単純ヘルペス
作者: ミルディス皮フ科院長:村上義之
《単純ヘルペス》
唇やその周囲に小さな水ぶくれができる病気「口唇ヘルペス」は単純ヘルペスウイルスが原因で起こります。単純ヘルペスウイルスには1型(くちびる、顔面など上半身)と2型(性器を中心とする下半身)がありますが、感染力が強く、直接的な接触のほかにウイルスがついたタオルや食器などを介しても感染しますので、親子、夫婦など親密な間柄で感染することが多く、実は成人の大半が乳児期にこのヘルペスウイルスに感染しています。
初感染時には何も症状がでないことも多いので、知らない間に感染しているのもこの疾患の特徴です(不顕性感染といいます)。最初に感染(初感染)して免疫を獲得し、その人に抗体が出来たとしても、機会があれば再感染や再発を繰り返します。
◎ヘルペスはうつる病気です
症状が出ている時期はウイルスを多量に排泄しています。この時期に、単純ヘルペスウイルスの抗体を持っていない人や、持っていても抵抗力が落ちている人に接触すると感染する率が高くなります。具体例としては、口唇ヘルペスの大人が、乳幼児にキスや離乳食を口移しで与えて発症する乳幼児ヘルペス性口内炎や口唇ヘルペスがあります。
◎一度治ってもウイルスが体内に潜んでいて何らかのきっかけで再発
乳幼児期の単純ヘルペスⅠ型の初感染はヘルペス性口内炎として現れることもありますが、多くは症状が出ません。一度体の中にウイルスが入り込むと、病気の症状が治まっても神経節に潜んで何らかのきっかけで暴れて口唇ヘルペスとして再発します。日常見られるのはほとんどがこの再発型です。かぜで熱を出した後など、唇のまわりにポツポツとした小さな水ぶくれが現れる「熱の華」を経験したことはありませんか? かぜ以外にも疲労、紫外線、胃腸障害、外傷、生理、ストレス、ステロイド剤などの体の抵抗力や免疫機能の低下が再発の誘因になります。
◎抗体を持っていない成人が増加
以前はほとんどの人が乳幼児期に周囲の人との接触によってⅠ型に感染して抗体を持っていましたが、衛生状態の改善や核家族化などの影響で20~30代でも半数の人しか抗体を持っていないとも言われています。乳児期の初感染に比べると大人での初感染は症状が重くなりがちです。Ⅰ型の抗体があるとⅡ型にも感染しにくく、発症しても軽症です。
◎無症状でもウイルス排泄の可能性あり(無症候性排泄)
ウイルスを持っていても症状が出ていない場合、たいていウイルスは神経節に潜んでいるのですが、時に唾液や精液などにウイルスが排泄されていることもあり、無症状であることから自分の体液にウイルスが存在することに気づかず、キスやセックスでパートナーに口唇ヘルペス、性器ヘルペスを発症させることがあります。パートナーが抗体を持っていない場合には重症化することもあるので、気になる人は抗体の有無を検査するとよいでしょう。
◎口唇ヘルペスの症状と治療
〈症状〉
次の4段階を経て約10日から2週間ほどで治ってゆきます。
① 前駆期(ピリピリ、ムズムズ):水ぶくれなどに先立って、皮膚局所にピリピリ、チクチク、ムズムズなどの熱感、違和感、痒みを感じ、再発を繰り返す人は自分でこの感覚がヘルペス出現の前兆であるとわかります。
② 紅斑(赤くはれる):上述の自覚症状が出てから半日以内に赤く腫れてきます。この時期には患部でのウイルス増殖が活発ですので、このような早い時期に治療を開始することが重要です。
③ 水疱(2~3日後):赤く腫れた上に水ぶくれが出来てきます。この中にはウイルスがたくさん存在し、水疱が破れてじゅくじゅくした患部にさわると感染します。
④ 回復期(かさぶた):かさぶたになればウイルスはほとんど存在しなくなります。
〈治療〉
抗ウイルス薬が第一選択です。再発の予感時、あるいは症状出現早期に治療開始するのが効果的です。
抗ウイルス薬はウイルスの遺伝子に働いて増殖を抑制するものなので、症状の出始めの皮膚や神経でウイルスが活発に増殖している時期が治療のよい機会です。神経節に潜んでいるウイルスには効果がありませんが、再発した病気を治療しないで放置しておくと、皮膚で増えたウイルスが再び神経節へ戻って潜伏感染するウイルス量が増え、次にまた再発しやすくなると考えられています。再発といえども早期にしっかりと治療すべきです。
※ 内服:重篤な初感染あるいは再発例、もしくは多型紅斑を合併した再発例に対して使用。
アシクロビル:1日5回内服、バラシクロビル:1日2回内服。いずれも3~5日間服用する。
※特殊療法
頻回に(年6回以上)再発して日常生活もままならない症例では、前兆を感じたら内服開始するエピソード療法と少量を連日内服する抑制療法があります。詳細は医師にご相談下さい。
※外用:非ステロイド薬(スレンダム軟膏など)、抗ウイルス薬(アラセナA軟膏など)を2~3時間ごと頻回に外用。
◎ヘルペスのその他の症状
①ヘルペス性歯肉口内炎
乳幼児に最も多く見られるヘルペスの初感染症状。急に39度前後の高熱が出て、口の中にびらん、小水疱ができ、歯茎も真っ赤に腫れあがり、強い痛みで食事ができなくなります。あごのリンパ節が腫れます。
②カポジ水痘様発疹症
アトピー性皮膚炎の人の皮膚は抵抗力が弱く、ヘルペスが感染すると皮膚炎のある部位に水疱が拡大し、水ぼうそうのように水疱が広がることからこの名前がつけられています。重症化し、発熱を伴うことがあります。
③性器ヘルペス
女性の外陰膣炎は症状が激しいことが多く、浮腫や赤みが強く飛び上がるほどの激痛で、排尿困難になることもあります。そけい部のリンパ節が腫れます。
④接種ヘルペス(ヘルペス性ひょう疽)
口腔内の治療に従事する医療関係者に多く、爪周囲に見られます。
◎その他の注意点
1) 人との接触に注意: 水疱などの症状が出ている時期はウイルス量も多く、感染源になるので特に下記のような人との接触には注意する必要があります。
① 新生児・乳幼児
免疫機能が未発達なので、強い症状が出ることもありキスなどを避けましょう。母親が抗体を持っている場合には胎盤を通じて新生児に一定期間は抗体があるのでそれほど重症化はしません。
② 抗体を持っていないパートナー
オーラルセックスで相手に性器ヘルペスを発症させる危険性があります。初感染の性器ヘルペスは重症化しやすいので注意をしましょう。
③ アトピー性皮膚炎の人
皮膚のバリア機能が低下している上に、治療のためにステロイド薬を使用している場合もあるので、接触にて簡単に感染しやすく、しかも重症化します。
④ 病気などで免疫力が低下している人
お見舞いも控えた方が無難でしょう。
2) 患部に触れないように: 自分自身でも患部に触れて感染することがあるので、気をつけましょう。特に目に感染して発症する角膜ヘルペスは失明する危険性もあります。
患部に触れた指で目を触らない、コンタクトレンズを唾液で濡らして装着しない、患部に触れた後(外用後も)は手をよく洗うなどに注意しましょう。
3) タオルなどの共用を避ける:ウイルスがついたタオルや食器の共用を避けましょう。洗剤できちんと洗いましょう。
◎参考:浅野善造(こどもとヘルペス)、本田まりこ・新村眞人(口唇ヘルペスってどんな病気?) マッキャン・ヘルスケア2003年