第4章産業活動における新陳代謝の活性化
第3節 事業再生の円滑化
本節では、私的整理による事業再生を円滑化するための支援制度について規定している。
ADR法に基づき、民事上の紛争について公正、中立な立場から和解の仲介を実施する者としての認証を受けた認証紛争解決事業者のうち、専門的知見を活用して事業再生に関する紛争の和解の仲介を行う事業者は、経済産業大臣の認定を受けることができる(第51条)。
この認定を受けた特定認証紛争解決事業者の関与の下に事業再生に取り組む事業者は、特定認証紛争解決手続期間中のつなぎ融資について、中小機構による債務保証(第53条)、中小企業信用保険の同額別枠化等(第54条)の金融支援を受けられる他、事業再生計画の実施段階に必要となる資金についても同法の特例を受けることができる(第55条)。
また、特定認証紛争解決手続における社債債務の処理を円滑化するための措置も設けている(第56条、第57条)。さらに、特定認証紛争解決手続期間中のつなぎ融資を促進するための措置(第58条~第60条)等も設け、私的整理による事業再生を円滑化している。
解説
本節においては、ADR法に基づく認証ADR制度に立脚した事業再生支援制度(事業再生ADR制度)を設けている。
すなわち、ADR法は、民事上の紛争の当事者双方から依頼を受け、契約に基づき和解の仲介を行う民間事業者を、その中立性、公平性等の観点から「認証紛争解決事業者」として認証する制度が設けられている。本法は、この「認証紛争解決事業者」であって、事業再生に関する専門的知識及び実務経験を有する等の要件を満たすものを「特定認証紛争解決事業者」として経済産業大臣が認定し、この「特定認証紛争解決事業者」による事業再生に関する紛争解決手続(事業再生ADR)について各種の政策的支援を講じ、事業再生の円滑化を図ることとしている。
- ⑴ 特定認証紛争解決事業者の認定(第1項・第2項関係)
- ADR法に基づき認証を受けた認証紛争解決事業者が、特定認証紛争解決事業者としての認定を受けるための要件を規定している。
- ① 手続実施者の選任に関する要件(第1項第1号)
- ADR法では、実際に、民間紛争解決手続において和解の仲介を実施する者を「手続実施者」(ADR法第2条第2号)と定義している。特定認証紛争解決事業者としての認定を受けるためには、「事業再生に係る専門的知識及び実務経験を有すると認められる者として経済産業省令で定める要件に該当する者」を手続実施者として選任できることを要件としている。この「経済産業省令で定める要件」については、私的整理により、事業再生に係る紛争の和解の仲介を実施した経験を有するという観点から、手続実施者を補佐する者として事業再生に係る紛争の和解の仲介を3件以上実施すること等、を定めている(経産省関係施行規則第17条)。
- ② 事業再生に係る紛争についての認証紛争解決手続の実施方法に関する要件(第1項第2号)
- 事業再生に係る紛争についての認証紛争解決手続の実施方法が経済産業省令で定める基準に適合することを求めており、手続の実施手順及び事業再生計画案が含むべき事項について概ね次の内容を規定している(経産省関係施行規則第19条~第29条)。
- [認証紛争解決手続の実施手順]
- (ア)金融機関等の債権者に対し、一時停止(債権者全員の同意によって決定される期間中に、債権回収、担保権の設定又は法的整理手続開始の申立てをしないこと)を要請する場合は、債権者に対し、債務者と連名で、書面により通知する。
- (イ)一時停止の通知を発した場合、その日から原則として2週間以内に、事業再生計画案の概要の説明のための債権者会議を開催する。
- (ウ)事業再生計画案の概要の説明のための債権者会議では、次の議事などを行う。
- A)債務者の資産及び負債の状況、事業再生計画案の概要の説明、これらに関する質疑応答及び意見交換
- B)手続実施者の選任の決議(なお、手続実施者には民事再生法の監督委員又は会社更生法の管財人の経験者を1人以上含む必要があり、債権放棄を伴う場合は、手続実施者を3人以上選任する必要がある。)
- C)事業再生計画案の協議のための債権者会議及び事業再生計画案の決議のための債権者会議の開催日時及び開催場所の決議
- (エ)事業再生計画案の協議のための債権者会議では、選任された手続実施者が、事業再生計画案が公正かつ妥当で経済的合理性を有するものであるかについて意見を述べる。
- (オ)事業再生計画案の決議のための債権者会議では、債権者全員の書面による合意の意思表示によって事業再生計画案の決議をすることができる。
- [事業再生計画案が含むべき事項]
- (ア)経営が困難になった原因
- (イ)事業の再構築のための方策
- (ウ)自己資本の充実のための措置
- (エ)資産及び負債並びに収益及び費用の見込みに関する事項(債務超過の場合は原則として3年以内に債務超過を解消し、経常損失が生じている場合は原則として3年以内に黒字になることが必要。)
- (オ)資金調達に関する計画
- (カ)債務の弁済に関する計画
- (キ)債権者の権利の変更(債権者間で権利変更の内容に差を設けても衡平を害しない場合を除き、債権者間で平等であることが必要。)
- (ク)債権額の回収の見込み(破産手続による債権額の回収の見込み(清算価値)よりも多いことが必要。)
- (ケ)債権放棄を伴う場合は、追加的に次の事項
- A)債務者の有する資産及び負債に関して、経済産業大臣が定める基準※による資産評定を基礎として作成された債務者の貸借対照表
- ※経済産業省関係産業競争力強化法施行規則第29条第1項第1号の資産評価に関する基準(平成26年経済産業省告示第9号)
- B)A)の貸借対照表に基づいて債務者に対する債務免除額が定められていること
- C)原則として、既存株主の権利の全部又は一部の消滅(株主責任の明確化)
- D)原則として、役員の退任(経営責任の明確化)
- <参考 事業再生ADRの流れ>
- ⑵ 特定認証紛争解決事業者の認定の取消し(第3項関係)
- 認定を受けた特定認証紛争解決事業者が、第1項に規定する認定要件を満たさなくなった、又は第56条第1項若しくは第58条第1項に規定する確認の業務を適切に行っていない、と経済産業大臣が認めるときは、認定を取り消すことができる旨を定めている。
解説
特定認証紛争解決手続により事業再生を図ろうとしている事業者が、同手続によっては、債権者と調整がつかなかった場合に、同手続を打ち切り、特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律(平成11年法律第158号。以下「特定調停法」という。)に基づき、民事執行手続の停止などの効果を受けつつ裁判所も交えた形で調整を進める特定調停を利用することが1つの選択肢となる。
通常、特定調停手続においては、裁判官に加え、法律、税務、金融、企業財務、資産評価等の専門家等で構成される調停委員会を組織し、事実関係の調査や調停を行うこととなる(特定調停法第8条)。この調停委員会の運営や調査には一定の期間がかかるが、既に特定認証紛争解決手続が実施されている場合は、特定認証紛争解決事業者により客観的な事実関係の調査が行われている場合等があり、敢えて調停委員会を組織せずとも、裁判官が単独で調停を行うことが可能な場合も存在する。元来、特定調停手続においても、既に事実関係が明らかである場合等を想定し、裁判所が相当であると認めるときは、裁判官単独で特定調停を実施できることとされている(民事調停法(昭和26年法律第222号)第5条)。
裁判官単独による特定調停の実施・不実施に係る判断は、裁判所の裁量に任せられているが、本条では、既に特定認証紛争解決手続が実施されている場合、裁判所が裁判官単独での特定調停の実施・不実施に係る判断を行うに当たって、同手続において事実関係の調査・整理が行われていることの考慮を義務づけることにより、特定認証紛争解決手続を利用した事業者の迅速な事業再生の円滑化を図っている。
- (参考:典型的な手続例)
- ⑴ 特定認証紛争解決手続により金融機関等の債権者と調整を行ったが、少数の債権者から同意を得られない。
- ⑵ 債務者は特定認証紛争解決手続による交渉経過を明らかにし、債務者及び金融債権者を当事者とする特定調停手続の申立てを行う。
- ⑶ 特定調停手続において、裁判官の関与の下、当事者間の調停を実施。それでも調整がつかない場合、裁判所により調停に代わる決定がなされる。
- ⑷ 調停に代わる決定について、関係権利者から異議の申立てがなければ再生計画案への全員の同意を得られることとなる。
解説
私的整理による事業再生局面においては、事業継続に要する「つなぎ資金」の確保が困難である場合が多い。事業再生を図ろうとする債務者企業に対する「つなぎ資金」の融資(プレDIPファイナンス)については、新たな担保の拠出や保証の設定が難しいこと、私的整理手続が整わず法的整理に移行した場合に回収リスクがあることから、金融機関は躊躇せざるを得ない実態がある。
本条は、特定認証紛争解決事業者又は中小機構若しくは本法第127条第2項に規定する認定支援機関(中小企業再生支援協議会)の関与により事業再生を行おうとする事業者の再生の蓋然性に鑑み、債権者調整の間の事業資金不足による倒産を防ぐため、中小機構が、プレDIPファイナンスに対する債務保証の業務を行う旨、定めるものである。
本条に基づく中小機構による債務保証の対象となる事業者、及びその対象となるプレDIPファイナンスの期間については次のとおり。
| 対象事業者 | 対象となるプレDIPファイナンスの期間(事業再生準備期間) |
| 事業再生ADRによって事業再生を図ろうとする事業者 | 特定認証紛争解決手続の開始から終了に至るまでの間※ |
| 中小機構又は中小企業再生支援協議会の関与の下、事業再生を行おうとする事業者 | 中小機構又は認定支援機関が中小企業者に対し事業再生計画の策定支援を決定した時点から、債権者全員が事業再生計画に合意した時まで又は当該期間内に合意が成立しないことが明らかになった時までの間※ |
※これらの期間内に法的整理手続が開始された場合(破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始又は特別清算開始の申立てがなされた場合)は、その時点までが「事業再生準備期間」となる。
解説
前条の中小機構による債務保証と同様の趣旨から、プレDIPファイナンスに対し、信用保証協会による債務保証について付保限度額の別枠化等の支援措置を講じている。
- ⑴ 本条に定める中小企業信用保険法の特例の対象となる事業者
- 事業再生(法第2条第14項)を行おうとする中小企業者。前条の中小機構による債務保証の対象事業者との違いは、中小企業者に該当しない事業再生ADRにより事業再生を図ろうとする事業者が対象とならない点である。
- なお、中小企業者が、本条の特例による保証上限額の範囲内で借入れを行う場合、本条の信用保証協会による債務保証の方が、前条の中小機構による債務保証に比べ、保証率、保証料率とも充実した支援となっている。
- 前条に基づく中小機構の債務保証は、主に大企業、中堅企業の利用を想定した支援措置といえる。
- ⑵ 付保限度額の別枠化(第1項)
- 中小企業信用保険法による普通保険、無担保保険又は特別小口保険として、事業再生円滑化関連保証(事業再生を行おうとする中小企業者の事業の継続に欠かせない費用のために事業再生準備期間に行われた融資に対する債務の保証)を受ける中小企業者について、中小企業信用保険法の本則(普通保険で2億円、無担保保険で8,000万円、特別小口保険で1,250万円)と同額の付保限度額の別枠化を図ることとしている。
- 中小企業者は、私的整理期間中の資金の借入れのために、既存の信用保険枠を限度額まで使い切っている中小企業者も多く、そのような場合でも、新たに債務保証を受けることができるよう措置している。
- ⑶ 普通保険の塡補率の引き上げ(第2項)
- 事業再生円滑化関連保証に関して、保険事故(信用保証協会による代位弁済)が生じた場合に、株式会社日本政策金融公庫が信用保証協会に対して支払う金額の割合(塡補率)を70%から80%に引き上げることとしている。
- リスクの高い事業再生局面にある中小企業者に対するプレDIPファイナンスに関して、信用保証協会の負担を軽減し、プレDIPファイナンスに対する債務保証が円滑化されるよう措置している。
- ⑷ 保険料率の引き下げ(第3項)
- 普通保険、無担保保険又は特別小口保険としての事業再生円滑化関連保証について、保険料率の引き下げを措置している(施行令第13条)
| 保険の種類 | 引き下げ後の保険料率 |
| 普通保険、無担保保険 | 1.69% ※手形割引等特殊保証及び当座貸越特殊保証の場合、1.44% |
| 特別小口保険 | 0.4% ※手形割引等特殊保証及び当座貸越特殊保証の場合、0.34% |
- 第55条 普通保険、無担保保険又は特別小口保険の保険関係であって、事業再生計画実施関連保証(中小企業信用保険法第3条第1項、第3条の2第1項又は第3条の3第1項に規定する債務の保証であって、独立行政法人中小企業基盤整備機構又は認定支援機関による指導若しくは助言を受けて作成した第53条第2号の事業再生の計画(当該計画に係る債権者全員の合意が成立したものに限る。)その他経済産業省令で定めるところにより作成された事業再生の計画に従って行われる事業再生に必要な資金に係るものをいう。以下この条において同じ。)を受けた中小企業者に係るものについての次の表の上欄に掲げる同法の規定の適用については、これらの規定中同表の中欄に掲げる字句は、同表の下欄に掲げる字句とする。
| 第3条第1項 | 保険価額の合計額が | 産業競争力強化法(平成25年法律第98号)第55条第1項に規定する事業再生計画実施関連保証(以下「事業再生計画実施関連保証」という。)に係る保険関係の保険価額の合計額とその他の保険関係の保険価額の合計額とがそれぞれ |
| 第3条の2第1項及び第3条の3第1項 | 保険価額の合計額が | 事業再生計画実施関連保証に係る保険関係の保険価額の合計額とその他の保険関係の保険価額の合計額とがそれぞれ |
| 第3条の2第3項 | 当該借入金の額のうち | 事業再生計画実施関連保証及びその他の保証ごとに、それぞれ当該借入金の額のうち |
| 当該債務者 | 事業再生計画実施関連保証及びその他の保証ごとに、当該債務者 | |
| 第3条の3第2項 | 当該保証をした | 事業再生計画実施関連保証及びその他の保証ごとに、それぞれ当該保証をした |
| 当該債務者 | 事業再生計画実施関連保証及びその他の保証ごとに、当該債務者 |
- 2 普通保険の保険関係であって、事業再生計画実施関連保証に係るものについての中小企業信用保険法第3条第2項及び第5条の規定の適用については、同法第3条第2項中「100分の70」とあり、及び同法第5条中「100分の70(無担保保険、特別小口保険、流動資産担保保険、公害防止保険、エネルギー対策保険、海外投資関係保険、新事業開拓保険、事業再生保険及び特定社債保険にあつては、100分の80)」とあるのは、「100分の80」とする。
- 3 普通保険、無担保保険又は特別小口保険の保険関係であって、事業再生計画実施関連保証に係るものについての保険料の額は、中小企業信用保険法第4条の規定にかかわらず、保険金額に年100分の2以内において政令で定める率を乗じて得た額とする。
趣旨
事業再生局面においては過剰な債務を負っており、当該債務の借入れに既に信用保証枠を使用しているため、事業再生の計画を遂行しようとする際に必要となる資金の調達が困難となり、円滑な事業再生に支障が生じる場合がある。そのため、認定支援機関(第127条第2項の認定を受けた者)等の支援を受けながら事業再生を図っていこうとする中小企業者について、事業再生の計画を実施するために必要な資金の調達を円滑化し、中小企業者の事業再生支援を図っていくことが必要である。本条では、そのような資金調達を支援するための中小企業信用保険法の特例措置を規定している。
解説
- 1.事業再生計画実施関連保証制度(第1項関係)
- 本項では、中小企業信用保険法による普通保険、無担保保険又は特別小口保険の保険関係であって、「事業再生計画実施関連保証」を受けた中小企業者について、同法の本則(普通保険で2億円、無担保保険で8,000万円)と同額の付保限度額の別枠を設けることを規定している。「事業再生計画実施関連保証」とは、中小機構・認定支援機関による指導又は助言を受けて作成した法第53条第2号の事業再生の計画(当該計画に係る債権者全員の合意が成立したものに限る。)その他経済産業省令で定めるところにより作成された事業再生の計画に従って行われる事業再生に必要な資金に係る保証である。
- なお、経済産業省令で定めるところにより作成された計画については、経産省関係施行規則32条各号で規定しており、本項に規定するものを含め以下の計画を対象としている。
- <法第55条第1項に規定>
- ①中小機構の指導又は助言を受けて作成された事業再生の計画
- ②認定支援機関(株式会社東日本大震災事業者再生支援機構法(平成23年法律第113号)第59条第1項に規定する産業復興相談センターを含む。)の指導又は助言を受けて作成された事業再生の計画
- <経産省関係施行規則第32条第1号に規定>
- ③特定認証紛争解決手続(法第2条第16項に規定)に従って作成された事業再生計画
- ④株式会社整理回収機構が策定を支援した再生計画
- ⑤株式会社地域経済活性化支援機構(株式会社地域経済活性化支援機構法(平成21年法律第63号)に基づき設置)が再生支援決定を行った事業再生計画
- ⑥株式会社東日本大震災事業者再生支援機構(株式会社東日本大震災事業者再生支援機構法に基づき設置)が支援決定を行った事業再生計画
- ⑦私的整理に関するガイドラインに基づき成立した再建計画
- ⑧個人債務者の私的整理に関するガイドラインに基づき成立した弁済計画
- <経産省関係施行規則第32条第2号に規定>
- ⑨中小機構が法第133条に規定する出資業務により出資を行った投資事業有限責任組合が策定を支援した再建計画
- <経産省関係施行規則第32条第3号に規定>
- ⑩経営サポート会議(各地の信用保証協会等が、中小企業者又は金融機関からの要請に基づき、信用保証協会や債権者たる金融機関等の関係者が一堂に会し、中小企業者ごとに経営支援の方向性、内容等について意見交換を実施する場)が関与して作成された事業再生の計画
- 2.塡補率の特例(第2項関係)
- 本項では、事業再生計画実施関連保証について、普通保険の保険価額に対する保険金の額の割合を70%から80%に引き上げることを規定している。
- 3.保険料率の特例(第3項関係)
- 本項では、事業再生支援という政策目的の達成の観点から、普通保険、無担保保険又は特別小口保険であって、事業再生計画実施関連保証に係るものについて、保険料率の引き下げを規定している。
- 具体的には、施行令第14条において、
- ・普通保険・無担保保険:0.41パーセント(手形割引等特殊保証及び当座貸越し特殊保証:0.35パーセント)
- ・特別小口保険:0.19パーセント(手形割引等特殊保証及び当座貸越し特殊保証:0.15パーセント)とする。
- としている。
- 具体的には、施行令第14条において、
解説
多額の社債債務を抱える企業が、特定認証紛争解決手続により事業再生を図ろうとする場合は、社債債務について償還すべき社債の金額の減額を行うことが必要な場合が想定される。特に、社債権者が不特定多数におよぶことから、相対でその権利内容の変更に関する合意を得ることが困難であるような場合は、本法に基づく特定認証紛争解決手続による対象債権の債権放棄に向けた手続と並行して、社債の権利内容の変更に向けた会社法に基づく社債権者集会手続を進めることとなる。すなわち、償還すべき社債の金額の減額を内容とする社債権者集会決議を特別決議(会社法第724条第2項)により可決することが必要となる。
本条では、特定認証紛争解決手続において償還すべき社債の金額の減額を内容として含む事業再生計画を作成する場合、事業再生を図ろうとする事業者が特定認証紛争解決事業者に対して、当該償還すべき社債の金額の減額について、当該事業者の事業の再生に欠くことができないものであることの確認を求めることができる旨、規定している。
事業再生を図ろうとする事業者が、この特定認証紛争解決事業者による確認がなされていることを社債権者集会において説明することにより、償還すべき社債の金額の減額に関する同意が得られやすくなる効果を期待している。
また、次条により、償還すべき社債の金額の減額に関する社債権者集会決議の裁判所認可に関する予見性を高める効果を期待している(次条解説で後述)。
- ⑴ 本条が対象とする事業者
- 条文の規定内容から明らかであるため、規定の文言上は明示していないが、特定認証紛争解決手続に則り、償還すべき社債の金額の減額を内容として含む事業再生計画案を作成している事業再生を図ろうとする事業者が、本条の対象となる。
- ⑵ 事業再生に欠くことができないものとして経済産業省令・内閣府令で定める基準
- 「事業再生に欠くことができないものとして経済産業省令・内閣府令で定める基準」については、産業競争力強化法第56条第1項の経済産業省令・内閣府令で定める基準を定める命令(平成26年内閣府、経済産業省令第1号。以下「基準命令」という。)において、次のとおり定めている。
<基準命令 抜粋>
なお、特定認証紛争解決事業者が基準命令第2条に規定する基準に適合するかどうかを確認するに際しては、同令第3条に規定しているとおり、形式的、画一的判断によるのではなく、個別事案の事情に応じ「実質的衡平性」を判断することとしている。
解説
前条の解説において例示したケースのような場合、事業再生を図ろうとする事業者は、償還すべき社債の金額の減額を内容とする社債権者集会決議を特別決議(会社法第724条第2項)により可決することとなるが、その決議に効力を生じさせるためには、裁判所から決議の認可を受けることが必要となる(会社法第732条~734条)。裁判所は、決議が会社法第733条各号に定める不認可事由に該当するかどうかを判断することとなるが、この第733条各号のうち第1号から第3号までに該当するかどうかについては予見できるものの、第4号に該当するかどうかについては特に予見することが難しいとの実務上の問題があった。
本条は、前条の特定認証紛争解決事業者による確認が行われた後、償還すべき社債の金額の減額を内容とする社債権者集会決議の認可の申立てが行われた場合は、同決議が会社法第733条第4号に該当するかどうかを裁判所が判断する場合に、特定認証紛争解決事業者による確認を考慮することとしている。
事業再生に関する専門的知見を有し、当該事業再生事案に関与してきた特定認証紛争解決事業者により、当該事業者の事業再生に欠くことができないものであることが確認されていることは裁判所にとっても有益な情報であり、また、この確認がなされていることを必ず裁判所が考慮することから、裁判所の認可(決議が会社法第733条第4号に該当しないと判断されること)に関する予見性が高まる効果を期待している。
解説
- 私的整理による事業再生局面において、つなぎ融資(プレDIPファイナンス)を確保できなければ、商取引債権者等から求められる現金取引等の結果により、資金繰りの悪化を招き、事業継続が著しく困難となる場合も多い。
- 民事再生手続、会社更生手続等の法的整理手続開始後に行われるつなぎ融資については、破産手続に移行した場合、共益債権を財団債権と取り扱うこととされていることから、他の一般の債権に比べ優先的に取り扱われることが担保されている。他方、法的整理手続開始前に行われる私的整理期間中のつなぎ融資については法的整理移行後、弁済に際して優先的に取り扱われることが担保されておらず、他の一般の債権と同じ権利内容の変更の対象となることから、金融機関等がつなぎ融資を躊躇せざるを得ないといった実態が指摘されていた。
- 本条では、特定認証紛争解決手続によって事業再生を図ろうとする事業者が、特定認証紛争解決手続の開始から終了に至るまでの間に行った資金の借入れについて、
- ①当該「つなぎ融資」が事業の継続に欠くことができないものとして経済産業省令で定める基準に適合するものであること、
- ②当該「つなぎ融資」に係る債権を他の債権よりも優先して弁済することについて、特定認証紛争解決手続に参加している全債権者の同意があること、
- の2点に関し、特定認証紛争解決事業者に確認を求めることができることとしている。
- そして次条及び第60条において、この特定認証紛争解決事業者による確認を受けた事業者が民事再生手続又は会社更生手続に移行し、当該「つなぎ融資」に係る債権と他の債権について権利変更の内容(債権カット率)に差を設ける再生計画案又は更生計画案が裁判所に提出された場合、裁判所が再生計画又は更生計画において「差を設けても衡平を害しない場合」に該当するかどうかを判断する(民事再生法第155条又は会社更生法第168条)に際して、特定認証紛争解決事業者の確認を考慮することとしている。
- 事業再生に関する専門的知見を有し、当該事業再生事案に関与してきた特定認証紛争解決事業者により上記①及び②が確認されていることにより、裁判所は、自らこれらの事実の確認を行う労務コストを省略することが可能であり、また、この確認がなされていることを必ず裁判所が考慮することから、金融機関等は「つなぎ融資」を行うに際し、その回収リスクを低く見積もることができる(法的整理移行に移行した場合の債権カット率が低くなるという予見を得ることができる)こととなり、「つなぎ融資」を行いやすくなる効果を期待している。
- ⑴ 対象債権者全員の同意を得ていること(第1項第2号)
- 法的整理移行後に「つなぎ融資」に係る債権を優先的に取り扱うことにより不利益を被る債権者全員の同意を必要とすることにより、当該「つなぎ融資」が対象債権者全員にとって利益となるようなものであることを担保するもの。
- ⑵ 当該事業者の事業の継続に欠くことができないものとして経済産業省令で定める基準(第1項第1号)
- 法的整理移行後に「つなぎ融資」に係る債権を優先的に取り扱うことにより、特定認証紛争解決手続に参加していない債権者との間での衡平性が害されないよう、「つなぎ融資」が当該事業者の事業の継続に欠くことができないものとして経済産業省令で定める基準に適合するものであることを求めている。この「当該事業者の事業の継続に欠くことができないものとして経済産業省令で定める基準」については、経産省関係施行規則第33条第1項において次のとおり定めている。
<経産省関係施行規則 抜粋>
解説
本条では、前条(第58条)の「つなぎ融資」に関する特定認証紛争解決事業者による確認を受けた事業者が民事再生手続に移行した場合に、当該「つなぎ融資」に係る再生債権と他の再生債権との間に権利変更の内容に差を設ける再生計画案について、裁判所が民事再生法第155条第1項ただし書に規定する「差を設けても衡平を害しない場合に該当するかどうかを判断するに際して、特定認証紛争解決事業者による確認を考慮する旨、規定している。この考慮の意義については、前条(第58条)の解説で述べたとおりである。
解説
本条では、第58条の「つなぎ融資」に関する特定認証紛争解決事業者による確認を受けた事業者が民事再生手続に移行した場合に、当該「つなぎ融資」に係る更生債権と他の更生債権との間に権利変更の内容に差を設ける更生計画案について、裁判所が会社更生法第168条第1項ただし書に規定する「差を設けても衡平を害しない場合に該当するかどうかを判断するに際して、特定認証紛争解決事業者による確認を考慮する旨、規定している。この考慮の意義については、第58条の解説で述べたとおりである。