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いつもと変わらない日々の中、気晴らしもかねてと夜の空を遊泳する手下の背の上で、夜の姿となったリクオがのんびりとその空気を楽しんでいたのであった。普段と変わらない夜。その中にある自分の存在も変わらないと、その変化の無いこのときこそ貴重なのだとリクオは、穏やかなこの世界のこの時を楽しんでいたとも言えた。そんな時に感じたのは、虫の知らせか。見つめる先に何かを感じた気がした。「待て、ここで止まれ」嫌な予感がする。そう口の中で呟いたその言葉に、慌てての停止を要求された手下の妖怪は、この上空で止まったまま、ぬらりひょんとなっているリクオを見上げる。「そうだな。おかしいと、思うのがおかしい。が、何か変だ」引きかえした方が良いだろう。そう、口に仕掛けてその上空のそこに、ぽっかりと穴が開いている気がしてならない。何処につながる穴かもしれない。そんな、感じがしたのだから。対外は気のせいにしたかった。そのことを思い自分の気の回し過ぎだったと笑いとばしたかったのだが。口から出た言葉は、最悪の事態を回避する言葉でもあった。「・・・・・・・。戻ろう」気が殺がれたでは済まない何かが、自分の方へと向かってきている気がした。逃げないと捕まる?何にだ。まずい。このままでは、こいつも巻き込まれる。焦る内心と自分を追いかける何かは、自分を捕えようとしているのかもしれない。その闇の中に見えたのは、見えない手の様な気配でもあったから。『あれは、呪詛だ』そう感じた時。自分を捕えようとした手に捕まった気配に、その手を振りほどけないことを理解したリクオは、配下の妖怪に巻き込まれぬようにと声を上げたのであった。「逃げろ!そして、俺のジジイにぬらりひょんに伝えろ。俺が呪詛に捕らわれたことを。たのむ!」「!?」慌てる配下の妖怪が振り向いた時に見たのは、上空に制止して動けなくなっているリクオの姿でもあった。苦し気な表情と逃げようと足掻く彼の姿に、その首に手が掛かったのを見てその姿に非力でも助けようと戻ろうとしたのを、リクオはその力を使ってどちらも吹き飛ばそうとしたのだが。呪詛の手がそれで緩むことはなく。夜の姿をしたリクオは、闇の穴に吸い込まれてしまったのであった。[newpage]気を失ったリクオの頬に、冷たい何かが触れる。その冷たさに目を覚ましたリクオは周囲を見回す。何処か寂れた建物の中だとわかってしまい。そこに寝かされた自分の横に居た相手が、人間の男の子だと知って我に返る。体の痛みも頭の痛みも無い。それでも、気を失った自分を心配そうに見つめる相手に、問いかける言葉をリクオは発してしまう。「ここは?」「気がついた?良かった。君が倒れていたのを俺の友人が見つけてくれて。それで、ここに連れてきたのだけど」「そうか。ありがとう」ほっ、とした表情で自分を看病してくれた相手に礼を言ってから。リクオはギクりとしてしまう。この声は、昼の姿人間の姿の声ではないと自覚したから。自分の内に居るはずの人間の時のリクオの存在を感じられない。いや、感じることは出来るが。まるで、封印されたかのように気配が細く外に出ることができないようになっているのかの様な気配に、夜にしか姿を現すことができない自分が昼の時分にここに居る不安を如何しても抑えることができなくなってしまう。急に黙りこくった目を覚ました者に、ほっとした表情でこれまで看病していた相手が問いかけてくる。「君は何処か来たんだ?」「わからない。捕まったんだ。ここじゃないところで、俺を捕まえようとしたヤツが居た。振りほどけなかった」「君はもしかして人間じゃない?」ひくりと喉がなってしまう。驚愕の表情で相手を見つめるそこに、相手もリクオを警戒しているのだろう。だが、それならば。この状況に自分が襲われることを加味はしているはずが、何故に自分を助けたのかと首を傾げそうになってしまう。「お前は俺がお前を襲うと思わなかったのか?」 「どうかな。こんな風になっている相手を無視して、誰かにと思ったら無視はできなかったし。もし、襲われたら自分の見る目が無かったと諦めるしかないよね」「人が良いんだな」「そうでもないよ。それにね。もし、君が俺を襲うなら。目が覚めた時にそうしていないかな」「・・・・・・・。なるほどな。それは、その通りかもしれんな」「でも、如何するの?このまま、何処かに行く?」「・・・・・・わからん。如何したら良いのかも」「そう。気をつけた方が良いかも。払い師が何人か誰かを探している。もしかしたら、君かもしれないね」「じゃあ、そいつらの誰かということか」「そうかもね。でも、中にはとても危険にヤツも居るから。このまま、逃げ切れるか・・・」そうリクオを見て心配する相手に、リクオの方も如何すれば良いのかと思案してしまう。このままでは拙いだろう。この自分を介抱する相手が誰かもわからない状態で如何すれば良いのかと困ってしまう。そんな中に唐突に上がる別の声。「そんなに心配するなら。そいつをお前の手下にすれば良いだろうが」「「えっ?」」「にゃんこ先生!」「その妖は相当に力が強いぞ。確実にあいつらに狙われる。先に見た時にあいつらがこちらにと目星も付けたようだ」「そんな。でも、そんなことをしたら」「夏目。気にしている場合か。そいつのことを考えるなら。お前が主になればいい」「でも、そんな」「ここに居る時で良いだろう。いつかは、そいつの名前を返せば良い。それくらいに考えろ」「そうか。そうだね」仕方が無いから。そう口にして夏目と言う男の子は、丸っこい形をした招き猫の様な猫の外見をした妖?の言葉に納得もしている様だった。その間にリクオは無言になって、彼らの話を聞いているだけになっていた。「なるほど。俺をこの場所に連れてきたのはそいつらの誰かか。そして、その所為で俺はここに居る必要が出たと言うわけか。酷い話だな」感心とは言えない。苦笑を交えて言う言葉に、目の前の夏目と言う彼が頭を下げる。「ごめん。君を縛る訳じゃない。このままだと、君を元の世界に戻せなくなる。だから、我慢してほしい」「わかった。お前がそういうなら、今の俺には否定も拒否も出来ねえからな」「じゃあ。って、にゃんこ先生如何すれば良いの!」「そのまま。名前を聞けば良いだけだ。相手の名前を聞いて『この自分の手の者として、この理のもと自らの名のもとに呪縛する』とでも言えば良い」「そう。じゃあ、名前を聞いても良いかな?」「・・・・・。リクオだ」「えっ?」「ぬらりひょんのリクオだ。それが俺の名前だ」「なっ!?」驚きに声を上げた夏目ににゃんこ先生が舌を巻く。妖の中でも有名とも言える妖の名前に夏目も驚きに声を無くしてしまう。まさかの妖が本当に居ると思わなかったのだろう。見つめる先に苦り切った顔のリクオに夏目は我に返って小さく息を吐いて、自分が自己紹介していなかったのを思い出したのであった。「僕は夏目貴志。少しばかりと言うか。妖を見れる力と目を持ってしまったために、色々と巻き込まれてしまったんだけど。今回のはちょっと問題だけど。いつか必ず君を解放するから。我慢してほしいかな」「・・・・・・・わかった。夏目を信じている」「じゃあ、行くよ」「ああ」「我が手の者としてこの妖を我が配下とし、夏目たる我が名に於いてぬらりひょんリクオを呪縛する」夏目の言霊により。夏目の力がリクオを縛る。その首元にひとつの布の様な存在が表れてシュルリと音をして、それが巻かれたのであった。夏目が見つめるそこにリクオが苦笑を零す。「まあ、まさか。夏目が俺の主になるとはな。この世界では妖はさぞかし住み辛いんだろうな」「・・・。そうかもね。ごめん、こんな手しか浮かばなくて」「いや。いい。こうした方が安全と言えば。安全だろう」「あまり僕は君を縛ることはしないよ。これも、命の補償と言うか。身の補償みたいなものだし」「そうだな。そう願いたいものだ」「信用してくれるかは、後々の行動で見てくれれば良いから」夏目の言葉にリクオも頷いてしまう。ふと気がついたのは自分の名前を言えないことだろうか。なるほど、とリクオは思ってしまう。名を取られるというのは不安もある。が、その名前がすべてではないとリクオは思ってしまうから。元々に自分の中に封印された人間の自分が不安そうな声を上げているのだろうけど。内心で、「大丈夫だ」と呟いてみれば。落ち着いた気配を自分の中に感じて、リクオは夏目の助け手を受けて立ち上がる。「じゃあ、このまま。俺がここを離れても大丈夫なのか?」「うん。まあ、見つかっても大丈夫だろうけど。如何かな?」リクオと夏目の問いかけと視線が、にゃんこ先生へと向けられる。「まあ、どうせ。そいつの名前を呼べば来るから。問題は無いだろうが」「そう」ほっとした表情で夏目が笑いかけるその内容に、にゃんこ先生も落ち着いたのかその手を上げて言う。「配下2号。お前は饅頭を買ってこい」「おいおい。なんだこの豆狸は?」「狸じゃない!このかわいいプロポーションを分からぬか?」「猫と言うより。丸々太り過ぎて、夏目が重そうにしか見えねぇが。夏目の肩を痛めるんじゃないか?」「おのれ。この猫パンチを受けて見ろ!」「ちょっと、にゃんこ先生。リクオとやり合うのはやめてよ。それでなくても、重たくなったんだから。如何して、肥るの!?」「ぬう、そういうことを夏目も言い追ってからに」「もうちょっと痩せた方が良いよ。そうしないと、この姿に戻れないし。こないだの検査で、血糖値が高いって。猫なのに甘いもの食べさせ過ぎです。とか、言われるし。もう、恥ずかしくて恥ずかしくて・・・・」「「うわぁ」」不満を零し過ぎた夏目にリクオもにゃんこ先生も引き攣るしかない。さすがにこのことは夏目の目の前でやるべきではなかったと、呆れも入った状態でリクオはにゃんこ先生を見ながら黙るしかなかったのであった。[newpage]払い師が居るということを聞いたリクオは、その姿を消して夏目からも見えないようにしてしまう。それは人間に見えなくなるということでもあったのだが、夏目が自らの家に帰る途中で偶然にもその払い師の一人でもある名取周一に会う羽目になったのであった。「夏目くん。久しぶりだね」「こんにちは、名取さん。今回は如何したんですか?こんなところで」「相変わらず。言葉が厳しいね。と、言うのは置いておいて。夏目くん。彼は?」「えっ?何のことですか?」「誤魔化さなくて良いよ。君が自分の配下にした妖が居るだろう?」「・・・・・・・」「その者は何者かな?と、思ってね」穏やかな笑みを浮かべる名取に夏目は半眼になって見つめる。無言になったその表情に気にすることなく、夏目を前に名取は笑って話を続ける。「的場がね。大きな妖を手に入れかけたと言ったからね。それが途中で振り切られたと残念がったんだけどね。まあ、逃げられたから、的場のモノじゃないから。たとえ、夏目くんが手にしても返せとは彼も言えないだろうね」「そうですか。じゃあ、的場さんが彼をこちらに」「そうなるかな。で、その相手は?」「迷惑だということだそうですよ。こちらに来たくなかったのに、とも言っていましたが。本当にあなた方は迷惑なことしかしませんよね」「おいおい。頼むよ。夏目くん。俺とあいつを一緒にしないでくれないかな」「だけど、彼にしたらどちらも一緒でしょう?」「随分と苛立っているのは、その者の所為なのかな?」「ええ。そう、思ってもらってかまいませんよ。お陰で俺も嫌々やる羽目になったから。どちらにしても、今は機嫌が非常に悪いです」「なら、」「遠慮します」「夏目くん。君ね。俺が折角」「あなたでは彼を飼い殺しにするでしょう?嫌なこともやらせるでしょう。だから、的場さんと一緒なんですよ。彼はね。妖を殺したくないと言うでしょう。それをあなたは強要させるかもしれませんから。だから、嫌なんですよ」「・・・・・・・・」「彼は俺の手の者にしました。誰にも渡しません」本当に嫌だというなら。夏目もしなかったのだろう。それをわかって名取も黙って、ただ、彼の姿だけでも見せてほしいと夏目に頼んだのであった。それも断るからと。ならと、以前の集まりを思い出して名取は言う。「なら、払い師の集まりにだけでも出てくれないだろうか」「何故ですか?俺は払い師じゃないのに」「だけどな。君がそうやって二つの妖を手にしているのを見せないと、的場もだが他の者たちも狙ってくるだろう。そうなると、今みたいに平穏に暮らせないぞ」「・・・・・面倒な」「だが、そうなりたくないなら。公然の場で知らしめるべきだ」「わかりました。そう言うなら。次の時にでも参加しましょう」「良かった。なら、今週の日曜日の夕方に来てくれれば良い」今回は皆の都合でそうなったというと、そのまま、名取が引き上げていくのを見て夏目はため息を吐いてしまう。名取によってリクオがこちらの世界に来た切っ掛けは分かった。だが、そうなるとその呼び寄せた問題の相手が的場では、どうやって彼を説得してリクオを元の世界に戻せば良いとなるのだろうか。「と、言うよりも。お先真っ暗じゃないか」溜息を吐いて呟いた言葉は、的場の性格を浅く知る夏目でも痛いほどにわかってしまうから。リクオを解放するということができないとわかって、頭痛くらいしか覚えなかったのは仕方がなかったのかもしれない。そして、リクオの様子をと自分の後ろを見たら。いなかったから。しかもにゃんこ先生も居ないという。脱力しかけた夏目が見たそこは、本当に自宅の真ん前でもあったから。我に返って家の中に入り、自分の部屋へと入ると。にゃんこ先生とリクオが酒盛りをしていると言うことで、この二人の妖が喧嘩をしないで良かったと夏目自身は別の所でほっとしたとも言えた。[newpage]その集まりの日に、夏目は不機嫌そうな表情を丸出しにして、これまでに無いほどの無表情を前にしていたのであった。周囲の目が自分に集まるのも気に入らない。朗らかに笑う名取の声さえも、今日のこのときには神経を逆なでされた様にさえも見てたのであった。「夏目くん。良かった。来てくれて」「来てくれて、じゃありません。来たくなかったんです」「で、件の相手は」そう声に出すも夏目の傍には招き猫状態の猫しかいない。その声にさえも無視をした夏目が、名取に問いかけたのは問題のリクオをこちらに呼び寄せた相手のことだった。「そうですね。で、的場さんは?」「あちらに。会いたかったのか?」「まさか。この事態の元凶に会いたいなんて、すずめの涙ほどにも思っていませんよ!」「相変わらず。手厳しいね。君くらいだよ。的場にたいして言えるのは」「本当のことでしょう。迷惑極まりない」そう口にしたそこにふわりと桜の花びらが散った気がした。ざぁ、とその空間に流れる風と吹き荒れる桜吹雪と、桜の木々がそこに存在するかのような世界が広がったかのように見えたのであった。その中に降り立つ妖の姿を見たのは、その場に居る払い師とその使役される妖たちだろうか。見つめるそこに呆然とした表情で見上げた夏目と、「派手過ぎだろう」と言うにゃんこ先生の声に我に返った者たちが騒ぎ出す。「お初御目に掛かる。俺はぬらりひょん。夏目に今回新たに下った妖だ。こんな場所で悪いが、夏目に手を出すなら俺が容赦しないからな」夏目の横に立った和装の相手が笑って言う。名取が探していたと言う妖がそれだというのと、的場が捕えることが出来なかったのがこの者だと知ったのは、この二人くらいの者たちでもあったのだけど。その逃がしたと言う妖がまさかこんなにも手に負えるほどではない妖を如何にかしようとした的場に、名取も頭痛を通り越して溜息さえも吐きだすしかなかったのであった。「まさか。ぬらりひょんを捕えようとするとは。それは、無理だと言えるだろうな」「なら。さっさと帰してあげてほしいですね。彼はちょっと俺でもやっとなんで、的場さんも名取さんも彼を呪縛したら殺されますよ」「それは、ちょっと。如何かな」夏目の隣に居る妖に、そこに居る払い師たちが見つめる。まさかの妖がこの自分たちの前に現れたのは、流石に信じられなかったのかもしれないが。自分たちの眼前に居ることに納得するしかなかったのであった。この様子に的場も夏目の傍にと寄ると、この登場に感嘆の声を上げてしまっていた。「流石。妖の頂点に立つものですね」「お前が的場か?」「ええ。始めまして。で、夏目くんなら良いと言うことですか?」「そうだな。お前みたいなヤツは、俺は大嫌いだな。お前は俺たちを道具としか見ていないだろう。夏目とは大違いだ」「そうですね。だから、あなたを欲しかったのですが。まさか、振り切られるとは思いもしませんでしたよ」「お前みたいなヤツだから。嫌だったんだよ」苦り切った表情で拒絶するぬらりひょんに夏目も名取も黙って聞いている。的場がその手を伸ばしかけたそれを、リクオは一歩ひいてその場から離れてしまう。「お前の手は気持ち悪い。俺に触るな」「それは残念。できたら、君を迎え入れたかったのに」「冗談でもご免被るな。お前みたいなのなら。安心して殺してやれるのにな」「そうできるのでしょうか?」「無理だな。夏目が嫌がるから。お前を殺すことはできない」そう。口にしたぬらりひょんが夏目の後ろにと逃げるようにして、その傍に寄って立ったのであった。それを残念そうに見つめる的場に名取も溜息しか出ない。これでは彼は自分の力で強引に夏目から彼を奪い取ろうとしたのが分かったから。呆れた表情で名取も的場へと声を掛ける。「いいかげん。諦めろ。本当に命知らずだな」「残念ですね。では、またの機会に」「または無いと覚えておけよ」こればかりは、諦めないだろう。そう、思えるのだが。相手が相手だ。さすがに的場が欲しがっても、彼はちょっとどころかヤバすぎると名取も夏目の後ろに居る妖を見つめて、その表情に過るその顔に自らの顔が引きつるのを止めることができなくなっていた。その後にそれ以外の面々も、夏目に対しては一歩以上ひいていると言うことになってしまっていた。流石にぬらりひょんを相手にはしたくなかったのだろう。妖の総大将と言われるほとの者でもあったのだから。その一声にすべての妖を統べる存在とも言われる彼を、夏目が使役したと言うこともこの払い師の世界で、一歩も二歩も引く存在に夏目自身がなったことを当の本人たる夏目も気がついてもいないのであった。終わり。(あとは、続編で妖たちの飲み会を入れるくらいですかね。これ、作っている最中にまた強制終了した。何回落ちるんだよ。苦情元探し中!)