8 / 21
第8話です。


第8話 狩人の本能

「はうう……」

車両の中で、茶髪のショートヘアーの小柄な女性、栗林は変な声を漏らしながら赤面していた。何故なら自分の趣味が、隊長であり、尚且つオタクである伊丹にバレたかもしれないからだ。

他の自衛隊員は、栗林がオタク嫌いであることを知っているため、その手の物に関しては全く興味がないと思っているが、実はたった一つだけ、彼女が最も熱中している物がある。それがプレデターなのである。
小学生ぐらいのとき、SF映画好きの父に連れられ、父が借りてきたプレデターのDVDを一緒に観ることになった。最初はプレデターの姿が怖くて泣いていたが、少し成長した後に改めて観てみると、その特徴的なデザインに段々惹かれていくようになり、何度もDVDを借りては、繰り返し観るようになった。
その後、『プレデター2』、『AVP』、『AVP2』、『プレデターズ』と、プレデター関連の映画を片っ端から観るようになり、更にはネットなどでプレデターに関する情報を読み漁ったりもしていた。

――そうして気が付けば、彼女は根っからのプレデターファンになっていたのである。

最初はそのことに関して別段何とも思ってなかったが、今になってみると恥ずかしい限りである。自分が毛嫌いしていたオタクに、よもや自分もなりかけているかもしれないからだ。
でも、だからと言って今更プレデター好きを止めたくない。ああ、もしかしたらこれはオタクならではの衝動なのかもしれない。栗林は、心の中でずっと悩んでいた。

それまでは、何とか心の中を隠していたが、今、プレデターがいると聞かされたとき、心の中を僅かに露見してしまった。そして伊丹のあの口ぶりから察するに、伊丹はきっと気付いた筈だ。自分がプレデター好きだということに。

恥ずかしさのあまり、栗林は両手で顔を覆う。もう穴があったら入りたいぐらい、いや一層のことこのまま消えて無くなりたいぐらいだ。
そんなことを考えていたときだった。不意にドンドンと車両のドアが叩かれる音が聞こえた。ハッと顔を上げた栗林がドアを開けてみるとそこには――

ゴスロリ少女と、プレデターの姿があった。



「うひゃああああああ――あだっ⁉︎」

ドアが開けられるのとほぼ同時に、ドアを開けたであろう女性が、自分達の姿を見た途端、突然叫びながら、驚愕の表情で飛び上がった。だが狭い車両の中だったため、そのまま天井に頭をぶつけてしまい、呻き声をあげながら頭を押さえる。
その滑稽とも言える姿を、スカーとロゥリィは黙って見ていた。
暫しの沈黙の後に、スカーが口を開く。

「……ロゥリィ、何ナンダコノ女ハ。フザケテルノカ?」
「そういう訳じゃないと思うけど……」
「…マア良イ」

そう言って、スカーは栗林の前に立った。早いうちに“こっち”の人間の言語も習得しなければな……と考えながら。



「イッツ〜〜……」

痛む頭を摩る栗林。ドアを叩く音が聞こえ、誰だろうと思って開けてみると、伊丹や倉田が言っていた、そして自分が恥ずかしいと思うようになった原因である、プレデターがそこにいた。
驚きの余り、思わず飛び上がってしまう栗林だったが、飛び上がったのが狭い車両の中だったため、したたかに頭をぶつけてしまう。

ふと前を向くと、プレデターが自分を見ていた。そして栗林から視線を逸らすと、プレデターは別の方へ顎をしゃくる。その方向へ視線を向けると、そこは車両の空いているスペースだった。その意味を理解した栗林は、小さく頷くと、再びプレデターの方へ視線を向ける。

「えっと、自分達が乗ってもいいかってこと?」

栗林の言葉に、コクリと頷くプレデター。栗林はえっと……としどろもどろになる。乗せたい気持ちはある。だが一つ問題があった。

プレデターには風呂に入るという習慣がなく、体臭が酷いという情報を、以前ネットで見たことがある。じゃあ何で隣にいるゴスロリ少女は平然としてるんだって話だが、言い方が悪いが、もしかしたら鼻がおかしいのかもしれない。
とにかく、彼を入れれば、間違いなく車両内は彼の体臭で充満するだろう。
――でも、断る訳にはいかない。このさい体臭は、我慢で何とかするしかない。

「……いいわ。入って」

そうして、ゴスロリ少女とプレデターは中に入るのであった。



結果的に言えば、意外な形で何とかなった。なんとプレデターからは体臭が全くと言っていいほど出なかったのである。何故かは分からなかったが、とにかく体臭が車両内に充満しなくて良かった。


――これは栗林でさえも知らなかったことだが、実はスカーはこの世界で風呂に入るようになっていたのである。
ロゥリィはスカーと出会ってすぐに、スカーのその体臭に参っていたのである。
表面上は平静を装っていたが、内心ではその臭さのあまりにしかめっ面をしていた。それでも彼のもとを離れなかったのは、俄然彼に興味が湧いていたからだ。

そしてコダ村に着いて三日目。遂にその臭いに我慢できなくなったロゥリィ、そしてロゥリィと同様、スカーの体臭に参っていた村人達は、我々で言うところのドラム缶風呂に近い物を作って、そこにスカーを入れた。勿論身体を入念に洗って。
因みに、当初コダ村の村人達が中々スカーと接してくれなかったのは、この体臭の臭さにも原因があった。

風呂という概念を知らないスカーは、何故こんな物に入らなければいけないのだと疑問に思っていたのだが、いざ入ってみると、温かい湯が身体に染み渡り、非常に気持ち良かった。その気持ち良さのあまりに長時間浸かって、逆上せてしまったのを慌ててロゥリィが湯船から出したほどだ。

それ以来、スカーは風呂を気に入り、たまにコダ村を訪れては、その風呂に入るようになった。





逃避行を続けること三日目。伊丹達は草原地帯を抜け、荒地に辿り着いた。

「ちょっと雰囲気が変わりましたね」
「ああ、村からもかなり離れたからな。このまま逃避行も終わりにしたいよ」
「まったくです」

倉田と少な目の会話を交わした後、伊丹は無意識に窓の外を見つめた。

「こっちの太陽って、日本より暑くないか…?」

何気なしにそう呟いた伊丹は、ふと太陽を背にして飛んでいるワイバーンの姿を目にした。乗り手がいないことから、恐らく野性のワイバーンなのだろうか。そんな伊丹のぼんやりとした考えは、ワイバーンの命もろとも消し飛んだ。

突然ワイバーンを横から喰らった巨大な影。この世界の生きる災厄、炎龍の登場だった。

「戦闘用意っ‼︎」

伊丹の下した指示により、即座に第三偵察隊は戦闘態勢に移行した。



一方、二番目の車両に乗っていたスカーとロゥリィは、急に車両が激しく動き出したことに気付き、窓の外を見る。そこには、自衛隊と戦う炎龍の姿があった。

「――ッ!」

その炎龍の巨体を見た途端、スカーの中に、ある本能が蘇った。それは長いこと彼が忘れていた、プレデターとしての、『狩り』の本能だった。


――何なんだあの巨大な生き物は。まさかあれがロゥリィ達が言っていた、炎龍なのだろうか。……ああ、あいつを狩りたい……! この手で仕留めたい! あいつの骨を引き抜き、トロフィーとしてコレクションにしたいっ‼︎


ブルブルと震えるスカーを見て、ロゥリィは首を傾げる。スカーが炎龍程度で恐れを知るような奴ではないことは、よく知っているからだ。

「どうしたの、スカー?」

そう尋ねるロゥリィの声が、しかし聞こえていないのか、スカーは突然立ち上がったかと思うと、ドガンと車両のドアを蹴飛ばして、外へ飛び出した。

「スカー⁉︎」
「え、ちょっと⁉︎」

ロゥリィと、先程のドアを蹴飛ばす音に気付いたのだろう、それまで炎龍と交戦していた栗林の声が聞こえたが、スカーは聞く耳を持たなかった。

今のスカーには、炎龍の巨体しか目に入っていなかった。
今のスカーには、炎龍の咆哮しか耳に入ってこなかった。

一人の若きプレデターによる『狩り』が、今始まろうとしていた。



次回、モンスターハンターが始まります(笑)