体のニオイの悩みに応える体臭ブログ
わきが多汗症治療に長年携わってきた五味クリニック院長五味常明が、体臭対策、体臭予防をご紹介します。
ストレス臭 体臭が知らせる健康状態 ニオイを気にする現代人
日本では、過労死闘が社会的関心を集め、働き方の見直しが叫ばれて久しいところですが、現実には、仕事に強い不安、ストレスを感じている労働者が58%にも達しています。こうした事情を背景に、ストレス臭が話題となっています。本特集では、体臭の種類と原因・発生メカニズム、体臭から分かる体調異変、体臭の予防対策等を分かりやすく解説します。
ニオイを気にする現代人
近年、社会が豊かになるにつれて、生活からニオイがどんどん消えています。
台所からはおこげや糠みそのニオイがなくなり、焼肉店でも肉の焦げたニオイは少なくなりました。あの鼻をつくクレゾール臭のする病院は稀です。デオドラント時代の今、身の回りからニオイがどんどん消えていく感があります。
それと、同時に、ニオイに敏感になる人も増えています。
今、工場や飲食店から出るニオイが生活環境を損なうとして制定された悪臭防止法を厳格にする自治体が増加し、臭気判定士のような専門のニオイ判定員も職業として登場しています。
環境のニオイだけでなく、体から出るニオイが気になる人も増加しています。社会の清潔志向がすすみ「ニオイ=不潔」のイメージが定着したからでしょう。
ある消臭メーカーが、2011年に20~39歳の働いている女性500人を対象に、職場におけるニオイ調査を行った結果、女性の8割が「ニオイは職場での評判を左右する」と答え、90%以上の人が「不快なニオイはビジネス上のマナー違反である」と回答しています。さらに、6割以上の女性が職場で男性社員のニオイを不快に感じたことがあり、「仕事をしていて不快に感じるニオイの種類」では70%以上が「汗のニオイ」、その後は「加齢臭(58%)」「腋のニオイ(40%)」「頭のニオイ(33%)」「足のニオイ(17%)」と続いています。
今、職場では、身だしなみだけでなく、ニオイのエチケットにも気を配ることが求められるようです。エチケットにとどまらず、職場でのニオイは労働者の作業効率にかかわることがあります。
嗅覚は、聴覚や視覚などの感覚よりはるかに直接的に大脳とつながっていて、ニオイ分子の情報はすぐに情緒や感情、ホルモンなどを制御する大脳辺縁系の中枢に入り、快・不快の感情に影響します。
良い香りを嗅ぐとリラックスし、悪臭を嗅ぐと気分が落ち込むのは日常よく経験することでしょう。特に悪臭は、無意識下にストレスとして蓄積し増幅します。このようなストレス下では、作業効率が落ちるだけでなく、労働者のメンタルヘルスの面でも問題となるでしょう。
個性としてのニオイ
しかし、人間は生きている限り臭うものです。水を飲めば、汗もかき、排尿もします。食物を食べればオナラにもなり便ともなります。つまり、人間もすべての動物と同じように、身体からニオイを発する存在であり、体から出るニオイがつくる体臭は「生きている証」です。
近頃話題になっている「加齢臭」などは歳を重ねれば誰にでも出る一種の加齢現象であり、歳をとって目が見えにくくなり、耳が聞こえにくくなるように、加齢臭も長い人生を生き抜いてきた証とも言えます。
実際に、人の体臭は、厳密に分析すると他人と同じではなく、自分の体臭は自分だけがもっといる「個性」でもあります。
動物では、ニオイで縄張りを主張したり、つがいの相手を見つけますが、人間でも体臭があるからこそ、「その人らしい」とも言えます。その人の体臭は、世界で一つしかないオンリーワンものなのです。そのような意味で、昨今のデオドラントブームで、体臭をすべて消そうとする「無臭志向」は、人間の個性を否定することにもなります。
また、他人の体臭の快・不快は、人間関係の密度と関係しています。愛する人の体臭を嫌だと思う人はいないでしょう。「ニオイは嫌だが、恋人の腋のニオイは好きだ」という人は多いものです。今まで何も言われなかったのに、定年退職をして家でゴロゴロするようになってから「家内から加齢臭がすると言われた」と来院する中高年の男性もいます。
奥様から「臭い」と言われるようになったら、夫婦関係が冷えていないか見直す必要もあるでしょう。
娘さんから「お父さん臭い!」と言われるのも、幼児期の娘とのスキンシップの欠如が原因のこともあります。
通常、子供は成長して自立していくと、自分の血と遠い相手を選ぶ本能があるため、体臭の近い父親を親離れの過程で避けるのは自然なことです。だが、人間は幼児期に慣れ親しんだニオイは、思春期になっても不快とは感じないものですが、幼児期に仕事が忙しく、父親不在の家庭では、子供が父親の体臭を嗅ぐ機会がないため、大人になって急に父親のニオイを嗅ぐと「お父さん臭い!」と嫌われるようです。娘から「お父さんの後のトイレは臭くて嫌!」と言われないためには、幼児期にスキンシップで自分のニオイを「刷り込む」ことが大切なのです。
現代の若い人が異常にニオイに敏感になるのも、子供のときの「ニオイ体験」が少ないことも原因です。
昔は、学校から帰るとすぐランドセルを放り投げて、野原や原っぱで木登りやかくれんぼをして自然の草木のニオイを嗅いだものです。友達同士で取っ組み合いのけんかもして、お互いの汗のニオイも嗅いだものです。
ところが今の子供は、冷房の効いた部屋でのテレビゲームなど体を動かさない一人遊びが多く、自然のニオイやお互いの汗のニオイを嗅ぐ機会が少なくなっています。生活の中から生活臭がなくなるとともに、子供たちの「ニオイ体験」がなくなってしまいました。
今すぐ「キレる」情緒の安定しない子供が多いのは、原始感覚である嗅覚を働かせるニオイ体験が少なく、感情をつかさどる大脳辺縁系の発達が不十分なのかもしれません。
ニオイがなくなるのと反比例するように、消臭剤や制汗剤が1000億市場と言われるほどに売れているのは、社会全体が個人主義になり、人間関係が希薄になったことの裏返しとも言えるでしょう。
今、行き過ぎた無臭志向を反省し、もう一度「個性としての体臭」「人間関係の中の体臭」の大切さを考えてみる必要があるでしょう。
季刊「ろうさい」 2013年春号VOL.17
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医学博士・五味常明
1949年、長野県生まれ。一ツ橋大学商学部、昭和大学医学部卒業。昭和大学形成外科等で形成外科学、および多摩病院精神科等で精神医学を専攻。患者の心のケアを基本にしながら外科的手法を組み合わせる「心療外科」を新しい医学分野として提唱。ワキガ・体臭・多汗治療の現場で実践。わきがの治療法として、患者が手術結果を確認できる「直視下剥離法(五味法)」を確立。TVや雑誌でも活躍中。 99年からは、ケアマネージャー(介護支援専門員)として、デイケア事業や、高齢者介護の現場でのニオイのケアにも取り組む。
五味クリニック院長
流通経済大学 客員教授
日本心療外科研究会代表
体臭・多汗研究所所長
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