ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 【Fate/GO】ザビ男/ザビ子、FGOにトリップす。622017年6月18日 22:54 食堂を後にして歩いていた廊下で、傍らの扉が不意に開く。途端、周囲に広がりゆく独特の香りに、意図せずして歩調が乱れてしまった。「どうした? もしや、月の元マスター殿は煙草の匂いは苦手か?」 ク、と唇の端を持ち上げてこちらを見下ろしてくるのは、このカルデアでも稀有なアヴェンジャーのクラスの男・巌窟王。もう一人のアヴェンジャーも、その隣からひょこりと顔を出す。「お前さん、随分とお子様だねぇ」 言葉の割に、その口調にはこちらを馬鹿にするような響きはない。他愛のない、雑談の一部。「はぁ、まぁ。……お二人は、煙草タイムですか?」 ちらり、と、二人が出てきた部屋を一瞥する。カルデア施設内に点在する喫煙室のひとつだ。一部のスタッフからは、生命線だとありがたられている聖地でもある。「そんなところだ。……どこでも気軽に喫煙することが許されぬとは、なんとも息苦しい時代だ」「確かにそれにゃあ全面同意だわー。つーことで、オレも一服してくから後ヨロシク」 自分とユリウスとにひらひらと手を振り、二人と入れ違うようにロビンフッドは喫煙室に入ってゆく。そういえば、ロビンフッドも喫煙者だった。吸っている姿を目にする機会が少ないから、忘れてしまっていた。 ユリウスは吸わなかったはずだがと、隣に視線を向けてみる。こちらの考えを読み取ったらしく、ユリウスはゆるゆると首を左右に振った。「オレに喫煙の嗜好は無い」「一本試してみれば? 意外とハマるかもしんねーぜ?」 と、ユリウスに勧めるアンリマユは、他ならぬ、巌窟王に勧められて好きになったクチだ。「いや、結構。せっかくだが、生前から煙草や葉巻の類に興味は無い」「そっか。興味ないモン勧めて悪かったな」「気にするな。謝罪には及ばない」 ユリウスが、アンリマユと雑談を繰り広げている。 いやいやいや、別におかしいことではないのだ。ユリウスだって、雑談ぐらいする、のだが。なんていうか、少し新鮮というか。 ……月でいろいろありすぎて。 月の裏側で――あの終わりで。ユリウスは満足だったと言っていたけれど。それでも、もどかしい気持ちがずっとあって。 どの道筋を辿ったとしても、月ではユリウスに平穏な日々は訪れなかったというのなら。せめて、このカルデアでは、と。傲慢かもしれないけれど、ずっと、ひっそりと願っていたから……。「? どうした。オレの顔に何かついているか?」 首を傾げるユリウスの、その問いにかぶりを振る。もはや親に近い心境で見守っていたとか、流石に本人には言えやしない。 と、いうですか、ね。 あのですね。 いい加減、現実逃避はやめにしよう。 さっきから、穴が空きそうな程こちらをガン見してきておられるアヴェンジャーが、約一名おられましてですな。隣でユリウスとアンリマユが話してる間もずっと、まるで観察するかのように見られているのである。……むしろ、実際に観察されているんだろうけど。「えーっと、何か?」 巌窟王からの視線を、いつまでもスルーしていられる訳もなく。トラブルに突っ込んでいくぐらいの覚悟でもって、巌窟王の視線を正面から受け止める。「……貴様。もしやかつて、俺の悪夢を垣間見た男/女か?」「はぁ?」 悪夢を垣間見たと言われても。 …………。 あ。 ……あー。 若干、心当たりがなくもない、ような気がしなくもない。かな? 覚めない夢の中の、溺れる程の絶望たち。胸を掻き毟るように、怨嗟に餓えた。 今ではもう随分以前になってしまったあのときに視たかの悪夢こそ、もしかして、この巌窟王が生きた日々だったのだろうか?「悪いけど、心当たりはないと思う」 近くに清姫がいたらすぐに察知されてしまいそうな程に拙い嘘を口にする。「そうか。……つまらんことを訊いたな」 巌窟王もまた、自分が舌に乗せた応えが偽りだと気づいたのだろう。偽りだと気づいていて尚、素知らぬフリして視線を切る。 あの悪夢は、巌窟王の人生だ。巌窟王が生きて死んだ証だ。 それらを共有すること赦されるのは、当の本人とマスターだけ。無関係の自分が、訳知り顔で語っていいことじゃない。巌窟王だって、自分の感傷と干渉なんて願い下げだろうて。 だから。 平然と、嘘をつく。 清姫は一律に嘘を嫌うけれど。嘘とて時には必要なことだってあると思うのだ。嘘も方便って、昔から云うことだし。「ごめん、そろそろ管制室に行かないといけないから。これで失礼するね?」 本当は指定の時間よりも少し早いのだろうけど。「ああ。……お前も、無事でな」「ありがとう」 頭に手を置かれる。手を置かれたまま……指先だけで、数度、頭を軽く叩かれた。 すぐに離れてゆく手を、名残惜しくなんて思ったりはしない。「おい、ザビ!」「?」「クハハ、迎えのようだな」 行け、と。背中を押された。送り出された。紫煙とオードパルファンと体臭とが混ざり合った、彼独自の香りに見送られる。「って、あれ? アンデルセン? 確か子ギルと約束してたんじゃ……?」 そこにアレキサンダーも入れて、三人で廊下を駆けてくる。駆けてくるのはいいけど……アンデルセンの白衣の裾が走るのに邪魔だから気をつかってか、アレキサンダーが裾の先を持っている。いやいやいや、ベールボーイじゃないんだしさ。え? もしかしてツッコミ待ちでした?「そんな些事はとっくに済んだ。それよりも、ロビンフッドはどうした? 一緒に食堂に向かったのではなかったのか?」「そこで煙草タイムしてるけど?」 何か急用でもできたのだろうか。喫煙室を指し示すと、息も絶え絶えな割に饒舌なアンデルセンから舌打ちが聞こえた。「また煙草か! 体制へ楯突いた身の上で、あんな、税金の塊のようなものを消費してなんとする!」「……怒るポイントは、そこか?」 ユリウスのツッコミのポイントも、そこですか?「そもそも、だ。未成年の連中は大人への反抗を示す為に往々にして煙草を嗜むようだが、その煙草の代金の大半は税金でできている! 大人への反抗スタイルの為とて体制へ金払いするとは、フン、本末転倒もいいところだな!」「あー、これ、走り過ぎで脳に酸素が回ってませんねぇ」 これだから文系サーヴァントはやだなぁと、笑顔で言い捨てる子ギルは息切れひとつしていない。あれか、基礎体力の差というやつか。 子ギル曰く脳に酸素が回っていないせいでこれ以上の失言をしてはいけないと、アンデルセンを抱きあげて口を塞ぐ。うん、目の前で固まっているアヴェンジャーズも喫煙家だからねー過度な毒舌はやめようかー。「さて、アンデルセン。そろそろ管制室に行こうか」 誤魔化すように、あえて大きめに声を張る。「肉体労働、断固反対……」「まぁそう言わずに。走って疲れたなら、このまま抱えて行くから」「…………行く。連れてけ」 楽ができて嬉しいのか、急にアンデルセンは鼻歌まじりで自分の首に腕を回してきた。現金なヤツめ。「えー。アンデルセンだけずるいなー。ね、ザビ。僕も疲れちゃったです☆」 上目づかいで要求してくる子ギルにどうかえしたものかと困惑したのは一瞬。「フン。ではオレが抱えてやろうか?」「ケッコウデス」 ユリウスと子ギルとの雑談をほほ笑ましく見守ってから、アヴェンジャーの二人と別れる。 そして、管制室へ。