1.機械的刺激と軟骨代謝

関節軟骨は日常的に様々な程度と周期の機械的刺激を受けており、この刺激が軟骨代謝に重要な役割を演じていると考えられている。適度な機械的刺激は関節軟骨の構造や機能に対し保護的な役割を果たすのに対して、過度な機械的ストレスは軟骨破壊を引き起こし変形性関節症の引き金となるとされている。しかしながらその成因についてはまだ明らかではなく、根本的な治療法についても確立されていない。

  1. 伸張刺激と圧迫刺激
    軟骨組織は様々な程度と周期の機械的刺激を受けているが伸張刺激と圧迫刺激大きく分けられる。前者に対しては軟骨基質の中でコラーゲンIIまた後者の刺激に対してはアグリカンが深く関与し構造の維持に役割を果たしていると考えられている。しかしながらその詳細についてはまだ充分に解明されていない。本研究では刺激の種類により軟骨代謝にどのような影響をおよぼすのか、また刺激による変性軟骨の治療効果が期待できるのかを明らかにする。
  2. サイトカインとくにIL-4の軟骨保護効果について
    生体の種々の細胞に置いては様々のサイトカインが産生され、それぞれの器官、組織或いは細胞レベルでの維持増殖に重要な役割を担っている。近年IL-1β、TNF-α、TGF-βなどが軟骨細胞代謝に関与するとされている。最近IL-4の軟骨保護効果に関する論文が公表され、われわれもIL-4がコラーゲン関節炎において軟骨保護的な作用があることを示してきた。本件研究では、in vitroで培養軟骨細胞に過度に機械的伸張刺激を与えることにより、軟骨細胞の変性モデルを設定し、このモデルを使ってIL-4の軟膏細胞に対する保護効果を観察しすでに報告した。
  3. 非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)
    変形性関節症モデルとしてin vitroで過度な機械的刺激を培養軟骨細胞に負荷した条件で、またin vivoでは変形性関節症誘発モデルマウスを用いてNSAIDs投与による軟骨細胞の基質代謝の変化を観察し、変形性関節症の成因を追求するとともにNSAIDsの軟骨細胞に対する作用機序を解明する。特にCOXⅡ選択的阻害剤はその薬理作用において選択的にPGE阻害薬する結果、胃粘膜や腎の代謝に関与するPGFの生合成に影響を与えにくいことや軟骨代謝に直接関与する可能性があることで注目されている。このような研究によっては変形性関節症の発症機序の解明やその治療方法の確立の一助となることが見込まれる。
  4. HA
    近年、高齢化社会を迎える共に運動器不安定症が社会的にも問題となっている。変形性関節症の根治療法は確立されておらず、グルコサミンが社会的に注目されているがその効果については確立されていない。本研究ではこの実験モデルにグルコサミン、ヒアルロン酸などの軟骨基質あるいは関節液の主成分が軟骨代謝にどのような影響を及ぼすのかこの実験系を使って確認する。

2.軟骨変性と遺伝子治療

整形外科領域においても、遺伝子治療が応用されつつあり、慢性関節リウマチに対しての臨床治験が既に試みられている。しかしながら、有用な治療法としては確立されていない。特に、アデノウィルスベクターは自己増殖能力を欠いているにもかかわらず、免疫原性、炎症誘発性などの点で供用できにくいことが問題となっている。この状況で軟骨再生に対する遺伝子治療の有用性を検討し、有効な治療法を確立することは非常に意義深い。さらに高齢化社会となり、変形性関節症、慢性関節リウマチ、結晶誘発性関節炎、特発性関節内出血等、軟骨の変性、破壊に直接関係する疾患が増加しつつある今日においては社会的にも重要な意味がある関節軟骨は外傷、機械的磨耗、経年的変化等で一旦損傷されると修復は困難であり、変形性関節症を招来することもしばしばである。近年、損傷された軟骨に対して軟骨移植が行われているが、供給は十分ではなく必ずしも有効な治療方法としては確立されてはいない生体の種々の細胞に置いては様々のサイトカインが産生され、それぞれの器官、組織或いは細胞レベルでの維持増殖に重要な役割を担っている。近年IL-1β、TNF-α、TGF-βなどが軟骨細胞代謝に関与するとされている。最近IL-4の軟骨保護効果に関する論文が公表され、著者らもIL-4がコラーゲン関節炎において軟骨保護的な作用があることを示してきた。

本件研究では、in vitroで培養軟骨細胞に過度に機械的伸張刺激を与えることにより、軟骨細胞の変性モデルを設定した。このモデルを使ってIL-4の軟膏細胞に対する保護効果を観察したのでその一部を紹介する。

  1. ウィルス及び非ウィルスベクターを介して生体内で軟骨基質合成に関係があるFGF-2或いは軟骨保護作用があるIL-4を過剰発現させ、変性軟骨の再生効果を観察し、変形性関節症に対する遺伝子治療の有用性について検討する。
  2. 本研究は静脈内または関節局所ヘのウィルス或いは非ウィルスベクター投与により、効率良く関節組織への高濃度のサイトカインを長期間に渡って発現を試みるものである。関節軟骨の代謝に関与するサイトカインとしてTGF-b、FGF-2が知られている。FGF-2は間質系細胞の分化、増殖を誘導するサイトカインの一つとして知られており、軟骨基質の生合成を促進するという報告もある。一方、IL4はTh2タイプのT細胞を誘導するサイトカインであり、抗炎症作用がある。更に、最近、IL-4は関節軟骨の保護作用もあると報告されており、われわれもアデノ関連ウィルスを介してマウスコラーゲン関節炎モデルに対して、mIL-4遺伝子を導入した結果、関節軟骨の破壊を免れる所見を認めた。一方、in vitroで培養関節軟骨に対する過剰な機械的刺激に対して軟骨基質は合成が低下することが知られているが、IL-4の投与により軟骨基質合成能は維持されることを報告した。遺伝子導入によって、これらのサイトカインを単独、或いは併用して関節内で長期にわたり過剰発現させることにより、ベクターが持つ免疫原性、炎症誘発性を減少させ、かつ、関節軟骨の変性を防ぐことが予想される。或いは、発症した変形性関節症の程度を軽減させる可能性がある。このような治療方法が確立すれば、骨軟骨欠損や変形性関節症に対して臨床的にも応用でき、魅力的、且つ有望なプロジェクトであると期待される。
  3. 遺伝子治療は1990年にADA(Adenosine diaminase) 欠損症の患者に対してはじめて臨床応用されて(Blaese et al) 以来、様々の疾患に応用され治験例も年々増加している。

本研究グループの研究業績

  1. Gene transfer of a fibronectin peptide inhibits leukocyte recruitment and suppresses inflammation in mouse collagen-induced arthritis. Imagawa T, Watanabe S, Katakura S, Boivin GP, Hirsch R. Arthritis Rheum. 2002 Apr;46(4):1102-8.
  2. IgG and IgA antibody titers against human heat shock protein (hsp60) in sera of rheumatoid arthritis and osteoarthritis patients. Shohei Watanabe, Nobuo Takubo, Itaru Hirai, Yasuo Hitsumoto Modern Rheumatology 2003 13(1):22-26.
  3. Interleukin-4 protects matrix synthesis in chondrocytes under excessive mechanical stress in vitro. Akira Shimizu, Shohei Watanabe, Seiji Iimoto and Haruyasu Yamamoto Modern Rheumatology 14, (4) 296 - 300 September 2004.
  4. Recombinant adeno-associated virus preferentially transduces human, compared to mouse, synovium: implications for arthritis therapy. Shigeki Katakura, Kristi Jennings, Shohei Watanabe, et al. Modern Rheumatology 14, (1) 18 - 24 March 2004.
  5. The influence of Celecoxib on matrix synthesis by chondrocytes under mechanical stress in vitro Seiji Iimoto, Shohei Watanabe, Toshiaki Takahashi, Akira Shimizu, Haruyasu Yamamoto. Int J Mol Med. Dec;16(6):1083-8 2005.