低用量ピルとミニピル(黄体ホルモン単剤)による血栓症のリスクを中心に、その種類と特徴、ニキビに対する効果などを、2回に分けて考察していきます。
低用量ピルによる血栓症
低用量ピルは、避妊だけでなく、月経困難症、過多月経、子宮内膜症、ニキビ(肌荒れ)の改善などの作用があり、安全性の面でも問題が少なく、女性にとって非常に有用性が高い薬剤ですが、副作用がゼロなわけではありません。 副作用のうち問題となるものの一つが「血栓症|けっせんしょう」です。
血栓症とは、血管内で血液が固まってしまい、血管を詰まらせてしまう病態です。血管が詰まれば、それより先に血液が流れなくなり、組織の壊死(組織が死亡して機能しなくなる)が起こります。さらに血栓がはがれて別の血管へ流れていき、その血管を塞いでしまうこともあります(血栓塞栓症|けっせんそくせんしょう)。
エストロゲン含有量が少ないほど血栓症の発症リスクは低い
女性ホルモン(エストロゲン)の製剤で、血栓症が起こる理由は、エストロゲンが肝臓由来の凝固因子(血液を固める因子)を増加させるために、血の塊ができやすくなるのではないかと考えられています。 実際に、エストロゲンの量の多い中用量のピルでは、低用量のピルよりも血栓症のリスクは高くなるということがわかっています。
現在使用されている代表的な低用量(+超低用量)ピルに含有されているエストロゲンの量は以下となります。
| ピルの商品名 | エストロゲン量 |
| ルナベルLD | 35μg |
| ルナベルULD | 20μg |
| トリキュラー | 30~40μg |
| マーベロン | 30μg |
| ヤーズ | 20μg |
| ヤスミン | 30μg |
| ダイアン | 35μg |
エストロゲンの量を少なくすれば少なくするほど、血栓症のリスクは下がることになりますから、低用量ピルの中で最も血栓症のリスクが低いものは、ルナベルULDとヤーズということになります。ところが、数年前にヤーズによる血栓症で死亡事例が報告され、さらに、ヤーズによる血栓症の発症率は、他の低用量ピルよりも高いと報道され、大きな関心を集めました。
ピルは、女性ホルモンであるエストロゲンと黄体ホルモンであるプロゲストーゲンの合剤です。血栓症の発症率は、エストロゲンだけでなく、プロゲストーゲンの種類とも関係があるのではないかと考えられています。
黄体ホルモン(プロゲストーゲン)の種類による血栓症発症リスクの違い
プロゲストーゲンはノルエチステロンが第一世代と呼ばれ、商品としては「ルナベル」「オーソM」「シンフェーズ」などがあります。
レボノルゲストレルは第二世代と呼ばれ、商品としては「ラベルフィーユ」「トリキュラー」「アンジュ」などがあります。
デソゲストレルとゲストデンは第三世代と呼ばれ、デソゲストレルを配合する商品としては「マーベロン」「マーシロン」「ファボワール」、ゲストデンを配合する商品としては「メリアン」などがあります。
ドロスピレノンとシプロテロンは第四世代と呼ばれ、ドロスピレノンを配合する商品としては「ヤーズ」「ヤスミン」、シプロテロンを配合する商品としては「ダイアン35」「スーシー」などがあります。
ピルの種類により、血栓症の発症率には違いがないという報告もあり、明確な結論が得られていない部分も多いのですが、第一、二世代の低用量ピルと比較して、第三、四世代のピルでは、エストロゲンの量が同じ、もしくは低用量でも、静脈血栓症の発症率が高いという報告が複数なされています。
これが事実であるなら、 プロゲストーゲン製剤の種類の違いが、 血栓症の発症に影響を与えていることとなり、 エストロゲンこそが血栓症の原因であるという説に矛盾することになります。
ピル服用者の静脈血栓症のリスクを調べた、2001年1月~2009年12月の9年間にわたるデンマークでのコホート研究の結果が、2011年にブリティッシュ・メディカル・ジャーナルに掲載されました。その中で、ピル非服用者を1としたときの血栓症の罹患比率比は以下となりました。
| プロゲストーゲンの種類 | エストロゲン50μg | エストロゲン30~40μg | エストロゲン20μg |
| ノルエチステロン 第一世代 | 6.24 | 2.24 (ルナベルLD) (オーソM) (シンフェーズ) | none (ルナベルULD) |
| レボノルゲストレル 第二世代 | 4.49 | 2.92 (トリキュラー) (アンジュ) (ラベルフィーユ) | none |
| デソゲストレル 第三世代 | none | 6.61 (マーベロン) (ファボワール) | 4.81 (マーシロン) |
| ゲストデン 第三世代 | none | 6.24 | 5.07 (メリアン) |
| ドロスピレノン 第四世代 | none | 6.37 (ヤスミン) | 6.95 (ヤーズ) |
| シプロテロン 未分類 | none | 6.35 (ダイアン) (スーシー) | none |
Lidegaard et al., BMJ. 2011 Oct 25;343:d6423.
この結果を見ると、エストロゲン量が低くなるほど血栓症の発症リスクは下がっていますが(ヤーズを除く)、第三、四世代のピルは、第一、二世代のピルと比較して血栓症のリスクは2倍以上になっています。プロゲストーゲンの種類の違いによって、血栓症の発症リスクに差が出るという結果です。プロゲストーゲンは、種類によってアンドロゲン活性が異なり、エストロゲン/アンドロゲン活性が高いピルが、血栓症のリスクが高くなるということも示唆されています。
どのピルを選べば良いのか?
当院ではニキビの治療を専門に行っていますので、処方するピルは必然的に肌の調子を整えるピルが中心となります。つまり、男性ホルモン(アンドロゲン)活性が低いピルです。ヤスミン、ヤーズ、ダイアン、スーシーはアンドロゲン活性が低く、ニキビを抑える効果は非常に高いピルです。また、マーベロンもある程度アンドロゲン活性が低いピルとなっています。肌に効果的な反面、前述した血栓症のリスクは高くなりますが、35歳以下で非喫煙者であり、なおかつ問診・血圧測定・血液検査等で血栓のリスクがなければ、もともと血栓を起こす確率は非常に低いため、過度に心配する必要はないと考えています。 ニキビが安定期に入っている方や、35歳以上の方(特に40歳以上の方)へは、ラベルフィーユをおすすめしています。ニキビに対する効果は若干落ちるものの、多少の効果は期待できますし(レボノルゲストレルのアンドロゲン活性は高いものの、含有量は微量です)、何よりも血栓症のリスクが非常に低いピルです。 ニキビは全くないけれど、生理痛や月経困難症、子宮内膜症を抑えたいという方は、ラベルフィーユ、もしくはルナベルがおすすめです。ルナベルは、エストロゲンの用量によって、ルナベルLD(35μg)とULD(20μg)の2種類があります。ラベルフィーユと並んで、最も血栓症のリスクが低いタイプのピルですが、第一世代のピルでアンドロゲン活性が高く、肌(ニキビ)に対しては逆に悪さをする可能性もあります。きちんと飲めば避妊にも使用できるピルですが、日本では月経困難症にのみ適用が通っており、避妊目的として使用することができません。その他にも、太りにくいタイプのピルや、不正性器出血が起こりにくいタイプのピルなどがあり、またその人に対する相性もありますので、詳しくは診察の際にご相談ください。
ニキビに効果的なピルとは
代表的なピルのアンドロゲン活性を下の表に示します。
| プロゲストーゲンの種類 | アンドロゲン活性 | 商品名 | アンドロゲン活性(用量換算) |
| ノルエチステロン 第一世代 | 1.0 | ルナベル オーソM シンフェーズ | 1.0 |
| レボノルゲストレル 第二世代 | 8.3 | ラベルフィーユ トリキュラー アンジュ | 0.4-1.0 (3相性) |
| デソゲストレル 第三世代 | 3.4 | マーベロン マーシロン ファボワール | 0.5 |
| ドロスピレノン 第四世代 | 0 | ヤスミン ヤーズ | 0 |
| シプロテロン 未分類 | 0 | ダイアン スーシー | 0 |
ニキビ(肌荒れ)に対して効果的なピルは、低いアンドロゲン活性と高いエストロゲン活性を持ったピルです。ニキビ治療の効果が高い順に低用量ピルを並べると ダイアン、スーシー>ヤスミン>ヤーズ>マーベロン>マーシロン>ラベルフィーユ、トリキュラー、アンジュ>ルナベル の順となります。
ミニピルという選択肢
40歳以上の方へおすすめしているもう一つの選択肢として「ミニピル」があります。ミニピルは、ルナベルやラベルフィーユよりもさらに血栓のリスクが低く、安全性が高いピルです。次回はミニピルについて、記載していきます。
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書いている人
院長 岩橋 陽介
東京の調剤化粧品とニキビ治療専門皮膚科 肌のクリニック高円寺院の院長ブログ。Twitterではスタッフ全員でつぶやいています。[詳細]