゃんけんで勝利を収める。いつもならすぐにリアカーの荷台に乗るところだが、今日はまずすることがある。ポケットからもう一つのラッキーアイテムを取り出し、高尾の前髪につける。「ヘアピン…?」「今日のお前のラッキーアイテムなのだよ」高尾の前髪に光るのは緑色の花のワンポイントが付いたヘアピンだ。そして俺の前髪にはオレンジ色の同じもの。俺の前髪にはすでに気が付いていたようで、高尾は不思議そうな顔をする。「蟹座と蠍座のラッキーアイテム、一緒だった?」「蠍座のラッキーアイテムはヘアピン、蟹座のラッキーアイテムは誰かとお揃いのものだったのだよ」俺の答えに高尾はオレンジ掛かった茶色の瞳を大きく見開く。そして目元を少し色付かせて柔らかく笑って、礼を言ってきた。学校に着くと高尾は様々な同級生からおめでとうの言葉を貰っていた。言葉以外にもお菓子やあいつの好きなカードもプレゼントされていた。いつにも増して賑やかな高尾の周りに、俺はいつものように中に入るでもなく自分の席で読書をしていた。昼休みもその勢いは留まることはなく、プレゼント代わりのおかずやデザートのお裾分けが高尾の弁当箱の蓋一杯に置かれた。午後の授業ではうたた寝をしていた高尾が数学教師の標的にされたが、その尻拭いが何故か俺に来た。解せぬ。本日最後の授業が終わり鞄に教科書を詰める。いつも適当に詰め込んでいる高尾は一足先に準備が出来たようでいつものように俺を待つ。そして二人で部室に向かう。「ちわーっす!」「こんにちは」部室に入り挨拶をする。3年生は進路についての話があるらしく、少し遅れてくるため3年生の姿はまだ無かった。ここでも高尾はたくさんの人からおめでとうの言葉を貰っていた。「今日のラッキーアイテムはヘアピンか?てか、高尾も色違いのしてんじゃん」とある先輩が俺と高尾の前髪を見て言う。「そうなんっす。俺のラッキーアイテムがヘアピンで、真ちゃんのラッキーアイテムがお揃いのものだったんすよ!」嬉しそうな高尾の声をBGMに着替えを済ませる。もう秋も終わり、冬に差し掛かった最近は着替える際にどうしても鳥肌が立ってしまう。素早く着替え、上着を羽織り寒さを考えないようにする。高尾もうるさいながらも着替え終わったようで揃って体育館へ向かった。「おつかれっしたー」「お疲れ様でした」練習が終わり、部室に戻っていく先輩方とアイコンタクトを取る。もちろん高尾にバレることのないように不自然の無いように。いつものように自主練を始める俺と、いつものようにそれに付き合う高尾。二人だけの体育館で特に話すこともなくただひたすらにボールをネットに触れることなく、ゴールにくぐらせる。自主練を始めて20分。そろそろ時間だ。「高尾、終わるぞ」「おー………てか、いつもより早すぎね?まぁいいけど」ボールを片付け、体育館の戸締りを行う。そして部室へ戻り、高尾が扉を開ける。「「「ハッピーバースデー!高尾!!」」」その瞬間鳴らされるクラッカーと宮地先輩、大坪先輩、木村先輩の言葉に高尾は呆然と突っ立っている。そんな高尾を押し込むように部室へ入ると、はっとしたように高尾は反応を始める。「ちょ、まじ、先輩…まじっすか……ありがとうございます!!」耳を赤くしながら照れ出したと思われた高尾は礼と共に3人に向かって飛び込んだ。「あーもう、すげーサプライズだったわ」帰り道、白い息を吐きながら高尾が呟く。先輩方が計画した高尾の誕生日サプライズはうまく成功し、夕飯前だというのに練習後の疲労した体は用意されたホールケーキを難なく平らげた。「かずなりくんお誕生日おめでとう」と書かれたチョコレートに高尾が爆笑し、宮地先輩に殴られるということも起きたが始終高尾は笑っていた。今もじゃんけんに負けてチャリアカーの自転車をこぎながら高尾の声は嬉しさがにじみ出ているし、直接顔は見えないが緩みきった笑顔に違いない。そんな高尾の姿を俺は荷台から眺めていた。「ほい緑間家とうちゃーく!」荷台から降りて門の前に立つ。吐く息は白く、それだけ外の寒さが厳しくなっていることがわかる。高尾の鼻も少し赤くなっていた。「じゃあお疲れ、真ちゃん。あ、ヘアピン今日一日ありがとな」「それはお前にやるのだよ」朝、俺がつけたヘアピンを取ろうとする高尾の動きを制して言う。誕生日プレゼントというにはささやか過ぎる気もしたが高尾が笑うのを見たらそんなことはどうでも良くなった。相手が喜ぶものをプレゼントするということが人事を尽くしたということなのだよ。嬉しそうにピンに手を添えて笑う高尾の頭を一撫でして、少し名残惜しいが手を離す。今日は誕生日サプライズのため少しいつもより時間が遅い。これ以上遅くなるのは俺としても本意ではないので、仕方なく高尾を見送り家に入る。夕食、風呂を済ませ宿題をこなす。明日の準備も完璧にしたところで時間を確認すると23時を少し過ぎていた。いつもならばこの時間は歯磨きを済ませた後、ベッドに入るところだが今日はほんの少しの夜更かしのため時間を潰す。ここで読みかけの本を開いてしまうと目的を果たせないかもしれないため、参考書を開いた。しばらくして時計を見ると23時57分。参考書を閉じて本棚に仕舞う。そして朝と同様に電話をかける。『はい、もしもし。真ちゃん?』「あぁ」『珍しいじゃん、真ちゃんがこんな時間まで起きてるなんて。しかも電話までしてくるし』電話越しの声は朝とは違って快活だ。しかし昼ほどではない少し緩やかな所が一日の終わりを示している。今日だけはいつもより寝る時間が遅いことに高尾はすぐに気が付いたようだったが、その意図までは気が付かなかったようだ。「高尾」『ん?』「誕生日おめでとうなのだよ」『っ……あー、もう!まじ真ちゃんずりぃわ…ありがとう』さすがにこの言葉で聡い高尾は電話の意図に気付いたようだ。息を詰め吐き出された言葉から高尾の姿をイメージする。おそらく顔は耳まで色付き、いつもつり上がっている目は少し下がっているだろう。直接この目で見られないのは残念だがこれできちんと目的は果たせたので良いだろう。『真ちゃん、俺今すげー幸せ。ありがとな。おやすみ』「あぁ、おやすみ」電話を切り、時計を見ると日付はちょうど22日に変わったところだった。1時間にも満たない夜更かしだが、やはりいつもより起きているといつも以上に睡魔に襲われる。明日はいつもの日常が待っているため、俺は早々にベッドに入り意識を手放した。―――一日の最初と最後が俺であるために人事を尽くしたのだよ。