閉塞性動脈硬化症 ~足の指1本から2週間で5本指全てに

プロフィール
80代 男性
長期の糖尿病歴がある高齢男性、腎臓と心臓に病気を抱えていた。
生活は自立しており、家の中での生活に関しては特に介護を必要としないが、
最近になり軽度の認知症が出始めていた。
症例紹介

ある日、家族が靴下をはかせようとしたときに足の中指の先に小さな傷があることに気が付いたが、痛みがあまりないことから様子を見ていた。2週間後にもう一度足を見ると、5本すべての指先に傷があり、膿んでいるように見えた。一部は黒くなってきていた。

近所の皮膚科を受診し軟膏を処方されたが改善は見られず大きな病院へ行くように言われた。

来院時は右下肢の5本の指すべてに足趾潰瘍を認めていた(写真1)。ABI検査(足関節上腕血圧比)、SPP検査(皮膚潅流圧)などで重症の閉塞性動脈硬化症と診断された。下肢動脈超音波検査を施行し右下肢は太ももの動脈(大腿動脈)から閉塞しており、膝から下には血流がほとんど流れていないことが分かった。動脈硬化による血流の障害によって傷が治らない病気であるということがわかった。

傷はゆっくりと悪化する傾向にあり、軟膏などの処置だけでは治癒の可能性は低いと考えられた。しかし、指を切断しても、切断した傷のところから壊死が始まってくる可能性が高い。なぜならば血流がそこまで届いていないからである。そのため傷を治癒させるためには血流を再開させる必要があった。

下肢の血流を良くする方法には二つの方法がある。バイパス術とカテーテル治療である。一般的にはバイパス術が行われることが多いが、全身麻酔での手術となるため、高齢の方や、心臓や腎臓に障害のある方では体への負担が大きい。そのため最近では体への負担が小さいカテーテル治療が選択されることも増えてきている。

この方も担当の医師と相談しカテーテル治療を受けることに決めた。

画像所見1

来院時の足の写真。
5本の指すべてに潰瘍病変がある。
痛みはほとんどなかったため受診まで時間がかかり悪化した。
Ⅲ趾、Ⅳ趾はすでに黒色化が見られる。

動脈硬化が原因の傷として典型的である。
毛がない、てかてかしているなどの兆候も典型的である。
一般的には爪の変形、肥厚を伴うことも多い。

画像所見2

カテーテルを用いた血管造影。
浅大腿動脈の中間部で完全に閉塞している。

画像所見3

膝窩動脈、膝下動脈の造影。
側副血行路(自前のバイパスのようなもの)によって膝の部分にはかろうじて血流はみられているが、膝から下は動脈がすべて閉塞しており、ほとんど血流は見られない。

画像所見4

カテーテル治療後の大腿動脈。
3回に分けてカテーテル治療を行った。カテーテル治療とは詰まっている血管の中にワイヤー(細い針金のようなもの)を通し、風船で詰まった部分を押し広げる治療の事である。時にはステント呼ばれる機械で内側から血管を支持することもある。循環器内科では心臓カテーテル治療を以前から行っており、心臓の閉塞した血管を広げる技術を持っている。その技術を下肢の血管医に応用した。完全に閉塞していた大腿動脈は風船治療により膝まで再開通している。

画像所見5

カテーテル治療後 膝下の動脈。
本来、膝から下の部分には主に3本の血管が存在するのが一般的である。
今回はそのうち前脛骨動脈と後脛骨動脈の2本の血管を拡張することに成功した。足の指にも血流が再開しているのが確認された。

画像所見6

治癒後の足の写真。
カテーテル治療後も下肢の洗浄や軟膏の処置を継続した。
入院期間は2か月、完全に治癒するまで約4か月を要したが、幸い足指の傷は治癒した。現在も家族に支えられながら歩いて外来に通院されている。

解 説
知 る
このような状態になったとき、知っておきたいこと

◆患者さん、一般の方へ

糖尿病を含めタバコや高血圧、高脂血症など動脈硬化のリスクを抱えている場合や脳梗塞や心筋梗塞などすでに動脈硬化の病気をお持ちの方では、足にも動脈硬化が生じている場合が多いです。多くは特に症状もなく経過しますが、ある日このように重症化して気が付くこともあります。糖尿病の方は痛みの訴えが乏しいため発見が遅れる、もしくは発見していても受診しない例も多くみられます。
しかし、重症下肢虚血は正しい治療がなされなければ切断に至る可能性の高い病気でありますので、予防、早期発見、早期治療が大切です。

◆医療従事者の方へ

重症下肢虚血に対するカテーテル治療はバイパス術に比べると、得られる血流量が少なく、また再狭窄率が高いです。低侵襲とはいえ繰り返し行うのにも限界がありますので、傷が大きくなってしまうと治癒が難しくなります。逆に小さな傷であれば、カテーテル治療で一時的にでも血流を良くすることによって治癒が得られる可能性があります。早期介入が切断を回避するうえで重要であると考えます。

調べる
どんな検査、チェックをすべきか

◆患者さん、一般の方へ

閉塞性動脈硬化症の初期症状としては冷感やしびれ、歩いた時に足が痛い症状(間歇性跛行)があります。しかし、無症候なまま経過している例が非常に多く、潰瘍、壊疽になって初めて気づくということも多いです。手と足の血圧を同時に計測するABIという検査は簡単に閉塞性動脈硬化症を見つけることができますので、動脈硬化のリスクのある方は症状がなくても一度検査しておくことをお勧めします。

◆医療従事者の方へ

ABIは閉塞性動脈硬化症の診断というだけでなく、全身性動脈硬化性疾患のスクリーニング、さらには予後の予測にも有用な検査です。また虚血による潰瘍なのかそうではないのかの鑑別にはSPPが有用です。

行動する
患者さん、あるいは、医療従事者は何をしたらよいか

◆患者さん、一般の方へ

足に傷ができたらすぐに医療機関を受診してください。特に糖尿病の方は要注意です。日々のフットケアと早期発見が重要です。

◆医療従事者の方へ

下腿の潰瘍で閉塞性動脈硬化症が疑われる場合には適切な医療機関へ紹介をお願いします。下肢のカテーテルは徐々に拡がってきてはいますが、まだまだどこでもできる治療とは言い難いのが現状であると思います。またたとえカテーテルができたとしても、その後の創傷の管理がおろそかでは治癒を望めません。院内、院外を含め血行再建を行う診療科と創傷治療を行う診療科、その他さまざまな診療科の協力体制ができている病院でないと対応が難しい場合があります。

(症例提供:症例提供:東京労災病院循環器科 宇都宮 誠)

(2014年06月)