ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 【紫赤】湯豆腐と紅生姜6 [中1/7月]2014年1月11日 22:5813歳の初Hでつまづいて、以後6年プラトニックになってしまった紫赤ちゃんの初恋こじらせ話です。都合上、ピュ赤司とゲス紫からの出だしとなっておりますのでご注意ください。ほんのりとゲス紫です。ほんのりとゲス紫です。大事なことなので二度言いました。「おんぶしよっか?」 唐突な申し出に、赤司は隣を歩く紫原を見上げた。「赤ちんは大丈夫って言うけどさ。やっぱちょっとしんどそうだよ」 だって、いつもよりも歩くのが遅い。付き合いは短いが、最寄りの駅まで何度も一緒に歩いた。普通に歩くと赤司が早歩きになってしまうから、紫原が歩調を合わせる。だから普段の赤司がどのくらいの速さで歩くか、紫原の身体はしっかりと覚えていた。「いいよ、本当に辛くないから……」 鞄も持たせてくれないし、送るのは駅までで良いと言う。練習後で疲れているときよりも歩くのが遅いのに。「ダメ。ホラ、おぶさって」 否を言わせまいと紫原は道端にしゃがみこんだ。けれど赤司は差し出された背中に縋ろうとしない。「そんなことしなくていいよ、紫原……」「いーから」「タクシー呼ぶ」「えー?」 そこまで人に頼るのが嫌なの? しゃがんだまま振り向くと、赤司はごそごそと鞄の中を探っていた。「ここで呼ぶの? 場所説明しにくくない?」「アプリで現在地指定すれば来るから」 タクシーを呼ぶアプリがあるなんて、紫原は初めて知った。「なんでそんなサービス知ってるの」と訊ねそうになって、赤司はそういう家の子だったのだと紫原は思い出した。「……充電切れてる」 スマホを取り出した赤司は、反応しない画面を見て決まり悪そうに呟いた。「赤ちんと同じだねー」 紫原は笑いながらとんとんと自分の肩をつつく。「はい、充電切れの赤ちんはむらタクに乗車してくださーい」「でも」「お客さーん。乗るの、乗らないのー?」 冗談めかして急かすと、やっと赤司は「乗ります」と紫原の背中に乗りかかった。「悪いな」 歩き始めた紫原の背中に赤司の体温が伝わる。練習の途中でクールダウンもせずに出てきたからか、赤司の身体は先ほどよりも熱くなっていた。「気ィ使わないでたまには甘えろし」「ありがとう……」 赤司の前髪が、紫原の首筋に触れた。(あ……) 紫原の心臓が小さく撥ねる。(くたってなった) ぎこちなく背負われていた赤司の身体が、ふいに紫原の背中にぴったりと押しつけられていた。背後から回されていた腕も力が抜けている。(何コレ) しっかり者で人に頼りたがらない赤司が、頑張りすぎて疲れた体を預けてくれた。 そう思った途端、紫原の意志を無視して表情筋が暴走を始めた。頬が勝手に弛みだして止まらない。不審者の顔になっている自覚から、紫原は通行人の目を避けるように俯いた。(もー。くすぐったい。赤ちんの髪、首にかかってくすぐったい) くすぐったくて、くすぐったくて。 踊り出したい気分だった。 駅が見えてきたところで、電車とタクシー、どちらで帰るのかと紫原は訊ねた。「赤ちんのスイカ、スマホでしょ? 切符買う?」 うーん、と珍しく赤司が曖昧な声を返した。「タクシーにする……だるい」「分かった」 赤司を背負ったまま、紫原はタクシー乗り場に向かう。ちょうどよく客待ちのタクシーがあったので歩調を速めたところで、背後から「アツシ」と声をかけられた。 帝光中には紫原を名前で呼ぶ人間はいない。誰だろうと思って振り向くと、まだらに染まった金髪を肩まで垂らした少女が、薄らと笑いながらこちらに向かっていた。「やっぱアツシだー。あいかーらずデケーなー?」「しえる……?」 思い切り顔を顰め、近づいてくる少女を上から下まで観察する。油じみた、根元が黒くなった髪。とろんとしたしまりのない表情。よれたAラインのキャミソールに、履いてないんじゃないかと思うような短いホットパンツ。傷んだ編み上げのサンダルからは剥がれかけた盛りすぎのネイルが覗いていた。「そのセーフクもしかしてテイコー中? すっげー、私立じゃん。お前んち金あんねー」「来んなよ。お前なんか知らねーし」「んなこと言うなよー。なぁ遊ぼーぜ、そっちのツレの子も一緒でいーよ」「遊ばねーよバーカ!」 邪険にしているのにこの少女はへらへらとまとわりついてくる。背中に赤司を背負っていなければ蹴飛ばしてやるのにと、紫原は忌々しく彼女を睨んだ。「紫原?」 赤司が顔をあげて、紫原の肩ごしに少女を見た。少女は「ひゃー」と奇声としか言えないような叫び声をあげる。背中の赤司の身体がびくんと硬くなったのを感じ、紫原は本気で少女に腹を立てた。「うそー、おにんぎょさんじゃーん! ねー遊ぼ? 遊ぼー?」「触んなし!」 紫原は身を翻して赤司に触れようとする彼女の手から逃げた。迫ってきた彼女の体臭が一瞬、鼻先を掠める。汗を煮詰めたような饐えた匂いに胃がむかついた。「バカじゃねーの? お前なんかと遊ばねーよ、あっち行けよ!」 こいつの言う「遊び」なんてロクなもんじゃない。絶対に関わりたくない。絶対に触らせたくない。背後に赤司を庇いながら、紫原は先頭で客待ちしていたタクシーの窓を叩いた。「赤ちん、乗って!」「あ、ああ……」 紫原は赤司を押し込むようにしてタクシーの座席に乗り込んだ。運転手に「出して」と叫び、窓をばんばんと叩く少女から赤司の姿を隠す。車が走り出し、窓ごしに口汚く罵る声が遠ざかると、紫原は赤司に腕を叩かれて我に返った。「紫原、苦しい……」「あ、ごめん」 赤司を守ろうとしていたはずが、全力で抱きついていた。分かっているのに後の窓を見て、彼女が追いかけてこないことを確認してやっと安心する。「アツシって呼んでたけど、あの子、友達か?」 運転手に行き先を指示してから、赤司は紫原に訊ねた。「シエルさん、だっけ。ハーフか外国人なのかな」「あんなん、友達じゃねーし」 紫原は吐き捨てた。あれが友達だと赤司に思われたくはない。「小学校んとき、同じ学区だったヤツ。オレらの3コ上で親は日本人。青空って書いて『しえる』って名前なの」「え……どうしてそんな読みになるんだ?」「フランス語で空って意味だから『しえる』なんだって」 豆鉄砲をくらった鳩はこんな顔をするんだろうか。真顔で目を見開いてる赤司に、僅かだが紫原の気持ちが凪いだ。「いかにもテキトーにつけたって名前だよね。アイツ、小っちゃいころから親に放ったらかされてっからいろいろおかしーんだよ。死ねばいーのに」「その言い方は、ちょっと……ひどくないか?」 憎々しげに言う紫原に、赤司は眉をひそめて身体を引いた。紫原はずいと赤司に詰め寄って訴える。「ほんとに異常なんだって! ガスパン遊びとかしてて脳やられてんのか知んねーけど、信じらんねーレベルのバカで、コンビニ行けば普通に万引きとかするんだよ! オレ1回だけアイツんちに連れ込まれてさ、家ん中なんかゴミ溜めで、べたべたで、最悪だった。親に、ぜってーアイツと関わんなってめちゃくちゃ怒られたし」 そっと赤司の手が紫原の右手を抑える。自分でも気付かないうちに握りこんでいた拳が、ぶるぶると震えていた。「分かった。紫原はあの子が嫌なんだね、分かったから」「ん……」 もう言わなくていい、と言われて、紫原は歯を食いしばった。話すのをやめると今度は涙が零れた。「紫原!?」「ごめ……」 慌てて目元を拭って鼻をすする。情けなくて、身体ごとドアに向かうように座り直した。涙はすぐに止まったけれど、手の震えは収まらない。「違くて……これは、何でもなくて」「いいよ」 赤司の声は静かで穏やかだった。紫原の拳にはまだ、赤司の手が重ねられている。紫原は握りこんでいた指をぎこちなく開いた。視線を窓の外に向けたまま、手探りで赤司の手を掴む。 赤司の指が、やんわりと紫原の手を握り返した。 ---------------------------------次回はむっくん過去話です。おつきあいください><