こちらは先日ちょろっとコピー本で配布させていただいたCafé WitZwart:Life after livesの後日談的おまけになります。前提として普段のカフェナオ闇アイ後の転生ネタ、櫂アイを含みます。ナオキが孤児設定です。きゅん様が1人でカフェ開く→ナオキがアイチのところに保護される→ナオキがきゅん様になつく→同居してすったもんだ→ラブラブ同棲←今ココ、という具合です。※こちらはこぴ本を読んでくださった方向けの小話となっております。この話だけお読みになっても分からない可能性が大きいです。ご注意お願いいたします。
良く晴れた昼下がり。週末のこの時間は、お客様にとっては休日の楽しいおしゃべり。僕らにとっては稼ぎ時。見た目はお化け屋敷みたいになってきたこの店も、ゆっくり過ごせる隠れ家みたいな場所として、ご近所さんにはそれなりに人気がある。前は食事やお菓子目当ての人たちばっかりだったけれど、最近はコーヒーも美味しいって評判なんだ。 さて、週末のこの時間にカウンターを埋めたのはあんまりにも見慣れた面子だった。 「ナオキくんもすっかり馴染んだねえ」 嬉しそうにナオキの淹れたコーヒーを飲んでいるのはアイチだ。前はいつだって1人で店に来てたのに、今じゃ隣に座っている長身の優男といっつもくっついてやってくる。仕事帰りだなんて言い訳、もう通用しないんだからね。 「おう!この間ナゴヤにコーヒーの合格点貰ったんだぜ!」 「……確かに美味いな。どこかの誰かが淹れたものよりは」 悪かったな。どうせ僕は下手くそですよ。カイくんに向かって、べ、と舌を出してやると隣のナオキに呆れた顔をされた。 「年甲斐も無く子供っぽいことするなよ……」 「歳は余計!」 テーブル席のお客様には聞こえないように小声で言って、カウンターの陰でナオキの向う脛を思いっきり蹴っ飛ばしてやる。お客様の手前悲鳴も上げられず、ナオキは悶絶して屈みこむ。ふんだ、僕だってまだそんなに歳とってないんだから。 「ナゴヤくんは何だかどんどん若返りますねえ」 のほほんとカップを傾けるのはレンさんだ。カップの中身は彼の今のお気に入りで、ロイヤルミルクティーにたっぷりと砂糖をぶちこんで泡立てたクリームを上に絞った女性の大敵。胸やけ必須。 「この流れで言われてもそれ褒めてないですレンさん……」 僕はげんなりと焼き立てのアップルパイにナイフを入れた。酸味のきいた林檎がたっぷりとつまったそれは、アイチのお気に入りだ。レンさんはもっと甘い方が良いって言うけど、彼の味覚に合わせていたら何でもどんどん甘くなってしまう。 「ふふ、やっぱりナオキくんのおかげかなあ。こうやって見ると、ナオキくんも施設を出た時より随分おっきくなったみたい」 余程嬉しいのか、アイチはさっきからナオキを見てはにこにこ笑っている。やはり自分が面倒を見ていた子供が、こうして立派に成長して元気にやっている様子というのは感慨深いものがあるのだろう。 「ほーんと、どんどん大きくなっちゃってさあ。昔はあんなにちっちゃくて僕にも抱っこできてたのに、今じゃ僕より育っちゃったんだから」 生意気、と唇を尖らせてナオキを見ると、彼は目の端に涙を浮かべて漸く立ち上がるところだった。不満そうにじと目で僕の方を見るので、何、と問い返してみる。まあ、何となく理由は分かるけど。 「そうやって親みたいなこと言うの、止めろっていつも言ってるだろ」 ナオキは僕がお母さんみたいなことを言うのが大変気にくわないんだそうだ。親だと思いたくないって言われた時は一応子育てに加担していた身としてはちょっとショックだったけど、まあ、結局彼の真意を知れば満更でもない気もする。 「良いじゃない、偶には。それにちっちゃい頃から知ってるってことはナオキの可愛いとこ全部独り占めってことだもん」 健気でいじらしいとことか、普段言わない癖に実は僕の事凄く大事にしてくれてるとことか、多分挙げ連ねたら彼が憤死するので思うだけにしておいた。にしし、と笑ってみせるとナオキばかりかアイチやカイくんまで微妙な顔をする。レンさんがごちそうさまでーす、と両手を上げて降参のポーズ。それから彼は庭を仰いで、あ、と一言零した。 「あの花、切っちゃったんですか」 まあ来年また生えるでしょうけど、とレンさんが言うので、僕は内心ちょっと吃驚する。生えるんだ、あれ。 「ナオキにあげたんですよ。一輪差しにして飾ってたんですけど……」 花は数日で一度口を噤むように花弁を萎ませ、そうかと思っていたら幾らもしないうちに青いそれを散らして枯れてしまった。 「あー、そうそう。それでさ、先生これ何だか知ってる?」 僕が話していると、ナオキが小皿を持って割り込んできた。最近僕とレンさんが店で話しているといつもナオキが途中で参加してくる気がする。レンさんは後でこっそり焼きもちですかねえ、だなんて言っていたけれど、そうなんだろうか。そう思っておこうと思う。僕がちょっと嬉しくなるから。 さて話を戻すと、ナオキが皿に乗せて出してきたのは、小さな青い球体の何かだった。それが何なのかは僕にも分らない。何せ、一輪差しにしていたあの青い花が散った時、中から出て来たものなのだ。僕は初め、ナオキがビー玉か何か仕込んだのではないかと疑っていたのだが、ナオキにも心当たりは無いらしい。しかし彼は何故だかその小さな物体をいたく気に入って、大事にするとか言う。大事にすると言って皿の上に載せる彼の思考は中々凄まじいものがある気がするのだけれど、本人にしてみれば失くさないようにという配慮なのだろう。レンさんはそれを見るなり、ああ、と頷いた。 「僕知ってます。それ、れっきとした宝石なんですよ」 宝石が花の中から出てくるなんてあるものかと僕は顔を顰めたけれど、彼はそういうこともあるんです、と軽く言ってのける。それから彼は、何かとっても面白いことがあるような顔でにやにや笑った。不吉だ。 「その宝石の名前、教えてあげましょうか」 レンさんがあまりにも嬉しそうなので僕は身構えたが、ナオキは素直に頷いてしまった。アイチもカイくんも、興味のある顔でレンさんを見ている。レンさんはたいそう勿体ぶったようすで僕らの方に顔を近づけ、内緒話でもするみたいに口の周りに手を当てた。 「どこかの誰かさんの、『至高の愛』っていうんですよ」 それをお皿に載せちゃうなんて、ナオキくんは本当にくいしんぼさんですねえ、だなんてレンさんが言うものだから、ナオキは恥ずかしかったのか真っ赤になってしまう。素直で可愛いったら。 愛かあ、とちょっとロマンチックな気分になっているらしいアイチを尻目に、僕は小さく溜息をついた。 「……レンさん、それ、今適当に名前つけたでしょう」 彼は、さあどうでしょう、と口端を吊り上げて見せるだけだ。相変わらず喰えない人だった。 「至高の愛、ねえ」 僕がずっと忘れずにいるこれが、仮にそうだと言うのなら。 僕はいつか、ナオキに全て話すだろうか。 あの子がいつか、受け入れてくれる時がくるのなら、 その時が来たら、あの子に全部話そうか。 だって、これは全て君のこと。君との大事な思い出なんだ。 至高の愛かは知らないけど、確かにそれは愛なんだ。 何より大切な君へ。 それまでは君が焼きもち焼かないように、そっと大事に持っておくから。