昨日10月29日、「たかの友梨ビューティクリニック」に勤めるエステティシャンが、会社から受けたマタハラの責任を問う裁判を起こした。会社は、女性の妊娠が分かった後も、産休を法律通り取らせようとしない、時短勤務を認めない、必ず1年で復帰するという誓約書を書かせるなど、女性が働き続けることを妨害する行為を行っていたという。

ちょうど、先日10月23日にも、広島市の病院に勤めていた女性が妊娠を機に降格させたことについて、最高裁で高裁に差し戻しの判断が下されたばかりだ。この判決はマタニティ・ハラスメント(マタハラ)の違法性を問うものとして大きく報じられ、社会的な関心を集めている。

だが、今回の「たかの友莉」の事件と、他のマタハラ事件とでは少し違いがある。それは、「たかの友梨」がブラック企業に特有のマタハラを行っているということである。

各社の報道や被害女性を支援しているエステ・ユニオンのブログによれば事件の経緯は次の通りである。原告の女性が会社に妊娠を伝えたところ、「産休に入るか退職かを選ぶように」「産休に入るなら1年で復帰しないといけない」という選択を迫られた。

しかも、「フルタイムの正社員として必ず戻ってこなければならない」といわれ、「子どもを必ず保育園に入れること」の証明が求められ、「おうかがい書」と呼ばれる書類を高野友梨氏あてに提出させられた。記事によると、「女性の自宅近くの保育園を3つ以上書かされ、子どもを迎えに行けない時に代わりとなる人物の名前まで記載させられた」という。

その後、労組の支援もあり、産休を取得できることになったが、そもそも「たかの友梨」では8時から20時(長いと22時まで)までの連続12時間労働。休憩をとることができず、トイレにいくことすらできない。夜20時から「昼食」を取るような職場である。

それにもかかわらず、時短勤務や軽易な職種への転換などの配慮もなかったため、切迫早産になってしまったのだ。

おにぎりも食べられないほど忙しい、給料の半分は商品の自腹購入、お客さんに必要のないサービスを勧める…

今回提訴された女性の「当事者陳述」を読むと過酷な職場環境の実態が生々しく見えてくる。入社時から長時間労働の上に、おにぎり一つも食べられないほど休憩が全く取れない環境で働いていた。

また、過酷な美容器具の売り上げノルマが課され、ノルマ達成のために「自腹購入」も求められた。組合員には、50万円のカードでローンを組み、三重ローンにしてまで、ノルマを達成していた社員もいた。

忙しすぎる仕事をまわすために顧客に必要のないエステサービスを勧めるなど、文字通り身も心もぼろぼろになりながら働いていた。

そうした労働に耐えていた原告女性も、いざ妊娠して産休を取ろうとした際に「今まで通りの長時間労働を前提としたフルタイム正社員への復帰」を条件とされ、それ以上無理することができず、一度は退職を申し出てしまった。

つまり、「たかの友梨」での働き方は、多くの女性にとって、結婚や出産を機に辞めるのか、それとも結婚や出産をあきらめるのか、あるいは早産や流産などの危険にさらされながら、従来通りの長時間の過密労働で働き続けるのかという選択を迫るものなのだ。

こうした働き方では、ごく一部の女性しか働き続けることはできず、ほとんどの女性は早期に離職せざるを得ない。

ブラックな職場環境=恒常的なマタハラ

そもそも、「たかの友梨」では産休を取得するスタッフがきわめて少ない。原告女性も「当事者陳述」の中で「これまで私は8年間働いていましたが、産休をとった人は3、4人しか見たことはありませんでした。基本的には妊娠をしたら、みんな退職をしていきました。(会社が)ちゃんとした情報もくれないので、産休を選びようがない中、退職を選ばされた人が多いと思います」と述べている。長時間労働の体質のままの職場では出産や子育てなど無理だと考え、産休を申請すらしようとせずに辞めたスタッフも多いのだろう。

そうした場合、「マタハラ」として問題が顕在化する機会すらなく、女性はキャリアを断たれることになる。ブラックな職場環境は、それ自体が恒常的なマタハラとして機能するのである。女性が9割以上を占めるエステ業界の大企業において、このことは大きな課題だろう。

従来の「マタハラ」は昇進差別などが問題となるケースが多かったが、そもそもブラック企業は男女を「差別」しない。男性にも女性にも、限界を超える労働を求め、その結果、女性は出産ができなくなる、このような構図である。

たかの友梨は「女性の自立」の象徴?

実は、たかの友梨ビューティクリニックの高野友梨社長は、女性が経済的にも精神的にも自立できるようになることが大切であると様々な場所で発言している。たとえば、「それまで身につけてきたキャリアを結婚や子育てで捨て去ってしまうのは、性の自立とは言えません。結婚しても働きたい、伸びていきたいという気持ちは男性ならむしろ賞賛されることなのに、なぜ女性だけ?」(http://www.companytank.jp/tenma/201207/2/)、「私は日本では数少ない女性経営者のひとりだそうです。女性経営者は4% で、さらに、私のように一代で会社を築いたのは、かなり稀なケースのようです。(中略)女性にとって本当に大事なのは、「自立」だと思います。自立というのは、ライフワークを持っていること。そして経済的にも自立していることです」(http://bhn.jp/interview/147/3)などの発言がそうである。

後者の発言にもあるように、高野友梨社長は、自身が日本でエステ業界を切り開いてきた女性経営者であるというイメージを積極的に打ち出し、「女性の活躍」の象徴として様々なメディアで取り上げられてきた。安倍政権が女性の活躍推進として、女性の管理職率の引き上げを打ち出しているが、たかの友梨氏の事例はその象徴のようなストーリーだといえるかもしれない。しかし、今回のマタハラ裁判の提訴で、むしろ同社が、女性が長く働き続けることがきわめて困難な環境であることが明らかとなった。

マタハラのないエステ業界へ ユニオンによる転職支援

原告の女性は、美容の仕事が好きでエステ業界で働いてたにもかかわらず、ユニオンの支援がなければキャリアを断たれるところだった。エステが好きで仕事をしているエステティシャンが辞めてしまうことは、業界にとっても、消費者にとっても大きな損失である。

もちろん、エステ業界の企業の中には、きちんと産休・育休を取らせ、労働時間にも配慮しているところもある。そういった企業はぜひその点をアピールし、求人をおこなってほしい。長く働き続ける環境が整った企業は人を集め、そうでない企業には人が集まらないという構図を作っていくことが、問題の解決に有効だからだ。

今回の裁判を支援しているエステ・ユニオンは、マタハラをやらないと宣言した企業、長く働き続けることができる企業を募集し、ユニオンの転職支援活動の中で紹介していく予定だという。また、11月6日には都内でエステ業界内の転職希望者向けに転職支援セミナーも行う。

ユニオンへの問い合わせ窓口は下記の通りだ。

受付窓口(全国受付):022-796-3894