ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 2巻のネタバレ…か? というか2巻が舞台。多分こんなシーンも隠されているに違いないと勝手に妄想。前2作と違ってちょっとシリアス風味。平賀は直ぐに思考の海に落ちてぐるぐるしちゃうんだろうな、と。支離滅裂気味。雰囲気だけ味わっていただけたら嬉しく思います(遠い目)◆8/27 コメント・評価ありがとうございます。その背中は、総てを拒んでいるような気さえして平賀は躊躇っていた。こんなにも無関心で、こんなにも無慈悲な背中があっただろうか。いつも柔らかい眼差しで包んでくれていたのがまるで嘘のように。ちくちくと針で刺したような痛みが心臓を突付く。不安で、どうしようもなかった。このまま、ロベルトがどこか知らない場所へ行ってしまうような気さえした。自分を置いて。けれど、先頃ロベルトが話してくれるまで何も聞かないと決意したばかり。覆す事など出来ない。辛い、と思った。待つことは辛い。無意識のまま手を伸ばしてロベルトの肩へ触れた瞬間、手に痛みが走った。遅れて耳に届いた肌を弾く音。目に見えるのは不愉快を顕に憎悪を滲ませる暗い瞳。跳ねた肩、緊張に呼吸さえ忘れていた。じくじくと痛む心臓があるだけで手に感じた痛みなどあってないようなもの。固まったままの時間、どちらも動けずにいた。歪んだ視界、頬に伝うそれを感じても、平賀は動けなかった。何が起きたのか、何を見たのか、頭が理解しない。「平賀…っ」「 …ッ」名前を呼ばれた瞬間に弾かれたように平賀は部屋を逃げ出した。どこをどう走ったのか覚えていない。気付けば木に寄りかかるようにして座っていた。慣れないことをしたせいで足が重く、どちらから来たかも覚えていない。暗鬱とする木々の密集しているそこは天を仰いでも空はその目に見ることが出来なかった。怒らせてしまった。嫌われてしまった。どこに、還ればいいのだろう。どこを、拠り所にすればいいのだろう。じくじくと膿むように痛む心臓に力尽きたように平賀は目を閉じた。休まない思考はただぐるぐると同じようなことを考え、出口のない問いを繰り返している。好いてもらっていた時間は、戻っては来ない。行き着いた先の答えにじわりと涙が浮かび、平賀はぎこちなく首を横に振る。泣いていいのは自分ではない。ロベルトの期待を裏切ったのは、他でもない自分自身。夕焼けの色が暗鬱とした森にも広がった。空を見ることは出来ないのに夜の気配をひしひしと感じている。獣の気配を知覚することは出来ないが獰猛な野生の生き物に出会えば平賀に対抗するすべはない。還る路を失って平賀は途方に暮れていた。騒ぎに、なってしまうだろうか。それをロベルトは気にかけてくれるだろうか。思考の端々に出てくる存在の愛おしさと、もう目に触れることさえ叶わない事実に再び目頭が熱くなる。自身の感情の機微さえ良く解らなかったのに、今は酷く胸が、痛い。閉ざされた瞳、長い睫毛が頬に影を落とし、色の白い肌はどこか青ざめている。普段からあまり血色の良くない唇も青く、木にもたれ掛かっているその様は、生きることを諦めているように見えた。その瞬間を発見したロベルトは止めていた足をぎこちなく動かして平賀へと駆け寄った。「平賀…!」呼んでも、もう応じてくれないのではないだろうかとさえ、思った。半ば叫ぶようにして名を呼ぶと睫毛が震えて緩慢な疲れたように瞼が開かれる、視点の定まらない覚束ない視線が焦点を結び、そして狼狽する。平賀がロベルトの姿を認識してまず第一に思ったことはロベルトの前から姿を隠さなければ、という強迫観念だった。自分の存在がロベルトの邪魔になるのならば、ロベルトの傍にはいられない。何処か。ロベルトは怯えたように逃げ打つ体をきつく抱きしめた。「平賀」「っ」恐怖い、という感情が平賀から声を奪う。ロベルトの名を呼ぶことも出来ず、平賀はロベルトの腕の中で藻掻いた。それでもロベルトが平賀の体を離さないでいると抵抗することに疲れたのかおとなしくなる。迷惑をかけることを、恐れるように。また、ロベルトの手を煩わせてしまったという事実に平賀は気づく。どことも知れない場所で平賀を探した時間は少ないくないだろう。反射的な行動など今までなく、それがどのような結果をもたらすかなど平賀は知らなかった。「平賀、落ち着いて。僕は、怒っていないから」びくり、と跳ねた体。小さい体を増々縮ませて平賀はゆるゆると首を横に振る。ロベルトが怒っていないわけがない。手を煩わせたことに違いはない。大切な調査中であるのに。ぐるぐると出口の見えない思いだけが胸中を巡る。とんとん、と子供をあやすような手つきのロベルトの手の調子が平賀の心臓の鼓動と同調して平賀は気持ちを落ちつけた。温もりも相まって平賀の強ばっていた体から力が抜ける。それを待ってロベルトは少しだけ体を離すと平賀の顔を覗き込んだ。疲れきった瞳にいつもの澄んだ色はなく、ロベルトを見る目は少しだけ怯えが含まれている。怒られるのを怖がる子供のように。「ごめん、平賀」声を失ったままの平賀はゆるゆると小さく首を横に振る。決してロベルトが悪いわけではない。邪魔をしたのは平賀の方だ。謝らなければならないのは平賀の方。そう思うのに、声は出ない。ロベルトの普段向けてくれている瞳の色に安堵していけないと思っていても涙が溢れ出た。迷惑の上塗りに平賀の恐怖は益々募る。安堵と恐怖。相反するふたつの感情が覚束ない平賀を絡めとっていく。頬に零れる透明な雫をロベルトは指先で拭い、抵抗しない平賀の小さな体を抱きしめる。泣かせているのは、他でもない自分だ。一時の感情で怯えさせたのは自分自身。「平賀」優しい声音。最大限自分に気を使ってくれている証拠。確かに調査官として訪れている以上、足並みをそろえる必要がある。優しいロベルトがこの敵地の中で平賀を突き放すわけがない。その考えが平賀を苦しめた。本当に許してくれていると錯覚してしまう。向けられた憎悪の瞳を、忘れられぬうちに。縋ってしまいそうになる。優しい嘘に。それが喩え、偽りだったとしても。そう思っても縋ることの出来ない指先はただ固く握り締められて震えていた。何も知らないふりをして、縋れたら楽に慣れるのだろうか、と考えて平賀は首を振る。優しさに甘えて溺れてしまえばまたロベルトに嫌われてしまう種になる。赦して、と微かに唇が動く。愚行を赦して欲しいと、神に祈る。何度も、狂った人形のように、赦しを請う。「許すも許さないもないよ。平賀は悪くないのだから。ごめんね、怖い思いをさせたね」「…ッ!」声ない祈りが通じたかのようにロベルトの声が耳に届く。跳ねるように震えた体を抱きしめたままロベルトは罪を懺悔した。「悪魔がいるかもしれないと、言ったよね。ずっと、寄り添うようにそこにいて、僕は怖かった」自分の傍にいれば、平賀にも害が及ぶのではないかと。愛しく思う者を失うのは怖い。平賀が怖いと思うように。平賀の痩躯を強く強く抱き締めてロベルトは細く息を吐き出した。駆けていく背中を呆然と見送ってしまった事を後悔した。何故直ぐに追いかけなかったのだろう、と。教会の敷地の中を探してもおらず、失うことが真実になりそうだと直面して青ざめた。何度も平賀の名前を呼ぶ声に平賀は漸くロベルトへと縋った。細い指先が懸命に背を掻き、肩へ額を押し付ける。駄々を捏ねる仕草だった。泣いているのは、果たしてどちらか。脆弱くてごめんと赦しを請うロベルトか、疑った事実を赦して欲しい平賀か。どれほど縋るだけの時間を過ごしたか。一頻りそうした後、落ち着いた二人は体を離し互いの顔を見合わせてほんのりと笑みを浮かべた。自分だけが悪いのではない。代わりに相手だけが悪いのではない。愛している。それは、何もかもすべてを総てを包み込む至らない感情。END...