以上説明したように、脊損は、脊髄の損傷によって身体機能がマヒしたり低下したりすることで、身体保持のための様々な生体反応や免疫機能も低下するので、合併症が起こりやすくなります。
ここでは特に自己管理の対象になっているものについて説明しています。
床ずれ(褥瘡[じょくそう])
普通は長時間同じ姿勢でいると皮膚や血管などが圧迫されてしびれたり痛くなったりするので無意識に姿勢を代えます。
しかし、脊損は、感覚がマヒしている領域では痛みを感じないので、また、筋肉も弛緩しているので、長時間同じ姿勢で接触面に圧力をかけていることがあります。そのために圧迫を受けている部位の血流が低下したり無くなったりして、その部分の組織(肉)が死に、組織がくずれます。
当初は発赤[ほっせき=部分的に充血して赤くなること]からはじまり、靴ずれのように水泡[すいほう=水ぶくれ]ができたり、皮膚が破れたりしますが、放置すると数日で穴が開いて皮膚面より深く大きく壊死[えし=組織が死んでくずれおちること]が広がり、この傷が骨まで達すると細菌等に感染して死亡することにもなります。
床ずれは、人間の骨格の影響で、身体の特定部分(でっぱっているところ)に起こりやすくなります。これを好発部位と言います。[図7]
- 図7 床ずれの好発部位
脊損の場合は、特に、マヒ域の肉が落ちて皮膚が薄くなったり、骨が出っ張ったりしているところへの圧迫によって、皮膚表面はもちろん、接地面と骨とに挟まれた筋肉の奥側も影響を受けます。
自分の寝姿や、車いす上の座位姿勢に照らし合わせて必要な部位(車いす上では、座骨、仙骨、かかと、大転子)への予防を心がけましょう。
脊損の床ずれは、一日きちんとした医療的手当が遅れると、治るのが一週間遅れるといわれています。発生した場合には、一刻も早く専門医の治療を受けてください。
床ずれが悪化すると床ずれ部分の治療や保護のために一定の姿勢を保持しなければならなくなり、ベッド上でも自由がなくなり、車いすの利用が制限されるのでベッドから離れての活動もできなくなります。それは身体的にも心理的にも生活的にも大変な苦痛になります。
しかも治療については、脊損の場合は、マヒ域の新陳代謝が低下していて皮膚再生能力が落ちているので、自然に治すことは困難です。
なお、現在は専門病院では原則として入院治療の対象にはならなくなっています。通院も困難になり、在宅療法を指示されて、訪問看護師による手当てだけで、場合によっては自宅で数年寝たきりの状態になりかねません。早期の受診と正しい手当が必須です。それだけに、日常生活においても、床ずれの予防には時々刻々の注意と観察が必要です。油断できません。
車いす利用やベッド上などでの座位時には体重によって臀部に圧迫や押さえつけが生じます。そして、物理の「作用と反作用」の絶対法則によって、おしりの表面には、座面からの反発の圧力がかかります。これが床ずれの第一原因になります。
その他には、湿気による蒸れ、炎天下に放置していた自動車の座面やクッション類の表面とその内部の空気やジェルにこもった高温、おしりと座面とのずれ動きやひっぱりの摩擦抵抗、発汗や失禁・失便の放置や排泄後の清拭不足などの汚れ、さらに高齢化による皮膚の老化、栄養不良、特に毛細血管の血流を低下させる喫煙の影響、着衣、特に下着やズボン類の鼠径部への食い込みがあります。また、意外な盲点は固いジーンズやすべりの悪いコールテン(コーデュロイ)などの布地の影響や、さらに、床ずれ予防用のマット類などへのトランスファー(乗り移り)時に、クッションと着衣の沈み込みの差で着衣が張りつめて板などと同じように危険な圧迫が皮膚面におこります。時々座骨部に手を入れて状態を確認してください。
なお、近年すぐれた床ずれ予防用のマットやクッションが提供されていますが、すべて一長一短があります。
クッション類の除圧[じょあつ=圧力をゆるめること]の機能は、でん部とクッション座面の接触面積を広げて単位(1cm2)あたりの圧力を減らしたり、おしりの動きを自由にしたり、乾燥させたりすることにあります。
手ざわりや肌当たりがよいことは関係ありません。どのような床ずれ予防マットやクッションにも圧力を無くす魔法の作用はありません。
車いすで使用のクッション類は、身長や体重と車いすの基本寸法とクッションとの間の調整が必要なので、一体的に設定しなければなりません。
利用に際しては、車いす座面とクッション表面の確認、異物の排除、設置位置の確認、さらに、空気式の場合は気圧や気温が影響するので、一日のうちにもたびたびの空気圧調整などが必要になります。
しかし、床ずれの予防は、何よりも1時間(理想は20分)以内に、1分程度の除圧を行うことが基本です。
車いす上では、安全を確認した上で、車輪やアームレストを支えにしたプッシュアップ(身体を持ち上げる動作)や、おしりが浮くように身体を前後左右に大きく傾けたり反らしたりすること、車いすに座ったまま車いすを大きく後ろに傾けてもたれさせることなどで除圧することができます。
自動車を運転しているときには大きな交差点での信号待ちで、ブレーキロックをかけた上で、プッシュアップや身体を大きく傾けておしりを浮かせることで効果を得ることができます。
就寝時には、最低2時間に一度の体位変換(寝返り)、ベッド用床ずれ予防マットの利用、好発部位にクッションなどのプロテクターを当てることなどがあります。
しかし、定時の体位変換は睡眠を妨げます。睡眠を摂るにはエアーマットの利用がすすめられます。エアーマット類は種類もあり、毎年のように進化しています。利用については、専門医や関係機関等にご相談ください。
この他に、脱げないようにきつめのサイズの靴を長期間はいていると、かかとに靴ずれならぬ床ずれができることがあります。
同じように、車いすのサイドパネルなどが身体に当たったままになっていたり、身体に取り付ける福祉機器を長期間利用していたりすると、接触部分の皮膚内部に床ずれができていることがあるので注意してください。
皮膚内部の床ずれについては、最近になって、医療機関によっては超音波検査器で観察できるようになっています。床ずれの起こりやすい方は定期的な検査を推奨します。
なお、床ずれ予防用の一部のクッションには、ジェルなどを座骨部にセットするためのポケット(くぼみ)があります。これと同じようにでん部が前方にずれるのを防ぐためにクッション内部に段を設けて座骨前縁部で座骨の動きを抑えるタイプの製品があります。しかし、この二つはまったく機能と効果が異なります。ジェルなどをポケット部分に正しくセットして座骨位置にするのは重要で効果的ですが、座骨前縁部で座骨の動きを抑えるタイプのクッションを長期間使用すると、脊損の場合は座骨前縁部内部に袋状の内部床ずれを作ることがあります。
脊損用の床ずれ予防クッションはシーティング(座り姿勢づくり)と併せて専門医やPT(理学療法士)・OT(作業療法士)の専門職、脊損ピアマネ、関係機関にご相談ください。
なお、男性の場合は、体位交換時に男性器等を挟んだり下敷きにして押さえつけたりしないように注意してください。熱発や炎症や床ずれ、折損にとどまらずに、数日で損壊、脱落につながります。
また、喫煙は末梢血管の血流を著しく低下させるので床ずれができやすくなります。また、治療時には回復が著しく遅れます。多くの医療機関では敷地内全域が禁煙となっていますが、医師によっては外来診療時に在宅での禁煙を指示されます。床ずれ治療のためには我慢してください。