概要
筋ジストロフィーとは、遺伝によって伝えられる疾患群のことであり、時間とともに筋肉に損傷や衰弱を起こします。この損傷や衰弱は、正常な筋肉の機能に不可欠なジストロフィンと呼ばれるたんぱく質の不足から起こります。このたんぱく質の欠乏は、歩行や嚥下、また筋協調に異常を起こす可能性があります。
筋ジストロフィーには30以上の種類があり、それぞれの特徴や重症度は異なります。
筋ジストロフィーは、年齢に関わらず発症しますが、多くの場合、幼少児期に診断されます。また筋ジストロフィーは女児よりも男児に多く見られます。
筋ジストロフィーの予後は疾患の種類と症状の重症度により異なりますが、筋ジストロフィーを持つ患者の多くは最終的に歩く能力が失われ、車椅子を必要とします。筋ジストロフィーには、知られている治療法がありませんが、ある種の治療法が役立つ可能性があります。
種類
種類
筋ジストロフィーには30以上の種類があり、これらは9つの種類に分類され、診断に利用されます。
デュシェンヌ筋ジストロフィー
この種類の筋ジストロフィーは子供に最も多く見られます。デュシェンヌ筋ジストロフィーを発症する患者の多くは男児であり、女児にこの疾患が発生することはまれです。症状には次のものがあります:
- 歩行困難
- 反射の消失
- 立位の困難
- 姿勢が悪くなる
- 骨が薄くなる
- 過剰な背骨の湾曲である脊柱側弯症
- 軽度な精神的欠陥
- 呼吸困難
- 嚥下障害
- 肺虚弱や心臓虚弱
デュシェンヌ筋ジストロフィーの患者は、だいたい十代になる前に車椅子が必要となり、平均余命は十代の後半から二十代です。
ベッカー型筋ジストロフィー
ベッカー型筋ジストロフィーは、デュシェンヌ筋ジストロフィーに似ていますが、ベッカー型の症状はデュシェンヌほど深刻ではありません。この種の筋ジストロフィーも、女児よりも男児に多く見られます。症状は11歳から25歳の間にあらわれ、主に腕や脚に筋力の低下が起こります。ベッカー型筋ジストロフィーのその他の症状は次を含みます:
- つま先で歩く
- 頻繁に転倒する
- 筋けいれん
- 起き上がることが困難である
この疾患の患者の多くは、30代以降まで車椅子を必要とせず、ごく一部の患者は車椅子を一切必要としない場合もあります。ベッカー型筋ジストロフィー患者のほとんどは、中年期以降まで生きます。
先天型筋ジストロフィー
先天型筋ジストロフィーは、大抵の場合、生まれてから2歳までの間に診断されます。先天型筋ジストロフィーを患う子どもの両親は、運動機能や筋肉制御が正常に発達していないことから気づき始めます。症状には様々なものがあり、それらには次のようなものがあります:
- 筋力低下
- 運動制御不全
- 支持なしに座ったり立つことができない
- 脊椎側弯症
- 足の奇形
- 嚥下困難
- 呼吸困難
- 視覚障害
- 発話障害
- 知能障害
症状は軽度なものから重度のものまでありますが、先天型筋ジストロフィー患者のほとんどは、座ったり立つときには支えを必要とします。この種のジストロフィーを持つ人の寿命は症状によって異なり、一部の患者は幼少期に亡くなる一方で、成人期まで生きる患者もいます。
筋緊張性ジストロフィー
シュタイネルト病や筋緊張性異栄養症とも呼ばれるこの種の筋ジストロフィーでは、筋肉を収縮後に弛緩させることができなくなります(ミオトニー)。ミオトニーは、この種の筋ジストロフィーにのみ見られます。
筋緊張性ジストロフィーでは、顔面の筋肉とともに中枢神経系や副腎、心臓、甲状腺、眼、また消化管(GI)を影響する場合があります。この疾患の症状は、ほとんどの場合、まず顔面と首にあらわれます。またこれらの症状には次のものがあります。
- 顔の筋肉下垂によってやつれて見える
- 首を上げる動作の困難(首の筋肉の衰弱)
- 嚥下困難
- 眼瞼下垂(垂れ下がっているまぶた)
- 頭皮の前面の早期脱毛症
- 白内障を含む視力低下
- 体重減少
- 発汗増加
この種のジストロフィーは、男性には性交不能や睾丸萎縮症を起こし、女性には生理不順や不妊を起こします。
筋緊張性ジストロフィーは、通常20代や30代の成人が診断されます。この疾患の症状は生活の質に影響を与えますが、多くの場合、命に関わる危険はなく、患者の多くは長い人生を送ります。
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)
FSHDはランドジー・デジェリーヌ病とも呼ばれています。この種の筋ジストロフィーは、顔面や肩、また上腕の筋肉に影響します。FSHD患者は、咀嚼や嚥下の困難があり、口がゆがんで見える場合があります。肩が傾き、肩甲骨が羽のように見えます。少数の患者に、聴覚や呼吸に異常が発生する可能性があります。
FSHDはゆっくりと進行する傾向が見られます。症状は大抵の場合十代の頃に現れ始めますが、四十代までは休眠状態を保つ可能性もあります。FSHD患者のほとんどは、余命が正常な人と変わりません。
肢体型筋ジストロフィー
肢体型筋ジストロフィーは、筋肉を衰弱させ、筋肉量を低下させる疾患です。この種の筋ジストロフィーは通常、肩や腰から始まりますが、脚や首にあらわれることもあります。肢体型筋ジストロフィーの患者は、椅子から立ち上がる、階段の上り下り、重いものを運ぶといった動作が困難になります。また、よくつまづいたり転んだりします。
肢体型筋ジストロフィーは性別を問わず発生します。この種の筋ジストロフィーを患う患者は20歳になるまでに身体障害者となりますが、余命は正常な人と変わりません。
眼咽頭型筋ジストロフィー(OPMD)
OPMDは、顔面や首、また肩の筋肉の衰弱を起こします。その他の症状としては次のものがあります:
- 眼瞼の下垂
- うまく飲み込めない
- 声の変化
- 視覚障害
- 心臓病
- 歩行困難
OPMDは性別を問わず発生し、40代から50代の頃に診断されます。
遠位型筋ジストロフィー
末梢性ミオパシーとも呼ばれる遠位型筋ジストロフィーは、前腕や手、ふくらはぎ、また足の筋肉に影響します。この種類の筋ジストロフィーは、呼吸系や心筋を影響することもあります。微細運動技能の喪失や歩行困難などの症状はゆっくりと進行する傾向が見られ、ほとんどの患者は、性別を問わず40代から60代に診断されます。
エメリードライフス型筋ジストロフィー
エメリードライフス型筋ジストロフィーは女児よりも男児に多く発生する傾向が見られ、この種の筋ジストロフィーは幼少児期に発生します。症状には次のものがあります:
- 上腕や下肢の筋肉衰弱
- 呼吸困難
- 心臓病
- 脊椎や首、足首、膝、また肘の筋肉の短縮
エメリードライフス型筋ジストロフィー患者の多くは、心不全や肺不全のため中年期に亡くなります。
検査
検査
筋ジストロフィーの診断に利用される検査には様々なものがあります。これらの検査には次のものがあります:
- 酵素試験:損傷した筋肉から放出される酵素を検出する血液検査
- 遺伝子検査:筋ジストロフィーの遺伝子マーカーを検出する血液検査
- 筋電図検査:筋肉の電気的活動を検査するために針電極が筋肉へと挿入されます
- 筋生検:筋肉のサンプルから筋ジストロフィーの存在を確認されます
治療
治療
今の時点では筋ジストロフィーを完治させる治療法はありませんが、治療を施すことで症状を軽減し、進行を遅らせることができます。治療方法は患者が体験する症状により異なります。
治療の選択肢としては次のものがあります:
- 筋肉を強化し、筋肉の劣化を遅らせる副腎皮質ステロイド薬
- 筋肉を強化し、筋肉の可動域を維持する理学療法
- 患者が自立することに役立つ作業療法 作業療法では対処技能や社会的技能、また患者が利用できる地域サービスを頼る方法などを患者に教えます。
- 補助呼吸
- 心臓疾患のための薬剤
- 筋肉の短縮の矯正、脊柱側弯症の治療、白内障の修復、また心臓疾患を治療するための手術