ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 【テガミバチ】 iolite 【ザジラグ】2013年6月13日 14:21PC内整理中につき、過去作品ばかり連投ですみません。書きかけの駄作とかわんさかと出てくるので、PCがめっちゃ重くて(^^; ザジとラグ達が和気藹々としたほのぼのな話です。[chapter:#1【休暇の始まり】]夏真盛りの南風が、二人の頬を撫でて行く。朝昼と夜の境目も無いこのアンバーグランドでも、二人の国家郵便配達員は黙々と次の街を目指して歩いていた。額に張り付く前髪を汗ごと拭いながら、ちらりと横目で人口太陽を恨めし気に眺めるザジは、文句も言わず只管、彼の後ろを離れず付いてくるラグの気配を感じて、また重い足取りで一歩を踏み出す。もう何十分、否、一時間以上もずっと歩き続けているので、流石に休憩を取った方が良いと思うのだが、次の街に着いたら今回の仕事は終われるのだと思い直すと、二人とも気は逸るばかりで…。今回の仕事は二人にとっても特殊な仕事だったので、いつも一緒のそれぞれの相棒は自宅待機させていた。そもそも暑さが苦手なヴァシュカとニッチを連れての特殊配達は酷だろうと二人は判断したのだ。特殊配達とは、冬のクリスマス・お歳暮の様な特殊配達と同じで、夏にはお中元と言う配達の事である。この配達だけに人員を割く事は出来ないので、毎年くじ引きで配達員を何名かを選出する事になっていた。冬の配達と違うのは、この特殊配達が全て無事に終わればその配達員達には、二泊三日の特別休暇が与えられる事になっていたのである。「ね、ザジ。この配達が終わったら、休暇が貰えるんだよね?予定は決まってるの?」ラグが額に流れる汗を拭いながら、前を歩くザジに話しかけた。「あぁ~ん?んなもん決まってねーよ。オレよか、お前はどうなんだよ?……なぁ、それより水まだ有るか、ラグ?」気怠けに言葉を返すザジは、先程から喉がカラカラ状態だった。「あ、うん。あんまり残ってないかもしれないけど…。ここら辺で少し休憩する?」ラグはごそごそと自分の大きな鞄の中を探り、水筒を取り出してザジに手渡した。二人は日陰の無い砂地に直接座る。熱くなった砂地は、すぐにも二人に熱を伝えてくる。「サンキュ」ザジは手渡された水筒の中身を、チャプチャプンと軽く振って残量を確認してから口を付けた。ゴクゴクと二口分だけ勢い良く飲むと、ラグにまだ何口分かが残った水筒を返した。「もういいの?喉、すごく渇いてるんでしょ?全部飲んでもいいよ?」自分だって喉が渇いてるだろうに、ラグは迷わずザジに再び水筒を渡そうとした。「そうか?あ…でも、ラグお前も喉、相当渇いてんだろ?お前が飲んだ後でまだ残ってたら、その残りをくれ」ザジなりの気遣いに、ラグはクスッと笑いながら『じゃ、そうするね』と自分も水筒に口を付けて、一口分だけゴクンと飲んだ。水は生温くなっていたが、喉の渇きを潤す分には全く差し支えなかった。すぐにザジに渡してやると、『悪リいな』と受け取って残りを全部飲み干した。二人はジリジリと焼け付くような砂地から早々に立ち上がると、軽くパンパンと砂を 払ってまた再び歩き出した。少しの休憩でも先程よりはましになったのか、しっかりした足取りになっていた。「な、さっき休暇の予定がどうのとか言ってたけど、お前はどうなんだよ?」ザジも喉が潤った事で少し余裕が出てきたのか、真横に並んだラグを見やる。「あ、そうそう!次の街で配達が終わるでしょ?終了報告をしたら、みんなで何処か遊びに行こうよって誘おうと思ってたんだ。今回留守番してもらってる、ヴァシュカとニッチ達も連れてさ」ラグはパァっと笑顔を綻ばせ、ザジを嬉しそうに少しだけ見上げた。まだ何処か幼さが幾分残るその笑顔に、ザジも思わずフッと笑みが零れてしまう。「それ、ノッてやるよ。何処に行きたいか考えておけよ?」とクールに答えたつもりのザジは、彼が憧れている先輩BEEのジギーを模した様だ。時々ザジは無意識にジギーの真似をしてしまうらしい。「うん!楽しみだね!」ザジの物真似をあっさりスルーしたラグは、ニコニコと満面の笑みを浮かべている。ふと前方を見やると、わりと大きめな砂嵐が巻き起こっていた。「ザジ、あれ!」ラグはザジに指差して教えると、ザジも既に気付いたらしく『ああ』と小さく頷いた。「なるべく回避して行きたいところだがな、どうやらそうも言ってられねぇらしい。面倒だが行くぞ、ラグ!」不敵に笑みを浮かべたザジは、自分の銃を構えて言うよりも早く走り出していた。ラグもザジに習い自分の心弾銃を抱えて走り出した。砂嵐に近付くに連れて、その全貌が明らかになってきた。その砂嵐の中心で誰かが鎧虫と戦闘中だったのだ。「「ジギーさん?!」」素っ頓狂な声を上げて驚く、ザジとラグは顔を見合わせた。二人と反対方向には、彼の愛車である鉄の馬が停められている。『群青!』の痺れる美声が響き渡ると、鎧虫はその大きな体中に心弾を響かせて光を発し、砂埃をも一際大きく巻き上げて砕け散った。「「ジギーさん!」」ザジとラグの二人はジギーの傍に走り寄ると、戦闘に集中していたジギーも漸く気付いた。「なんだ、お前達二人も揃いも揃って。配達の途中か?」ジギーは、流れた一筋の汗を拭いながら一息吐いた。少し疲れた様子のジギーを気遣って、ザジは左側をラグは右側に寄り添う。「ジギーさん、お疲れ様っす!オレとラグは特別配達の途中でココを通り掛ったんですよ。それより、大丈夫っすか?顔色悪いっすよ?」心配そうに声をかけるザジを、苦笑しながらジギーは『大丈夫だ』と一言返した。「流石に俺でもこの暑さには弱くてな…ちょっとバテ気味だっただけだ」そう言ってジギーは、自分の愛車の後輪脇にある備え付けの鞄からタオルを取り出して、ガシガシと男らしく乱雑に顔の汗を拭った。「連日のこの暑さに加えて、彼方此方で鎧虫が頻繁に出現してる。何箇所か偏狭の村も襲われているらしく、退治して回っていた所だ。お前達のルートの方は大丈夫だったか?」汗を拭ってさっぱりしたのかジギーも、ザジとラグの心配をする余裕が出来たらしい。「僕達の方は、鎧虫に全く遭遇しなかったので、ジギーさんが既に退治してくださった所を歩いてきたのかもしれません」ラグが正直に答えると、隣でザジが同じ様に頷いている。「オレ達はこれから向かう街が最後の配達地なんです」ザジがやや東の方角を指すと、なるほど後少し歩けば到着するだろうと思われる街が微かに見える。ジギーは『ふむ』と顎を撫でた。「そろそろ水も尽き掛けてた頃だ。俺もお前らと一緒に街に入って補給するとしようか」ジギーが笑ってそう言うと、ザジとラグは一斉に諸手を上げて大喜びした。「ホントですか、ジギーさん!」嬉しくて堪らない様子のザジは、飛び上がらんばかりに目を輝かせている。普段、滅多に会う事の無い憧れの先輩と、ほんの僅かでも一緒に居られるのだから、はしゃぐ気持ちも分かる。三人は横に並んで、再び街を目指して歩き始めたのだが、そんな三人の背後には、黒くて大きな雷雲がいつの間にか迫っていた。「雷雲がすぐ近くまで迫ってきているようだ。こんな隠れる場所も無い所で、雷に打たれたら直撃は免れない!お前ら、バックシートにすぐ乗れ!急いで街に入る」ジギーに言われて、ザジもラグも慌ててバックシートに跨った。ジギーのすぐ後ろにラグ、その後ろにザジと続き、振り落とされない様にラグもザジもジギーにしっかりと摑まる。それを確認すると、ジギーは鉄の馬のエンジンをかけ、最初からフルスピードで走らせた。 追い駆けるように迫ってくる雷雲を寸でのところでギリギリ街に入った三人は、すぐに雨宿りが出来る場所を探した。すると宿屋を兼ねた酒場の看板を見つけたザジが、指を指してジギーに知らせる。「ジギーさんっ!あれ!雨宿りには打って付けじゃないっすか?!」ザジが指す方向をジギーもラグも一斉に見やる。ちょっと得意気なザジに、ラグは『でも…』と困り顔になった。ジギーはフゥと一息吐くと、『取り敢えずは緊急避難だ、ラグ』と、ラグの頭をポンと軽く叩く。ザジは楽しげで意気揚々と酒場に入っていく。ラグとしては、自分もザジも未成年なのだから、この様な酒場はマズイんじゃないだろうかと心配していたのだ。「ま、あまり目立たないようにしていれば、酒場の親父どもも絡んじゃこないさ」と、ジギーも鉄の馬を軒下に移動させると、苦笑しながらラグも酒場に入るように促した。酒場は厳つくて屈強そうな炭鉱夫達が、既に二、三杯は空けただろうと想像するに容易く、赤い顔をして陽気に談笑していた。ザジもラグも辺りをキョロキョロ見回してみたりそわそわして、なんだか居心地が悪そうだ。飲み物をオーダーして戻ってきたジギーが、二人の待つ席に戻ってくると一様にホッとした表情をするので、思わず笑みが零れてしまう。「そこで聞いたんだが、この先の崖で崖崩れがあって復旧までに三日ほど掛かるそうだ。俺は雨が小雨になったらすぐに出発しなくてはならないんだが、お前達はどうする?この街が最後なんだろ?ユウサリセントラルまで戻るまでの鉄道が、さっき言った通りらしいのだが…」ジギーが二人を交互に見遣って静かに言う。ザジとラグは顔を見合わせて、『どうする?』『どうするったってよ…』と困惑顔だ。「何なら、お前らの終了報告も俺の経過報告と一緒にハリーに持っていかせようか?どうせ足止めされて動けないんなら、この街で滞在していけば良い」ジギーの思いも寄らなかった申し出に、二人とも目を丸くして驚きの声を上げた。「ジギーさん、すっげ有難い話っすけど…」ザジがチロリと上目使いにジギーを見る。「別に報告書くらい、ハリーにとっちゃ難でも無い重さだから、遠慮なんかすんな。館長も其処まで一々気にしないだろ」ジギーが笑いながら話していると、オーダーしておいた飲み物が目の前に並べられた。「じゃ、申し訳無いっすけど、お願いしちゃっても良いっすか?コレ飲んで一息ついたら、すぐにラグと配達済ませてきますんで」ザジの言葉にラグも笑い返して、ぺこりと頭を下げた。こうして、ザジとラグは急遽、休暇をこの街で過す事になったのだった。[newpage][chapter:#2【水遊び】]キーンと冷えたレモネードを、ジギーに奢ってもらったザジとラグは早々に元気を取り戻し、最後の特別配達を済ませるべく酒場を飛び出していった。雨足が強くなる前に仕事を済ませてきた二人は、共にびしょ濡れでジギーの待つ酒場に戻ってきた。「おぅ。お疲れさん。雨足、酷かっただろ?もう少し休んでいけば良かったのに」と、ジギーは苦笑しながらジョッキを傾けた。「とんでもないっすよ!ジギーさんをお待たせする訳にいかないですって!なぁ、ラグ?」ザジが背筋を伸ばして、隣のラグに同意を求めるがラグはと言うと、ジギーのすぐ近くで呑んでいた炭鉱夫達にからかわれて、『コラコラ!チビッコは酒場に来る所じゃないぞ?』などと言われながら、頭や背中をバシバシと叩かれていた。ジギーもザジも呆気に取られてしまい、『その辺で勘弁してやってくれ。俺のツレだ』とジギーが間に入って仲裁する。やっとの事で炭鉱夫達から解放されたラグは、疲れた顔でヨレヨレになって、パタンとテーブルに突っ伏した。 三人は丸いテーブルを囲みながら、夕飯も済ませる事にした。雷の音も気にならないほど酒場は賑やかで、まだお酒の飲めない歳のザジは周りの雰囲気にすっかり酔い、次第に話し声も陽気で大きくなっていく。ジギーは余裕の笑みを浮かべつつ、静かにマイペースでジョッキを飲み干していく。どうやら酔っ払っていても顔に出ないタイプの様だ。ラグはとても美味しそうに、魚介類の沢山入ったスープに舌鼓を打ちながら、コーザ・ベルにいるサブリナおばさんを思い出した。「あ!そう言えば、ジギーさん。ずっと聞こうと思ってたんですけど、さっきの鎧虫は何だったんですか?僕、見た事の無い鎧虫だった様な…僕達、ジギーさんに見惚れちゃってて、すっかり鎧虫の存在すら忘れちゃってたんですよね」ラグはニコニコと笑いながら、スプーンを口に運びながらジギーに訊ねる。『なんだ、それは』などと笑いつつも、可愛い後輩達に言われればジギーとても悪い気はしない。隣の席に座っていた漁師の親父達と、楽しそうに話していたザジもいつの間にか戻ってきて、ラグとジギーの会話に興味津々で耳を傾ける。「あれはバドワイザーだ。コロナの突然変異種らしくて、大体暑い地域に生息している。俺も直接対峙したのは初めてだったがな」ラグもザジも〝へぇ~〟と感心しきりで、ジギーを尊敬の眼差しで見ている。「ジギーさんってやっぱスッゲー!ディンゴが居なくても、一人で確実に仕留める事が出来るトコ、オレ、ほんっとマジ尊敬っす!」と、ザジは握り拳を作ってまで興奮している。「ザジ、分かったから。こんな所で突っ立って力説するのはやめろ…さて、と…そろそろハリーも俺に追い着いて捜している頃だろう。雨の様子も気になるし、少し外で酔いを醒ましてくるから、お前らもそこそこに引き上げて、ちゃんと終了報告書を書いておけよ?」照れ臭そうにジギーは席を立って、酒場の外に出て行った。ラグはクスクス笑って、『ジギーさん、ちょっと照れてたね』とザジにこっそり耳打ちした。その後夕食も食べ終えると、言われた通り二人分の終了報告書を作成した。既にジギーの相棒のハリーは酒場&宿屋の近くで羽を休めていたので、急いで書いたと言った方が正解なのだが。「そう言えば、ジギーさん今日は僕達と同じこの宿に泊まって行くんだって!流石にビールを飲み過ぎてしまったから、明日朝早くに出発するって言ってたよ」ラグがザジの隣で嬉しそうに話しかけると、ザジのペンを持つ手がピタリととまり、『マジで?』と、満面の笑みを浮かべた。それほどジギーと共に過せる時間は無くとも、二人にとってすぐ近くにいてくれるだけで、嬉しくて仕方が無いのだ。ザジとラグは同じ部屋だけど、ジギーは一人部屋で泊まる事になっていた。「じゃあさ、明日は早く起きてジギーさんをお見送りしようぜ!」ザジの提案にラグも『うん!』と大きく頷く。翌朝、二人はジギーが出発する時間に合わせて早起きし、簡単に身形を整えて部屋から飛び出した。終了報告書は昨夜のうちに渡しておいたので、ハリーは既にユウサリのハチノスに向けて出発していたが、まさかジギーまでもが、明け方出発していたとは思いも寄らなかった二人は、がっくりと肩を落として項垂れてしまった。「あんた達、昨夜はよく眠れたかい?」宿屋の恰幅の良い女将さんが、朝食を二人の前に差し出してにこやかに話しかけてきた。ザジはまだ少し眠り足りなかったらしくて、テーブルにだらりと突っ伏していた。ラグは既にパッチリと目が覚めていて、背筋をピンと伸ばして女将さんにきちんと挨拶をする。「そういや、あんた達の連れの人からメモを預ってたんだわ」と、女将さんはエプロンのポケットから一枚の紙切れを取り出して、ラグに手渡してやる。「ジギーさんから?ありがとうございます、女将さん」ラグはニコニコと笑いながら受け取ると、ザジは急にバッっと起き上がり、ジギーからの手紙を素早くラグの手から奪い取った。「あ~ズルイよ、ザジ!僕にも見せてよ!」ザジが目を皿の様にして手紙を読み始めてしまったので、ラグは手紙の内容が読めずに、仕方が無いのでザジの背後に回って、肩越しに中身を一緒に読み始めた。ジギーからの手紙には『休暇を存分に愉しむのは良いが、あまり羽目を外しすぎるなよ?また何処かで会おう』と一言だけ書かれてあった。「くはーっ!シブイぜ、ジギーさん!」ザジは手紙を胸に抱き締めて、感動していた。「ジギーさんを見送れなかったのは残念だけど、こうしてわざわざ手紙を残していってくれるのって、凄く嬉しいよね」ラグは自分の席に戻って、大人しく朝食を食べ始める。ザジは感動中続行で、未だパンに手を延ばそうとしない。それどころか、ちゃっかりと綺麗に手紙を折畳んで、自分のズボンのポケットに仕舞った。 朝食も食べ終えて食後のお茶を啜っていると、近くを通り掛った女将さんがまた話しかけてきた。「あんた達、今日は何して過すんだい?今日は昨夜の雨が嘘みたいにとても良い天気になった事だし、する事が決まってないんだったら、海にでも行って遊んできたらどうだい?」二人が食べ終わった食器を片付けながら、窓の外に見える広い海を指して教えてくれた。「海、ですか?!いいですね!ね、ザジ!!後で海に行って遊ぼうよ!」ラグが満面の笑みで隣のザジに同意を求めると、しかしザジは素っ気無く『オレはパスする。お前だけで行って来いよ』と返した。「先輩のジギーさんが仕事に向かってんのに、オレ達だけ暢気に遊んでて良い訳無いだろ?オレはこの付近の鎧虫の情報収集してくる」と、いつに無く真面目な顔をしてザジが語尾をきつめに言い放つと、ラグはシュンと表情を曇らせて『あ…そ、そうだよね…ごめんね、僕、ついはしゃいじゃって…』と呟いたまま俯いてしまった。二人のやり取りを傍から眺めていた女将さんが、ふぅと大きく溜息を吐いて口を挟んできた。「なんだいなんだい、イイ若い者が湿気た顔して!仕事はもちろん大切だけどね、若いうちは遊べる内にちゃんと遊んで、休める時に体を休めておかないと、良い仕事なんざ出きっこないもんだよ?特にあんた等みたいなのはね、どう見たってヒヨっ子でまだまだ成長途中なんだから、色々と経験を積み重ねないとダメさね。年寄りの言う事は聞いとくもんだよ」と、ザジとラグの間に立って説教をしだした。一気に捲くし立てられてザジは“うっ”とたじろぎ、ラグはコーザ・ベルのサブリナおばさんと目の前にいる女将さんが重なって見え、思わず苦笑してしまう。顔立ちとか気風の良い性格とか、妙に似ている所があるからだ。「ラグ?何を苦笑いしてるんだ?」ザジはラグの表情を逸早く読み取り、訝しげに訊ねた。「うん、なんだか女将さんが、コーザ・ベルにいるサブリナおばさんに似てるなぁって思って…」とラグが言い終らない内に、女将さんがガシっとラグの肩を掴み、鼻息荒く顔を近づけた。「コーザ・ベルのサブリナって、ひょっとしてサブリナ・メリーの事かい?」女将さんの勢いに押されて、ラグはビクッと半歩下がってしまった。「は、はい、そうです けど…女将さん知ってるんですか、サブリナおばさんのこと…」オドオドと聞いてみると、女将さんは途端に満面の笑みを湛えて、バシバシとラグを叩いた。ラグは女将さんの下で諤々揺れていた。「知ってるも何も、サブリナはアタシの実の妹さね!そうかい、あんたがサブリナの家にいたラグだね?手紙で嬉しそうにあんたの事ばかり書いてくるもんだから、どんな子だろうねぇと思っとったけど、まぁ~、ほんとに奇遇だねぇ」女将さんは感極まってとても嬉しそうに顔を綻ばせ、ラグをぎゅむ~と力一杯抱き締めた。女将さんの胸に潰されてしまいそうな苦しそうなラグを、横で呆気に取られて眺めていたザジも思わず笑ってしまった。「にしても、すっげー偶然だよなぁ、ラグ♪良かったじゃねぇか」さっきまでの陰鬱なムードになりかけていたザジとラグも、女将さんのお蔭ですっかり明るさを取り戻す事が出来た。二人ともまるで、親戚の家に遊びに来た様な錯覚に陥っていた。結局、ザジはラグと一緒に海で遊ぶ事にしたものの、水着だけは流石に持っていなかったので、二人で情報収集も兼ねて買い物にでかけてからと遊びに出掛ける事にした。ザジだって本当のトコロ、ラグと二人きりで遊びに行きたかったのだが、ジギーの事を考えると遊びに行ってしまったら悪いとか、ちらっと脳裏に浮かびそれが咄嗟に口から出てきてしまった言葉だったのだ。昨夜は気が付かなかったが、二人がいるこの街はかなり大きな港町だったらしく、珍しい外海から運ばれてきた食べ物や品物が豊富で、ザジもラグも物珍しげにショーウィンドウを眺めたりして午前中は過した。鎧虫の情報を街の人々に聞く事も忘れなかったが、この付近ではあまり見かけないらしかった。取り敢えず、一枚ずつ仲良く色違いの水着を購入して、昼食は出店でホットドッグとハンバーガーとお茶を買い込んで、海が見渡せる丘に登って食べた。「っは~、眺めサイコーだな、ココ!こんなのんびりと休暇を過すなんて思わなかったけど、たまには良いもんだよな。特別配達様々だな♪」食べるのが早いザジは自分の分をさっさと食べ終えてしまうと、ラグの横でゴロンと気持ち良さそうに寝転がってしまった。「ねぇザジ。午後から泳ぎに行こうね。そんでもってさ、競争しようよ!」まだホットドッグを半分くらいしか食べていなかったラグは、楽しそうにニコニコと笑っている。余程泳ぎに自信があるのか、或いはザジと一緒に遊べる事が嬉しいのか、その両方なのか分からないけど、ラグの満面の笑みにザジはグッと言葉に詰まってしまった。一旦宿屋に戻った二人は、買ったばかりの水着を着て、着替えに持ってきていたシャツを羽織り、タオルとビーチサンダル、大きめの萎んだ浮き輪に、水中眼鏡と簡素な釣竿を借りて、女将さんに教えて貰った宿屋の裏道を通って砂浜に降り立った。「水に入る前は、ちゃんと体操しておかないとね♪」と、ラグは砂浜に自分達の荷物を置き、発達途中の体を解すように、イッチニ、イッチニと掛け声までかけて体操しだした。隣でザジはちょっと表情を引き攣らせながら、海を凝視している。「ザジ?ちゃんと体操しておかないと、足攣っちゃうよ?」張り切っているラグは、砂浜に腰を降ろして開脚している。「オレ あ、あっちの岩場で釣りして来る!」ザジは簡素な釣竿を徐に掴んでズンズンと、その場から立ち去っていく。ザジの動きがちょっとギクシャクした動きなので、ラグは不思議そうに小首を傾げた。「え?ザジ?ちょっとー! もー!一緒に泳ごうって言ったのに!しょうがないなぁ、僕一人で泳ごうっと♪」一頻り柔軟体操を終えたラグは、元気よく海に向かって突撃していった。砂浜から5mほど進むと急に深くなって、ラグはスイスイと泳ぎ始める。「あ、しまった!水中眼鏡忘れちゃった。海水が目に入ったらやっぱり痛いよね?……やっぱり取りに戻ろうっと」楽しそうに独り言を呟きながら、ラグは再び砂浜に向かって泳ぎ始めた。ふと50m程先の岩場に目をやると、ザジが釣竿を構える所だった。「大丈夫かなぁ、ザジ。あっちの岩場の方、結構波が高そうだけど…」ラグは砂浜に上がると、水中眼鏡をきっちり装着して再び海に向かっていく途中、やっぱりザジの事が気になってチラッと目をやるとラグの心配は的中してしまい、不意打ちの波に由ってザジは岩場で頭から波を諸に被ってしまった。頭の先から爪先まで、ビッチョリとずぶ濡れになってしまったザジの『っだー!っくそー!オレは濡れるのがイヤなんだっての!』と、叫ぶ声が聞こえてきて思わずラグは苦笑してしまう。「初めっから泳ぎたくないって言えば良いのに、まったく素直じゃないんだから」と、ラグは再び砂浜に戻って浮き輪を膨らませる事にした。パンパンに空気を入れて膨らませた浮き輪を抱えて、ラグは岩場にいるザジを迎えに行き、やっぱり一緒に遊ぼうと誘った。ザジは慣れない釣竿に悪戦苦闘し、釣り糸を絡ませてぶつぶつと一人ゴチていた。「あ~ザジ、そんなに無理矢理釣り糸を引っ張ったら益々絡まっちゃうよ?後で僕が解くからさ、あっちで一緒に遊ぼうよ。僕一人で遊んでても寂しいし、つまんないもん!サジはこの浮き輪の上で踏ん反り返ってくれれば僕が沖まで押してってあげるから、ね?アッチにいこ?ココよりは波も穏やかだしさ」ザジの機嫌を損ねないように言葉を選び、目を潤ませて懇願してみせると、ザジは『しょ、しょうがねーな…お前がそうまで言うなら遊んでやらあ』と強がってみせる。まんまとザジを海上に連れ出す事に成功したラグは、浮き輪の端をしっかり持って悠々と立ち泳ぎを披露した。「べ、別にオレは泳げない訳じゃないんだからな?濡れるのが嫌なだけだ!そこんとこ誤解の無いように言っておくぜ?」ザジはお尻だけを水に浸からせ、浮き輪の上で踏ん反り返っている。ちょっとおっかなびっくりなザジを、波間から見上げたラグはプッと噴出して『ハイハイ、ちゃんと分かってるよザジ』と笑って返答した。そんなラグをみてザジは、ムウッと唇を尖らせた。でも、沖を見渡せば大きな帆船が港へと入っていくのが見えて、ちょっとだけ興奮してしまうザジだった。[newpage][chapter:#3【アイスキャンディ】]散々遊んだ二人は、夕方を知らせる鐘が鳴ったの機に陸へ上がる事にした。「楽しかったね~。僕、すっかり身体がフヤケちゃった」ラグはバスタオルで体を拭きながら、自分の指先がふやけてシワシワになっているのを楽しそうに突付いている。ザジもバスタオルで拭いているものの、主に下半身しか濡らさなかったので早々に拭き終えて、羽織ってきたシャツに袖を通した。「あ~腹減った。さっさと戻って飯食おうぜ」砂浜に広げた荷物を一つ一つ片付けて、ザジは一足先に宿屋へと足を向ける。「あ、待って、ザジ!置いてかないでよ~!」ラグは焦ってシャツを羽織ながらザジの後を必死に追い駆けていく。でも流石に泳ぎ疲れが出たのか、追い駆けようとした際に足が縺れて砂浜に転がってしまった。「ったく、何やってんだよ。ホラ」と、呆れ顔のザジはそれでも転んでしまったラグへと手を差し伸べてやる。“へへへ”と笑って誤魔化したラグは、差し出されたザジの手をぎゅっと握って立ち上がった。そのまま手を繋ぎながら、二人は誰もいない静かな黄昏時を、少しでも長く手を繋いでいたくてわざとゆっくりと歩いた。指先から伝わってくる互いの温もりが、照れ臭いけど嬉しくていつまでも放し難かったから。「きょ、今日の夕飯は何を食べる?」二人の間に漂っていた沈黙を破ったのは、はにかみながらザジを覗込んだラグの方だった。「そ、そうだなぁ…魚の甘酢アンかけとか?」下から覗き込まれて目がばっちりと合ってしまったザジは、照れ臭そうに目をちょっとだけ逸らす。「ぼ、僕もやっぱりお魚の料理が良いなぁ。せっかく港町にいるんだし、新鮮な焼き魚とか美味しいだろうしね」二人ともお互いを意識し過ぎて、ぎこちない会話が続く。宿屋までの道程は然程遠くない筈なのに、何となく放し難い手を繋いだまま、宿屋の前で一旦レンタルした荷物を置いて、女将さんに一言告げてから、そのまま表通りを歩いていた。「ラグ、アイス食いたくねぇ?」ザジが宿屋に着く寸前にポツリと一言呟いたので、ラグも嬉しそうに頬を染めて大きく頷いていた。表通りにはずらりと様々な店が立ち並んでいた。午前中に散策していた二人はある程度、何処に何の店があるかを把握していた為、迷う事無く一軒のパン屋兼駄菓子屋へと足を運ぶ。軒先にアイスキャンディを沢山詰め込んだクーラーケースが置かれていて、その中を二人は楽しそうに覗き一本ずつ選びだし、それらを持って店内に入った。店内は焼きたての美味しそうなパンがずらりと並べられていて、とても芳しい香りが漂っている。恰幅もよくちょび髭を生やした店主が、ニコニコとレジへと立った。「いらっしゃい。お?坊ン達は海で泳いできたのかい?二人は随分と仲が良いな」店主に言われるまで、ザジとラグは自分達がずっと手を繋いでいた事を忘れていた。パッと慌てて手を離し、会計をそれぞれ済まそうとするが、ザジが先にラグの分まで支払ってしまった。「アイス位 たまには奢ってやるよ」頬を薄っすらと染めたザジは、まともにラグを見ないで、ぶっきらぼうに言う。ラグは驚いた表情をしながらも、すぐに嬉しそうに綻ばせて素直に『ありがと ザジ』と呟いた。二人は仲良く並んでパン屋の軒先に置かれていたベンチに座ると、早速アイスキャンディの包みを剥がした。ザジは淡い水色のソーダ味を、ラグはアイボリー色のバニラ味をそれぞれ選んだのだが…。ラグのがなんだかとても美味しそうに見えたザジは、横からヒョイっとアイスキャンディを持つその手首を自分の前に持ってきて、ガブリとバニラ味のキャンディを齧ってしまった。『ウマイじゃん♪』と、美味しそうにニヤリと白い八重歯を見せて不敵に笑うザジに、ラグはちょっと悔しそうな顔をする。「ああ~、またザジがズルしたぁ!いいもんだ!僕だってザジのソーダ味も一口貰っちゃうんだから!」むぅ~と唇を尖らせて、ラグも反撃にでる。そうはさせるか!とムキになるザジは、自分のアイスキャンディをラグから遠退けようとした。その拍子に態勢を崩してしまい、ザジの上に覆い被さる様にラグが乗っかってしまった。咄嗟の出来事に二人とも思わず呆然としたまま、動きがピタリと止まってしまい、顔と顔が近いな~とか思いながら、お互いの顔をうっかり間近で観察してしまった。じゃれ合う二人を、パン屋の店主が面白そうにニヤニヤと眺めていた。 お互い穴が開いてしまうのではないかと思われるほどじ~っと見合っていると、ラグの持っていたバニラのアイスキャンディが溶け始めてしまい、ザジの頬にポトリ…と一滴垂れてしまった。『あ!』と小さく叫んだ後、ラグは有ろう事か、ザジの頬に付いてしまった雫を思わずペロリと舐め取ってしまった。ラグにとって普段からニッチに舐められ慣れているので、まったく無意識の行動だったのだが、とても驚いたザジは目を丸くして、暫くポッカーンと口を開けたまま呆けてしまった。「え?なに?僕、何か変な事した?」きょとんとザジを見下ろしているラグは、不思議そうに小首を傾けた。ラグの言葉にザジはハッと我に返った。「ばっ!バカヤロ!いくらアイスが、も、勿体無いからって、勢い余ってオレの頬っぺたを舐めるなよ!」ラグが舐め取った方の頬を手で覆い隠しつつ、ザジはトマトみたいに真っ赤になって怒った。「え?僕、いま舐めて た?ご、ごめんザジ、いつもニッチにされてるから、つい…無意識だったんだってば!ほんと、ごめんね!」ザジに平謝りしながら、ラグはザジの上から体を起こして離れた。ザジもつられてむくっと上半身を起こす。「ま、今日のところは許してやるよ。でも!次やったら3倍返しだかんな!」なんて言いつつも、ザジは何故かとても嬉しそうなので、ラグもホッと胸を撫で下ろした。「でもさ、そもそもザジだって意地悪するから悪いんだよ?一口くらいくれたって…」と、ラグが文句言いかけると、ザジは無言で自分のアイスをラグの目の前に差し出した。『ん!喰え』とボソッと呟いたザジは余程、恥かしいのか顔を赤くしたままそっぽ向いている。「え?食べても良いの?」ラグは目を丸くしつつも、すぐにパァっと顔を綻ばせて満面の笑みで笑い返すと、自分の前髪がザジのアイスにくっ付かない様に片手で押さえながら、そのまま顔をアイスに近づけた。一口〝カシュ〝と小さな音と共にザジのアイスが齧られる。「おいし…ありがとう、ザジ」ラグの口の中で、ソーダの爽やかな甘さが広がる。ちゃんとザジがアイスを食べさせてくれた事よりも、ラグはザジとこうした何気ない時間を過ごす事が嬉しくて堪らなかった。「…ドウ、イタシマシテ」ラグの嬉しそうな顔を盗み見たザジは、何故か棒読みに返事を返していた。ラグが齧った所をザジはすぐに同じ所を齧りつき、無自覚でケラケラと笑っていた。「お!当たりだ!親っさん!当たったー!」ザジが食べていたソーダ味のアイスの棒には、しっかりと『当たり』の文字が刻まれている。「わ!やったね、ザジ!」ラグもザジの手元を覗き込みながら、嬉しそうだ。残念ながらラグは『はずれ』だったのだが…。「そうかい、よかったな。好きなの選んでいいぞ?ついでにそっちのチッコイ坊も一緒に選んで持ってきな?他のやつらにゃナイショだぞ?」パン屋の店主が、小窓から顔を出してハズレ棒のラグにも持って行けと、茶目っ気たっぷりに人差し指を口許に一本翳して豪快に笑い飛ばした。「え?良いんですか?でも僕、ハズレなんですけど…?」ラグは自分のアイスの棒を店主に見せるが、店主は『いいってことよ。お前さんら、BEEだろ?昨夜、雨ん中を特別便の配達に来てくれた礼だ』と言ってくれるので、ザジもニっと笑って『素直に貰っておけば?』とアッサリ言うので、ラグは素直に店主の厚意を有り難く受け取る事にして、深々と頭を下げて感謝した。その後、二人はアイスキャンディをまた一本ずつ、ザジはミルク味を、ラグはソーダ味を、それぞれ選んだ。パン屋の店主にお礼を言って、二人は来た道を再び手をギュウっと繋いで、まるで行進するような大きな歩幅で、大手を振って楽しげに歌まで歌いながら、仲良く宿屋に帰っていった。[newpage][chapter:#4【夏の終わりの花火】]二人が宿屋に戻ると、女将さんが『風呂を沸かしておいたから、入って温まっておいで』と、大浴場とまでは行かないまでもザジとラグが二人一緒に入っても充分なスペースのお風呂へと促された。昨夜はジギーも一緒だったので、少々狭く感じられたものだが、三人仲良く背中を流し合った事をラグは思い出した。ジギーの背中をザジが、ザジの背中をラグが、ラグの背中をジギーが洗ったのである。色っぽい事など何も無い。男同士、裸の付き合いもたまには必要だ!とジギーに、ザジもラグも無理矢理連れて来られたのだが。女将さんに当たったアイスキャンディが溶けてしまわないよう、冷凍庫に保管しておいてもらい、『じゃ、風呂に入って来ようぜ』と、ザジは意気揚々とラグを連れて風呂場へと向かった。脱衣場にも風呂場にも誰も居なくて貸切り状態だったので、ザジは途端にハイテンションになり、早々に着ていた物を脱ぎ払い、湯煙がモクモクと白く煙っている風呂場へと急いだ。置いていかれるのが嫌なラグも急いでザジに続く。「っはー、あっちー!窓開けようぜ!」風呂場に入って開口一番、ザジがすぐ行動に移した。風呂場の窓を開けると、涼やかな風が流れ込んでくる。「わ、気持ちいい風だね。ザジ、背中を洗い流しっこしようよ!」湯煙の白さが風に吹き飛ばされて、体に感じる室温も丁度いい。ラグは、早速椅子に腰掛けて、お湯で濡らしたスポンジにボディシャンプーを数回かけて、ブクブクと泡立てている。二人で背中の洗い流し合い、ザジは頭にタオルを乗っけてお風呂に浸かり、ラグはのんびりとお風呂から窓の外を眺めている。遠くに見える海が更に真っ暗闇の中で、白波を立てている。「なんか贅沢な時間だね~」なんて、ラグが気持ち良さそうに風に当たりながら、振り返ってザジに同意を求めたその時、“ドーン”っと、海の沖の方から大砲が打ち込まれた様な大きな音が響き渡った。ビックリした二人は慌てて窓の外に眼をやる。すると、空に向けてやはり大砲が打ち込まれたようである。ただし、それは祝砲だったと後になって分かる事なのだが。「いったい、何が起こったんだろうね?」ラグの問いかけに、ザジも『さぁ?』と同じ様に小首を傾げた。お風呂から上がった二人は、早速、食堂で忙しく動いていた女将さんに、二人が席に着いたテーブルに夕飯を持って来てくれた時に聞いてみた。「ああ、言ってなかったかい?今夜は、この街の領主の生まれた日でね、お祭があるのさ。さっき、祝砲があがってただろ?もうすぐ、大きな花火が何発も上げられて、とても賑やかなんだよ。そうだ、あんた達も花火見物に行って来るといいよ。縁日もたつからね」女将さんは、二人の目の前に特製の香辛料で作った魚介カレーを置きながら、ニコニコと笑って教えてくれた。「行ってみっか?」「うん!」と、二人はニッと顔を見合わせてから、『そうと決まったら、早飯だ!』と、まるで競う様にカレーをかき込む様にして食べ始めた。以前、同僚のコナーが『カレーは飲み物だー!』等と豪語していたが、コナーとは体格がまるで違う、どちらかと言えば痩せているザジとラグは、コナーのようには食べられる筈も無く。まして、ザジは猫舌なのでコップ一杯の水を何度も口の中に流し込んで冷やす様にしていた。ラグは大きなエビに悪戦苦闘しながら、隣のザジに負けじと必死に食べていた。「「ごちそうさまー!」」と声も揃わせ、手もぴったりと合わせると、脱兎の如く宿の外へと駆け出していた。外に出た途端、パッと一瞬にして辺りがピンク色の光に包まれた。「お!丁度ドンピシャで始まったみたいだな、ラグ!この花火、海から上がってんだろ?昼間いたビーチなら、よく見えるんじゃねーか?」ザジは海の方から上げられる花火を、手を翳して眺める。「うん、そうだね!ビーチに行ってみる?」ラグも大いに頷くと、二人は楽しくて仕方が無い様で、ビーチまで競争しながら走り出した。ビーチに到着するまでの僅かな間も、赤や青、緑に黄色と色とりどりの花火が打ち上がり、気分も高揚してくる。「うぉっっ?!今、上がってるのめちゃデッケー!」ラグよりも一足先を行くザジが、一際大きな大輪を咲かせた花火を見て、大きな歓声を上げる。「わ、わわっ?!急に立ち止まっちゃダメだってば、ザジ!」坂を下っていた所為もあって、ラグは急に止まり切れず、そのままドーンとザジの背中にぶつかってしまった。ザジも流石にラグを受け止めきれず、そのまま勢い余って転がってしまう。幸いな事に、数歩も行けばビーチに出られたので、二人とも怪我は無く砂浜に転がっていた。「あ~、また後で風呂に入り直しだな」ザジが呆れた声で言うが、二人とも一向に起き上がろうとしない。それどころか、砂浜をワザとゴロゴロと転がって、ベストポジションとも言える場所に転がってくると、そのまま寝そべったまま空を仰ぎ見た。大空に打ち上げられる花火を、二人は寝そべったまま見ている。何とも贅沢な見方だが、打ち上げられる度に、ラグは『ひゃぁっ』と体を飛び上がらせた。打ち上げられる音も、打ち上げられた花火の花弁が地上に降ってくる様も、あまりにも大きくて吃驚してしまうのだ。「ったく…しょうがねーヤツだな。ほら、手を出せ」そう言って苦笑したザジは、ラグにまた手を差し出してくれた。《手を繋いでやるよ》と言う意味が大いに含まれている。「ザジ…うん、ありがとう。…スゴイね、花火が僕達に降掛かってくるみたいだね。ねぇザジ…明日になったら 鉄道もちゃんと復旧するかな…」差し伸べられたザジの手と自分の手をゆっくり重ねたラグは、チラリとザジを見るとやっぱりザジもラグを見ていて。お互いにドキンッと心臓が跳ねていた。「さぁな… もう少し時間掛かるかもしれねぇけど …けどオレはそれでも良いんじゃねぇかって思い始めてる。お前と一緒なら それも悪くないって…考えても見ろよ。ユウサリに戻ったら先ずこうしてのんびりとさ、二人きりで遊んだりする確率少ねぇじゃん」ザジが照れ臭そうにはにかみながら言う。「うん…そうだね。大好きなザジが今此処に、僕の隣に居てくれてとっても嬉しいよ。安心してられるし、楽しいし…」話している途中で覆い被さってきたザジが、そのままスローモーション再生の様に唇を重ね合わせられて、ラグの話を途切れさせた。ザジの背中越しに見えた花火が、連弾で大輪の花を幾つも火花を散らしていく。ラグはそれを見届けた後、ゆっくりとザジの肩に両腕を回して目を閉じた。【end】