ニキビに対するホルモン治療
作者: ミルディス皮フ科院長:村上義之
〈ニキビに対するホルモン治療〉
『経口避妊薬(低容量ピル)』と『スピロノラクトン』
ニキビ(尋常性ざ瘡)の女性に対して下記のような症状の場合には、ホルモン療法が追加で行われることも少なくないようです。多くは経口避妊薬(低容量ピル)が用いられ、中には高血圧治療にも用いられる抗アルドステロン薬であるスピロノラクトンの有効例も知られています。いずれも皮脂分泌抑制作用を介しての効果だと考えられています。
<女性の尋常性ざ瘡に対するホルモン治療の適応例とは?>
●弱いか、あるいは中程度の多毛症を伴う
●他の治療法で適切な治療効果が得られない
●成人期に「始まった」か「悪化した」
●顔面に皮脂の過剰を伴う
●あごひげの領域に、限局した炎症性丘疹を持つ
経口避妊薬(低容量ピル)について
低容量ピルと称される経口避妊薬(oralcontraceptives:OC)は、低用量の合成エストロゲン(卵胞ホルモン)と合成プロゲステロン(黄体ホルモン)の併用型ピルです(エストロゲン50μg以下、プロゲステロン1.5mg以下を含有)。合成プロゲステロンには世代があり、第二世代では第一世代に比べて強力になり、第三世代と言われる「マーベロン21」に含まれているもの(デソゲストレル:DSG)では男性ホルモン活性が非常に低くなったとされています。
低用量ピルを投与した場合、視床下部―下垂体-卵巣分泌系に作用して卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体刺激ホルモン(LH)の分泌を減少させ、副腎、卵巣、末梢組織由来のテストステロンを減少させます。さらには血清中のテストステロンレベルを下げて皮脂分泌を抑制し、結果としてニキビが抑えられます。
その他の説明としては、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)という物質への作用を考慮したものもあります。皮脂分泌を増加させるテストステロンという男性ホルモン(アンドロゲン)は、SHBGと結合すると男性ホルモン作用を発揮しません。エストロゲンにはこのSHBGを増加させ、逆にプロゲステロンを減少させる働きがあります。そのためプロゲステロン分泌の多い生理前はエストロゲン、プロゲステロンの比率により男性ホルモンの作用が強くなってニキビがひどくなり、逆に生理の後はお肌の状態がいいという説明になるわけです。
しかし、ピルに含まれているエストロゲンの作用で、ニキビ、特に生理前に悪くなるアダルトニキビはおさまることが多いのですが、人によってはピルに含まれる合成プロゲステロン(プロゲストーゲン)の作用で逆にひどくなることもあります。その点、マーベロン21に入っているプロゲステロン(デソゲストレル)は男性ホルモン活性が低いため、そうした悪化が少ないことが期待されます。
その他の副作用として浮腫、血栓症、食欲増加、体重増、うつ状態、乳房緊満などを呈することがあります。
実際の使用法としては月経が終了してから21日間連続服用し、これを1クール(周期)とします。1週間の休薬期間をおいて、次クールを再開させます。通常、脂性肌は1クール、ニキビは3クールほどで改善が見られることが多いようです。
マーベロン21という低用量ピルに強い抗ニキビ効果が期待されること、また本来、低用量ピルは避妊を目的として作られているため産婦人科医の手によって処方されるべきものですが、当院のあるメディカルフロアに婦人科がないこと、また2006年の低容量ピルの使用に関するガイドラインで子宮頸部細胞診やクラミジアなどの検査が必須でなくなり、問診と血圧・体重測定などに簡略化されたことなどから、当院でも本治療薬を導入しております。
ニキビ治療の目的に限り、当院で処方を行います(ニキビ治療目的以外での処方、マーベロン21以外の処方はいたしません)。
◆スピロノラクトンについて
アルドステロン受容体の拮抗薬であるスピロノラクトンは腎臓にてNa・水排泄を促進することから、利尿系降圧剤として高血圧の患者様を中心に幅広く使われています。またアンドロゲン受容体を競合阻害することによる抗アンドロゲン作用を持っていることが知られており、ニキビに対しても1日あたり50~300mgの投与で改善が見られたとの報告があります。わが国では、東京大学形成外科の吉村教授等がニキビや皮脂分泌過剰に対する有用性を報告しています。
実際の治療としては、通常初回200mg(50mg錠を朝2錠、夜2錠)/日で開始します。この量で内服しても、利尿効果が強く起こることは通常は見られません。スピロノラクトンの内服を開始しても、現存するコメド(面疱)や炎症性丘疹への治療効果はないため、カミカルピーリングや面疱圧出、各種レーザー照射などを併用することが推奨されています。投与開始後は必ず2週間毎に来院していただき、副作用や不正出血の有無を観察する必要があります。
通常は2週間で皮脂分泌が大幅に減少し、4週間以降は新しいニキビが減少してきます。4週間くらい新しいニキビが見られない状態になれば、1日の投与量を200→150→100→50mgと1カ月毎に減量してゆきます。治療に対する反応がよい症例では、ニキビ症状の再燃を認める例は少ないのですが、6カ月以上経過してから再燃が見られることもあるとされています。
副作用として、男性では女性化乳房、女性では生理不順などが報告されています。生理不順のない方でも、スピロノラクトンの内服によって不正性器出血や月経周期の異常が見られることがあります。対処法としては、低容量ピルを使用して月経をコントロールしてしまう、などが紹介されています。血液検査では6カ月間以上治療を行った37名において、血清AST、ALT、BUN、Cr、Na、K、Cl、総テストステロン、遊離テストステロン、DHEA-S、SHBG、LH、FSH、抗核抗体、IgE、等は有意な変化を認めなかったと掲載されています。基本的には、基礎疾患などがなければスピロノラクトンによって電解質異常などを含めた大きな副作用は引き起こしません。
◎参照:日本産科婦人科学会編「低用量経口避妊薬の使用に関するガイドライン」
(http://www.jsog.or.jp/kaiin/pdf/guideline01feb2006.pdf)、
佐藤克二郎・吉村浩太郎「ニキビに対する抗アンドロゲン療法」
(http://www.cosmetic-medicine.jp/list/nikibi-hormone.htm)、
全国保険医団体連合会「皮膚疾患治療ガイドライン(原著:オーストラリア治療ガイドライン委員会)」