ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 『真姫のちょっとした悩み』2016年1月5日 00:37「はぁ……」西木野真姫はため息をつきながら、トボトボと一人通学路を歩いていた。大晦日、お正月というビックイベントを終え、それほど長くない冬休みが終わりを迎えた今日は一月四日――つまりは登校日だ。数日ぶりに歩く通学路はちょっと賑やかで、同じ音の木坂学園の制服の子が歩いている。それは冬休み中は見られなかった光景で少し目新しくも感じた。と、まあ多少のおセンチな感じもあるのだが、真姫が少し落ち込んでいる理由は他にあった。真姫は自分の頬に手を当てると、親指と人差し指で少しつまむ。「やっぱり、少し太ったわよねぇ……」彼女が悩んでいるのは年明けに年頃の乙女が一番悩むこと、つまりは『正月太りだ』正月休みは基本的にはお店もやっていないし、そもそも寒くて外に出ることもあまり出来ないために、結果、家で食べては眠ると言う生活に陥りがちだ。ちなみに真姫はそれほど運動が好きというわけではなく、どちらかと言うと、インドアな性格だと自分でも思っている。正月も他の人と同様に、美味しいものを食べてゆっくりのんびりと過ごしていた。そのつけが今になって出てきているのである。「やっほー真姫ちゃーん!」びくっ考え事をしている最中に、突然に後ろから声をかけられて真姫は飛び上がりそうになった。ゆっくりと彼女は後ろを向くと、そこには二人の少女が立っていた。遠くでからでも分かる。凛だ。この寒い中でも元気だけは未だに健在でたたっと走って来る。その後を「凛ちゃん待ってよー!」と叫びながら必死に追いかけているのは花陽だ。と、そこでふと真姫の中に小さな悪魔が現れた。確かに自分は正月太りになってしまったが、それは自分だけではないのではないか?運動好きでいっぱい食べても太らない凛はともかく、ご飯をいっぱい食べてしまう花陽なら――そう、今花陽が真姫の唯一の心のよりどころなのだ。「おはよう凛、そして花陽――」真姫は絶句した。そう、そこにいたのは冬休み前と体系の変わっていない、いや、むしろ前より痩せてすっきりとした様相の花陽だった。「……花陽、少し痩せた?」「ええ? 真姫ちゃん分かる?」真姫に言われて、花陽は少し頬を赤くした。「ええ、分かるわよ。どうしたの?」「実はねー、色々アクシデントがあって途中でお米が切れちゃったんだよー……お店もやってなかったし、お代わりできないしで……」そう言う花陽は少しがっかりした様子で肩を落としていた。「え、あ、っそ。フーン……」真姫は気にしないふりをして言った。しかし、内心穏やかではなかった。そして、花陽ならきっと自分と同じことになっているだろうと思っていた自分自身を恥じた。と、その時、裏路地からひゅっと一人の少女が顔を出した。髪をサイドテールにまとめた少女は間違いなく穂乃果だった。「あ、穂乃果ちゃん。おはよー」凛はすぐに穂乃果に気付いてあいさつした。しかし、一方穂乃果は何やら剣幕な様子で三人に詰め寄ると言った。「みんな! ちょっと追われているからかくまって! 穂乃果のことを聞かれても知らないって言ってね!」「「「え?」」」そう叫ぶと穂乃果は近く商店が捨てたのだろう、積み上がった段ボールの中にもぐりこんで隠れた。その様子を真姫達はぽかんとして見ていた。と、その数秒後、もう一人顔なじみの少女が現れた。「あ、海未ちゃん」「はぁはぁ……おはようございます」海未は息を切らせながら凛達に挨拶をした。しかし、そうしながらも辺りを何かを探すようにキョロキョロと辺りを見ている。それで三人はピンときた。おそらく海未は穂乃果を探しているのだと。「え、えーと、海未ちゃん。何か探しているの?」殆ど答えは分かっていたが、花陽が海未に聞いた。「あ、ああ。すみません。ちょっと穂乃果を探しているんですよ。ちょっとお正月をだらけ過ぎたみたいでかなり太ってしまったらしくてですね……」ぎくっその言葉を聞いて真姫は冷や汗をかいた。と同時に、段ボールの山が少し動いた気がした。「まあ、太ってしまったのは仕方ないです。ちょうど新しいダイエットメニューを考案したので実験だ――いえ、穂乃果を助けたいと思いまして」明らかに実験台って言おうとした……と三人は表情を引きつらせた。特に真姫は内心穏やかではない。(不味い……もし私が太ったことがばれたらどうしよう……)一度、穂乃果と花陽が食べ過ぎで太ってしまった時に海未にしごかれていたのを見た。海未の特訓はいつも激しい。あの時は他人事だったから呆れて見ていたけど、もし自分がやらされた時はどうなるかわからない。「おや? 真姫、少し顔色が悪いようですね」海未がすっと真姫に近づいた。「そ、そんなことないわよ」真姫は気丈を振るって答えた。しかし、心なしかその声は震えていた。「いえ、何か震えてますし、風邪ですか?」そう言うと、海未は真姫の頬に何となしに手を当てた。「っ!」真姫は海未の手を振り払うと、後ろに下がった。「き、気付いたんでしょ……私が太ったことを……」真姫はかぁと顔を赤くして言った。しかし、海未は首を傾げて言った。「え? 真姫、太ったんですか?」「え?」「真姫ちゃん太ったの?」花陽も不思議そうに真姫を見た。「そ、そうよ! 悪い!?」真姫はもうどうとでもなれとばかりに開き直った。と、そんな彼女に再び海未が近寄った。「どれ?」「ひゃっ!?」瞬間、海未は真姫の上着ブレザーの裾から手を入れて真姫のお腹を触った。突然のことに、真姫は上ずった声を上げた。「ちょっと海未! 何するのよ!?」「んー、それほど太っているようには思えませんが……」「お腹をぷにぷにしながら言うのはやめなさいって、きゃっ」海未は何を確かめているのか分からないが、真姫のお腹をつまんだりつついたりしている。「あ、海未ちゃんずるいにゃ!」そう言うと、凛も参戦し、真姫の服の中に手を入れた。「ひぁっ、ちょっと凛! 手が冷たいわよ!」真姫は驚きと恥ずかしさから、海未と凛の手を払いのけた。「んー、真姫。やっぱり言うほど太ってないと思いますよ」「真姫ちゃんは考えすぎにゃ。真姫ちゃんは元々細いんだからちょっとお肉が付いた方がいいにゃ」「お肉がつくって表現やめてよね!」そう言って真姫は腕を組んでぷいっとそっぽを向いた。しかし、そう言いながらも内心ほっとしていた。と、ふと後ろから声が掛けられた。「そうだよ、人間ちょっとお肉がつくくらいがちょうどいいよね!」「ええ、そうです」その言葉に海未はうんうんと頷く。そしてゆっくりとその声の主にみんなの視線が集まる――「「「あ」」」そこに立っていたのは先ほどまで隠れていた穂乃果だった。海未はすぐさまに穂乃果の身柄を確保した。「捕まえましたよ! 穂乃果! さあダイエットを始めましょう!」「えー!? なんで!? さっきはちょっと太った方がいいって言ってたのにー!?」「それはそれ、これはこれです!」「うえーん! 前は花陽ちゃんと一緒だったけど人は無理だよー! 何で花陽ちゃん太ってないのー? 穂乃果を裏切るのー!」「え、えええええええ!?」突然に裏切者呼ばわれされ、泣きつかれた花陽は困惑して声を上げた。その様子を見て、呆れた様子で真姫は言った。「はぁ、まあ仕方ないわね。私も少し付き合ってあげる。ダイエット一人じゃ辛いものね」「あ、あありがとう! 真姫ちゃん!」穂乃果は泣きそうな様子で真姫の手を握った。確かに太ることって辛くて、不安に思う。だけど誰かと一緒ならきっと乗り越えられると思う。今まで友達も少なかった真姫にとっては、仲間ってそんな時にとっても大切な存在だと思っていた。海未は彼女達のやり取りを見て、うんうんと頷いていたが、ゆっくりと口を開いた。「二人とも素晴らしいです。私もしっかりと監督しますよ。よし、じゃあ最初はとりあえず学校についてからランニング五キロですね」「あ、ごめん。やっぱり私やめるわね」「ちょ、ちょっと真姫ちゃーん!?」あっさりと諦めた真姫に再び穂乃果が泣きついた。確かに仲間は大切だが、それはそれ、これはこれなのだ。 おわり