いっそう汗の増える季節がやってきました。
ベタベタして気持ち悪いし、化粧はくずれるし…と、汗は悪者にされがちですが、実は人間にとってなくてはならないもの。汗をかくことができなければ、体温調節ができなくなり、体はたちまち悲鳴を上げてしまいます。汗と上手につきあって、夏を快適に乗り切りましょう。
「いい汗」と「悪い汗」
人間が汗をかく理由
そもそも、人間はなぜ汗をかくのでしょうか? それは大切な脳を守るため。人間が知的活動をするためには、脳が正常に働くと同時に、体を動かすためのエネルギーを作らなければなりません。それには体内にある酵素の力が必要です。人間は食べものを酵素の力で、分解したり合成したりすることで、必要なエネルギーをまかなって生きています。これがいわゆる「代謝」と呼ばれるものです。
ところが、酵素の働きで体が代謝を始めると熱が発生し、体温がどんどん上昇していきます。もしこのまま体温が上がり続けると、高温に非常に弱い脳細胞の活動は止まってしまいます。酵素による代謝でエネルギーを作りつつ、脳の働きがもっとも安定する37℃前後に体温を保つための手段として、人間は汗をかくようになったのです。
いかにして体温を調節するか
人間が体温を調節するしくみは3つあります。1つめが汗による「蒸散」。汗が蒸発するときに、皮膚から気化熱を奪って体温を下げることで、夏の打ち水と同じような原理です。また、息を吐いたときの水蒸気でも蒸散は起こります。運動中に体が熱くなって呼吸が荒くなるのも、蒸散による体温調節です。2つめが「放射」と言い、外気との温度差によって、熱が自然に外に出て行くこと。冬に寒さを感じるのは、体が熱を放射するからです。3つめが「伝道対流」で、体に直に触れているものに熱が移動すること。プールに入ると体が冷えるのはこのためです。
これら3つの体温調節機能のうち、蒸散のしめる割合はたったの2割。しかし、ほかの2つは、受身の機能なので、気温が体温より高い場合は、逆に体内に熱をとり入れてしまうことになります。暑さに非常に弱い人間にとっては、ひとたまりもない状況です。そんな急場を自分からしのぐには、汗による蒸散しかありません。
汗は何からできている?
汗の99%以上は水。そのほか、塩分(ナトリウム+塩素)、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄など、体にとって重要な栄養素でできています。さらには、尿素やアンモニアも含みますが、汗は尿のような老廃物なのかというと、それも違います。汗の成分は「血漿」に近いものです。血漿とは、血液から赤血球や白血球、血小板などを除いた液体部分のことで、体にとっては非常に大切なもの。そんな貴重なものを流してまでも、人間は体温を調節する必要があるのです。
「いい汗」の条件とは?
ただ汗をかけばいいというものではありません。もし必要な成分をすべて汗として流してしまったら、たちまち体に支障が出てしまいます。そうならないよう汗腺(汗を分泌する器官)には、いったん出た汗の中から必要な成分を血管に戻す「再吸収機能」がついています。
「ただし、この機能には個人差があります」と五味常明先生。そのため、効率よく体温を調整しつつ、必要な成分はしっかり体に再吸収させる汗をかく人と、必要な成分もろとも流してしまう汗をかく人とに分かれます。これが「いい汗」と「悪い汗」。五味先生によれば、最近いい汗をかけない人が増えているそうです。
いい汗 悪い汗
小粒 大粒
味がほとんどない しょっぱい
サラッとしている ネバネバする
すぐに乾く 蒸発しにくい
ジワジワ出る 大量にどっと出る
においが少ない いやなにおいがする
クーラーで汗腺が衰える
日本は四季がはっきりしています。昔は夏が近づくにつれ、体が自然に能動汗腺(実際に汗をかく汗腺)の数を増やし、いい汗をかいていました。ところが最近は冷暖房完備の場所が増え、夏でも汗腺が活発に働く機会が減り、機能が衰えてしまったのです。
悪い汗でミネラル分の失われた体は代謝を控えるしかないため、「だるい」「疲れやすい」といった症状も出てきます。特に、幼少時から当たり前に冷房があり、汗腺を鍛えてこなかった若い人に顕著な傾向だそうです。
「いい汗」にはメリットいっぱい
体臭の原因になりにくい
いい汗は水のようにサラサラしており、すぐに蒸発します。そのため、雑菌が繁殖せず、いやなにおいをほとんど発しません。
やせやすい体になる
いい汗をかくことは、ダイエットにつながります。といっても、「体から汗が出る=体重が減る」という単純な話ではありません。もちろん、汗をかけば一時的に体重は減りますが、それは体内の水分が減っただけ。本当にやせるためには、体脂肪をエネルギーに変えて、燃焼させなければなりません。この燃焼こそ、前項で述べた「代謝」なのです。
代謝を高めるためには、マグネシウム、カルシウム、鉄などのミネラルが欠かせません。よって、ミネラルのロスの少ない、いい汗をかくほうが、ダイエット効果が上がると考えられます。
美肌になる
いい汗は、皮膚の上で蒸発するのと同時に、ミネラル分と一緒に肌から再吸収されます。この働きにより、肌の表面が適度にしっとりします。
しかも、いい汗には、界面活性剤が豊富。これは水と油(脂)をなじませやすくする成分で、化粧品等にも含まれているものです。界面活性剤が多いと、表面張力がおさえられて、汗の粒が小さくなるため、すぐに乾いて肌になじみます。ただ、多くの化粧品では、合成の界面活性剤が使われており、さまざまな悪影響が懸念されています。汗は自然のものですから、こういった安全面の心配もなし。まさに「天然の美容液」といえるでしょう。
免疫力がアップする
そもそも汗には、体内に入った異物を追い出す機能があります(汗をかくと風邪が治りやすいのはそのため)。加えて、いい汗には病気を未然に防ぐ効果(免疫効果)もあるのです。汗をかくと、皮脂腺から皮脂が分泌されます。いい汗とともに出る皮脂は新鮮で良質な脂。汗の水分と、この良質な脂が混ざることで、表皮ブドウ球菌を代表とする善玉常在菌が肌にすみつき、ウイルスなどの異物から体を守ることができるのです。また、いい汗からは「免疫グロブリン」という、より免疫力を高める成分も分泌されます。
2週間で「いい汗」体質になる
生活習慣とトレーニング
もしも今、いい汗がかけていなかったとしても、がっかりすることはありません。汗腺は進化の過程の最後に作られた、もっとも新しい器官です。使わなければあっという間に衰えてしまう反面、ちょっと生活習慣を意識をすれば、すぐに本来の働きをとりもどすことができます。
「2週間もあれば、すぐにいい汗をかけるようになりますよ」と、五味先生。トレーニングは、汗腺の動きが活発になり始める初夏のころから始めるのが理想的ですが、盛夏の今からでも充分間に合うそうです。今日からさっそく実践してみましょう。
「いい汗」をかくための生活習慣
1、冷暖房をきかせすぎない
汗をかくべき気温のときは、きっちり汗腺を働かせましょう。
2、ストレスをためない
ストレスがたまると、汗腺に疲労物質の乳酸が増加します。すると、においの元となるアンモニアが汗の中に増えます。
3、たばこは吸わない
たばこを吸うと、体の末端の血行が悪くなります。やはり汗の中に乳酸が増えてしまいます。
4、有酸素運動をする
スポーツ選手のように常に運動をしている人は、汗腺の働きがスムーズ。実際、ふだんはそれほど汗をかかないのに、ここぞというタイミングで効果的に汗を出せる人が多いそうです。
ウォーキングやジョギングに代表される有酸素運動を行うとよいでしょう。有酸素運動とは、酸素を供給しながらエネルギーを消費する運動のこと。酸素があると、エネルギーは完全燃焼され、二酸化炭素と水(どちらも無臭)に分解されます。よって、有酸素運動でかく汗は、においの少ない、いい汗ということになるのです。
さらに積極的に汗腺を鍛えるなら
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お風呂でできる汗腺トレーニング
手足高温浴 ※高齢者・高血圧の人は避けてください。
43℃程度の熱めの湯を、湯船に20?ほどはり、ひじから先とひざから下をつけます。5分程度つけるだけでもしっかり汗をかくことができるので、時間のない人におすすめです。
手足の汗腺は、脳から遠いため、使わないとまっさきに衰えてしまいます。手足高温浴で、「寝たふり中」の汗腺を呼び覚ましましょう。
半身浴
37~38℃のぬるめの湯に、20分をめやすにつかります。「心臓に負担をかけずに、長時間つかっていられる」と、人気の半身浴ですが、メリットはそれだけではありません。全身を湯につけてしまうと、温まって汗をかいても、蒸発が妨げられ、体温調整の機能を果たせません。手足高温浴にもいえることですが、皮膚を空気にさらし、汗を蒸発させてこそ、トレーニングの意味があるのです。
より効果を出すには?
手足高温浴の後に続けて半身浴を行うと、効果はさらに上がります。
湯船(約180L)に大さじ1~2杯の塩を入れるのもおすすめ。血行がよくなり、体の深部まで熱が入るため、いい汗をかきやすくなります。また、何も入れない湯に長時間つかると汗腺がふやけ、汗の出が悪くなることがありますが、塩にはこれを軽減させる効果もあります。
入浴のついでに、においもおさえるには?
100ml程度の酢を湯船に入れます。かえってくさくなってしまいそうですが、この程度の量ならだいじょうぶ。温まって開いた汗腺から酢のクエン酸がしみこみ、においのもととなる乳酸の分泌をおさえます。また、皮膚の表面を、雑菌の繁殖が起こりにくい弱酸性に保つ効果もあります。
水分補給はどうすればいい?
まだ汗をかいていない入浴前は、それほど大量の水を飲むことはできませんが、口あたりのいい軟水(水道水などふつうの水)を喉を潤す程度に飲んでから湯船に入りましょう。入浴中、喉の渇きを感じるようになったら、ミネラル入りの硬水(コントレックスが最適)をこまめに飲んで、汗によって失われるミネラルを補います。入浴後はペリエやサンペレグリノなど、ミネラル入りの炭酸水がおすすめ。炭酸に含まれるCO2には、疲労を軽減させる効果があります。これに汗腺機能の回復に効果のあるしょうが(汁)を加えてもよいでしょう。
このように、入浴前・入浴中・入浴後と、大きく3回に分けて飲み、摂取する水分も使い分けるのがベスト。むずかしければ、ふつうの水でもかまいません。とにかく、「喉の渇きを感じるよりも前に」、「こまめに」とることを心がけましょう。
食事で汗のにおいを防ぐ
ふつうに清潔にしている限り、汗をかいてもひどい体臭が出ることは、まずありません(一部の強いわきが体質の人を除く)。しかし、夏場はやはり気になるもの。食生活を意識し、体の内側からにおいをおさえるよう心がけましょう。
汗のにおいを防ぐ食材
○腸内環境を整えるもの
・食物繊維…根菜、玄米、くだものなど
・オリゴ糖…市販の液体オリゴ糖、くだものなど
・乳酸菌…ヨーグルト、ケフィアなど
○抗酸化食材
・ビタミンC…パプリカ、かんきつ類、いちご、ゴーヤ、かぼちゃ、キウイフルーツ、じゃがいもなど
・ビタミンE…胚芽米、うなぎ、アーモンド、いか、ツナ、モロヘイヤなど
※CとEを一緒に食べると相乗効果がある
・ポリフェノール…くだもの全般、ごぼう、赤ワインなど
・イソフラボン…豆乳、納豆、とうふなどの大豆製品
・カテキン…緑茶
・セサミン…ごま
●食物繊維
食べたものが腸まで届くと、そこでにおいが発生します。そのうちの大半は、肝臓で解毒されて無臭になりますが、そこで処理しきれなかったものが、血液に流れ出す場合があるのです。これが呼気として出れば口臭になり、汗として出れば体臭になります。つまり、においを防ぐには、腸の働きをよくすればいいのです。食物繊維には、便のかさを増やすほか、体の中のいやなにおいを包んで排出する働きもあります。
●抗酸化食材
汗による体臭とはすなわち、皮脂腺から出るにおいのこと。皮脂腺の中の活性酸素が酸化すると、アンモニアなど、いやなにおいの原因となる物質が発生します。これがいわゆる「加齢臭」と呼ばれるもの。予防には抗酸化作用の強い食材の摂取が欠かせません。
中でもイソフラボンは汗の中の界面活性剤(P.37参照)を増やす働きがあります。また、皮脂腺の働きは、主に男性ホルモンによるもの。イソフラボンは女性ホルモンを補う作用があるため、皮脂腺の過剰な分泌を抑制する効果も期待できます。
いろいろな食材を挙げましたが、むずかしく考えることはありません。和食中心の食生活を意識すれば、おのずとこれらの食材をバランスよく摂取できるはず。和食はいわば"食べる消臭剤"なのです。
制汗剤の使いすぎに注意
においが気になるときは、手っとり早く市販の制汗剤に頼りたいのもわかります。でも、使いすぎは逆効果。わきなどの細菌は、においの元になる一方で、外部からの悪い菌を防ぐバリアの役割も果たしています。すべて殺してしまうと、さらに強い菌が繁殖し、もっとくさくなってしまうのです。制汗剤は自分の体臭の程度に応じて使い分けるようにしましょう。
試しに綿棒で耳の穴をぬぐってみてください。キャラメルが溶けたような耳垢がつくようなら、比較的強い体臭があります(日本人の約10人に1人が該当)。この場合は、殺菌作用の強い塩化ベンザルコニウムなどの入った、軟膏やスティック式のものを使うとよいでしょう。綿棒がただ湿るだけなら中~軽程度。銀系やフェノール系の、マイルドな成分のスプレー剤を選びましょう。粉っぽく乾いた耳垢なら、ウェットティッシュ等で汗をふきとるだけで充分です。
商品に含まれている成分は、表示を見ればたいていわかります。薬品と違って気軽に購入できますが、かわいいパッケージの商品に、実は手術時の消毒に使うような非常に強い殺菌剤が含まれているケースもあるので、注意が必要です。いずれにせよ、自然に出る汗を止めているわけですから、体に少なからず負担がかかります。時々、わきなどの部分づかい専用の制汗剤を全身に使う人がいますが、絶対にやめましょう。強い殺菌剤入りの制汗剤を連日使用するのも避けます。
夏の汗と上手につき合う
野外と室内の温度差による汗
野外などの暑い場所から、急に冷房のきいた室内に入ったときや、逆に涼しい場所から急に炎天下に出たときに、急にどっと汗が出て困ったという経験はありませんか?
人間の体には、皮膚と脳の2か所に汗腺の働きを調整するセンサーが備わっています。暑い場所では、どちらも汗を出して、体温を下げるよう指令を出します。ところが、急に涼しい場所に入ると、気温の変化を瞬時にキャッチできる皮膚は、汗を止めようとするのに対し、脳にはまだその情報が届きません。そこで、皮膚の分まで、たくさん汗を出そうとしてしまうのです。
さらに、この状態のまま再度外出すると、皮膚のセンサーと、先ほどから過剰に働きっぱなしの脳センサーが同時に指令を出し、やはり過剰に汗をかくことになります。こんなことをくり返せば、汗腺の機能が狂ってしまうのは当然です。
汗を効果的に止めるには?
まずは外気と室内の温度差を5℃前後におさえて、汗腺の負担を減らすこと。さらに、脳の近くにある口から冷たいものを飲むことで「もう汗を出さなくてもOK」という情報を、早く脳に伝えましょう。ただし、ガブガブ飲んではだめ。口には温度を感じるセンサーがたくさんありますが、胃にはありません。口にしばらく含んで、冷たさを充分に感じてから飲みこむようにすると、胃腸への負担もやわらぎ、効果的に体温を下げられます。
首のつけ根や、わきの下、手首の内側など、動脈が走っている箇所に、保冷剤や冷たいペットボトルを押しつけるのもよいでしょう。血液の温度を下げることで、汗がすんなりおさまります。
睡眠中の汗
なかなか寝つけない熱帯夜。冷やしすぎはよくありませんが、汗腺の機能が衰えている人が急に冷房の使用をやめると、たとえ夜中でも熱中症になる危険性があります。また、暑さのあまり不眠になるのも困りもの。寝入りばなの1~2時間だけで止まるようタイマーをセットするなど、少しずつ冷房の使用を減らす努力をしてみましょう。くれぐれも無理は禁物です。
入浴後の過ごし方も大切。お風呂でほてった体に急に冷房の冷たい風を当てたりしてはいませんか? 確かに汗は引きますが、脳は「まだ暑い」と判断したまま。その反動で睡眠中に大量に汗をかくことになります。熟睡できませんし、明け方に体が冷えて、夏バテや夏風邪の原因になります。
お風呂あがりは、すぐ服を着ずに、ゆっくり汗を出しましょう。その汗で体温を自然に下げるのです。このとき涼しさに敏感な額のあたりをうちわであおぐと、暑さがやわらぎます。
月刊ベターホーム2009年8月号より