ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 The dog went woof woof.2016年6月15日 09:47 ◇ 僕と彼はいつも喧嘩をする。 それはデートの途中でも朝のブレイクタイムでも、たとえセックスの間でも…時間や場所なんてものは関係ない。近くに人がいたって、例えレストランであっても僕たちは喧嘩をする。 内容なんてものは日常の些細なことばかりで、ほかの恋人達が聴いたらきっと笑ってしまうだろう。せっかくのふたりの時間を台無しにして、先に怒ってしまうのはいつも僕の方。どうしてか心配性な僕は彼の前だと不思議なくらい不安になってしまって、ついつい余計なことまで言ってしまうのだ。彼は優しいからね。だからかな、きっとこれは嘘かもしれない、夢かもしれない、そう思ってしまうんだ。困った悪癖だよ。こればかりは気をつけても治らないからどうしようもない。本当に困ってしまうね。 それでも僕にとってその悪癖は結構重要な問題でさ、意を決して名探偵工藤新一に相談したこともあったけれど「それが降谷さんが困っていること?」とさんざん笑われた挙句の果てに「そんなものただのノロケだぜ、降谷さん」と返されてしまった。結構真面目な相談だったんだけどね。そんな彼は近々愛しの彼女と京都旅行へ行くらしい。本当に仲の宜しい事だ。勿論お土産には京ばあむを頼んでおいた。 それはさておき、立ちの悪い悪癖は1ヶ月ぶりなんて時間では治ってはくれなくて。久しぶりにあった恋人との喧嘩は、他人からしてみたらひどいくらいにしょうもなくて、馬鹿みたいにどうでもいい内容だった。きっと他の人だったら呆れていなくなってしまうそうな内容でね。それでも彼はそんな僕の嫌な癖を、吐き気がでるくらいに甘く優しく、そして真っ直ぐ受け入れてしまうんだ。そして僕に目一杯の愛情を伝えてくれる。だからかな、僕はそんな喧嘩の時間もとても幸せだと思ってしまうんだ。喧嘩の後に食べる京ばあむよりも甘い馬鹿みたいなその時間がね。 ◇ 愛しい恋人会うのは1ヶ月ぶりだった。 忘れもしないあの組織を壊滅させてはや数年。長いようでその短い時間、僕たちは恋人同士となった。公安とFBI、ライとバーボン。男と男。恋人というひとつの括りにおさまるまではそりゃいろいろな困難があった。けれども僕達はそれすらも乗り越えてしまった。運命という言葉を信じたくなないが、きっと僕達が恋人となったのは運命だったのだろう。神様は随分と粋なことをする。 今もなおFBIとして活動する彼が日本を去るのはそうそう珍しくはない。僕だって公安として働く中で長期の任務に出ることは少なくはない。1ヶ月ぶりなんて時間の壁は僕達ふたりにとってそうそう高いものではなかった。それでも流石に半年間会えなかった時は空港で彼を見た瞬間もしかしたら今までの事が嘘かもしれないってそう思ってしまって、思わず熱いハグをしてしまった。なんというか、こんな歳で恥ずかしい。結果、抱きしめた赤井は紛いもない本物だったけど。 そんな今日は僕達にとっての記念日だった。だからいつもの食事も少しだけ豪華なものを用意してみた。 オリーブオイルでパンとベーコンを和えカリカリになるまでトースターで焼き、それをシャキシャキの水菜と混ぜ粉チーズをトッピングした彩豊かないつもより手の込んだサラダ。メインディッシュのハンバーグは両面をカリッと焼き上げた後白ワインで蒸して、程よい頃合にきらきらと輝く特製ソースをかける。デザートとして冷蔵庫に冷やしてあるのはリンゴのコンポート。アロエシロップとリンゴを一緒に煮込み隠し味にシナモンステックをほんの少し加えたものだ。正面で座る彼はいつもより手の込んだ晩餐に気がついているだろうか?「うまいな」「それはよかったです」 基本的に寡黙な彼は食事の時であってもあまり喋ることはない。それに加えてお互い仕事の内容は軽々しく他人には口外できないものと知っているから、空いてしまった空白の時間も追求することはない。 それでも久しぶりに会う彼はいつもと変わらなくて、豪華な晩餐はいつも通りの静かな無言のまま進んでいく。それでもぱくぱくと愚痴もこぼさず食事を口に運ぶ姿は見ているだけでとても愛おしく感じて心地よかった。「なんというか、赤井って犬に似ていますよね」 テーブルの上の殆どのお皿が空になり、そろそろ冷やしてあるデザートの出番が訪れた頃だろうか。心地よい無言を最初に断ち切ったのは僕の方だった。そんな突然の僕の言葉に対して赤井は驚いたようにきょとんとし、ワンテンポ遅れてそう答える。「唐突に君は何を言い出すんだ」「ずっと思っていたんですよ」「俺は君にとってはペットなのか」 何かを小さく呟いた赤井を無視してと席を立ち上がる。そして、デザートを取りに行くついでにとテーブルの上の空いたお皿を数枚手に取った。あの耳が長くて毛の短い犬…シェパードではなくて…もう少しなのに思い出せない。「なんでしたっけ、ほらドーベルマン!」「どーべるまん…?」 ぽかんと、クエスチョンマークを浮かべ赤井は不思議そうな顔をする。ほら、やっぱり似ている。そんなきょとんとした無防備な赤井を見ているのがついつい嬉しくて、シンクに洗い物のお皿を置いた後両手を耳に例えながら笑顔で答えた。「試しに鳴いてみてくださいよ、わんわんわんって」「ほぅ、君の鳴き声は随分と個性的だな」 ほぅっと低い声は挑発的で、にやりと目を細め余裕の含んだ彼の笑み。シンクの隅で重なっていたお皿がカチャリと小さく音を立てる。「はぁ犬って言ったらわんわんわんじゃないですか」「いや、違う。woof だ」 くだらないふたりの駆け引きの中、子供っぽさの残る黒い大型犬はむっとしながらわふっと低い声で吠えた。「なんなんですかそれは!これだからFBIは…」「そういう君はネコみたいだ、とっておきに我が儘な」「はぁ、僕が猫に似ているって?冗談じゃありません」 テーブルの上にどんっとリンゴのコンポートを置き、赤井に視線を向けながら眉間にしわを寄せてむすっとする。 差し出した黄金色のリンゴのコンポートにはキラキラと輝くダイヤモンド。一緒にトッピングした透明なアロエきらきらと輝きよりお皿を華やかにする。赤井はひんやりと冷えたリンゴのコンポートを舌づつみすると、ただ一言うまいとつぶやく。そしてカチャリと持っていたフォークをお皿の上に戻すと先程の僕を真似してか、両手を頭ほどの高さにあげいたずらっぽく挑発をした。「ものの試しさ、みゃおと鳴いてみてはくれないか?」「いいません、それに猫はにゃんにゃんに決まっているじゃないですか」 にゃんにゃんと猫の真似をする赤井を一瞥し、こちらも持ってきたリンゴのコンポートを口入れる。ひんやりとしたそれはリンゴの甘さだけではなくアロエのさっぱりとした味も感じられ我ながらいい出来だ。「そうなのか、アメリカではみゃおと鳴くのだが…」「知りませんって、大体そうやっていつもアメリカ、アメリカって、あなた本当に日本生まれなんですか?」「いや日本生まれだが、国籍はアメリカだな」「その癖、蕎麦をすすることもできないくせに!」「それとこれとは関係がないだろう。しかもそれをみて可愛いと言っていたのは君じゃないか」 何時しか一緒に行った老舗の日本蕎麦の店で流暢に箸を使うくせに蕎麦をすすることができなかった赤井に対して確かに可愛いと僕言った。大柄な男がちまちまと日本蕎麦すする光景は大層滑稽なもので可愛らしかったのだからしょうがない。これは多分一生忘れることはないだろう。そのくらいの衝撃であった。しかしながらいまはそんなこと関係ない。 僕の問に対して飄々と彼は答え、彼の問に対して僕は嫌みったらしくぶっきらぼうに答える。まさに売り言葉に買い言葉。実入りのない話が永遠と堂々巡りする。「そうやって僕のせいにする…納豆だって本当は苦手なくせに…!!!」「降谷くん、知っていたのか…?理解し難い、日本人の納豆に対する絶対的信頼感はなんなんだ」 鳩が豆鉄砲を食らったかのように目を丸くして答える赤井。なんだその目は。僕がお前の好き嫌いを把握していない訳がないだろう。「納豆を舐めないでください、しかも豆腐は食べるじゃないですか、大豆製品をなめるな」「豆腐は納豆とは喉越しが違うだろう」「とろろは食べれないじゃないですか」「それは芋だろう。とろろは食べれないが寿司は食べられるさ。君の作る食事には適わないが日本食はどれもうまい」「あぁ、もう、いつもそうやって!優しくなんてしないでください。ひさしぶりにあったのに興が冷めました。どうせ、あなたのことです。アメリカでは健康に悪いファストフードを食べながら綺麗か女の人でも捕まえて浮気でもしていたんでしょ」 あぁいつもの悪癖がはじまってしまった。 本当はそんなこと言うつもりなんてなかったのに、黒い感情に苛まれ、赤井なんてぶくぶく太ってそのまま生活習慣病で野垂れ死んでしまえ!だなんてよくわからない捨て台詞をはきながら急ぎ足でリビングを立ち去ろうとしてしまう。 せっかくの晩餐なのにどうしてこうなる。どうしてこう台無しになる、あぁ僕だって僕だ、なんで赤井のことになるとこうも感情的になってしまうんだ。 ふつふつと湧き上がっていた先程のまでの怒りはとうに消え去ってしまって、悶々とした心の中で不安だけが見えない鎖に囚われてしまったように残る。あぁどうして。 そんな真っ黒な感情に染まり尽くされそうな時、ふいに背後から暖かい何かにぎゅっと抱きしめられる。真っ黒な感情は途端に甘いバニラへと変身する。背中じゅうに広がる温かな体温。ふんわりと鼻につくのはショートホープの甘い体臭と先程食べたコンポートのシナモンの香り。「…赤井」 首元に感じる触れるだけの優しい口づけ。ゆっくりとそして甘えるようにその顔は首元へ埋められた。 間近で感じる赤井の吐息。 そしてひんやりとした無機質な冷たさ。「そのネックレスつけていてくれたんですね」「あぁきみとお揃いのものだからな」 今までよりもずっとずっと近くで感じる赤井の声 それは皮膚や骨なんてものは関係なしに直接頭の中へ深く深く響き渡る。「そんなものつけなくてもよかったのに」 付き合ってすぐの頃二人で行ったアメリカで購入したお揃いのネックレス。ふたりとも仕事柄お互いの名前の掘った指輪やアクセサリーを持つことは許されなかった。それでも形が欲しくて。偶然入ったアクセサリーショップで見つけたライとバーボンがモチーフのベアネックレスはさながら運命のようだった。「このネックレスは世界でひとつしかない代物だぜ」だなんて店主の調子の良い売り文句に対して、そんな偶然で嘘みたいな話はないだろうと半分冗談まじりで、それでも本気でそのペアネックレスを買ってしまったのだ。 ひんやりとした僅かな冷たさを持ち、ふたりの首すじに小さく輝くそのネックレスはまるでお互いを縛る鎖のようで、首輪のようだった。 抱きしれられていた身体がより一段とぎゅうっと強く包み込まれる。そして耳元で淡々と、それでもしっかりとした声音で呟かれる一語一句。「たとえ君がどんなに不安がっていても、結局は俺は君に従順な犬だ」「な、なにいっているんですか。だいたい僕はそんな大型犬飼った覚えはない」 夢の終わりを告げる悪魔のような甘い誘惑を投げ捨てるかのように…抱きしめるその手を振り払おうとすると拘束する力はより強くなる。そして熱い吐息が耳に吹きかかる。瞬間、全身の感覚細胞が耳に集中してしまったかのようにその熱に僕は侵される。一歩一歩近づいてくる誘惑はまるで媚薬のように「ずっと会いたかった」 ---欲しかった言葉が鼓膜を通して全身へと広がっていく。「君はずっとさみしがっていたのか」「…うるさい」 耳元でそのテノールが振動する度にばくばくと激しく反応する胸の鼓動。胸を締めつけるような何か。全てを見透かされてるような視線。 たぶんきっとこのおさまることのない心臓の鼓動は脊髄を超えて、赤井にまで伝わっている。「君は寂しがり屋で呆れてしまうほどの心配症」「だまれ」 ゆっくりと紡がれる優しい優しいあまい媚薬はより強く深く響き渡り、全身を責め立てる。「君は随分と俺のことを信頼していないようだ」 やめろ、優しくするな。そんなことをしたら夢物語から目が覚めてしまう。すべて嘘になってしまう。 だまれ、だまれ、だまれ。止まれ。「零くん、犬の忠誠心を舐めてもらっては困るな」 痺れるような衝撃がリップ音と共に全身へ広がった。刹那耳たぶの後ろから熱い感触がつぅーっと伝わり、すぐそこでぴちゃり粘着質な音を上げる。「ん…ぁ…」 性感帯に直接感じるその感覚に自制することの出来なくなった声がだらしなく部屋中に漏れる。ぴちゃぴちゃと耳に伝わる唾液の音。縦横無尽にただただ耳を犯すだけのその舌は、わざとらしくリップ音をたて唾液の混じった粘着質な音を立てた。「君のことを愛している、だから」 耳の後ろを犯していた舌は耳たぶへと移り、くぼんだ軟骨のひとつひとつを確認していくかのように執拗になぞっていく。優しく言い聞かせるように紡がれていく言葉の安心とか安堵とか恥ずかしさとか敗北感とか。言葉と一緒に唾液で濡れた耳に伝わる吐息の風は悪戯のようにくすぐったく広がっていく。「主人に欲情してしまうこの駄犬を躾けてはくれないか?」「んいっや…め…」 甘さの含んだ吐息とともに紡がれた懇願。 耳たぶの端で感じた小さな痛み。逃げ場の失った両手はこの快楽からにのまれるまいと胸の前で交差された赤井の腕に必死にしがみつく。ふるふると震える水分を含んだ瞳は今すぐにでも溢れてしまいそうで、必死に波に飲み込まれないように反抗する。それでもだんだんと明白になるじゅーっとした痛みは快楽となって広がっていき、かぶりと噛まれた耳たぶが赤く染まる。「躾の悪い犬ですまない、許してくれご主人」 耳元で囁かれた麻薬は必死にしがみついていたはずの全身の力が抜けさせる。赤井の腕を掴んでいたはずの両手がするりと滑り落ち、膝の力ががくりと抜ける。立つことすらままならなくなった身体をがっしりとした赤井の腕が支える。「ぁ…ぁか…い」 とめどなく捧げられる愛情に呼吸すら正常にできなくなって、拙い言葉のみが空中に舞う。自由になった赤井の手によってたくしあげられるシャツ。たくしあげられれ現わとなった肌はわずかに熱を持ちながら外気へと触れる。熱くなった肌を少しずつ少しずつ確認していくかのようにごつごつとした手は動き回り、そして無防備に主張するそれに触れる。んぁ…と艶のある自分のものでは無いような、抑えきれない色をもった喘ぎ声。怖いくらいの快楽にバチバチと視界に火花が散った。 もうだめだ、落ちてしまう。 そう感じかけた瞬間ピンポーンとインターホンが鳴り響く。インターホンに映りこむ新一くんの顔。時が止まったかのような沈黙のあと引き寄せられていく正気。そういえば今度新一くんが蘭さんと一緒にいった京都旅行のお土産を持ってくると言っていたような…だんだんとリバイバルされていく記憶。先程までとは違う羞恥の熱に侵される頬。耳を舐められ、服を脱がされ、挙句の果てに駄犬を躾けてくれだと?僕は、僕らはいったい何を。犬プレイ?何を流されてこんなことをしている。 その後の行動は速かった。いい歳をしたおっさんふたりが乳繰りあっているなんて、そんな光景を新一くんに見せる訳にはいけなかった。抱きしめられていた腕を無理矢理に引き離し、くるりと半回転したのちに駄犬と向き合う。そして先程まで己の乳首にふれていたその両の手を気をつけの姿勢にさせ、飄々とするオリーブ色の瞳をまっすぐに見つめる。数瞬の間、交差する視線。 「赤井…house !! 」「…woof」 黒いドーベルマンは残念そうに小さく吠えた。 ◇ ほらやっぱりそんな悩みはただのノロケだって?だって人はあまりにも幸せすぎると不安になるだろう。えっ、ならないって?新一くんがもう少し大人になっていろいろな経験をしたらきっとわかるようになるよ。大人はね、いろいろと面倒くさい生き物なのさ。 でもね、新一くん。僕はそんな馬鹿みたいに幸せで吐き気がするくらいの甘甘な生活が酷く愛おしいと思うよ。例えそれが夢であってもね。 [chapter:The dog went woof woof.]