では、さっそく実験です。ここからは、実験レポート風に書かせていただきます。
[材料と方法]
(材料)
2gを水道水3Lに溶解。ただし、溶けきらずに、沈殿ができている。小分けにするときは、かき混ぜて、沈殿も入れました。
トマトのサイズ・熟し具合(手で弾力を確認)がなるべく近いものを選びました。
(方法)
陶製の器に50mlの水酸化カルシウム水溶液を入れ、トマトを10分間浸漬する。
[結果]
まずは、溶液のpHを測定。pH試験紙なのでおおざっぱですが、pH12程度の強いアルカリ性です。水酸化カルシウムの飽和水溶液のpHは12.4だそうです。
↑水道水に10分間漬けたミニトマト。左上:自家栽培、左下:有機JAS、右下:慣行栽培。右上は水のみ。
↑水酸化カルシウム水溶液に10分間漬けたミニトマト。左上:自家栽培、左下:有機JAS、右下:慣行栽培。右上は水溶液のみ。
水酸化カルシウムに漬けた方は色がついています。
それぞれのアップ。色はムラがありますね。
トマトを取り除いて、かき混ぜました。発色具合にはあまり差がありません。実は、予備実験で、トマトの硬さ(熟し具合)と色の出かたが関係ありそうな感じでした。本番では硬さの近いトマトを選んでおります。
実験後、色がついた溶液をしばらく放置すると…
どうも、溶けきってない水酸化カルシウムの粒子に色が付いている、もしくは色の成分が沈殿しているようです。そこで、コーヒーフィルターでろ過してみました。
フィルターペーパーのろ過残渣。黄色い。
ろ液(左)を未ろ過の液(右)と比較。かなり色は薄くなってます。
これも教えていただいたんですが、実は、NATROMさんが2009年に既にこの種の実験に関する記事を書かれていました。
考察
ブロッコリーはアブラナ科の植物であり、自らワックス状の物質を分泌しています。NATROM先生のブログでも、ブロッコリーの天然ワックスについて指摘されています(このワックスを「農薬がかかっている、だから水を弾くのだ」などとして、脅しに使うことがあるようです)。ところが、今回、うさじまの実験では、ブロッコリーでの油浮きは見られませんでした。NATROM先生のブログに引用された資料では、ブロッコリーのワックスは冬場に多くなるそうなので、夏場のブロッコリーでは再現できなかったのかもしれません。
しかし、このNATROM先生のブログに引用されている写真と同じような、「油の膜のようなもの」は、見ることができました。
写真がうまくとれず、申し訳ありません。水酸化カルシウム水溶液を調整してしばらく放置すると、水面に白い膜のような、細かい粒子が浮いているような(池のアオコみたいな感じ)ものが生じました
(この写真は、その膜みたいなものを指でつついて壊した状態です)。この「膜」が、どうもNATROM先生のところに引用されている写真の「農薬ワックス」と言われているものにかなり似ているんです(そちらでは「黄色」とされていますが、トマトが一緒に入っているためかと思います)。また、「安心やさい」の紹介動画で「こんなに汚れが!」と言っている時に写っている映像にも同様のものが見られます。この浮いているものが何なのか、はっきりとはわかりません。水酸化カルシウムの溶け残ったものかもしれません。あるいは、水酸化カルシウムが空気中の二酸化炭素と反応して、不溶性の炭酸カルシウムを生じた可能性もあります。また、もしかしたら、容器の汚れである可能性もあります。はっきりとはわからないのですが、この種の実験で「ワックスが浮いている」「野菜の表面の有害物質が浮いている」とされている場合に、もしかすると本当はワックスや汚れ等ではなく、水酸化カルシウム由来のものを見ている可能性があるのではないか…と思いました。
「安心やさい」を販売している会社のサイトには第三者期間による評価を掲載しています。農薬の除去については、ものによって40~90%の除去効果があるとしています。
水酸化カルシウムは別名消石灰、酸化カルシウムは生石灰です。実はこれらは、畜産分野で消毒剤として使われているそうです。水酸化カルシウムの飽和水溶液(MAX濃くした水溶液)である石灰乳(飽和する量より多くの水酸化カルシウムが水に懸濁されていて、白く濁っている)も、消毒に使われています。アルカリによる消毒効果があり、特にウイルスには効果が高いようです。市販の野菜用の洗浄剤においても、消毒の効果をうたっているものがあります。このような洗浄剤の使用濃度は、石灰乳のような高濃度ではないですが、pHは12くらいありそうなので、それなりの効果は期待できるかもしれません。上記の第三者機関のデータにも消毒効果があると記載されています。
水酸化カルシウムの飽和水溶液はpH12以上で、強アルカリなのですが、溶解度が低いために、一定以上濃くなることはありません。飽和水溶液でも、濃度としては20mM程度となります。そのため、家庭で適当に調整しても危険性は少ないと思われます。もちろん、目に入ったりしたら危険ですが、うさじまの場合、液を手で触っても特になんともありませんでした。また、最終的に空気中の二酸化炭素と反応して無害な炭酸カルシウムとなるため、環境への負荷も少ないようです。ただ、洗浄剤の使い方として、流しにそのまま液を流すことで下水管を洗える、とありますが、このような使い方が本当に良いかどうかはわかりません。一般的には、強アルカリの液は中和してから流すべきと思われます。また、使用例として肉や魚を洗うというものがあるのですが、「表面が白くなる」とあり、これはどうもアルカリでタンパク質が変性しているのではないかと思います。一般的にタンパク質はアルカリには弱いです。
「農薬洗浄」実験の問題点
上記のように、水酸化カルシウム(または貝殻焼成カルシウム)の洗浄剤は、洗浄剤としては、そんなに問題のあるものとは言えないかもしれません。しかし、これらの商品の宣伝に、トマト等を用いた「農薬が落ちて、水の色が変わる/油が浮く」というデモンストレーションが行われていることは不適切だと思います。また、この原理を、慣行栽培によって作られた野菜を「危険なものだ」というのに利用するのも、不適切です。水酸化カルシウムがトマトそのものに作用して起こる現象だからです。そもそも、農作物の残留農薬については、さんざん安全性が確かめられており、わざわざこのように特別に洗浄する科学的な必要性がないのです。
このアルカリによる「トマト洗浄実験」は、一部の浄水器のプロモーションにも使われているようです。もし、これらの実験を見せられて、「市販の野菜をそのまま食べるなんて危ない、ぜひ<追記>アルカリで特別に<追記>洗浄しなければ」と思ってしまった人が身近にいる場合、本記事を見せてあげてほしいなと思います。
おまけ
実験に使用した野菜はうさじまがおいしくいただきました。
参考資料
やってみたい人のための追記(2013.7.23)
ブコメ等で「子どもの自由研究に良さそう」との感想をいただきました。ありがとうございます。再現してみたい方のためにいくつか情報を。
- アルカリはタンパク質を溶かします。とくに目に溶液や粉が入らないよう、十分注意してください。
- 。「生石灰の乾燥剤が水に濡れて火事に」という事例もあります。駅弁などを温めるのにも使われているものです。粉が目に入ったり、口に入ったりするとそこで発熱+アルカリでけっこうヤバそうです。取り扱いには注意が必要です。「貝殻焼成カルシウム」はうさじまは実際に使用していないのでなんとも言えませんが、主原料が酸化カルシウムだという情報が確かであれば、こちらも同様に注意が必要です。水に溶かす際は、大量の水を使用して温度が上がり過ぎないようにするなどしてください。余った粉をその辺に置いといて水に濡れないようにしてください。