先日(だいぶ前)武蔵坂で運動会があったわけだが。
 まぁ、一応はコレでも生徒なわけで、俺とゆまも参加をした。
 運動会自体は、そこそこだったわけだけど、俺は実はこの運動会に、重要任務を帯びていたんだ。
 その重要任務とは……。


「わー! ゆまちゃんが走ってる! がんばれ! 頑張ってパンゲットだよー!」

 どこの親馬鹿が叫んでいるかってーと、それはウチの親父で。
 ちなみに親父が見ているのは、俺が撮った運動会のビデオ。
 運動会のゆまの姿が見たいってんで、俺が撮ってきたんだケド。

「律! ゆまちゃん、ちゃんとパン取ったよー! 走ってるよー!」
「そりゃそういう競技だから当然だろ……」

 相変わらずウチの親父はゆま馬鹿で、本当にどーにかしろよ、この親父……。

「あー……僕も生ゆまちゃんの運動会見たかったなー……取材さえなければ……!」

 ちなみにこの親父、ゆまの運動会が見たいってんで、取材を放り投げようとしたアホだ。加えてその取材、アポ取るために編集部が数ヶ月前から動いてたってゆー重要なモンだってのに、ゆまの運動会のために、この馬鹿親父は、あっさりそれを保古にしようとしやがった。
 結局、ゆまに怒られて、親父はしぶしぶ行ったわけだが。

「玉入れだー! あっ! ゆまちゃん! 玉に当たってるっ! おのれー! 僕の可愛い娘に何をするー! あの玉投げた奴出て来いー!」
「……この状況で誰が投げたなんざ、解るわけねぇだろーが……」

 まぁ、見せたらこういうコトになるとは思ってたケド、思ってたケド……想像以上に煩い、この親父。

「てか、少し大人しく見ろよ、親父……。今日はゆまが家に帰って来る日じゃねぇけど……」

 生活の基盤がシェアハウスのゆまは、土日以外はあっちで生活している。ケド、こんなの見たら、ぜってぇ怒り心頭だ。

「だってー! ゆまちゃんの運動会なんだよ! 僕の大事な娘の運動会なんだよ!」

 ……すんません……アナタの実の息子も参加してたんですケド、すっかり忘れてますね、オトウサン……。いや、俺の運動会の様子にこんなに騒がれたら、その場で則、叩っ斬ってるケド。

 ……ま、いっか。

 相変わらず親父は煩くビデオを見ている。つきあってらんねーと、俺は漫画雑誌を手に取って読んでたら……。

「……律」

 ふと、親父の声のトーンが変わった。何だ?

「あれ、だれ?」

 画面を見ると……ああ、ゆまとしんちゃんの二人三脚か。ちなみに、しんちゃんってのは、ゆまのクラスメイトで、兄貴分ね。あのゆまが手放しで懐いてる、絶滅危惧種よりも希少な人物の一人。ゆまがあんだけ懐いてるのって、後は七君兄妹くらいだろう。

「ああ、あれはゆまのクラスメイト……」

 言いかけた俺の言葉を、馬鹿親父が遮る。

「なんであんなにゆまちゃんと密着してるのっ!」
「……………………」

 あのね、おとうさん、これは二人三脚って競技なんです。くっつかなくてどうやって走れるんですか。

「あんなに……あんなにくっついてる……そこのお前! 僕の娘からはなれろー!」
「……親父……」

 ……しんちゃん……ごめんね……。思わずマジで謝っちゃうよ、俺……。

 つーか、改めてビデオ見て、しんちゃんってすげーなぁ、って思う。あの運動苦手でドジの権化のゆまを、あんなに上手くリードして、走ってるもんなぁ……。
 おまけに、ゴール直前に大技かましてるし。

「あっ!」

 親父の叫び。それはゴール直前に、ゆまがバランスを崩して転びかけたせい。
 ……が。

「おおおおおっ!」

 今度の親父の叫びは、感嘆のもの。何故なら、ゆまが転びかけたのを、しんちゃんがフォローしたから。それも、転びかけたのを上手く利用して側転し、そのままゴールという大技!

「すっ……ごいっ! ゆまちゃん! いつのまにあんなことができるようにっ!」
「……………………」

 ……あのー親父、ちゃーんと画面見てました? あれは、ゆまじゃなくて、しんちゃんのおかげなの。ゆま、なーんにもしてなかったでしょ? 何を見てるの、アナタは。


「律っ! 見た? 今の見た? すごいよ、ゆまちゃん!」
「……あのさ……親父……」
「ゆまちゃん……立派になって……」

 ……駄目だ、コイツ……。

 もうこうなると手がつけられない。は、いいとして。

「なぁ、親父」
「んー?」
「それはそうと、約束の報酬」
「あ、そうだったね!」

 そう、勿論報酬アリ! それも二万! だいいち、報酬もなく義妹ビデオで追っかけるなんてアホなこと、できるかってーの。もーゆまさまさまだよなー。気づかれないように撮るのは結構大変だったケド、二万のためなら!
 親父が財布から二万を取り出す。俺はそれを押し頂き……と。

「……なに……してるの……二人とも……」

 思わず振り向けば、そこに立ってるのはふるふるしているゆま。

「……ゆ、ゆま……」
「ゆまちゃ……」
「お、お前、今日は家に帰ってくる日じゃ……」
「……明日晴れるって言うから……お洗濯しようと思って帰って来たの……」

 ここんとこ天気悪かったからなぁ……明日晴れるのか、じゃなくて!

「そ、そいつは……お疲れさん……」
「うん、梅雨の晴れ間は貴重だもん。じゃなくて」

 ゆまさん、テレビの画面を見て。

「……スミケイくんがね……」

 ちなみにスミケイってのは、ゆまのシェアハウスの主ね。俺のダチでもあるケド。

「……りっちゃんが運動会のビデオ撮ってるんじゃないか、って言ってたんだけど……」

 スミケイー! 余計な事をー!

「……本当に撮ってるとは思わなかった……。それも、わたしがあんなに大写りになってるのを……」
「あ、あのな、ゆま。ほら、こういうのはホームビデオと同じで、記念だから、記念!」
「じゃあ、なんでわたしだけなの? りっちゃん、写ってないし。それに……」

 ちなみに今の画面は、ゆまがダチと喋ってるトコ。報酬二万の理由は、実はコッチの方が大きかったりしたんだケド……。

「……あれ、競技じゃないじゃない……」
「い、いや、ほら、競技だけってのも味気ないだろ? だから……」

 と、そこで。

「うん、ゆまちゃんと喋ってる女の子も可愛いけど、やっぱり僕のゆまちゃんが一番可愛い!」

 馬鹿親父ー! この状況でそういうこと言うかっ!

「あ、あのね、ゆまさん……」

 ふるふるふるふる……ゆまの震えが大きくなる。そのままテレビに近付き、ぶちっ! と電源を切り。

「あー!」
「あー! じゃないです! おじさん! それからりっちゃん!」
「は、はいっ!」
「……百歩譲って競技だけは許してあげる……でも、余計なシーンは削除すること!」
「えー! それって酷い!」
「おじさん」

 ゆまに睨まれて思わず黙る親父。へーんだ、ざまみろ。
 だが、ついでゆまは俺に近付き、右手出した。

「なに、それ」
「さっきのお金」

 ……やっぱ見てたか!

「さっきのお金、寄越して」
「ちょっ……何で……」
「だって、ホームビデオ撮ってお金貰うっておかしいよね? ホームビデオなんだもの」

 ……やられた……!

 しぶる俺の手かから、ゆまは強引に二万を引き抜いて。

「というわけで、これお有り難く生活費にさせていただきます」

 俺の二万ー!

「それから二人とも! これからお洗濯するから、何か洗う物があったら出してね? 後、干すのも手伝ってもらいますから!」

 ゆまは二万を懐にしまうと、びしっ! と言ってから部屋を出ていった。
 残されたのは意気消沈した男二人。

「あうあう……ビデオが……」
「俺の二万が……」
「ゆまちゃんのプライベートショットが……」
「釣り具新調しようと思ったのに……」

 二人でぶつぶつ呟いていれば、ゆまの声。

「ふたりとも! 早く洗濯物、出す!」

 実に恐ろしきは、怒った家庭内実力者……。

 哀れな男二人は、のろのろと洗濯物をとりに行く事になったのだった……。


運動会終わって、そんなに立たない時期に書き始めたはずなんだけど、
気づいたら八月の後半に……。
月日が過ぎるのは早いものです、うむうむ。
いや、なんかね、仕事の負担が……ごにょごにょ(笑)
とりあえず、かきあげられて良かった良かった。
相変わらずの空さんとりっちゃん、そしてゆまちゃんの家族三人です。
あ、しんちゃん、スミケイくん、七くん、友情出演(?)ありがとう!
また出すかもしれないので、その時は宜しくー!(メイワクだ)