KASEN TOPICS

No.19
ナノテク素材の特徴と繊維への応用
はじめに
細さは髪の毛の数万分の1で、鋼より強く、銅より電気をよく通す「カーボンナノチューブ」は、ミクロ世界の探査装置、省エネでコンパクトな電子機器、電子回路など、種々の応用が期待されている新素材です。
   「カーボン」は炭素、「ナノ」は「10億分の1」を意味し、「1ナノ・メートル(m)」は、「10億分の1m」の意味です。カーボンナノチューブとは「炭素でできた極めて細い管」で、ダイヤモンドや黒鉛と同じ炭素の結晶ですが、結晶構造がナノチューブの場合は、炭素原子6個が六角形に結合し、その六角形がずらっと並んだシートが筒状に丸まった構造をしています。筒が一層だけの最も細い管は直径0.7ナノm、多層の管だと4~50ナノmになります。炭素同士の結合は強く、ナノチューブの強度は同じ重さの鉄の数百倍。曲げても引張ってもなかなか壊れない。そのうえ銅線よりも電気や熱をよく伝えます。
繊維の分野におけるナノテクノロジー応用技術について
このカーボンナノチューブの開発で、ナノテクノロジーが脚光を浴びることとなりました。すなわち、カーボンナノチューブのように、ナノレベルでの構造を制御することによる新しい技術をナノテクノロジーと呼び世界中で様々な最先端の研究が進められています。このナノテクノロジーは、繊維の構造解析や新しい繊維の製造にも応用されています。最近発表されたナノテクノロジーを応用した素材を次に紹介します。
1.自然界のナノテクノロジー

羊毛の構造を図に示した通りですが、複数の細胞が分裂して階層構造となり、一本の羊毛繊維ができており、その構造はナノレベルオーダーです。羊毛の直径は、20~50μm(1μmは、1000ナノm)、マクロフィブリルで200~500ナノm、ミクロフィブリルで約7~17ナノmです。
 2.ナノ構造制御技術によるナノファイバーの開発について

東レは、従来の極細繊維(一本一本の繊維の直径が数ミクロンオーダー)よりも繊維径が二桁細い、ナノオーダーの単糸で構成されたマルチフィラメント形状の「ナノファイバー」を発表しています。この技術は、東レが得意とする極細繊維形成技術にナノオーダーの構造制御技術を組み合わせることによって極限の細さを実現したものであり、ナイロンやポリエステルなどの汎用ポリマーを用いて製造できます。この技術を用いて、繊維径が数十ナノmの単糸数140万本以上から成るナイロン・ナノファイバー(44dtex)の開発に世界で初めて成功しました。東レは1968年に海島複合紡糸技術による高分子配列体技術を生み出し、その技術を、スエード調人工皮革“エクセーヌ”、ワイピングクロス“トレシー”などの極細繊維の特徴を生かした様々な商品に展開しています。そしてこの高分子配列体の技術から繊維径がミクロンオーダー(1000ナノm)の繊維の製造に成功しましたが、従来の極細繊維技術では、紡糸段階で均一なナノオーダーレベルの細い糸を紡糸することができませんでした。今回は、ポリマーの分子配列をナノレベルで制御してポリマー自身の流動性を最適化することによって、数十ナノmの細さで均一な繊維径を持つナイロン・ナノファイバーの開発に成功しました。ナノ繊維では、従来の繊維に比較して繊維一本に占める表面積の割合が非常に大きくなることから、従来の繊維固有の性質に加えて、繊維内部に比較して活性の高い繊維表面の性質の寄与が大きくなるため、吸着特性や接着特性などの新しい機能が付加されます。例えば、今回得られたナイロン・ナノファイバーは、ナイロン100%の組成でありながら、吸湿性が従来ナイロン繊維の2倍から3倍に向上し、綿同等以上の吸湿性が得られたと発表しています。従来のナイロン繊維では繊維表面の吸湿量は、繊維内部の吸湿量の1/1000程度であるため、繊維の表面における吸湿量は無視し得るものでしたが、今回のナノファイバーの表面積は従来繊維の1000倍程度であるため、表面の吸湿効果が大きく影響するためです。
 3.ナノテクでモルフォ蝶の神秘の美しさを繊維に再現

帝人は、モルフォ蝶のように光の干渉で構造発色する新光学繊維「モルフォテックス」の生産を開始しました。この繊維は、下図のようにモルフォ蝶の羽が、空気層とたんぱく質の層(ラメラ界面)との光干渉により美しく発色することをヒントに日産自動車、田中貴金属工業および帝人の共同開発で開発されました。繊維の構造は、屈折率の違うポリエステルとナイロンを数十ナノオーダー単位で61層積み重ねた多層積層構造となっており、染料を全く使用することなく、あくまで光の屈折を利用して発色させる繊維です。そのため、染料・顔料を使用する必要がないという、地球環境に優しい繊維なのです。
光の屈折の違いで発色させるので、見る角度や光の強度によっても微妙に色も違ってきますので、ファッション用途としても使い方が広がります。また、テキスタイル用途以外にも、「モルフォッテクス」の糸を細かく切断し、粉状(パウダー状)にしたものを透明な塗料に混ぜて使用するということも考えられます。
モルフォ蝶
羽のミクロ構造
帝人「モルフォテックス」 繊維断面
 4.ナノテク技術を活用し、汗の臭いを解消する特殊繊維を開発

帝人は、ナノテクノロジーを利用し、汗による体臭を消す性能に優れた後加工「パーマフレッシィ」を開発し、2004年春夏商品から製品化・販売を始めます。「パーマフレッシィ」は、ポリエステル織編物の繊維一本一本に消臭剤を接着させる際に、繊維表面に均一にナノオーダーのバインダー被膜を形成させ、繊維と消臭剤を接着させたものです。
従来の技術では、薄いバインダー被膜を掲載することが難しく、そのため繊維と消臭剤だけでなく繊維と繊維を接着してしまい、消臭性能や耐久性に問題がありました。しかし、今回帝人が開発したナノテクを使用した技術によって、消臭剤と繊維だけを接着させることが可能となり、高い消臭性と耐久性、そして織編物の風合いの変化を低くおさえることができました。
 5.ナノテクで保湿や美白効果を有する繊維加工技術を開発


カネボウは、抗酸化作用のあるビタミンE誘導体をテキスタイル上に配合した、高い保湿性と肌への潤い効果が期待できるナノテクノロジー繊維を開発しました。これを、“アンチ・エイジングを目指す女性”をターゲットに「ナノデュウ」(NANODEW)ブランドでインナー、アウター、寝装関連向けテキスタイルとして販売展開しています。同社は、長年にわたり皮膚生理研究・製剤開発技術の研究を行っており、同技術を応用して液晶(層状)構造を持った製剤を開発し、この製剤を使用した保湿性の高い高級基礎化粧品「DEW」の美容液を発売しています。「ナノデュウ加工」は、この美容液に使われている液晶製剤を応用したもので、従来の吸湿加工とは異なり、繊維表面にナノサイズの多重保湿膜を形成するため、適度な水分を安定して肌に与えることにより、保湿および美肌効果並びに肌のバリア機能の回復などが期待できると言われています。

同加工の効果は、(1)抗酸化作用のあるビタミンE誘導体を含む油分層と水分層を、ナノサイズでサンドイッチ構造に重ねた液晶製剤加工を繊維に応用しているため、繊維表面に多重保湿膜を形成し、適度な水分を肌に与え、高い保湿性と美肌効果などが期待できる。(2)UVカット加工等の後加工も可能で、保湿と紫外線による肌のダメージを抑えることも期待できます。

また、ビタミンE誘導体以外の肌に効果のある成分もナノサイズで配合できますので、今後のテキスタイル展開が期待されます。

引用文献:
1.「繊維便覧」繊維学会編(丸善)
2.東レ 資料
3.帝人 資料
5.カネボウ 資料
(2003年12月掲載)